11人の侍

「生きている間に日本がワールドカップを掲げる瞬間をみたい」ひとたちの為のブログ

3連覇の立役者として歴史に名を残したい川口

2007年06月07日 18時25分45秒 | サッカー
 6月初旬にモンテネグロ代表とコロンビア代表を迎えて行われたキリンカップ2007。
 今大会では、満を持して日本代表に合流した欧州リーグに所属する4人の選手、高原直泰、中村俊輔、稲本潤一、中田浩二が大きな注目を集めていた。しかし、同じく欧州でのプレイ経験を持つこの選手について語られることはあまりなかった。

 イングランドのポーツマスFCや、デンマークのノFCアシェランでプレイした経験豊富なゴールキーパー。川口能活の日本代表キャップは、いまや101回を数える。まだ31歳であることを考えると、最多記録である井原正巳さんの123回を超える可能性も、十分にあると言っていいだろう。

 キリンカップでは、モンテネグロとの初戦こそ代表復帰の楢崎正剛に出場機会を譲ったものの、優勝を賭けたコロンビアとの第2戦では堂々とキャプテンマークを巻き、ゴール前に立ちはだかった。3月24日に行われたペルー代表との一戦でも、川口はキャプテンとして2-0の快勝に貢献したけれど、この日のコロンビア戦でも無失点に抑えたことで、南米のチームを相手に2試合連続で完封中ということになる。

 キリンカップを報道したテレビ各局は、素晴らしい安定感をみせていたこのGKへの賞賛をおざなりにして、海外でプレーする選手の名前を連呼するべきではなかったと思う。

 コロンビア戦での日本は、新しい選手と布陣で試合に臨んだこともあって、前半はなかなか主導権を握ることができなかったけれど、だからといって川口の守るゴールが危険に晒されることもほとんどなかった。いや、危険に晒されているようにはみえなかった、という表現のほうが適切かもしれない。前半15分に中村俊輔が自陣でボールを奪われた場面では、川口が適切なポジションをとっていたことでシュートミスを誘ったし、27分の中澤祐二のクリアミスにも素早く反応して事なきを得ている。またオフサイドの判定になったものの、前半ロスタイムのペレイラの突進も、持ち味の鋭い飛び出しでシュートをストップしてみせた。

 奮闘をみせた中澤祐二と阿部勇樹の両センターバックの後方に、抜群の集中力を誇るGK川口がいるわけだから、ゴールを奪うのは並大抵のことではないだろう。コロンビアの選手も、きっと同じような印象を持ったのではないか。川口がいるという安心感は、それほど大きなものだった。

 僕は以前、川口の佇まいに感銘を受けたことがある。5月の14~16日に千葉県で行われた日本代表合宿でのことだった。

 その合宿を取材させてもらう機会に恵まれた僕は、集まった日本代表の候補選手たちを間近で目にすることができたのだけど、とりわけ強い印象を持ったのが川口だった。と言っても、なんのことはない。ダンヒルのスーツを着た川口がすぐ隣を通りかかったというだけなのだけど、それだけでも目の前の川口は、アスリートとしてずば抜けて成熟している印象を僕に残した。
 例えば、もし僕がオーストラリア出身で、日本サッカーに関してなんの知識も持たずにその場にいたとしても、目の前に立っているスーツ姿の人物はきっと何者かに違いないと思うだろう。

 他の選手と比較してとくに大柄だとか、際立って筋骨隆々としているとか、そういうわけではないのだけれど、ただ歩いているだけでも目を奪われてしまう迫力がある。最新のスーツを身に纏ったスタイリッシュな外見からすれば、動物的という表現は陳腐に感じられるかもしれない。しかし、その動きには無駄がなく、なんとなく野生の動物を思い起こさせた。

 ちなみに僕はオーストラリアの放牧地で、野生のカンガルーに頭上を飛び越えられたことがある。そのときのインパクトに似ているといえば、さすがに大げさになるだろうけれど、しかし川口は実際に、フィリップ・トルシエ政権の運動能力テストでずば抜けた跳躍の数値を叩き出し、フィジカルコーチにカンガルーに例えられたという逸話を持つ。

「最近、暇なんですよね」
 顔なじみの記者との談笑を終えた川口は、数多くの記者たちに囲まれた新顔の選手たちを横目に冗談っぽく呟いた。その口ぶりも、なかなかに印象的な場面ではあった。

 この川口を筆頭に、経験豊富な楢崎、そして経験値に似合わぬ風格がある川島永嗣のGKセットに関しては、イビツァ・オシム監督も格別の自信を持ってアジアカップに送り込むことだろう。オシム監督率いる現在の日本代表が、アジアで最強のチームかどうかは分からない。ただ、この川口が守る日本ゴールをこじ開けることのできるチームが、アジアにそれほど数多く存在するとは思わない。

 そして僕は、川口が過去2回のアジアカップと同様に、他の選手からスポットライトを強奪して日本を3連覇に導いてくれることを、心から期待している。