11人の侍

「生きている間に日本がワールドカップを掲げる瞬間をみたい」ひとたちの為のブログ

羽生が責められるべきではない

2007年07月29日 10時27分53秒 | サッカー
 後半の5分40秒、明らかに日本ボールであるはずのスローインが、どういうわけか韓国側に与えられる。
 今大会の全体を通してみても、審判の不可解なジャッジというのは数多く見受けられた。しかしそれにしても、3位決定戦を裁いたUEAのアリ・ハマド主審のそれは度が過ぎていた。

 事件は後半11分に起こった。抜け出そうとする高原直泰に身体をぶつけた韓国センターバックのカン・ミンスに、この日2枚目のイエローカードが提示されたのだ。これはとても厳しい判定に思えた。確かにカン・ミンスは自らの横をすり抜けようとする高原をファウルで止めた。しかし仮に高原がボールに追いついていても、得点に直結するような展開にはならなかっただろうから、退場させる必然性はまるでなかった。

 それでもハマド主審はカン・ミンスを退場にさせるだけにはとどまらず、判定に抗議したピム・ファーベーク監督と彼のアシスタントコーチ、さらにはホン・ミョンボコーチにも退場を命じたのだ。主審と韓国側のスタッフの間にどのようなやり取りがあったのか、今の時点では具体的に分かっていないが、仮に彼らがひどい暴言を吐いていたとしても、国際大会の3位決定戦という大舞台で、ひとつのプレイを巡って4人が退場処分を受けるなどという話は聞いたことがない。
 ファーベーク監督は、試合後に辞意を表明するものと予想されていたけれど、おかげで試合終了を待たずして任期を終了することになってしまった。

 この退場劇により、日本は圧倒的に有利な状況を手にすることとなった。
 韓国が採用する、左右のウイングを置いた3トップの布陣は、ピッチ中に均等に選手を配置できるという点で非常に優れた攻撃的システムだが、退場者を出すと著しく効率を落とすという欠点がある。翼は左右両方にあるから飛べるわけで、片方だけでは意味を成さないからだ。数的不利の立場でカウンターアタックを狙うに適したシステムとはいえない。韓国は仕方なしに中盤の選手をひとり削ったが、これはただでさえスキルで上回っている日本の中盤に、さらなる余裕を与えることに繋がった。
 これにより試合の焦点は勝敗の行方というよりも、日本がオーストラリア戦でみせた課題を”いつ”克服するかということに移ったように思えた。

 後半27分、日本はまず羽生直剛を投入する。スペースに侵入する選手の投入に、ただでさえ苦しい韓国守備陣は悲鳴をあげた。
 羽生は交替直後に中村俊輔のパスをペナルティエリア内で受けて強烈なシュートを見舞ったが、これはGKイ・ウンジェの素晴らしいセイヴに阻まれた。今大会では、チームにリズムを生み出す好プレーを披露している羽生だが、どうにもツキを欠いているようだ。
 後半33分には山岸智に替わって佐藤寿人が入った。この日のイヴィツァ・オシム監督はこれまでになく早めの動きをみせた。数的優位に立ったということもあるし、もちろん選手の疲労度も考慮に入れていたことだろう。しかし優勝のプレッシャーから開放されたことが、積極的な采配とまったく無関係だったとは思えない。

 日本は、これまでの試合と同じように、相変わらずボールを支配して攻め込むものの、それをゴールに結びつけることができない。韓国守備陣の奮闘もあり、試合は延長戦へと突入する。
 延長に入ると、試合は頻繁な中断を余儀なくされるようになった。疲労を隠し切れない韓国の選手たちが、次々と脚をつっていったからだ。そのたびに時間は刻一刻と経過していくわけだけど、僕はそのことで彼らを非難しようとは思わなかった。
 そんな状況に置かれてまだ勝利を目指す、韓国の執念だとか気迫には凄まじいものがあった。

 どちらのほうが勝利に対する強い意欲を持っていたかと聞かれれば、僕は公平な目でみて韓国のほうを挙げざるを得ない。
 韓国にはどんな手を使ってでも勝つという断固たる決意があった。

 例えば延長前半終了間際、中盤でのリスタートを巡って中村俊輔とイ・チョンスがもめ始めると、韓国の選手は次々と中村の元に詰め寄った。これは主将を務める両軍のGKまで飛び出してくるほどの大きな騒ぎに発展している。きっかけはリスタートの邪魔をしたイ・チョンスに中村が肩をぶつけたという程度のものだったから、ここまでの騒ぎを引き起こすことはなかった。ただ、日本では煙たがられそうなこの行動は、間違いなく試合結果を左右した。少なくともかなりの時間を消費することができたわけだし、また、これを機会に中村のボールタッチには乱れがみられるようにもなったからだ。

 さらにより重要だったのは、いさかいは明らかに韓国の選手にさらなる闘争心と、チームの団結をもたらしたことだ。
 そして残念なことに、日本の選手に対して同様の効果をもたらすことはなかった。

 延長後半2分には縦への突破を図った駒野友一がオ・ボムソに強烈なタックルで倒される。
 これは正当なタックルとみなされプレイ続行とされたのだが、駒野は敵陣の奥深くでしばらく起き上がれないほどのダメージを被ったのだから、誰かが韓国にボールをピッチの外に出すように要求しなければならなかった。しかしアピールする選手は誰もいない。韓国は構わずに攻撃を続け、その後プレイが切れてからようやく駒野に治療の機会が与えられたが、この非紳士的な行為に食ってかかる選手さえいなかった。ひょっとしたらいたのかもしれないけれど、少なくとも韓国の選手が採ったほど、明確なやり方ではなかったことは確かだ。
 僕にはこれが、両国の勝利に対する執念の差のように感じられた。

 今回の敗戦を決定力不足のひと言で片付けてしまうのはあまりにも短絡的だろう。確かに、誰もが決まったと思った延長後半11分の羽生のシュートはゴールライン上で、たまたまそこにいた韓国ディフェンダーを直撃した。ディフェンダーはボールの軌道を追ってさえいなかったから、羽生にとっては不運ではあったと思う。

 ただし、それは決定的な敗因ではない。 
 ありきたりな表現だと思えてしまうことそのものが非常に残念だけど、日本は勝利に対する執念や、チームとしての団結力という点で、韓国よりも劣っていた。
 だから敗れたのだと僕は思う。