昼食
テーブルに着くとすぐにウェィターがやって来た。今朝のラシードとは異なる。
モルディブのリゾートでは普通最初についたウェィターが最後まで担当するシステムとダイビング雑誌には載っていたが・・・。
「ノミモノハ?」
「何があるの?」
「ビヤ、ワイン・・・・・・」
モルディブへ酒の持ち込みは出来ないがリゾートでは普通に飲むことができる。
「ソフトドリンクは?」
「オレンジジュース、ライムジュース、コーク・・・」
このウェィターはドリンク専門のようだ。ラシードも顔を出した。
各自好みのものを注文し立ち上がった。
メニューはカレーがメインだった。
ライスもいわゆる外米であったが用意されていた。
その他にはサラダ、料理名は不明だが肉の煮込みらしきもの、焼き魚、スープ、パン各種。
席について暫くするとドリンクが運ばれてきた。
このウェィターはとにかく喧しい。何かにつけて話しかけてくる。
そのうえなんと答えても「ホント?」と疑わしそうな声。
『莫迦野郎!俺の言うことが信用できないのか』と思わず叫びたくなるが、どうもそれは口癖のようだ。
しかしそれにしても感じはよえおしくない。
ラシードもそうだがいくつかのテーブルを受け持っているようだ。
だが他のテーブルにいることは短時間で我々のテーブルの傍にいることが大部分だ。
日本にはチップの習慣が無い。それ故に慣れない日本人は必要以上のチップをはずむことが稀ではないと聞く。
たぶん彼らにはその狙いがあるに違いない。
「ワタシ、サッカー、モルディブチャンピオン」いろいろ売り込みが忙しい。
「ホント?」チャンピオンの口調を真似て言った。
E・M・Yは多少の英会話の心得があるつもりらしく、いろいろ相手になっている。
黙って聴いていると実にこいつは十数種類のチャンピオンであった。
しかし、それにしても喧しいチャンピオンである。
「ワタシノ トモダチ マサコサン ・・・・・・ ビジン オオサカ ニ イマス」
「そんな奴を日本ではスケベーと言うのだ」
通りがかった他のウェイターがニヤニヤしながらチャンピオンを指さし
「スケベ スケベ」と小声で叫んで行く。バカ と スケベ は国際語だ。
※バンドス島は比較的大きい島でサッカーコート・プール・その他の遊戯施設もあった。利用客は見当たらなかったが。
さらに回教の寺院らしい建物も。
ダイビングに関しては減圧症対策のチャンバーを備えている当時唯一の島であった。
再びシュノーケリング
「Y子一人を残してダイビングに行くのはしのびない」と三人の意見が一致した。
と、言うことで午後もシュノーケリングでお茶を濁すこととなった。
部屋に戻りハウジングを取り出した。シュノーケリングでもそこそこの写真が撮れそうであった。
Nikon F4をセットした。フジクロームを装填。レンズはNikkor 24mm~50mm Zoom。スピードフラッシュを装着すると重量は約7kg。
念のためダイバーズナイフを左脚に装着。
勇んでネクサスを持ち出したが大げさであった。周囲から浮いている。シュノーケリングには「潜るんです」あたりがやはり適当らしい。
※潜るんです 当時UNより販売されていた「写ルンです」用の水中ケース。
価格は¥7,800 ~ ¥9,800。少々高い気がする。水中カメラマンの気分だけはちょっぴり味わえるかも。
撮影結果は・・・?。水中カメラの知識が無い者が安易に使うと漏水したりして・・・。
ダイビング中に他のパーティのダイバーに泣きつかれたことが数度ありました。
だがビーチから離れればそれも気にならなくなった。パウダーブルーサージョンフィッシュをひたすら追った。
リーフの縁に出た。 サメ!。ホワイトチップだ。M美に告げるとパニック状態になることは必至だ。
ここは黙っておくことにした。
・・・・・・・・・・
20cmほどのシャコ貝が岩に埋もれるように生息していた。
ふと悪戯心が湧いた。ナイフを取り出して岩との隙間に突き刺した。ナイフを抉ると鈍い音がした。抜いた。
鋭利な切っ先が折れていた。そうなると意地になるのが人間だ。抉ること数回。シャコ貝を手中にした。
刺身!・・・?。三人に見せて再び海底へ戻した。
※教訓 ダイバーズナイフは獲物を捕るために使用してはならない。
夕食
陽が落ちた。だが夕食は七時半より九時半の間である。電気ポットが大活躍である。
珈琲と味噌汁と、それぞれ好みの物を口に運びながら翌日のダイビングプランを練る。
M美は相変わらずチェックダイブを免れたことを喜んでいる。
Y子はプレッシャーを感じている様子は無い。度胸だけは一人前だ、この娘は。
外はすっかり暗くなっていた。レストランまで徒歩十分この距離が少々億劫になる。
島の中には動力付きの乗り物は無い。唯一の例外は荷物運搬用の耕運機が一台あるだけだ。
「自転車が欲しいね」と私。
「それは言えてる」と三人。みんな現代人であった。
「・・・夕食は何かしら」
「何か分らんが朝昼の感じではそれなりの物が出るだろう。それよりあのウェィターの喧しさは何とかならないのか」
「確かに少々うるさいね」
「ビー クワイアット と言ってやろうか」
「それはものすごくキツイ言い方よ」
「それくらい言わないと分からないだろう」
・・・・・・そんな会話を交わしているうちにレストランに到着した。
「ノミモノハ?」とチャンピオン。
「ビール」と呑んべえY子。
「ワンビヤ」とメモ。
「ミネラルウォーター」とE君。
「オオー、イチミズ」
「私もミネラルウォーター」
「ハイ ニミズ」
「よし、俺もビールを貰おう」女性一人だけがビールでは絵にならないだろう。そう思い久しぶりにアルコールを摂ることにした。
「トウービヤ ニミズ OKネ」
「OK OK」
「わあ綺麗」私が取り分けた料理(たぶんこの画では無かった気がするが)を視てM美が叫んだ。
「写真を撮るためにはこれくらいはしないと」
テーブルにデザートまでをも並べて撮影。
「ぽーさん ハニー 美味しいよ」とE君。
『日本語で言え、日本語で』
夕食のメニューは・・・何やらわからん。が、一応及第である。
「美味しかったね」と E&Y は満足であった。
「うまくない。ミートも駄目、フィッシュもうまくない。うまいのはパンだけ」とE君。
『ミート・フィッシュならばパンではなくブレッドだろう』
「いつもろくな物を喰っていないから胃が受け付けないのだ」と突っ込む。
しかしそれにしてもみんな(E君も含めて)よく食べる。どうやら太って帰国することになりそうだ。
つ づ く