庄司利音の本棚

庄司利音の作品集
Shoji Rion 詩と物語とイラストと、そして朗読

詩 「カラス」

2018-03-21 13:35:50 | 


カラス・・・

カラス・・・

檻の中にいるカラス

じっと動かぬカラスよ


私はお前を

決して好きではないけれど

何故か お前の鳴く声が


私の からだに しみ込んで

にじんで ぽたぽた 溜まるのは

おまえの心の暗闇が

ほんとに ほんとに 深いから・・・


私がおまえにしてやれるのは

そうなんだね、と

遠くから

時折 おまえを 見るだけだけど



詩 「 赤犬と月 」

2018-02-19 13:40:16 | 
            

黒土の表面で 赤犬が眠っている


空気の抜けたドッヂボールのような腹が動いている


落っこちかけの月がその頭の上にいる


アルミ鍋の底のような ベコベコの月だ


赤犬のねっとり湿った鼻面の真下には

土より黒い水溜りがある


その水溜りの表面には もう一つの月が浮いていて

さっきから、赤犬をにらんでいる



さて、赤道直下の高熱が一滴

水溜り目掛けて、シャボリと突き刺さった



水溜りの薄皮で一枚はがれた月が ニヤニヤと笑いはじめる


すると、赤犬が 大仏のように眼をあけた


しかしその眼は 月を見るつもりはない



赤犬は夢現(ゆめうつつ)に水溜りの底を見る


水溜りの底に 折り重なった ごぼごぼの窪み


海蛇のようなバイクの轍(わだち)


駄菓子色のミミズの死骸


何も買えない十円玉ふたつ


滑って踏ん張った片方の靴跡




なんともたまらなくなったのか、頭上の月がゲップをした


「ぐげぇっ」


水溜りの月も おんなじようにゲップする


「ぐげぇっ」


赤犬の両耳は どちらの音も しっかりと捕らえたが

そ知らぬふりをして 再び眼を閉じた



ベコベコの月の下に ニヤニヤの月がいて

何も言わない赤犬が一匹、挟まっている



上下の月のゲップは、しばらく止まりそうにない



赤犬の腹からは、ゲップすらも

出そうにない

詩 「 イマ時代 」

2018-02-17 09:45:11 | 

なんで イマ なんだ?


私が生まれた時代が イマ なんだ?


こともあろうに イマ なんだ?


生きるには


あまりに どこもかしこも 不自由じゃないか !


こんなページは グダリと破いて スッ飛ばしてしまえばいい !


無かったことには


出来ないか ?

詩 「 路地の陽だまり 」

2018-02-10 08:10:05 | 

お婆ちゃんが育てたアロエの鉢と

最近よく来る黒猫が

路地の隅っこで冷戦状態



軒下に差し込む細っこい日差しを取り合って 

真剣勝負のにらめっこ



ちょっとばかり

黒猫のほうが後ずさり



二階の窓から手鏡かざして

猫の背中に橙色のポカポカを

思う存分

さあどうぞ

詩 「 春 」

2018-02-02 14:11:48 | 

空から 雲のかけらが 舞い降りる


その着地は 存在しないかのように

笙の一音の 永遠のように


私の 手のひらの 春に

春よ

私の手のひらに

春よ



燕が空を削いでいく


あぁ

動けぬ山のごとく 覚悟して

さぁ

春を

迎えよう



舞い降りる 舞い降りる

白く 白く

産声のごとく 白く


私の手のひらの 春に

春よ