大阪発達支援センターぽぽろブログ ぽぽろ番

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フレンチトーストありがとう

2009年04月06日 | 児童デイサービス
 今日は福井の小学校に通っている小学5年(4月から6年生)のKくんのことについて少し書かせていただきます。「折り合う力」「お兄ちゃん」についてでしょうか。少し長くてごめんなさい。

 Kくんについて詳しく知りたい方は、同じくぽぽろのドレミファくらぶを利用しているDくんのお母さんのブログ「にこにこ生活」をご覧ください。いつも興味深く読ませていただいています。そこにKくんのお母さんが書き込まれている「けんたの世界」(「けんママ」)というコーナーがあり、Kくんの生活が詳しく紹介されています。
ぽぽろの事務所にはKくんが書いた詩をャXトカードにしたのが置いてあります。買っていただいた分の9割はぽぽろへのカンパとしていただいています。1割が詩の著者に入ります。是非、ご協力をお願いします。

 先ずは先週金曜日の朝のこと。

 電車がとまって開所時間に遅れて高井田の駅からタクシーで乗りつけたKくんに手を上げて「オー!」と出迎える1年上のYくん。「オー!」と返すKくん。お兄ちゃん同士のいい関係です。お弁当も一緒に食べました。この日の学童は、「お兄ちゃんたち」に随分と頼りました。

 次にKくんを見るなり顔を輝かせて「あっ、ありがとう」といきなり礼を言った小学1年のHくん。それに対して「あっ、それって、フレンチトーストのこと?」とKくん。これだけで分かるんだ。二人ともパッと昨日のことを思い出したんです。
 Hくんが自分から「ありがとう」と友だちにお礼を言うことなどめったにありません。よっぽどフレンチトーストがおいしくて、自分ももらえたことが嬉しかったんだ。なぜならKくんは「きょう、いい子にしていた人だけにあげます」と言っていたからです。Hくんはいたずらが度を過ぎることも多く、どっちかといえば叱られることが多く、きっとフレンチトーストはもらえないものと思い込んでいたからではないでしょうか。

 Kくんの優しさも感じました。Kくんはこの春休み、毎回自作のフレンチトーストを持ってきてはお弁当の時間に皆に配っていました。皆にいき届くようにちゃんと包丁で切れ目を入れてもってきています。大人も全員いただきました。ホントにうまいんです。他に作れる子はいないんです。すごいなぁー。

 今度、是非ともフレンチトーストづくり=「おやつづくり」の時間を設け、Kくんに講師をしていただきましょう。おうちの料理のレパートリーも随分広がってきたのではないでしょうか。「Kくんのお料理教室」「Kくんの3分間クッキング」なんかもいいですね…。
 それにしても「(どんなもの(買い物、味、形…)でも文句言わずに?Kくんの失敗や試食に耐えて?見守ってきている)あの家族はすごいなぁ」とKママをよく存じ上げるスタッフのN氏がブログを見るたびに驚嘆しております。

 これは金曜学童の一コマ。symbol7「ゴムの輪のびろ」もそろそろ飽きてきた様子。でも、これが好きでゴムを取り出してくる子もいるので「よっしゃ」と気合を入れてやろうとするのだけど、いまいち乗ってきません。「よし、お兄ちゃんたち!お手伝いして!」と呼びかけると真っ先にやってきたのがKくんでした。すると次々と小学校高・中学年の子ら4人がお手伝いしてくれて立派にゴムの輪が広がっていきました。もうむっちゃ(無茶)感激したのですが、他の子らは勝手に遊んでおり、最後までお兄ちゃんたちとスタッフの演技で終わったのでした。(誘うのに「○年生のお兄ちゃん」とか言っていると、家では「お兄ちゃん」のHくんが「1年生も言ってよ!」と催促するので言ってあげると少しだけ入ってきましたが、他に小さい子で入ってきたのはYくんだけでした。)
 小さい子らのお世話をするとか、スタッフの手伝いをするとか「お兄ちゃん」らしさを発揮できる機会を提供できるのも学童保育のいいところです。

