とはずがたり

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ハイドロゲルに脂質を閉じ込める

2020-10-16 18:37:31 | 変形性関節症・軟骨
関節軟骨は(変形性関節症にならなければ)生涯を通じて滑らかな摺動面を保つことができる優れたマテリアルですが、このような特性を人工材料で再現することは極めて難しいとされています。ハイドロゲルは生体材料として様々な用途で用いられていますが、関節軟骨と比較すると低摩擦・低摩耗の長期間の維持は困難です。著者らは関節軟骨の低摩擦・低摩耗性の維持の秘密が摺動面に存在する脂質にあると考え、脂質を含有したハイドロゲルを作成しました。水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)を多層vesicle(MLV)の形で添加して調製したpoly(hydroxyethylmethacrylate) (pHEMA) ハイドロゲル(ソフトコンタクトに使用されています)は、脂質を添加していないハイドロゲルと比較して、高負荷・高接触圧を加えた場合の摩擦力が95%~99.3%低下していました。この摩擦力は、外部から脂質を加えた場合よりも低いものでした。仮に摩耗が生じた場合にも、内部に閉じ込めた脂質ベジクルが表層に現れるため、低摩擦性は維持されました。また興味深いことに、このマテリアルを60℃で乾燥させて、再び水和した際にも低摩擦性は復元されました。脂質をハイドロゲルの内部に閉じ込めるという発想が目からうろこです。
東京大学で開発された人工股関節のAQUALAライナーは、ポリエチレンの表面をMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)でコートすることで低摩耗性を達成していますが、本論文のように内部に脂質を閉じ込めることによってさらに耐久性が上昇する可能性があるのではないかと感じました。



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