背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

「男と女」のアヌク・エーメ

2005年09月29日 02時11分04秒 | フランス映画
 アヌク・エーメという変わった名前の女優を初めて見たのは、「男と女」のヒロイン役で、ちょっと年増になってからだった。端正な顔立ちだが、ずいぶん口の大きな女性だと思った。クロード・ルルーシュ監督のこの映画は、カンヌ映画祭でグランプリを取ったものの、評価の定まらない作品だった。それは今も同じである。好きな人と好きでない人が真っ二つに分かれる。私はどっちつかずな方だが、最初この映画を見たときの新鮮さは二度三度と見るたびに色あせてきたのも確かだ。名画なら何度見ても鑑賞に耐えるにちがいない。
 とはいえ、「男と女」には今でも大好きなシーンがある。ジャン・ルイ・トランティニアン(妻に先立たれた男)とアヌク・エーメ(夫に先立たれた女)が子供を学校の寄宿舎へ送って、その帰り道ホテルのレストランに立ち寄り、食事を注文するシーンだ。注文を終えて間もなく、トランティニアンがまだ注文があると言って、ガルソンをテーブルに呼び戻す。この後のセリフがカッコいい。「もう一つ注文があるんだけど…」ちょっと間を置いて、ずばっと「ユンヌ・シャンブル!」フランス語で「部屋を一つ」という意味なのだ。ここで画面は急転し、ベッド・シーンが始まる。ここからエーメの悩殺的な顔のアップがえんえんと続く。私は熟女というのが苦手で、エーメのように燃える女に迫られても困ってしまうなーと思いながらも、息を詰めて見てしまう。
 「男と女」のあと、エーメの出ている映画を時代を遡るようにして見た。フェリーニの「8・1/2」はあまりよく覚えていない。「モンパルナスの灯」のエーメはすごく良かった。ジェラール・フィリップ扮するモジリアーニの若奥さん役がエーメで、母性本能のような深い愛情ある女を見事に演じていた。つい最近アメリカでリメイクされたが、私はまだ見ていない。やはりベッケル監督の旧作の方がいいに決まっている、と思うのだ。「モンパルナス」の次に「火の接吻」を見た。エーメは情熱を内に秘めた恋する乙女役。可愛くて、実にけなげなヒロインだった。内気でおとなしそうで、思いつめたら命懸け、そんな女にエーメはぴったりだと思った。