紫微の乱読部屋 at blog

活字中毒患者の乱読っぷりを披露。主にミステリーを中心に紹介します。

「神の手」望月諒子

2005年04月16日 | ま行の作家
電子出版で絶大な支持を得てデビューした、という本作。
全く関係のなかった人や事件が、ある人物を中心に
収束され、劇的な結末を迎える――という構成は、
やっぱり私には“サスペンス”に思えてなりません。

失踪した人物を探す物語は、一般的にハードボイルドという、
と何かで読んだ記憶があるのですが、本作でも、
失踪した作家志望の女性をめぐって、不可解な事件が
起こっていきます。彼女を探す、というよりは、
彼女が“残した香り”を辿っていく、というのが、
ハードボイルドとは違うところ。そして、その結果
出遭う数々の不可解な事件。それが、サスペンス色を
とても濃いものにしていきます。

最近よく思うのですが、私、やっぱり本の読みすぎ
なんでしょうね(笑)。読むほどに筋が見えてくる(^^;)。
事件の詳細やトリックにまでは考えが及びませんが、
だいたい怪しいと思った人物は重大な鍵を握っているし、
ちょっとした表現の違いで、それが伏線であることが
分かるし、半分まで読まずに、結末のおぼろげな形が
見えてきてしまう。逆に言うと、それだけその物語が、
ミステリーとしてはとてもフェアだということなのですが。

本作に関しては、予想を裏切られることなく、
とても素直に結末まで物語りが運んでいきました。
…とこう書くと、面白くなさそうな感じですが(笑)、
さまざまな出来事や事件の絡め方はとても面白かったです。
失踪した女性、というのが、私が思っていたほど
魅惑的ではなくて、現実的だった、というのがちょっとだけ
心残りですが、逆に失踪した人物を男性にして、
女性が彼を探す物語にした方が、この作者には向いている
のかな、とも生意気にもそう思ってしまいました。
というのも、ある事件に関しては女性の目線で進んでいく
のですが、それがいい感じなのですね。ま、あくまでも
私の主観ですが(笑)。

ところで。作中に出てくる作品のタイトルがですね、
「緑色の猿」というのですが…どこかで聞いたことが
ありませんか? そこにもちょっと引っかかった(笑)。


神の手」望月諒子(集英社文庫)