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「春に」谷川俊太郎・・・・中3グループの疑問に答えた回答 その2

2020-06-30 23:51:51 | 国語的随想
前回に続きます。

問5
1,6,14,24行目の「この気持ちはなんだろう」~読み取れる「気もち」について、述べた文のうち、具体的内容としてふさわしいものをそれぞれ選んで記号で答えなさい。

ア 春が来て、さまざまな気持ちや変化やたかぶり(昂ぶり)に注目している。
イ みんな同じ思いでいるということを伝えたいと思っている
ウ 抑えきれないような気持ちの高まりを自覚している。
エ 春のはじまりを感じて、わくわくしている。
オ プラスとマイナスなど対照的な気持ちが高まっている。
カ たかぶる感情と共に期待や不安などに揺れ動いている。




春に 谷川俊太郎

1 この気持ちはなんだろう
2 目に見えないエネルギーの流れが
3 大地からあしのうらを伝わって
4 ぼくの腹へ胸へそしてのどへ
5 声にならないさけびとなってこみ上げる
6 この気持ちはなんだろう
7 枝の先のふくらんだ新芽が心をつつく
8 よろこびだ しかしかなしみでもある
9 いらちだ しかもやすらぎがある
10 あこがれだ そしていかりがかくれている
11 心のダムにせきとめられ
12 よどみ渦まきせめぎ合い
13 いまあふれようとする
14 この気持ちはなんだろう
15  あの空のあの青に手をひたしたい
16  まだ会ったことのないすべての人と
17 会ってみたい話してみたい
18 あしたと あさってが一度にくるといい
19  ぼくはもどかしい
20 地平線のかなたへと歩きつづけたい
21 そのくせこの草の上でじっとしていたい
22 大声でだれかを呼びたい
23 そのくせひとりで黙っていたい
24 この気持ちはなんだろう


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
解答までの論理
1 まず、詩を声を出して読んだ上で、これは違うというものを外していく。
イ・・みんな同じ思い・・なんてことはどこにも書いてない
ウ・・自覚・・・これが違う。「自覚」していたら「この気持ちは何だろうという」問いかけは
成立しない。

2 残りは、ア エ オ カ 

3 まず 1行目について・・・初めの1行である。故に「春が来て」とか「春が始まって」という、スタートの言葉が来るはず。候補としては、その言葉は文中にあるアとエ

2 つぎに 6行目について・・・7行目~13行目を読むと、対句が表現技法として使用されている。
マイナスとプラスという言い方が適切かどうかは論議の余地はあるが、対極的な言葉の使用で、身内にせめぎ合う感情や衝動を表現している・・ということで オ だろう。

3 お次は14行目・・・15行~23行をじっくり読むと、7行目から13行目と質的には似ていて、別の言い方で表現している、ととらえられる。しかし、「高まり」や「昂ぶり」は上がっている。スパイラルしつつ上昇している。内なるアンビバレンツな衝動や高揚は前の7から13行目より「もどかしい」くらいにうずうずしている状態・・ということで・・・カ である。
カ を決定としたのは19行目にある「もどかしい」が カ の「たかぶる感情」とつながるからだ。

4 最後の24行目・・・最初の1行で候補として2つ残しておいた。どちらかがこちらの答になるはず。
詩ではないが、作文を書く時に初めの段落と最後の段落が別の表現でつながる、串刺しになっている展開で書くべし、という話をする。
そういう視点で見れば、「春」の言葉が入っている ア・エ が残っているのは、解答の流れとしてはいい。
アの文にある「さまざまな気持ちの変化やたかぶりに注目している」に着目する。それまで述べてきた思いをこういう言葉で受けている、と考えれば、24行目の答は ア である。
【1行目はエ 6行目はオ 14行目はカ 24行目はア】


:::::::::::::::::::::::::::::::::::
魔法の一行!
      この気持ちは何だろう

4回使ってある「この気持ちは何だろう」だが、初見は身内にうごめく衝動とかエネルギーを初めて感じた、それを問う、言語化する、その試みをする思春期の少年(少女ではない、な)の思いを強調する1行ととらえていたが。
そんな浅い1行ではなかった。
上記のようなお役目もある1行ではあるが、この1行の繰り返しで問いかけがスパイラルしていく。
7行目と14行目は特にそうだ。
スパイラルだけではなくて、沈下もしていっている。
沈下、とはどういうことかというと、上昇しつつ問いかける一方で、その思いを自己のうちに鎮めて深化させているということ。
この1行によって、思春期全体像(心・身体・新しい何かが生まれてくるアメーバのような未確認感情・脱皮する前のようななどが)が表現されている(と私は感じ取った)。
最後の「この気持ちは何だろう」は、読者である中学生にぶつけている。この1行は、最後の落としの1行ではなくて、広がりを持つ1行。

谷川俊太郎さん、改めて思う、すごい。
「詩人」なんていうめちゃ特殊なプロ仕事を18歳の時からやっておられるだけのことはあります。
ちなみに「詩人」というお仕事は、古代ギリシャからあって古いのですが。
以上。







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