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セイピースプロジェクトのブログ

地位協定「運用改善」ではなく「抜本的改定」を

2011年12月11日 | 沖縄・高江
 今年1月に沖縄市で起きた、成人式のため帰省していた当時19歳の男性が米軍属による事故で亡くなった事件に関し、遺族や支援者が米側の第一次裁判権放棄と日本での裁判や、日米地位協定の抜本的改定を求めていたのに対し、11月23日に日米両政府で地位協定の運用改善で合意がなされました。

 その内容は、MEJA(米軍事域外管轄法)に基づいたものとなっています。この法律は、軍属の公務中犯罪に対して米軍に第一次裁判権がありながら、軍法会議では裁けないとした米連邦最高裁判決を前提とし、軍属を米国の一般の裁判所で裁くことを可能にしたものです。今回の枠組みは、米側がMEJAに基づいて訴追を行うかどうかを先に判断し、訴追しない場合に、日本側が裁判権を行使できる手続きを定めたものとされています。この合意に基づき、同月25日には那覇地検による被疑者の在宅起訴もなされました。

 しかし、実際のMEJAの条文においては、軍属が派遣されていた接受国(基地受け入れ国)が刑事訴追した場合はMEJAによる訴追はできないと明記されており、今回の合意は法律を曲解していることになります。そしてそもそも、日米両政府は遺族が求めてきた地位協定の抜本的改定には踏み込まず、過去に米兵犯罪に対する裁判権の問題が浮上した際と同様に、「運用改善」で対応したことに問題があります。

 現行の地位協定では、「公務中」であれば米側に第一次裁判権があります。しかも「公務中」の判断に関して、日本の検察はほとんど米軍側の公務証明書を鵜呑みにしている場合が多く、米軍側の恣意によって「公務中」の範囲が拡大されてしまいます(例えば、「公の催事」で飲酒した後の「往復行為」すら「公務」となる)。

 結局、この地位協定上の規定自体に踏み込むことをしない限り、広範な米兵犯罪が「公務中」と判断され、日本が裁判権を行使することなく、被害者の救済は十分になされないという現状が大きく変わることはありえないでしょう。

 今回、「運用改善」にとどまったということは、民主党政権に代わっても、政府としては沖縄に過重負担を押し付け、日米安保体制を維持するという姿勢を改めて示したということになります。それは最近の防衛局長の不適切発言でも露見したといえるでしょう。

 それに対し、遺族と支援者は「運用改善」にとどまらず、地位協定改定要求を継続していくとのことです。沖縄に対する差別的な対応を改めさせていくために、私たちも情報発信などを通じて運動の前進に寄与していきたいと考えています。

(以下、関連するニュース記事)

米軍属、日本で裁判 地位協定運用改善へ(沖縄タイムス、2011年11月21日)
 日米両政府は在日米軍で働く軍属が公務中に起こした事件、事故で米国での裁判が難しい場合などは例外的に日本で裁判できるよう日米地位協定の運用を改善する方向で調整に入った。日本側が提起し、米側が譲歩した。日米合同委員会で近く正式合意する見通しだ。関係筋が20日、明らかにした。
 また米軍人、軍属が公的行事で飲酒後に起こした交通事故も泥酔時に限らず、すべて日本側が起訴できるよう見直すことで大筋合意した。
 軍属については扱いがあいまいで、日米双方で裁判ができない状態が続き「法の抜け穴」(関係筋)とされていた。条件付きながら日本での裁判が認められることは一歩前進と言えそうだ。
 地位協定は米軍人、軍属の犯罪の第1次裁判権について公務中は米側に、公務外は日本側にあると規定。米軍が「公務証明書」を発行するなど公務と認定した場合、日本の検察当局は「裁判権がない」として不起訴処分にしてきた。
 関係筋によると、第1次裁判権は米側にあることを確認した上で個別の事情に考慮しながら、米国で適当な裁判所を見つけることが困難と判断した場合などは例外的に日本での裁判が可能になる方向だ。米国の裁判所は海外で起きた事件の審理を受けたがらないことも背景にあるとみられる。
 今年1月、沖縄市で帰宅途中の米軍属による交通死亡事故が発生。那覇地検は「公務中」を理由に不起訴処分にしたが、那覇検察審査会は起訴相当を議決した。
 米連邦最高裁判決により軍属を「平時に軍法会議にかけることは憲法違反」となるため、軍属は米国内の一般の裁判所で裁かれることになるが、最近起訴された事例は見つかっていない。
 公的行事に絡んだ飲酒事故を公務扱いにすることは国会でも問題になり、日米両政府は日本が起訴できる方向で運用見直しを進めていた。

公務中の米軍属を起訴 那覇地検(沖縄タイムス、2011年11月26日)
 那覇地検は25日、沖縄市内でことし1月、交通死亡事故を起こしたものの、公務中を理由に不起訴処分としていた米軍属のルーファス・ジェームス・ラムジー3世容疑者(24)を自動車運転過失致死罪で在宅起訴した。
 平光信隆次席検事は会見で、米側がラムジー被告に刑事の裁判権を行使せず刑事処分を科していないことから「地検と政府は一事不再理は生じないとの判断だ。(公訴棄却の)懸念はない」とし、公判は開けるとの認識を示した。同被告の出廷については「(日本の裁判権行使に)米側は同意した。個人的には(米側の)協力は得られるだろうと思う」と述べた。
(中略)
 同審査会議決で捜査の公務認定が不十分と指摘されたことには「十分に再捜査し、帰宅途中ということが認定できた」と答えた。
 在宅起訴については、被告が逃亡や罪証隠滅のおそれはないとした。再捜査で被告を取り調べたが、所在については「差し控えたい」と述べるにとどめた。
 同地検は3月、日米地位協定に基づいて、公務中を理由に不起訴処分としていたが、遺族が不起訴不当として審査を申し立てた那覇検察審査会が5月に起訴相当と議決したことを受けて再捜査していた。
(以下、略)

軍属裁判権は接受国優先 米法に明記(沖縄タイムス、2011年12月1日)
 軍属の公務中犯罪を米国の一般の裁判所で裁くことを可能にした米軍事域外管轄法(MEJA)の条文に、軍属が派遣されていた接受国(基地受け入れ国)が刑事訴追した場合はMEJAによる訴追はできないと明記されていることが30日、分かった。
 軍属の公務中犯罪をめぐり日米両政府が合意した新たな枠組みでは、MEJAに基づいて米側が国内で刑事訴追しないことを前提条件に、日本側が裁判権を行使できる手続きを定めた。
 しかし、MEJAの条文に従えば、まず日本側の裁判権行使の判断が先にあることになり、新たな枠組みの構図と正反対となる。
 赤嶺政賢氏(共産)が同日の衆院外務委員会で指摘した。
 玄葉光一郎外相は、この条文について「接受国が地位協定などにより刑事裁判を行っている場合に、米側がMEJAによる訴追ができないという一事不再理の原則を定めたもの」と説明。
 「MEJAによる訴追に優先して接受国の裁判管轄権を認めている規定ではない」と述べた。
 一方、米陸軍大学のケバン・ヤコブソン大佐は2006年に出した論文で「MEJAは接受国が裁判権行使しない場合に限り有効」との見解を記している。

(引用ここまで)

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