植物写真家のいがり まさしさんは、一冊の本(『原色日本のスミレ』)に出会って以来、秋にもならないうちから、「早く春にならないかなあ」と、溜息をつく中学生だったそうだ。
山国で育った私も、春を待ちこがれる子どもだった。
あの場所に、黄色い小さな花が咲いたら、軽井沢に春は来ているのだ。
文化村から、星野温泉へ山道をくだっていくと、ぱっと視界が開ける所がある。片側が谷。日当たりのよい山側の斜面の一部が少し崩れて、ちょろちょろと水が湧き出して、いつも、黒々と土が潤っている。
その場所に、どこよりも早く、黄色い小さな花が咲く。
小学4年生ぐらいの私は、何度も何度も確かめに行った。外はまだまだ寒く白茶けた世界だったが、そこに、やっと、ナズナに似た黄色い花をみつけると、「春がきた!」と、「バネ」が弾けたように軽々と、明るい気持ちになり、安心し、何もかもが開けていくようなうれしい気持ちになるのだった。
その花の名は、イヌナズナ。
草丈5センチくらい、ロゼット葉の中心から、花茎を出し、可憐な黄色い花を咲かせる。ずっと後になって、友人から借りた『雑草図鑑』で知った。
いつか、千曲川のほとりの村でその花に出会い、思いを覆された。猛々しく5ー60センチにも伸びて、畑の雑草と化していた。
軽井沢は火山灰地で、寒く、作物はあまりできない。
あの、可憐な春一番の花は、厳しい軽井沢の自然の中ならではの姿であった。(3月Ⅰ日-2004)
http://www22.ocn.ne.jp/~tamukai/inunazun.htm
☆うれしきこと二つ。
注文しておいた本が届いた。
『増補改訂 日本のスミレ』(いがり まさし/山渓ハンディ図鑑6)
「スミレ賛歌」のポストカード付なのもうれしい。
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