 何よりも、Kくんの目下の関心事の一つは妹のモモちゃんのことのようです。
 この下の写真。バイトのSくんを引っ張っていき、Kくんが何やら内緒話をしています。あとでSくんに聞くと「あのね、僕の妹のモモちゃんは世界一かわいい子です」と言っていたとか。
 実はこのあと私のところににもきて打ち明けてくれました。「…世界一かわいいのにどうしてスカウトが来ないんだろう?」と。「スカウトがきてスターになったら大変だよ。超忙しくなってモモちゃんに会えなくなっちゃうよ。」と私。そしたら、「スターになったらどんどんお金が入ってきて○○や△△(何かのマシンやゲームソフトの名前?)がいっぱい買えるでしょ…」という話でした。○○や△△への強い欲望・願望はKくんの頭の中を少なからず占めているのでしょう。でも、モモちゃんが自慢したくなるくらいに大好きであることもそれ以上占めているのでしょう。彼が言いたかったことはそこなのでしょう。が、会話しだすと「世界一かわいい」⇒「スカウト」⇒「スター」⇒「お金持ち」⇒「○○、△△」と私は良いように解釈したのですが…。

 しばらくはKくんには会えません。今度会うときは夏休みです。
 何よりもKくんが変わったなって思ったのは10時から3時までぽぽろで過ごせたこと、「興味のない」あそびやうるさ過ぎる時でも集団の中、プレールームの中にいて事務室に避難することがほとんどなかったことでした。Kくんが来たら別メニューを用意しておかなくっちゃと思っていたのですが、その必要もなかったようです。半年前だと事件(友だちとのぶつかり合い)に遭遇すると目くじら立てて怒っていたし、集団遊びはさわりだけ参加して時間の半分は事務室で工作などをして過ごしていたのでした。

 Kくんが公園でつぶやいた一言。「ここは結構マニアックな子が多いんだな…」と。その時には、水道の蛇口をいっぱいにひねって水を地面に流してどろんこ遊びをしているKちゃんの姿が目立っていました。(Kちゃんは機関車トーマスとその仲間たちの商品をいつも持ってきて陳列し、帰りには必ずどれかが行方不明になり大騒ぎしている)彼なりに友だちのことを色々と観察しながら、考えているんだなぁって思いました。以前の彼だったらきっと「オイ、君!水がもったいないじゃないか!」と注意し、止めても何度も繰り返すのを見て我慢ができなかったんじゃないでしょうか。(環境問題に関心があるようだからひょっとしてその時も心の中では葛藤していたのかもしれない)
 彼なりに「折り合い」をつけているのでしょうね。

 もう一つ、「ゴムの輪」もそうなのでしょうが、お手伝いを苦もなくしてくれるところ。帰りに玄関の落ち葉曹ォを何も言わないのに自分からさっとやってくれたのもそうです。寄宿舎の生活をはじめ生活面での自律の力も少しずつついてきているのでしょうね。
 寄宿舎教員歴43年のスタッフN氏が「寄宿舎と学童保育は共通したところがある。学校でも家庭でもない解放的な環境の中で普段は決してみることのできない姿を見せてくれる、例えば来たての子どもが安心して暴れたりするところなんかはよく似てるわ…」というようなことをつぶやいていました。Kくんの寄宿舎での生活はどんなものでしょう。

 4/1のブログでも「追っかけ」のKちゃんとのやり取りについては紹介しましたが、福井の小学校に行ってからなのでしょうが、色々な出来事や友だちと折り合いをつける力が随分ついてきたんだなぁということを感じます。余裕も感じます。福井の学校の様子を写真で見せていただきましたが、どれも友だちの中で楽しそうだったり真剣だったり…いい顔でした。写真にあったどでかい本格的な「忍者屋敷」には度肝を抜かれました。ぽぽろの工作とはスケールが違いすぎます。トンカチを打つKくんの真剣な表情がいいですね。

 こうした環境の中で、かつて二次障害が出るまでに苦しみ失ったもの(自己肯定感とか、自他への信頼などといわれるもの)を今は取り戻している、そういう時期なのかもしれないですね。「治療教育」ということばがありますが、そんなことばがあてはまるのでしょうか?昨日書いた「再教育」という問題にもつながるのかもしれません。

 それでも、公園あそびの途中でベンチに腰かけながらモモちゃんの話をした直後、私には色々と想像はするものの理由は分かりませんでしたが、彼はシャツの袖を激しく噛んでいました。私と目が合うとKくんは「あっ、そうだった」というように慌ててサメ[ター(袖口を噛んで破れないようにお母さんが考えてくれた)を噛みなおしていました。そして、フラ~(ボーッ)と一人黙ってぽぽろの方へ歩き出しました。その後ろ姿を見ながら、折り合いがつかないことも、周りには訳が分からないKくんの思いや悩み、怒りもたくさんあるんだろうな、こういう形で感情を抑えてるんだなって思ったのでした。

 長期間Kくんを取材したAテレビの放映は5月2日(土)の夜と聞いています。どんな内容になるんでしょうか…。