池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

穴倉時間

2020-12-11 16:32:17 | 日記
私は、そのことを知り合いの弁護士に相談した。
その弁護士は、名前をNといい、私の同級生だ。
大学時代に同じ実験室で作業した仲間である。
彼は大学卒業後に就職せず、エンジニアの道をあきらめて、司法試験にチャレンジした。たしか、二回目の受験で合格したはずだ。
私とは気が合い、よく一緒に食事をしたものだ。

Nは、私に知り合いの興信所を紹介した。
「そこの社長はよく知っているから、オレの方から電話しておくよ。たぶん、一回、インタビューに行ってもらう必要があると思う」
「ありがとう。でも、そういう調査って、高くつくのか?」
「オレからの紹介だったら、お友達値段にしてくれるだろう。もしかしたら、タダでやってくれるかもしれない」Nは、ふふふと鼻先で笑った。

それから一か月も経たないうちに調査結果が出た。

Nから連絡があったのは、水曜日の夜だった。
メールで『調査の結果を送ってきた。いま俺の手元にある。もちろん開封はしていない。調査員がいちおう口頭で説明したいということなので、今週の土曜日あたり都合はどうだ? 場所は、うちのオフィスの会議室ということで。俺は同席しないけど』

同じ週の土曜日の午後、私は再び代々木にあるNのオフィスに行った。調査員は、私が入ってくるのを見ると、手で会議室の方を指さした。部屋に入ると、調査員は窓のシャッターを下ろし、私の真向かいに座って、封筒を差し出した。
「どうぞ、ご確認ください」

私は茶封筒の封を切り、中からバインダーに綴じられた書類と写真の束が入ったフォルダー、小さなUSBのメモリースティックを取り出した。
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