Sally's BLOG

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日航機墜落事故、それぞれの真実(「クライマーズ・ハイ」横山秀夫)

2008-07-05 02:46:11 | 読書
クライマーズ・ハイ、登山者が経験する緊張と恐怖を超越した高揚感。
恐怖心、不安感は消え去り、研ぎ澄まされる感覚と果てしない興奮、一種の躁状態がもたらす勇敢な自分。
頂点に立ったとき、その揺り戻しは起こる。
高揚感と引き換えに、抑えつけられていた恐怖心、緊張感が噴出し、暗黒の谷底を抜け出せなくなる・・・、それは登山に限ったことではない。

主人公の新聞記者悠木を中心に、墜落現場-群馬の地方紙、北関東新聞社で繰り広げられる1週間の人間模様を描いたストーリー。

日航機事故全権デスクに命ぜられた悠木は、誰よりも早く他社の度肝を抜くような大ネタをすっぱ抜いて、周囲を驚かせてやりたいという、記者としての名誉欲と、事故の記事を一番欲している事故死者の遺族に対して、全うで誠実でありたいという、人間としての本質の狭間で、のたうち、悶え苦しむ。
だから、悠木自身が信じた報道の在り方を貫いた、そう、疑うことも無く。なぜならそれが悠木の真実だったから・・・

(以下、一区画ネタバレ)
しかし、部下の暴走、新聞社上層部の思惑、事故遺族の反応、読者の苦情を経て、その真実は揺らぎ、己が「真実」は他者にとっての「真実」ではない事に気づき、自分の無力を実感し、すべてを投げ出したくなる・・・それがクライマーズ・ハイ。
悠木を取り巻く、家族のつながりであるとか、友情であるとか、事故当時とその17年後の時系列を行き来しながら、家族とは何か?人間とは何か?命のとは何か?を問いかけてくる作品。

登場人物それぞれにも、やはり人生を見失うような高揚のときがあり、その甚大な揺り戻しに苦悩するときがやって来る。
各々が悩み苦しみ、耐え難い痛みを伴いつつも、各々の「真実」を見つけようともがく姿が登山に例えられるのだろう。

ストーリーの中に、エベレスト山頂を征服した登山者が、谷を見下ろすのでなく、まだ更に空を見上げる、と言うエピソードがある。
自分の歩んできた道を振り返って「ここまで来たのか」と振り返るのではなく、まだ空に道を見つけようとする人生、揺り戻しの無い生き方もある、ということなのか。
読後の清々しい感覚を象徴しているのかもしれない。

クライマーズ・ハイ
クライマーズ・ハイ横山 秀夫

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