9月3日は、自動車設計者のフェルディナント・ポルシェ(1875年)が生まれた日だが、歴史学者の家永三郎の誕生日でもある。
家永三郎は、1913年、愛知の名古屋で生まれた。父親は陸軍の軍人だった。日中戦争がはじまった年に、大学の国史学科を卒業した家永は、戦中は高校や高等師範で、戦後は大学で歴史を教えながら、論文や教科書を書いた。
家永は、自分が執筆した高校の歴史教科書が、文部省によって検定不合格とされたり、300箇所以上もの修正意見がつけられたりしたのに怒り、こうした教科書検定制度そのものに疑問をもち、1965年、52歳のとき、教科書検定違憲訴訟を起こした。これが世に言う「家永教科書裁判」で、最終的に結審するまで32年かかった。
最高裁の判決は、教科書の検定制度自体は、合憲であるとしながらも、内容の検定については、文部省側に行き過ぎがあったとして、文部省がつけたいくつかの修正意見を不適切とした。これによって、戊辰戦争のときの草莽隊による年貢半減の公約、中国南京での大虐殺、中国戦線での日本軍の残虐行為、満州にいた731部隊の記述などは、当初家永が書いた通りでよしとなった。ほかに、日清戦争のときの朝鮮人民の反日抵抗や、南京での日本軍による中国人婦女暴行、沖縄戦の軍部による一般市民への集団自決の強制などの問題についても争われたが、これは文部省側の意見が通った。
反権力の歴史学者、家永は、2002年11月に没した。89歳だった。
日本人はみな、家永の『日本の歴史』『戦争責任』『検定不合格日本史』を読むべきだと思う。家永の説を鵜呑みする必要はないが、彼のような視点ももっておかないと、国際化時代には生きづらい。歴史の問題は、みんな無関係ではないからである。
「(日本軍の残虐行為とその犠牲について)なぜ自分の生れる前の、自分としては関知せず責任を負うよしもないと思う行為に対して、恥しさを覚え、それにふさわしい応対をしなければならないのか。
それは、世代を異にしていても、同じ日本人としての連続性の上に生きている以上、自分に先行する世代の同胞の行為から生じた責任が自動的に相続されるからである。」
(家永三郎『戦争責任』(岩波現代文庫)
「歴史に学ぶ」ということを考える。
「自分たちが正しい。向こうはまちがっている。あいつらは最悪だ。」
という水掛け論の応酬は、しまいには、とにかく相手が憎くなり、ドンパチをはじめる結果となる。ドンパチに行かされ殺されるのは若い男たちで、犠牲になるのは女や子どもである。このことを日本人は、前の戦争でよく学習しているはずである。歴史に学ばなくては。だから、「自分たちが正しい」でなく、協調の道をさぐらなくてはならない。近隣諸国と対立するのは、人間の生命や資源、経済の無駄づかいで、それで喜ぶのは、遠くから太鼓をたたいて応援する遠国だけである。
(2015年9月3日)
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家永三郎は、1913年、愛知の名古屋で生まれた。父親は陸軍の軍人だった。日中戦争がはじまった年に、大学の国史学科を卒業した家永は、戦中は高校や高等師範で、戦後は大学で歴史を教えながら、論文や教科書を書いた。
家永は、自分が執筆した高校の歴史教科書が、文部省によって検定不合格とされたり、300箇所以上もの修正意見がつけられたりしたのに怒り、こうした教科書検定制度そのものに疑問をもち、1965年、52歳のとき、教科書検定違憲訴訟を起こした。これが世に言う「家永教科書裁判」で、最終的に結審するまで32年かかった。
最高裁の判決は、教科書の検定制度自体は、合憲であるとしながらも、内容の検定については、文部省側に行き過ぎがあったとして、文部省がつけたいくつかの修正意見を不適切とした。これによって、戊辰戦争のときの草莽隊による年貢半減の公約、中国南京での大虐殺、中国戦線での日本軍の残虐行為、満州にいた731部隊の記述などは、当初家永が書いた通りでよしとなった。ほかに、日清戦争のときの朝鮮人民の反日抵抗や、南京での日本軍による中国人婦女暴行、沖縄戦の軍部による一般市民への集団自決の強制などの問題についても争われたが、これは文部省側の意見が通った。
反権力の歴史学者、家永は、2002年11月に没した。89歳だった。
日本人はみな、家永の『日本の歴史』『戦争責任』『検定不合格日本史』を読むべきだと思う。家永の説を鵜呑みする必要はないが、彼のような視点ももっておかないと、国際化時代には生きづらい。歴史の問題は、みんな無関係ではないからである。
「(日本軍の残虐行為とその犠牲について)なぜ自分の生れる前の、自分としては関知せず責任を負うよしもないと思う行為に対して、恥しさを覚え、それにふさわしい応対をしなければならないのか。
それは、世代を異にしていても、同じ日本人としての連続性の上に生きている以上、自分に先行する世代の同胞の行為から生じた責任が自動的に相続されるからである。」
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「自分たちが正しい。向こうはまちがっている。あいつらは最悪だ。」
という水掛け論の応酬は、しまいには、とにかく相手が憎くなり、ドンパチをはじめる結果となる。ドンパチに行かされ殺されるのは若い男たちで、犠牲になるのは女や子どもである。このことを日本人は、前の戦争でよく学習しているはずである。歴史に学ばなくては。だから、「自分たちが正しい」でなく、協調の道をさぐらなくてはならない。近隣諸国と対立するのは、人間の生命や資源、経済の無駄づかいで、それで喜ぶのは、遠くから太鼓をたたいて応援する遠国だけである。
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