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【書評】朴三石『知っていますか、朝鮮学校』岩波ブックレット、2012年

2012年08月27日 | 書評
 著者は、『外国人学校――インターナショナル・スクールから民族学校まで』(中公新書、2008年)や、本ブログでも紹介した『教育を受ける権利と朝鮮学校――高校無償化問題から見えてきたこと』(日本評論社、2011年)を著すなど、日本のなかの外国人学校の現状を明らかにしてきました。
 本書は、朝鮮学校に対する社会的関心が高まっているなかで、朝鮮学校について、少しでも興味を持った人たちのために書かれたものです。

 内容は、著者がある大学で実際に行った講義と、それに対する学生の感想をもとにして構成されています。

 第1章では、大学生の感想文を紹介することで、普通の日本人が抱きやすい誤解と、「事実を知ること」によって、その誤解が解消されていったことが示されます。たとえば、講義を聴いたことで、朝鮮学校を無償化の対象にすべきだという考えに変わったという学生は44%にものぼったそうです。このような経験から、一般の日本人にとって、とくに朝鮮学校や在日朝鮮人にかんする問題では、「事実を知ること」こそが大切だと、著者は言います。この認識から、続く第2章から第4章にかけては、朝鮮学校に関するごく基本的な事実や情報について、述べられていきます。

 第2章では、「朝鮮学校で学ぶ生徒たち」にスポットがあてられています。大学生の感想文からは、報道などで提示される「反日教育」というようなイメージだけではなく、30~40年前の朝鮮学校を描いた映画である「パッチギ!」、「GO」のイメージをもっている人たちが少なくないようであることが特徴として挙げられました。本章では、日常の学校生活や年中行事について詳述されていますが、朝鮮学校とその生徒たちの実像を、脚色されたイメージとしてではなく、自分の学校生活の経験と引きつけて捉えることができるのではないでしょうか。また、朝鮮学校が日本社会と密接に関係していることについても紹介されています。

 第3章では、朝鮮学校の歴史、第4章では、朝鮮学校の教科書について、説明されています。教科書については、部分的な記述だけを取り出して、「朝鮮学校は解散すべきである」というような極端な議論がなされている現状にかんがみて、詳しく取り上げられています。分断国家を背景とした「在日朝鮮人学校」である朝鮮学校の教科書が、「民族統一教科書」を目指しているという指摘や、朝鮮と日本の歴史についての記述の目的が、「現在と未来を切り開いていくための教訓と指針を得る」ところにあるという指摘からは、著者が朝鮮学校の教科書に、日本と朝鮮半島の歴史的対立を乗り越える可能性を見出そうとしていることが読み取れます。

 最終章では、「朝鮮学校と日本社会」のあるべき関係性について、筆者の主張がまとめられています。朝鮮学校は、日本社会における多民族多文化共生の「試金石」となるのにもかかわらず、朝鮮学校が日本社会のなかで広く認知を得てきたこれまでの経緯にも反して、さまざまな制度的格差が残され、さらには高校授業料無償化の適用問題において差別を強いられています。この問題は、「単に朝鮮学校の生徒や保護者のみの問題ではなく、朝鮮学校をめぐる日本社会の問題であり、日本人自身の問題である」のです。

 第1章の大学生の感想文から読み取れる誤解や疑問については、本書全体がその回答となっています。朝鮮学校に対してネガティブなイメージが先行している人にとっては、本書を読むことで、よりフラットな視点で「朝鮮学校」と向き合うきっかけになるのではないでしょうか。他方、ある程度の知識を持っている読者には、このブックレットは、物足りないものと感じるでしょう。しかし、要点が簡潔にまとめられているだけに、自らの考え方を整理したり、朝鮮学校についてあまり知らない人に奨めたりするには、うってつけの一冊といえます。そして、著者が最後に訴えかけている、具体的な行動への求めに対して、各人がどのように向き合うのかという課題が残されています。

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