リカードと同じように、アダム・スミスの著作から学びながら、違った方向に発展させ、当時は無視されましたが、いま見直されてきたのがマルサスです。 彼の「人口論」はマルサス主義と呼ばれて、進歩派には毛嫌いされました。
トーマス・ロバート・マルサス(1776-1843)は、ケンブリッジ大学で学び聖職者となりましたが、同時に経済学者でもありました。 彼の経済学はリカードと同様にアダム・スミスの学問を継承しましたが、彼を有名にしたのは1798年に出版された『人口論』です。
マルサスの主張を簡単にまとめると次のようになります。
「人口の増加率と、この人口を養う食料の増加率は乖離している。 人口は特に変化がなければ、25年ごとに倍増しする。 幾何級数的に1→2→4→8→16→32→・・・と増加する傾向にあります。 一方、食料の増産はせいぜい算術級数的に1→2→3→4→5→6・・・という風に増加するものと見なされる 従って、初めのうちは人口の扶養がうまくいっているように見えたとしても、この2つの級数の乖離はどうしようもないところにまで達する。 そこで、人類は何らかの手段で人口の増加を防がなければ、悲惨のどん底に落ち込まなければならない」というものです。
それ故、この悲惨のどん底に落ち込まないためには、一番望ましいのは「道徳的抑制」つまり「禁欲」です。 それを実行しないときの事を考えると、人類にとって、これがもっとも幸福な解決策なのです。 もし道徳的抑制がなされないと、人類は罪悪に走ることによって問題を解決しようとします。
つまり、乱交・不自然な情欲・姦通など変則的な成功の結果を隠すための不幸な手段(堕胎)に訴えがちになりますが、それは許されるべきではありません。 しかし、そうすると人類が行き着く先は、困窮・悪疫・飢餓・戦争その他によって人間の数を減らすしかなくなる、もしくはそれを引き起こし人口と食料のバランスをとってしまわざるを得なくなる。 というものです。