最近次々とbig journalに論文を発表しているベルギーのGeert Carmelietらのグループから出たNature Articleです。軟骨は基本的に無血管組織であり、血流非存在下でも維持可能です。一方で骨移植後の治癒は軟骨内骨化の過程をたどりますが、血管新生に引き続いて軟骨内骨化が進行します。治癒過程には外骨膜に存在するprogenitor cell(periosteal progenitor cell)が関与しますが、この細胞自体は直接血管新生には関与するわけではありません。移植部位を孔サイズ30マイクロメーターのフィルターで隔てて外部からの細胞侵入を抑制しても血管新生は生じますが、0.2マイクロメーターのフィルターで隔てると血管新生は阻害され、骨化が抑制されるとともに修復組織における軟骨成分の割合が増加します。つまり「血管新生は軟骨形成には抑制的、骨形成には促進的に関与している」ということです。著者らはC3H10T1/2などの培養細胞や器官培養、そしてマウス骨折治癒モデルなどを用いてこのメカニズムを解析し、血管侵入とともに供給される血清中のオレイン酸、パルミチン酸をはじめとしたlipidが軟骨形成を抑制し、骨形成を促進することを示しました。
次にlipidがどのようなメカニズムで軟骨・骨形成を抑制しているかを検討しました。軟骨細胞においては解糖系(glucose oxidation)が亢進していますが脂肪酸酸化能は低く、逆に骨芽細胞では脂肪酸酸化(fatty acid oxidation, FAO)が亢進しています。組織レベルでも成長板軟骨では皮質骨に比べて解糖系に関与する遺伝子発現が高く、FAOに関係する遺伝子の発現は低い傾向にあります。細胞レベルでも未分化間葉系細胞株であるC3H10T1/2をlipid飢餓状態におくとFAOが低下し、この現象は軟骨細胞分化のマスター転写因子であるSOX9の上昇と同時に生じます。この時核内FOXO1, FOXO3aの上昇が認められ、これらの転写因子のSOX9プロモーターへの結合が認められました。以上のことから、骨移植後や骨折治癒過程において、血管新生はlipidの供給を通じてprogenitorを軟骨細胞から骨形成細胞へと分化させ、この過程にはlipidによるFOXOシグナルの不活化とSOX9発現抑制、そしてFAO経路の活性化が関与していると考えられます。
軟骨内骨化の過程にlipidが関与しているコンセプトが新しいのだと思いますが、このような現象をノックアウトマウスで確認したわけでもなく、少し内容が薄っぺらい印象を受けます。とはいえNature Articleにふさわしい素晴らしい成果だと思います(とってつけたようですが)。
Nature. 2020 Mar;579(7797):111-117. doi: 10.1038/s41586-020-2050-1. Epub 2020 Feb 26.
Lipid availability determines fate of skeletal progenitor cells via SOX9.
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