池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

穴倉時間

2020-12-13 11:00:38 | 日記
「資料に沿って、私の方から調査内容を申し上げます。ご質問はいつでもどうぞ。表紙をめくっていただいて、一ページから奥様についての調査結果です」

調査員は、最初に前妻とその父親のことに触れたが、私はそれにはまったく関心がなかった。
私が知りたいのは、息子のことだけだ。

「ええと、八ページからが息子さんの調査内容です」
息子が卒業した小学校、中学校、公立高校の名前と卒業年次。クラブ活動の記録。文集からのコピーなどが続く。
「写真資料の方は年代順に番号がふってあります。小学校のものは入手できなかったのですが、中学校の修学旅行や高校の卒業アルバムからのコピーなどが入っています」

フォルダーから写真を引っ張り出した。そこに映っているのは、私が記憶している幼児の顔とはまったく違う顔つきの少年だ。写真が少しぼけていることもあり、前妻に似ているのか、私に似ているのか、判断がつかない。ようやく、高校卒業時の写真で、顔全体の造りが私に少し似ていることが確認できた。

「高校を卒業されて、推薦で東京の大学に進学されています」

資料には、大学名と一緒に「工学部」の文字がある。
「理系だったのか……」なぜか知らないが、そんな事実がひどくうれしい。「俺の血を継いでくれたのかな」

大学を卒業後、検査器のメーカーに入社したが、二年で退社し、外資系のIT企業に移っている。
コメント
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