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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

6月3日・アレン・ギンズバーグの響き

2019-06-03 | 文学
6月3日は、映画「去年マリエンバートで」のアラン・レネ監督が生まれた日(1922年)だが、詩人アレン・ギンズバーグの誕生日でもある。

アーウィン・アレン・ギンズバーグは、1926年、米国ニュージャージー州ニューアークで生まれた。父親はロシアからのユダヤ系移民で、高校教師で、詩人だった。
貧しい環境で育ったアレンは、ニューヨークのコロンビア大学に入学。学生時代に、ビートニク作家のケルアックやバロウズらと知り合った。大学卒業後、彼はカリフォルニア大学の大学院に入るが、やがてドロップアウトし、放浪と詩作の生活に入った。
30歳のとき、詩集『吠える』を発表。超現実主義的なイメージで、人間疎外を生み出す米国社会を告発するこの詩集により、一躍ビートニク世代のヒーローとなった。
麻薬使用による精神拡大(サイケデリック)を追求し、36歳のころには、インドへ渡り、ヴァラナシで半年ほど暮らし、ヒンドゥー教に深く親しんだ。米国へもどり、反戦運動、公民権運動に参加し、また英国などで詩の朗読会や芸術イベントを開催した後、1997年4月、肝臓ガンによりニューヨークのイーストヴィレッジで没した。70歳だった。

ギンズバーグは、ウィリアム・バロウズ、ジャック・ケルアックと並ぶビートニクの代表格である。
ギンズバーグの自由詩は、ユーモアと風刺に満ちていて楽しい。たとえば、代表作『吠える』中の一編「カリフォルニアのスーパーマーケット」。
「ぼくは見かけた、ウォルト・ホイットマン──子どももいない寂しい年寄りの漁り屋のあなたが、冷蔵ケースの肉をあちこち突っつきながら、店員たちに色目を使っているのを。
ぼくには聞こえた、店員のひとりひとりにあなたが訊ねているのが──ポークチョップを殺したのは誰か。バナナの代金は。君はぼくの天使かい。」(川本皓嗣訳『アメリカ名詩選』岩波文庫)

詩集『アメリカの没落』中の詩「アメリカ」はこんな風にはじまる。
「アメリカよぼくはきみにすべてを捧げていまでは無だ。
 アメリカよ二ドル二十七セントしかない一九五六年一月十七日。
 ぼくには じぶんの精神が耐えられない。
 アメリカよいつぼくらは人間の戦争をやめるのだろう。
 おまえは じぶんの水爆でナニしていかれてしまえ。
 ぼくは気分が悪いんだうるさくしないでくれ。
 アメリカよいつきみは天使のようになる。
 いつきみは服をぬいでくれる。」(富山英俊訳『アメリカの没落』思潮社)

ギンズバーグは、ホイットマンの宇宙的に大きな、自由な構えで、ヘンリー・ミラーや、ボブ・ディラン、あるいはカート・ヴォネガットといった現代的、かつ原始的を巨人たちに通じる世界観を詩にして歌った人だった。彼は言う。
「きみ自身の内なる月の光が照らすところにしたがいたまえ。狂気を隠してはいけない。(Follow your inner moonlight; don't hide the madness.)」(http://www.brainyquote.com/)
(2019年6月3日)



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