とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

高齢マウスの骨格幹細胞の骨形成低下はCSF-1高発現に起因する

2021-08-16 18:08:43 | 骨代謝・骨粗鬆症
2015年に骨格幹細胞Skeletal Stem Cells (SSCs)の同定をCELL誌(Cell. 2015 Jan 15;160(1-2):285-98)に発表したStanford大学のCharles Chan, Michael T Longakerらの報告です。彼らは以前に骨芽細胞、軟骨細胞、間質細胞には分化するが、脂肪細胞には分化しない多能性細胞であるSSCsを同定しました。この細胞を免疫不全マウス(NSGマウス)に移植すると骨組織が誘導されます。このとき高齢マウス(12カ月齢)から得たSSCsを移植すると、若年マウス(2カ月齢)SSCsを移植したときよりもできる骨組織が小さくなりました。これは高齢マウスでは骨折治癒過程における仮骨形成が減弱していることと一致します。興味深いことに併体結合によって若年マウスと高齢マウスの血流を共有してもSSCs由来の骨組織の大きさは代わらず、血流中のSSCsによる影響よりも局所的な違いであることが分かりました。また高齢マウスSSCs由来のストローマ細胞と造血幹細胞を共存培養した場合には若年マウスSSCs由来ストローマ細胞よりもミエロイド系の細胞の分化に偏っていることも明らかになりました。
著者らはこのようなSSCsの挙動の違いが、高齢SSCsにおけるCSF-1(M-CSF)の高発現に起因する可能性を示しました。高CSF-1によってミエロイド系の細胞が増加し、炎症性サイトカインやケモカインの発現が促進されます。また高CSF-1は破骨細胞分化を促進することで骨吸収が亢進し、骨折治癒が低下すると考えられました。最後に高齢マウスにおいてBMP-2によってSSCsを増加させるとともにCSF-1アンタゴニストを投与することで、若年マウスと同程度の骨折治癒がみられることも明らかになりました(完全にCSF-1をブロックしてしまうと、op/opマウス同様大理石骨病を呈してしまい、かえって骨強度は低下してしまいますので、部分的抑制が必要)。これらの結果から、高齢SSCsにおけるCSF-1の発現亢進が高齢マウスにおける骨形成低下、骨吸収促進に関与すると結論しています。
Ambrosi, T.H., Marecic, O., McArdle, A. et al. Aged skeletal stem cells generate an inflammatory degenerative niche. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03795-7
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03795-7


最新の画像もっと見る

コメントを投稿