いつも寝不足 (blog版)

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海道龍一朗『真剣』

2006年02月17日 | 読書
友人に薦められて読んでみた。

真剣―新陰流を創った男、上泉伊勢守信綱

新潮社

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上泉伊勢守や新陰流と言ってもピンと来る人の方が少ないかと思う。柳生十兵衛なんかで有名な柳生新陰流の師匠筋と言えば多少は分かるかな。

かく言う私も、そこそこ時代小説を読むし、岩明均の「剣の舞」で上泉伊勢守の一番弟子 疋田文五郎が主人公になっているので多少は知っていたのだが、剣豪小説には余り興味がないのもあって、その生涯についてほとんど知るところがなかった。
雪の峠・剣の舞

講談社

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全体としてみると、デビュー作にしてはなかなか良い出来だと言える。ただ、読んでいて気になったのが言葉遣い。戦国時代の人間が「真逆まぎゃく」はないだろう。愛洲移香斎や宝蔵院胤栄にわざわざ(いわゆる)関西弁をしゃべらせたりして、本人も上方文化に浸るために引っ越したほどなのに、これはないでしょう。また、白旗を振って降伏ってのもいただけない。白旗は源氏の旗であって、降伏のしるしにはならない。

そして、これは紙幅のせいかと思うが、壮年期の事績がちょっと薄い気がする。もちろん、わざと城を明け渡した上で取り返したりするエピソードも入っているのだが、いっそのこと、このあたりはもっと端折って胤栄との対戦にもっていった方が良かったような気がする。

北畠具教とものりとの闘茶のくだりも、エピソードとしては面白いが、全体としてみた場合、あまり必要がない気がする。特に、北畠具教が結局、上泉伊勢守を手放すための理屈こねの部分はくどくどし過ぎる。言いたいことは分かるのだが、作品の構成として考えた場合、要らないよね。

何か、良くない点ばかり書いてしまったが、700ページ近くある分厚い本にも関わらず、読むのにそれほど手間取らないのは、やっぱり良く書けている証拠なのだろう。さすがにワンシッティングとはいかないが、それに近い感じで読めると思う。

肩のこらない歴史小説を読みたい人や、人物の清々しい物語を読みたい人にはお薦めかな。