とはずがたり

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過敏性腸症候群における腸内免疫の役割

2021-01-15 15:24:42 | 免疫・リウマチ
過敏性腸症候群 (irritable bowen syndrome, IBS)は比較的よく見られる病態ですが、17%程度は胃腸感染症の後に生じることが知られています。その病態メカニズムを明らかにするために、著者らはマウスにCitrobacter rodentiumを感染させ、その後にovalbumin (OVA)を摂取させるというモデルを作成しました。正常なマウスにOVAを摂取させても問題はないのですが、感染から回復したマウスはOVA摂取によって下痢を生じ、IBS様症状を呈していると考えられました。IgE欠損マウスや抗IgE抗体を投与するとIBS様症状は改善し、逆に正常マウスにOVA特異的IgEを投与するとOVA摂取によってIBS様症状が出現しました。つまりこのような病態は、感染によって腸管上皮のバリアが消失し、OVAに対するoral toleranceが破綻することでOVA特異的なIgE抗体が産生され、OVA摂取によって肥満細胞が活性化されるために生じると考えられました。
次に著者らは実際のIBS患者および健常者の腸管に大豆、小麦、グルテン、ミルクなどを直接投与し、IBS患者全てでいずれかの食餌によって免疫反応が生じることを示しました。IBS患者の腸管に存在する肥満細胞の数自体は健常者と変わりませんでしたが、患者では肥満細胞が神経終末に隣接していました。またIBS患者の23%の便中に黄色ブドウ球菌が検出されたのに対し、健常者では9%のみに認められ、黄色ブドウ球菌が産生するsuperantigenはIBS患者便の47%、健常者の17%に認められました。
これらの結果は感染が腸内細菌叢をかく乱させ、食品成分に対するIgE抗体産生を誘導し、肥満細胞活性化を介してIBS症状を生じること、そして免疫の活性化や症状発現にsuperantigenが関与している可能性を示しており、IBSの病態を考える上で大変興味深い研究です。
Aguilera-Lizarraga, J., Florens, M.V., Viola, M.F. et al. Local immune response to food antigens drives meal-induced abdominal pain. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-020-03118-2 


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