とはずがたり

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Hip Attack!

2020-03-13 08:56:18 | 骨代謝・骨粗鬆症
大腿骨近位部骨折は高齢者に多い骨折ですが、その予後の悪さから国際的には“hip attack”とも呼ばれています。治療法としては手術(骨接合術あるいは人工股関節[骨頭]置換術)が第一選択であり、ガイドラインではなるべく早期の手術を推奨しています。ここで問題は「早ければ早いほどよいのか?」ということです。
この研究(その名もHIP ATTACK trial)では国際多施設共同研究(17か国69病院)において、(休日ではなく)通常勤務日に軽微な外傷で受傷した手術が必要な45歳以上の大腿骨近位部骨折患者を、①6時間以内の手術(accelerated surgery)群と②通常治療―とは言っても24時間以内に手術を行う―(standard care)群に割り付けて、RCTで比較しました。Accelerated surgery群1487名、standard-care群1483名が組み入れられ、平均年齢はいずれの群も79歳でした。99%の患者はfollow-up可能であり、primary outcomeである90日以内の死亡、主な合併症については、accelerated surgery 群の140名(9%) 、standard care群の154名(10%) が死亡し、HRは0.91 (95% CI 0.72 to 1.14) 、absolute risk reduction (ARR)は1% (–1 to 3; p=0.40)でした。またco-primary outcomeである主な合併症は、それぞれ321(22%)および331(22%)でHRは0.97(0.83 to 1.13) 、ARRは1%(–2 to 4; p=0.71)と、いずれも有意差はありませんでした。一方secondary outcomeとして設定された脳卒中(HR 0.35)、譫妄(OR 0.72)、敗血症のない感染(HR 0.80)、尿路感染症(HR 0.78)などはaccelerated surgery群で有意に少ないことが示されました。人工関節の脱臼や再手術などの率は両群で有意差はありませんでしたが、accelerated surgery群の患者の方がランダム化から歩行開始までの時間は短く、入院期間も短いことが分かりました。
さてこの研究のメッセージをどのように考えればよいでしょうか?著者らの主張は「死亡率や主たる合併症は変わらないが、脳卒中や譫妄などのリスクを減らすし、在院日数も減らすのだから、手術までの時間は短い方がよい」ということのようです。しかし6時間以内に手術を行うためには常に手術ができるような体制(麻酔科を含めたヒト、スペース、モノ)を用意しておかなければならないことを考えると、少なくとも日本でこのような体制を常にとれる病院は少ないのではないでしょうか。またこのようにready-to-go状態を維持するためのコストはどうでしょうか?皆様はどうお考えですか?
Lancet. 2020 Feb 29;395(10225):698-708. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30058-1. Epub 2020 Feb 9.
Accelerated surgery versus standard care in hip fracture (HIP ATTACK): an international, randomised, controlled trial.


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