とはずがたり

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正常・病的組織からの線維芽細胞アトラスの作成

2021-05-14 20:01:26 | 免疫・リウマチ
近年多くの組織におけるsingle cell RNA sequencing (scRNA-seq)データが蓄積され、組織特異的な、あるいは疾患特異的な細胞clusterが明らかにされています。この論文で著者らは組織線維芽細胞 (fibroblasts, FB)にもいくつかのsubsetsがあり、病的な状態において特異的に活性化されるFB clustersが存在する可能性を報告しています。
著者らはまず非造血細胞のscRNA-seq datasetsを用いて、16正常組織についてのマウスFB特異的なsingle-cell atlasを作成しました。このatlasを用いて、200以上のdifferentially expressed genes (DEGs)を同定し、10個のFB clustersに分類しました (代表的な発現遺伝子から Pi16+, Col15a1+, Ccl19+, Coch+, Comp+, Cxcl12+, Fbln1+, Bmp4+, Npnt+, Hhip+ clustersと命名)。この中でほぼすべての組織に存在したのがPi16+およびCol15a1+ clustersでした。Pi16+およびCol15a1+ clustersには幹細胞関連遺伝子の発現も認められ、これらのclustersから他のclustersが枝分かれする可能性が示唆されました。著者らはPi16+, Col15a1+ clustersに高発現する遺伝子としてdermatopontin (Dpt)を同定しました (Dpt+Pi16+およびDpt+Col15a1+をuniversal FBと命名しています)。
次に著者らはFBが疾患にどのように関与しているかを検討するために、公開されている病的な13組織からの17のscRNA-seq datasetsを用いてPi16+, Col15a1+, Ccl19+, Cxcl12+, Comp+, Npnt+, Hhip+, Adamdec1+, Cxcl5+, Lrrc15+という10のclustersを同定しました。興味深いことに、Cxcl5+, Adamdec1+, Lrrc15+といったclustersは正常状態の組織では見られず、様々な組織の病的状態特異的に活性化されるFB clustersである可能性が示唆されました。Cxcl5+ clusterは筋損傷早期に現れ、PI3K, TNF, NFκBシグナルで制御されてCcl2, Ccl7を産生します。Adamdec1+ clusterは腸炎で増加し、MAPKの制御のもとにIL11やGrem1を産生します。そしてLrrc15+ clusterは関節炎、皮膚創、線維化、膵管腺癌で増加し、myofibroblastに特徴的なCthrc1, Acta2, Postn and Adam12, collagensなどの遺伝子発現が見られ、TGFβの制御を受けると考えられました。Dpt+Pi16+ FBが最も幹細胞関連遺伝子を発現しており、Dpt+Pi16+ FB→Dpt+Col15a1+ FB→疾患特異的なFBという推移を経る可能性が示唆されました。
同様の現象はヒトにおいても見られました。著者らは3例の膵癌患者の癌組織および周囲の正常組織から得られたサンプルのscRNA-seqを用いて、c3, c8という2つのclusterを同定しました。これらはcancer-assocaited FB (CAFs)およびnormal FBとしてアノテーションされ、マウスuniversal FBの遺伝子発現プロフィールとの類似性から、c8 FBはマウスuniversal FBに該当するものであり、ヒトnormal FB clusterと考えられました。またヒトc3シグネチャーは、マウスのLrrc15+ myofibroblast clusterに濃縮されていることがわかりました。興味深いことに関節リウマチ、間質性肺疾患、潰瘍性大腸炎などのFBシグネチャーも、マウスのLrrc15+ myofibroblast clusterにあたる遺伝子発現パターンを示しました。
最後に著者らは様々な病的FBのデータを統合したFBアトラスを作成しました。このアトラスは6つのclustersが同定され、疾患特異的なパターンを有する可能性が示されました。
ということで、fibroblast biologyともいえるサイエンスが急速に進歩している中で、近い将来疾患特異的なFBを標的とした治療戦略も開発されるのではないかと期待されます。
Buechler, M.B., Pradhan, R.N., Krishnamurty, A.T. et al. Cross-tissue organization of the fibroblast lineage. Nature (2021). 


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