とはずがたり

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COVID-19患者における自己抗体

2021-05-26 16:55:38 | 新型コロナウイルス(疫学他)
まだまだ多くの犠牲者が出ている中で不謹慎とは思いつつも、COVID-19パンデミックの中で様々なtechnologyの開発が進んでいることには感動していまいます。COVID-19患者、特に重症患者では様々な自己抗体が出現することが知られています。例えば抗リン脂質抗体症候群で見られる抗カルジオリピン抗体が出現することが報告されており、COVID-19患者における凝固異常との関係性が指摘されています。この論文で著者らはRapid Extracellular Antigen Profiline (REAP)というバーコードをつけた2770のヒト細胞外タンパを酵母の表面に発現させ、抗原-抗体反応をシーケンスデータとして定量する方法を開発し、COVID-19患者に出現する自己抗体を網羅的に解析しました。その結果、健常者と比較してCOVID-19患者では高いREAP score(自己反応性)を示すこと、特に重症患者では高値を示すことが分かりました。COVID-19患者のREAP scoreはSLE患者より高値でしたが、自己免疫性多内分泌腺症候群 1型 (APS-1, APECED)患者よりは低値でした。
次に著者らは重症COVID-19患者で高いREAP scoreを示す自己抗体に注目しました。このような自己抗体としてはlymphocyte function/activation, leukocyte trafficking, type I, III interferon response, type II immunity, acute phase responseに関係するものが含まれました。以前重症化との関連が報告された抗IFN-I抗体は入院患者の5.2%に認められました。
In vitroの解析から、これらの自己抗体の多くは機能性であることが分かりました。例えばGM-CSFやCXCL1に対する自己抗体はこれらのシグナルを抑制することが示されました。また抗IFN-I抗体を有する患者では抗体を有さない患者よりも平均ウイルス量が高いことがわかりました。
自己抗体の機能をさらに検討するためにヒトACE2を発現するtransgenic mice (K18-hACE2)を用いた検討を行いました。このマウスに抗IFN-α/β受容体抗体を投与すると、易感染性となり、感染の重症化が見られました。抗体投与マウスでは単球の誘導や成熟、炎症性マクロファージ分化、活性型NK細胞、CD4+, CD8+, γδT細胞などが減少しており、感染初期のIFN-I活性化が感染防御に重要であることが明らかになりました。またIL-18, IL-1β, IL-21, GM-CSFに対する抗体の投与も感染を重症化させることが分かりました。
最後にtissue-associated autoantibodiesについて検討したところ、ある種の分子 (NXPH1, PCSK1, SLC2A10, DCD)に対する自己抗体がCOVID-19の重症化マーカーであるD-dimer, CRP, lactateと相関することが明らかになりました。また視床下部に高い発現が見られるorexin受容体HCRTR2に対する自己抗体が10人の患者で見られ、Glasgow Coma Scaleの異常低値との間に負の関係があることもわかりました。
今後COVID-19と自己抗体との関係について更に多くの知見が蓄積することで、予後予測なども可能になるのではないかと期待をいだかせる研究です。
Wang, E.Y., Mao, T., Klein, J. et al. Diverse Functional Autoantibodies in Patients with COVID-19. Nature (2021).


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