頭のうちどころが悪く記憶を失くしてしまった熊など、動物たちを登場人物とした寓話集。梨木香歩も推薦する安藤みきえの作品。
出版社:理論社
人生について考える寓話、という紹介がされているが、あまりそういったテーマ性ばかりに気を取られる必要はないだろう。
ここに出てくる物語はどれも優しい視点があり、誰かが誰かを思う、というシンプルな愛情に裏打ちされた作品が多かったと思う。その暖かな心情と、単純におもしろい物語を虚心に受け入れ、味わえばいいだけなのだ。
個人的には「いただきます」が一番好みだ。
命を食べることを感謝するというシンプルな内容が盛り込まれているが、それが決して押し付けがましくないところがいい。しかも食べてしまったものに対して、涙を流す部分などは(ラストにアイロニカルな展開が待っているけれど)、作者の優しさが仄見えるようである。言葉遣いの微妙なおかしさなどを含め、印象深い作品である。
ほかには「頭のうちどころが悪かった熊の話」も良作だ。クマバチが死んだ後の亀との会話に流れる、かすかな切なさと暖かさと優しさが特に心に残った。
また「池の中の王様」のトンボとカエルの友情にも、胸を熱くさせるものがある。
それ以外にも胸にじんわりと沁み込んでくる作品が多い。優しい感情を呼び起こしてくれる良質の作品集だ。
評価:★★★★(満点は★★★★★)