田中宇の国際ニュース解説
米欧アフガン撤退の失敗
より抜粋転載
*黒字は当ブログ筆者による
米政府が外国にいる自国民を保護する任務を放棄したことは、パックスアメリカーナ(米国覇権)の終わりを意味する。タリバンと和解すれば自国民を助けに行けるが、米政府は、自国民の保護よりもタリバン敵視の維持(和解の拒否)を選択した。バイデン政権は、アフガニスタンにいる自国民の安全を守れない状態に陥って窮乏している。EUや英豪カナダ日本など同盟諸国も、政府やNGOの要員が多数アフガン国内で立ち往生しているが、従来のように米国に頼っても助けてもらえない状態だ。同盟諸国の政府が自国民を救出できない事態になっても米国に頼めば大丈夫というのが戦後のパックスアメリカーナの利点だったが、それは失われている。対米従属の意味が薄れた。アフガニスタンの事態は米覇権の崩壊を象徴している。 (Iran’s Raeisi, Russia’s Putin express readiness to contribute to establishment of peace, security in Afghanistan)
タリバンがカブールに入城し、逃げ出したい欧米人やアフガン人が空港に殺到して空港が混乱したことを受け、米政府は混乱解決のため6千人の米軍部隊をカブール空港に投入した。米軍はタリバンと話し合いの場を持っており、タリバンはカブールの市街地から空港まで米欧人が無事に行けるようにする安全な経路を確保すると提案してきた。米政府はタリバンの提案を受諾し、8月末までの計画でカブールにいる米欧人を空港から出国させていくことにした。ベトナム戦争末期の1975年のサイゴン陥落時、米国勢は自力で何とか撤退したが、今回のカブール陥落で米国勢は自力で撤退できず、敵だったタリバンの温情で退避路を確保してもらって撤退していく。米国にとって、カブール陥落はサイゴン陥落よりさらに惨めで恥ずかしい話になった。 (U.S. says Taliban prepared to provide safe passage of civilians to airport) (Taliban vows to provide safe passage to Kabul airport, Biden adviser says)
だが今の時点で私は、今回のアフガン撤退の失敗が一段落したら「喉元過ぎれば熱さ忘れる」で、バイデン政権の米国は再び中露タリバンやイランへの敵視を再強化するのでないかと予測している。その理由は、米国を牛耳っているのが「隠れ多極主義」の勢力であると思われるからだ。米国の覇権は低下しているものの、まだ強い。もし米国が今回のアフガン撤退失敗を機に中露への敵視をやめて、中露と一緒に世界を運営していく姿勢に転換したら、中露にとってとても好都合だ。中露と米国が仲良くなってしまうと、米国の覇権が経済と安保の両面で維持され、米国が覇権国、中露が準覇権国という、部分的な多極化にとどまる。軍産や英国勢が息を吹き返し、いずれ中露を仲違いさせて分断・弱体化していき、米単独覇権体制を復活させかねない(極限までバブル膨張したドルを元に戻すのは困難だが)。軍産と英国が米国の覇権運営を牛耳ることになる。中露が分断されたまま米英側に包囲される冷戦時代の体制に戻る。
米国の覇権は蘇生力があると言われてきたが、20年も続いた不合理な戦争戦略(と、リーマンとその後の金融バブル膨張策など)によって、米国はすっかり蘇生力を失った。アフガニスタンが豊かで良い国になっていくのは、リベラル民主主義者が嫌悪する中国がアフガニスタンを傘下に入れるこれからだ。そして米国は予定どおり覇権を失う。米国万歳。 (アングロサクソンを自滅させるコロナ危機)
米欧アフガン撤退の失敗
より抜粋転載
*黒字は当ブログ筆者による
米政府が外国にいる自国民を保護する任務を放棄したことは、パックスアメリカーナ(米国覇権)の終わりを意味する。タリバンと和解すれば自国民を助けに行けるが、米政府は、自国民の保護よりもタリバン敵視の維持(和解の拒否)を選択した。バイデン政権は、アフガニスタンにいる自国民の安全を守れない状態に陥って窮乏している。EUや英豪カナダ日本など同盟諸国も、政府やNGOの要員が多数アフガン国内で立ち往生しているが、従来のように米国に頼っても助けてもらえない状態だ。同盟諸国の政府が自国民を救出できない事態になっても米国に頼めば大丈夫というのが戦後のパックスアメリカーナの利点だったが、それは失われている。対米従属の意味が薄れた。アフガニスタンの事態は米覇権の崩壊を象徴している。 (Iran’s Raeisi, Russia’s Putin express readiness to contribute to establishment of peace, security in Afghanistan)
タリバンがカブールに入城し、逃げ出したい欧米人やアフガン人が空港に殺到して空港が混乱したことを受け、米政府は混乱解決のため6千人の米軍部隊をカブール空港に投入した。米軍はタリバンと話し合いの場を持っており、タリバンはカブールの市街地から空港まで米欧人が無事に行けるようにする安全な経路を確保すると提案してきた。米政府はタリバンの提案を受諾し、8月末までの計画でカブールにいる米欧人を空港から出国させていくことにした。ベトナム戦争末期の1975年のサイゴン陥落時、米国勢は自力で何とか撤退したが、今回のカブール陥落で米国勢は自力で撤退できず、敵だったタリバンの温情で退避路を確保してもらって撤退していく。米国にとって、カブール陥落はサイゴン陥落よりさらに惨めで恥ずかしい話になった。 (U.S. says Taliban prepared to provide safe passage of civilians to airport) (Taliban vows to provide safe passage to Kabul airport, Biden adviser says)
だが今の時点で私は、今回のアフガン撤退の失敗が一段落したら「喉元過ぎれば熱さ忘れる」で、バイデン政権の米国は再び中露タリバンやイランへの敵視を再強化するのでないかと予測している。その理由は、米国を牛耳っているのが「隠れ多極主義」の勢力であると思われるからだ。米国の覇権は低下しているものの、まだ強い。もし米国が今回のアフガン撤退失敗を機に中露への敵視をやめて、中露と一緒に世界を運営していく姿勢に転換したら、中露にとってとても好都合だ。中露と米国が仲良くなってしまうと、米国の覇権が経済と安保の両面で維持され、米国が覇権国、中露が準覇権国という、部分的な多極化にとどまる。軍産や英国勢が息を吹き返し、いずれ中露を仲違いさせて分断・弱体化していき、米単独覇権体制を復活させかねない(極限までバブル膨張したドルを元に戻すのは困難だが)。軍産と英国が米国の覇権運営を牛耳ることになる。中露が分断されたまま米英側に包囲される冷戦時代の体制に戻る。
米国の覇権は蘇生力があると言われてきたが、20年も続いた不合理な戦争戦略(と、リーマンとその後の金融バブル膨張策など)によって、米国はすっかり蘇生力を失った。アフガニスタンが豊かで良い国になっていくのは、リベラル民主主義者が嫌悪する中国がアフガニスタンを傘下に入れるこれからだ。そして米国は予定どおり覇権を失う。米国万歳。 (アングロサクソンを自滅させるコロナ危機)