愛しいロクデナシたち（「陰日向に咲く」）

言わずと知れた、ピン芸人劇団ひとりの処女作。
映画化前に読んでみようと思い立ち、「買うほどでもないか?」と図書館に注文。
それが11月、かれこれ半年待ちでようやく私の手元にやってきた。
もう映画も終わっちゃったよorz…
結局映画も見てないままだし、そんなに期待感無く読む・・・あれ、れ、面白い。
ひと言で言うと、文章が巧い。
オムニバス形式で、さまざまな人間模様が描き出されるのだけど、どこかでつながり、それでいて全く違う話。時間も行ったり来たりするし、登場人物も錯綜している。オムニバスだからどの話から読んでもいいのかと言うと、否、このストーリーの順番（決して時系列ではない）であるから、想いが熟成される。また、一つ一つの話に何らかの仕掛けがあり、作者の言葉に関するこだわりも見え隠れする。さすがにお笑い芸人としてのプライドか、ちりばめられた笑いにもセンスがあって、バランス感に富んでいる。
これって、作者の中でかなり長く温められた作品なのではなかろうか?

世に言うロクデナシたちにスポットライト（作者の言う陰日向）を当て、それぞれの人生が何かの意味を持ち、誰かとつながりあっている、そんなストーリー。
そのロクデナシ一人一人が面白い感性を持ち、愛すべきキャラクターなのだけど、私が個人的に心惹かれたのは、自分なりの美学を持つがゆえにギャンブルと借金にまみれた中年独身男（映画では岡田准一クン）の話「Over run」と、恋愛と言うものの定義を崇高な人類愛にまで持ち上げたアイドルオタク（映画では塚本高史クン）の話「拝啓、僕のアイドル様」の2話。（これはやっぱり映画を見ておくべきか?）
すべてのエピソードが交錯しあって、何度も読み返したくなるちょっといい話。
最終話、最後の数行に、作者がいかにこのロクデナシたちを、そして人生を愛しているかを表す言葉がある。

「薄暗かった部屋に差し込む陽の光。その陰日向の中、長い年月を経て花が咲いた。」

陰日向に咲く
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