43~86ミリF3.5(通称ヨンサンハチロク)の発売は、1963年にまで溯る。当初は、レンズ固定式一眼レフ「ニコレックスズーム」用に開発されたものだ。安価な入門機用レンズと言うこともあり、設計における優先事項としては、小型・軽量・ローコストが至上命題だった。ズームレンズ自体が「特殊」であった時代に、こうした目標を達成することの困難さは想像を絶するものだったに違いないが、現在でも通用するコンパクトさを実現してしまったのだからまさに快挙である。当時の上層部も「これならば」と言う事でFマウントでの交換レンズとして、世に送り出す事を決定したのだろう。ニッコールズームとしては3本目に当たり、初の標準ズームレンズであり、コンパクトさと低価格は大きな注目を浴びた。発売当初のレンズ構成は7郡9枚で重量410g。多くの人々に支持された。1974年にレンズにマルチコーティングが施されるが、描写の面では酷評されることも少なくなかった。周辺部分のナガレや、周辺光量の低下(ピントの甘さと周りが暗く写ってしまう)、歪曲収差(画像の歪み)といったネガテイブな面も持ち合わせていた。1976年に光学系を一新し8郡11枚へ改良され、1977年にはAi化されるが、1980年代に入り、ライバルも増加の一途を辿り(社内外ともに)ゆっくりと使命を全うした。私は長いこと光学機器メーカーに勤めていたが、ヨンサンハチロクは「悪しきズームレンズの見本」と言われ、自身でも自分のシステムに加えようとは思わなかった。(研究のために他社であるニコンも持ってはいましたが・・・)そうしている内に30有余年の月日が流れ、光学機器メーカーを退社し、カメラシステム一式をニコンへ統一し直した頃、中古サイトでヨンサンハチロクを目にした。プライスも安く、懐かしさもあって購入したのが、Ai化された後の最後期型のヨンサンハチロクであった。早速使ってみると、頭の中は「アレ?」で一杯になっていった。ナガレや、周辺光量の低下・歪曲収差はどこへやら。解像力は高いしコントラストも問題なし!初期型とはまるで「別物」の写りで、新しいデジタル機で使っても十分に通用する描写になっていた。最短撮影距離が1.2mなので近くを撮るときはあまり寄れないと言う欠点はあるが、現代のニコンのデジタル機にはクロップと言うワザがある。画質がやや落ちはするが、慣れれば戸惑うことはないだろう。どうしても歪曲収差が目立ってしまう被写体もあることあるが、描写性能は衰えては居ない。これからも様々な場面で使ってみたいと思わせる不思議なレンズ。それがヨンサンハチロクである。ただ、最大の問題は老眼と近眼のコンビネーションによって、MFでのピント合わせ機能が低下していることだろうか・・・。もっも、これは私の機能の低下によるものであり、レンズの欠点ではないけれど。
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