とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

ワクチン接種をためらう理由は?(長いです)

2021-02-11 12:01:04 | 新型コロナウイルス(治療)
「ワクチン接種をためらう理由は?(長いです)」
天然痘やポリオの例を見ても、ワクチンが人類の感染症との戦いにおいて強力な武器であることは間違いありません。今回の新型コロナウイルス感染症においても優れたワクチンの開発をうけて、「感染の拡大を抑え込んで日常生活を取り戻したい」と考えている人々にとっては、ワクチンへの反対や拒否は「けしからん」ことなわけです。しかし私の周囲にも「接種するつもりだけど怖い」という声もきかれます。医学・科学リテラシーが高い方でもそうなのですから、一般の方々にとって不安はもっと強いのだと思います。この記事中のDeborah Jones先生のように”But what strikes me is how many people are still hesitating. Vaccine hesitancy will slow down our return to normal.(田中訳:しかし、びっくりするのは[ワクチン接種を]まだためらっている人がたくさんいることです。ワクチンを躊躇することは正常への復帰を遅らせるのにね)” というような上から目線の言い方では、迷っている人にはきっと納得してもらえないでしょう。かといって「感染予防効果は**%で重症化予防効果は**%です。**%に副作用が、**%に重篤な副作用がでます」と詳しく説明をうけても、「10万人に1人というワクチンの重篤な副作用は、通常の薬で副作用が出るよりも少ないです」と言われても、基本的に安全よりも安心を優先させるのが人間の常なので(交通事故にあうよりも飛行機事故にあう方が怖い)、なかなか決めきれないわけです。
集団免疫という観点からはなるべく多くのヒトにワクチン接種を受けていただいた方が良いわけですから、全国民に強制的に接種という(全体主義的な)国があっても不思議ではありません。一方で「私は接種したくない」という自由を尊重するというのも、民主国家のあるべき姿であり、過度の同調圧力が働いて、未接種者を差別したり疎外したりというのは避けたいところです(ありそうな未来ではありますが)。それではこのような中で国としてワクチン接種率を高めたいとすれば、どうすれば良いのでしょうか?
まずワクチン接種をためらう理由を思いつくままに列挙してみます。「ワクチンにはマイクロチップが入っていてCIAに行動を観察される」というようなトンデモ理由はとりあえず除外します。
1. これまでに経験のないワクチンなので(副作用が)怖い
2. 発熱や注射部位痛などの副反応が怖い
3. デメリットを上回るメリットが理解できない
4. ワクチン自体の有効性を信じていない
5. 変異したウイルスには無効なので接種しても無意味
6. たかが風邪のウイルスに対してそんな大げさなことはしたくない
7. 実験台になるのが嫌
8. ワクチンを打たなくても私は感染しない
9. 注射が嫌
10. とにかく嫌
など様々な理由がありそうです。
大きく①副作用や副反応に対する(当然の)恐怖、②科学的なようで科学的ではない理由、③心理的な壁、その他、などに分類できそうです。
①(1, 2, 3など)は当然の不安です。これについては副反応・副作用の頻度や程度といったデメリットと、感染予防や重症化防止というメリットを理解し、メリットが大きいことを納得してもらうしかありません。私は積極的に接種するつもりですし、デメリット<<<メリットだと考えているのですが、それでも未経験なものに対する恐怖は(ある程度)あります。
②(4, 5, 6など)を主張する方々は、一見科学的な理由を主張されます。例えば「ワクチンを接種しても感染した例が報告されている(田中の意見:ワクチンの効果は集団として威力を発揮するので、一例一例の感染を取り上げるのは科学的ではないと思います)」「95%の有効性といっても95%が感染しないという訳ではなく接種の有効性は否定的(田中の意見:そもそも感染しない人がほとんどなのであたりまえで、ワクチンとはそういうものです。だからと言って有効性が否定されるわけではありません)」「変異したウイルスには無効だから接種しない(田中の意見:完全に無効だと証明されたわけではないですし、日本でドミナントな従来タイプには有効なのですから、これをもって接種しない理由にはならないと思います)」。6を主張される方は「重症化する人は一部でほとんどは軽症」ということを根拠にされます。重症化するのがごく一部であることは間違いありませんが、それを言えばポリオもそうです。現時点ではどのような方が重症化するのかがまだ完全には分かっていませんし、感染防御のために現在病院でいかに特別な対策(コスト的にも、マンパワー的にも)を必要としているかを理解していただく必要があると思います。「そんなのは必要ない」と言われればそれまでですが、病院では感染対策は十二分に行わないといけないのが実情です。これ以外にも先端的な基礎研究を根拠にするバージョンもありますが、多くの場合は正確な理解に欠けた議論になっているように思います。このような方々に納得していただくのはかえって難しい(きちんと説明してもまた新たな根拠を出してくる)ので静観するしかないのですが、接種率が高くなってきた場合には宗旨変えをされるケースも多いかもしれません。
③(上記以外)については個人の意思を尊重するしかありませんが、時々いる医療従事者で7(まず初めに医療従事者に接種するなんて、我々を実験台にしようとしているのか)のようなことを仰る方は、これまで治験などの臨床試験に参加されてきた方々のことをどう考えているのでしょうか?そもそも世界的に見ると何千万人もすでに接種しているわけですし。。
ということで私自身はワクチンは接種したほうがいいと考えており、患者さんに聞かれたらそのようにお話ししているのですが、国全体としてワクチン接種を推進していこうと思えば、反対・拒否される方々の理由や背景を十分に理解した上で、それに応じてコンセンサスを形成していくしかないのではないか、と思います。
個人的には「コロナワクチン接種後に高齢者死亡!!」というような詳細な背景や解析をすっとばしたセンセーショナルな見出しで煽るマスメディアやSNSは勘弁してほしいですがε-(-ω-; )
Nature NEWS 10 FEBRUARY 2021
”Trust in COVID vaccines is growing. Survey spanning several countries finds encouraging trends, but researchers warn vaccine hesitancy could slow pandemic recovery.”by Emiliano Rodríguez Mega


最新の画像もっと見る

コメントを投稿