お絵描き 深夜の竹薮で・・・

　　夢か現（うつつ）か幻（まぼろし）か・・

　　　　　　　

　　　「夢とちがうわ　ボケてないぞぉ～」
　　　　じいちゃんが大きな声で言いました。

　　　ばあちゃんが入院中の会話です。
　　　足が弱くなったらいけないのでばあちゃんは夜、病棟の廊下を
　　　何周か歩いている事をじいちゃんに話しました。
　　　それを聞いたじいちゃんは即
　　　「徘徊したら困るけん夜は部屋から出たらあかん」と言いました。
　　　おりひめとばあちゃんは「徘徊」と結びつけたじいちゃんを
　　　「徘徊するわけないでぇ～」と笑い飛ばしました。

　　　するとじいちゃんは脳梗塞で入院中の事を言い出しました。
　　　「ワシも、夜に３階の廊下で歩く練習しよったのに気がついたら
　　　　裏の竹薮の中におったんじゃ。
　　　　点滴のロープが枝に巻きついて外れんようになって困った」
　　　真面目な顔で話し始めました。
　　　そのあとどうなったか尋ねると
　　　「『お～いお～い』呼んでも誰も来てくれんかったけん
　　　　お念仏を一生懸命お唱えしたら３階まで戻って来れたんじゃ。
　　　　ほなけん、夜は歩き回ったらあかん」
　　　との事でした。
　　　おりひめとばあちゃんは可笑しくて
　　　「じいちゃん、それは夢みたんじゃわ～～」と言っても真顔で
　　　「ほんまの事じゃ」と言い張ります。
　　　おりひめもばあちゃんも呆れてしまい笑いながら
　　　「じいちゃん、３階で歩いてるのに竹薮に入る訳ないでぇ～～
　　　　夢でなかったらボケが来たか狸に化かされたんじゃわ」
　　　って言いました。
　　　すると じいちゃん、ますます声も大きくなって
　　　「何を言よんな　ホンマの事じゃわ。病院はなぁ、霊安室も
　　　あるけん、いろいろ起こるんじゃ」　言語障害があるなんて
　　　思えないほどハッキリした口調で言いました。      

　　　同室の人たちがカーテン越しに笑いを堪えながらも
　　　クスクス笑ってるのが聞こえていました。
　　　ホント、話してるおりひめも可笑しかったです。
　　　じいちゃんだけが真剣そのものでした。

　　　「はいはい、わかりました　夜は歩きません」
　　　ばあちゃんの一言で終わりになりました。
　　　でも退院してからも思い出しては笑ってしまうんですよ