PLANET LULU GALAXY!

ルルの日記

小説(無題)

2006-01-30 16:40:16 | 小説
 それは、いつか会ったことがある少年の顔だった。

 彼女と僕が出会ったのは電車の中。
 僕の20歳の最後の日と21歳の誕生日のはざまに彼女と出会った。
 
 いつか会ったことがある少年の顔だった。


 
 僕は、島で生まれた。
 
 根拠も理由もない、傲慢な意味なき自信に満ち溢れた、嫌味な子供だった。

 それは、四方八方からその場所を取り囲む、のん気にも、不気味にも見える、凪
いた海のせいだったのだろうか・・・?

 とにかく、毎日僕は、海を見ていた。

何も動かない、何もやってこないように見えるその海は、外側から僕の自信を支えていた。

 四兄弟の内の、いくぶん年の離れた末息子だった僕は、家の中の、上にいる男たちの権力におびえながらも、その分外ではその権力に守られ、強く出ることができた。
 根拠のない自信とは、そこらへんから生まれたのだろうか?

 僕は、狭い島の中の、極小な少年の社会の中では、自信に満ち溢れた権力者だった。
 友人はいなかった。でも僕は、権力者の立場にいるだけで満足だったから、友人はいらなかった。


 彼は、ハードルの選手だった。
 小鹿のような、しなやかな肢体。向かい風をうけながら、空気を動かしながら、ハードルを乗り越えて、走りぬけていく。
ゴールに着いた時には、満足げな笑顔を浮かべた。
あふれんばかりの笑顔。少しの屈託も感じられない。
一体なんで、あんな顔ができるんだ?

 僕は、生まれて初めて、他人に羨望と嫉妬を覚えた。
 そして、生まれて初めて、家族以外の人に、興味を持った。

 彼は、権力などには、全く興味がない風(ふう)だった。
 ただただ感覚的に生きているように見えた。

 走る、越える。
 走る、越える。

 僕は、教室の窓から、ただ彼を見ていた。
 彼の体は、羽がはえてるかのようだった。
 ハードルを跳び越えるその瞬間、空にとけこむかのようだった。

 美しく、完璧な瞬間だった。



 中学2年生になったくらいから、僕自身を囲んでいた頑丈な外枠は、しだいに周囲ととけ始めていった。
 ハードル少年B(ビー)に興味を持ったことをきっかけに、学校の中に居る、他の人物にも興味を持ち始めたからだ。
 いろいろな人がいる。人は、個人個人いろいろな特性を持っている。ひじょうに興味深い。
 自分とはちがう、他人の中の世界に、興味をもち始めた。
 その内、友人すら出来始めた。これは、悪くなかった。案外。
 時間が止まったかのような、小さな島の中の、小さな子供たちの社会。(少し先の未来に来るであろう、学歴社会、競争社会の中のしのぎをけずる争いなどは、凪の中の海の遠くに見える、ぼやけたユーラシア大陸みたいなもんだ。)その中で、ひまつぶしをするには、一人よりも、多勢の方がすごしやすい。
 とにかく、僕にとって、この時期は、ものすごく楽しかった。

 Bはある時僕に言った。
 渡り廊下を、友達と談笑しながら歩いてる時、ポンと肩に手を置くやつがいた。
振り返ると、Bだった。
 ヤツは、例の屈託のない笑顔を浮かべながら、僕に言った。
 「君、丸くなったよね。その方がずっといいよ。」
 どうやら、彼も、僕を見ていたらしい。


 僕は、18歳の時に、その島を出た。
 何もかもが、飽和しはじめたからだ。
 家族の中も、島も、すべてが狭くるしかった。
 Bは、その島に、残った。




 僕は、20歳の時に、彼女と出会った。
 正確にいうと、20歳から21歳に移りかわるその間・・・。
 僕の視界に、彼女が映った時、ハッとしたのは、彼女がBに似ていたからだ。
 彼女は僕を見た。一瞬、目を見開き、口元をキュッとしめ、緊張したようだが、すぐに表情を崩した。
 「○○くんだよね!話は聞いてるよ!今日は、イン?アウト?私の方はアウト。人とケンカしてきたばかりなんだ!」
 たたみかけるように、一度に話し始めた。

 僕は、彼女の崩れた表情に、興味を持った。

 ところで、元権力者の僕の元にも来るべくして来る競争社会のことだが、僕にはくだらない争いのように思えたので(島育ちだし、本土のことは傍観的にみる。なんつって。)自ら、枠の外に出ることにした。僕はそんなことには、興味がない。
 東京に出てくれば思うことだが、このスバラシイ世の中は、何をしても生きていける。
 何でも受け入れてくれる」、スバラシイ都市、トウキョウ。
 出てきてよかった!あんな、小さくて息苦しい孤島から!
 スバラシイよ!人生ってスバラシイ!
 ただただ、アホウみたいに素晴らしい時期だ。10代から20代にかけて見た、桃源郷みたいに素晴らしい時代。(あぁここは、おぼろげに見えた、ユーラシア大陸?イヤ、僕はそれをさけて来たから逆側だね。ってことは、ここは、オージーか!?ドロシーがたどりついた、オズの国?!)
 モゥ、大陸さえ転がせそう。僕は、はしゃぎまくってた。調子に乗りまくってた。
 大学生だったし、島の実家が裕福なので、何も心配はなかった。

大学の授業が終わると、夜はクラブに行ったり・・・遊びまくってた。
学校に行かないで年上の友達と音楽バナシしたり?さすがトウキョウには、音楽にかなり詳しい奴等が集まってくるね。

