背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

『武士の家計簿』『ゲゲゲの女房』『アントキノイノチ』

2013年08月09日 11時57分41秒 | 日本映画
 明大前のツタヤで借りてきた邦画の準新作DVDを夜中に一本ずつ観ている。四本借りて、すでに三本見た。



 『武士の家計簿』(2010年)。面白かった。「そろばん侍」(藩の経理担当)を主人公にした一風変わった時代劇だが、その着眼がユニーク。この間見た『天地明察』より数段面白い。主演の堺雅人が大変良かった。女房役の仲間由紀恵も良く、中村雅俊、松坂慶子の夫婦も適役。祖母役の草笛光子をもっと個性的にすれば、ホームドラマとして申し分なかった。ただし、ちょっと長すぎる。最後の30分は、蛇足で不要に思えた。跡継ぎの長男が生まれたあたりで、冒頭の明治時代に戻って終っていればもっと作品が引き締まったのではなかろうか。監督は森田芳光。一昨年に61歳で亡くなったが、私らの世代では常に先頭を走っていた映画人で、お客の入る娯楽作品の話題作を何本も作り、最も功績のあった映画監督だった。やるだけのことはやったと思うが、彼が亡くなって、ぽっかり穴の開いたような気持ちになった。



 『ゲゲゲの女房』(2010年)。漫画家の水木しげるの奥さんが書いた実話小説を映画化したもの。NHKの朝のドラマでも人気を呼んだようだが、私はそれを見ていない。映画は非常に面白かった。最近見た新作の邦画の中で、私が一番感心して観た作品だった。監督は鈴木卓爾という人。元俳優で、脚本も書き、映画も監督もするようだ。原作が面白いということも大きかったのだろうが、映画の作り方もそれにマッチしていたし、キャスティングも良く、不可思議でブラックユーモアの効いた奥床しさを巧く表現していた。主演は、吹石一恵と宮藤官九郎(くどうかんくろう)。この二人が非常に良かった。吹石一恵は、以前、中原俊監督の『素敵な夜、ボクにください』(2007年)に主演していたのを見て注目した女優で、明るくちょっと能天気な役だったが、『ゲゲゲの女房』では進境著しく、いい女優になったと思った。水木しげるを演じた宮藤官九郎は、才人だという噂は聞いていたが、俳優として見るのは初めてだった。まさに異能の役者で、最近見た映画の中では最もインパクトのある男優だと感じた。『ゲゲゲの女房』という映画は、近年稀に見る佳作だと思う。

 『アントキノイノチ』(2011年)は大変長い映画(131分)だったが、眠気も催さず、最後まで一気に見た。原作はさだまさしの小説、監督は瀬々敬久(ぜぜたかひさ)。以前、同監督の『東京エロチカ』という映画をビデオで見たことがあった。昔のアングラの自主映画のような作品で、途中で二、三度中断して、結局最後まで観たと思うが、観念的で独善的な詰まらない映画だった。それでずっとこの監督のことは忘れていたのだが、昨夜『アントキノイノチ』という彼の最新作を観て、演出力もあり、かなり力量のある監督だなと思った。それでも、この監督には、どこか鬼面人を驚かすようなあざとさが目立つ。ファーストシーンもそうだし、友達が突然飛び降り自殺をする場面、ラストでヒロインがトラックにはねられる場面など、何箇所もあって、わざと衝撃的な場面を加えて、観客を驚かそうとしているとしか思えない。やっと生きがいを見つけたヒロインを死なせる必然性はまったくないのに、どうしてあんな結末にしてしまうたのかまったく分からない。(原作はどうなっているのだろうか?)主演の二人、岡田将生と榮倉奈々が非常に良く、助演の松坂桃李も熱演していたし、素晴らしいと思う場面がたくさんあったのに、監督が最後に自分で作品をぶち壊してしまった。後味の悪さが残り、もう一度観たくない映画になってしまったのが残念である。


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