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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

8月24日・ブローデルの海

2019-08-24 | 歴史と人生
8月24日は、イタリアのヴェスビアス火山が噴火し、ポンペイの町が火山灰に埋もれて消滅した「ポンペイ最後の日」(西暦79年)だが、歴史学者ブローデルの誕生日でもある。

フェルナン・ブローデルは、1902年、仏国の北東部、独国との国境に近いロレーヌ地方のリュメヴァル=アン・オルノワという村で生まれた。父親は小学校教師だった。子どものころからラテン語とギリシア語を勉強していたフェルナンは、歴史と詩を書くのが好きだった。彼は医者になりたかったが、父親は息子の意見に反対で、結局フェルナンは大学で歴史学を学んだ。
21歳から30歳のころまで、彼は北アフリカのアルジェリアの中学などで教師をし、そのときに地中海に魅了された。
帰国後はパリで教師をしていた彼は、第二次世界大戦がはじまると、兵役につき、38歳になるすこし前にドイツ軍の捕虜となった。捕虜収容所で、後に『地中海』として発表される歴史学論文を書き、1945年、終戦の年、43歳になるすこし前に解放された。
戦後は教師、社会学の研究所の研究員、市民大学の教授などをした。
47歳のとき、大著『地中海』刊行。その後も大幅に手を入れ、改訂を続けた。
54歳のとき、学術雑誌「アナール(「会報」の意)」の編集長となり、アナール学派と呼ばれる歴史学者の中心となり、多くの後進を育てた。
77歳のとき、『物質文明・経済・資本主義』刊行。
死ぬ間際まで旺盛な執筆活動を続けたブローデルは、大作『フランスの歴史』の執筆途中の1985年11月、没した。83歳だった。

ブローデルによれば、資本主義の本質は昔からなんら変わっていず、ただ、地中海のヴェネチアを、アムステルダムがまねし、それをロンドンがまねし、それをまたニューヨークがまねして、世界経済の重心が移動しただけなのだという。そうかもしれない。

ブローデルの『地中海』は、16世紀後半の地中海を、いくつもの時間の層の重なりと見て、ていねいにその層をいく重にも描きだしたものである。
地理的な時間……自然、環境、構造などの長期的な時間の流れ
社会的な時間……人口動態、国家、社会史などの中期的な時間の流れ
個人の時間……個人的な体験や、刻々と変化する情報などの短期的な時間の流れ
ブローデルは、歴史にはこうした多様な時間の流れが重層的に積み重なっていて、たがいに影響しあいながら、また矛盾しあいながら、厚みをもって存在している、それを『地中海』によって表現したかったようだ。彼は、エリック・ウェーバー、トインビー、シュペングラーについて言及した上で、こう書いている。
「私は、他でもない、この種の命題がはらんでいる、あまりに単純な物の見方と大げさな説明に、闘いを挑んできたのだ。」(浜名優美訳『地中海V』藤原書店)
だから、『地中海』で著者が言いたかったことをひと言でまとめるなら、
「歴史はひと言に要約できない。ただし、全体としての大きな時間の流れはある」
ということになるのかもしれない。
それにしても、この大作の草稿を、資料のない捕虜収容所で、記憶を頼りに書いたというのはすごい。
(2019年8月24日)



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