 僕が音楽を聴き始めたのは、中学生の頃だ。
 その頃、日本ではYMOの全盛期だった。
 僕は、一番仲の良かった次兄の影響で、クラフトワーク、ディーボ、トーキング・ヘッズなどを聴いていた。同時に長兄がプログレッシヴロックを聴いていた影響で、キング・クリムゾン、イエス、ジェネシス、ピンク・フロイドなどの有名どころを聴いていた。あと、一番影響を受けたのは、フランク・ザッパだな。
 これだけでも、わかるでしょ?僕がサラブレッド並の偏屈人間として培養されたこと。

 僕が行ってたクラブは、80Sのニューウェーヴ、ネオサイケから、90Sのジャンク、オルタナティヴ的な音楽を中心にかけていた。(あとノイズなんかも・・・)
 それらは、僕のもろ好みってわけじゃないけど、なんか新しい世界って感じで、クラブの空間そのものに高揚した。
 
 彼女も、そのクラブに来ていた。
 週一回くらい、そのクラブで顔を合わせることになった。
 彼女は、ソニックユースとか、マッドハニー、昔の音楽だったら、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとか、ストゥージースが好きだと言っていた。
  
 ソニックユースがかかると、彼女は音楽に合わせて踊り出す。
まるでハードルを跳び越える時のBの姿のようだった。森の中で、猟師から逃げまわる小鹿のようでもあり、音楽から追い立てられているようでもあった。

 僕は、島から出て来た、ダサい大学生だったけど、それもキャラクターだという自信はあった。だって僕は頭がいいし、島での元権力者という実績もある。正統な戦いをしなくても、ニュートンやアインシュタインやコリン・ウィルソンみたいに、中島らもや、フランツ・カフカやフィリップ・K・ディックみたいに、いずれは、伝記にもなる人間に成れると信じてた。

 その時のことを考えてみろ!
 今は、まだ、その序章なんだ!



 そのうち、彼女は、そのクラブのDJと恋に落ちた。


 わかってる。競争社会は幻想だと思ってるけど、人はとかく、その幻想にまどわされやすいものだ。
 王道の競争社会は、避けて通ったけれど、他の道でも競争なんてある。いくらでもある。

 彼(DJ)は、僕が一目置く存在だった。年は同じだったけれども・・・。
 見てくれがかっこいいってわけじゃない、きっと。少し、母性本能をくすぐる容姿っていうの?
 背は低いし、痩せてて、中性的な雰囲気で・・・。黒ずくめの“うすい”印象・・・。彼女はそういうところに、魅かれてたんだと思う。

 でも、外見の印象なんて、意味がないよ。
 彼は、故郷の××では、いけてない、さえない類だったかもしれないけど、ここ、トウキョウでは、同じ幸うすい人種が、集まってくるから、(僕を含めて)そこが重宝がられる。土着が意味をなす、故郷の土地がらとは違って、ここトウキョウでは、うつろいやすいのが魅力、消えやすいのが魅力、浮き足立ったのが魅力。
(しかし、彼女には、彼の故郷でのありようが透けてみえなかったのか?やはり、女っていう生きものは、愚かだ。思慮が浅い。ほんと、憤懣やるかたない。)

 彼(DJ)は、僕の友達だった。僕が彼を認めたのは、音楽の知識量が膨大だったからだ。僕は脱帽した。彼を認めた。それが一時的なものでもね。
 まぁ、未来の偉伝の為に必要なのは、目の前に仮想敵国を作ること。それが地道な努力かもしれない。トウキョウでは、常に二番手でいること。それが追い落とされない為の賢人のやり方だ。

 しかし、僕は落ち込んだ。
 東京に出てきて、はじめての挫折感だ。

 彼女なんて、すぐに征服できそう」だったのに。
 だって、彼女は、僕の島の友人にそっくりだったから。
 彼は、僕を見ていた。

 彼と彼女なんて、同じようなもんだ。
 一体どこが違うんだ?同じような容姿で、同じような身のこなし。

 しかし、彼女は僕を無視しているかのようだ。
 初めて会った時は、あんなに、おびえて、あんなに僕をみつめていたのに・・・。



 ある時、彼女から電話があった。どうやら、彼(DJ)に、振られたらしい。
 僕は、冷たくあしらってやった。

 女なんて・・・愚かだ。
 容姿は同なじだが、島にいるBの方がずっと美しい。高尚だ。完璧だ。ずっと、尊い。

 女なんて、大嫌いだ。
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2 コメント

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読みました~♪ (沙也歌)
2006-02-03 15:25:42
主人公は、ルルさん自身の分身ではないんですね、設定の感じだと・・時代とかもちょっと違うようだし。

詩から書き始めてるから小説もやっぱり詩的ですね、そこがいい感じ

詩もヨーロッパの翻訳物っぽくて好きです

私はあまり詩は読んだことないので、詳しいコメントができなくてゴメンナサイ、好きキライでしか判断できなくって。

書くことは癒しになりますよね、そして心の整理になります。

テンプレ、いいんじゃないですか? 作品掲載にもいいかと思いますよー。字も黒で読みやすいです。
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沙也歌さん、読んで下さってありがとうございます・・・m(__)m (ルル)
2006-02-03 16:56:14
この主人公のモデルは“はっきりと”居るんですヨネ~!

この小説の主人公のようなヤツでした。(心理描写の部分はあくまでも予測だけど・・・。)

でも、若い男の子の(女の子も)根拠のない自信って、今考えると、ほほえましいです・・・

あと、私の“わけのわからない憤り”ってものも、若さゆえだったのかな~・・・(遠い目)



詩、ヨーロッパの翻訳物っぽいですか・・・?!

う、うれしいです~!!!



昔は、書くことは、私の人工呼吸器のようなものでした・・・。

私の呼吸でした・・・。



テンプレ、褒めてくださって、ありがとうございます・・・

読んでいただきやすいってことも考慮にいれたので、嬉しいです
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