limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB ⑯

2018年01月31日 12時44分20秒 | 日記
「すまん!俺の見込みが甘かった!」開口一番I氏は謝罪を繰り返した。「今回の背後にはKが関わっているのではありませんか?」私が言うと「やはりそう思うか?薄々は感じていたんだが、DBの背後にKの陰があるのは、疑いの余地は無いな。でなけりゃ今回の事件が起きるはずが無い」I氏も同意見だった。そうとなると、事は厄介かつ深刻だ。「DBは何とでもなるが、Kは迂闊に手が出せない。お前も知っているだろう?Kに盾を突いた連中の末路は。どうやら、事業所全員を騙しにかからないと、事は収まらん」I氏もお手上げ状態のようだった。「当面、と言うか引き続き病院側は、入院を継続してくれるそうですが、これ以上の迷惑はかけられません。何かしらの手は無いのでしょうか?」恐る恐る私は切り出した。「有る事は有るが、少々危険な賭けになるぞ!お前はY副社長を覚えているか?以前、事業所所長だった。実は、今の事業所所長はY副社長の下で活躍された事があってな、お前の事に関して相談を持ちかけて、指示を仰いでいたそうなんだ。そのY副社長が捻り出した策なんだが、Kに反発する連中の助けを借りてはどうか?との話しなんだ」「Kに反発する勢力!?誰がいるんです?」私は半信半疑で聞き返した。「お前も組合に首を突っ込んだ事があるだろう?思想には問題があるが、仕事は真面目にやる連中だ!」「まさかとは思いますが、ミスターJ達の事ですか?」狐につままれた思いで問いかけるとI氏は「そうだ。J達の手を借りて、芝居を打つんだ!Kを出し抜くにはそれしか無い。Kの部下でもなく、しがらみもなく、社内で完全に独立した連中は奴らだけだ。今次の策を実行するに当たり、Y副社長が指名したのが連中だ。そこに俺と事業所所長が加わって部隊を組織する。完全なる隠密行動だ。計画を知っているのは、我々だけで他の部課長クラスや総務部にも伏せる。K だけでなく事業所全員を騙すのだからな!木の葉は木の葉の中に隠せだよ」「かなりの芝居ですね。人手は?私は何をすればいいのですか?」半ば呆然と話しは聞いたが実際にはかなりの問題も出てくると踏んだ私は、思わず聞き返す。「まあ、そう焦るな!詳細は俺が病院を訪ねた時に話す。どの道、DBの件で謝りに行くのだから、病棟で詳しく説明する。そっちで話す分には何の気兼ねもする必要も無いしな。とにかく、お前にも協力して芝居をしてもらわなくてはKやDBを欺くのは困難だ。体力を温存してまっていろ!」「分かりました」と言うとI氏は「水曜日までには、必ず行く。まずはDBの処罰からだが、病院側を納得させるだけの事をやらねばならん。Kは反発するだろうが、証拠は病院側が握っているのだから、相応の対応をやるしかあるまい。ともかく、お前は何も心配する事は無い。非はDBにあるのだから、安静第一で過ごしてくれればいい。落ち着いて待っていてくれ。長時間悪かったな。では、切るぞ」そう言ってI氏は電話を切った。Hさんが「終わった?今、また不審な男が現れた様だわ。警備員が追っているらしいけど、取り逃がした感じよ。とにかく戻りましょう!」そう言って車椅子を押し始めた。
「ミスターJ」遠い昔に組合を率いて、会社との闘争に明け暮れた左派の領主だ。今は閑職に甘んじているが、信念は曲げていない。定年までは勤めあげる覚悟で、Kからの弾圧にも屈せずいる闘士である。思想については「いただけない」が、人としては「信念のある人」である。確かに彼らの地下組織を使えば、KやDBを出し抜く事は出来るだろう。だが、ミスターJが本当に「協力」するのだろうか?Y副社長とはどんな関係なのか?見えない部分だらけだった。色々な事が次から次へと起こる現状、自身はようやく回復への階段を昇り始めたばかり。頭は?で埋め尽くされ、思考は停止寸前だった。そうこうしている内に気づいたら病室にいて、Hさんに「どうした?大丈夫?」と話しかけられていた。「すいません。頭が回らなくて」と言うと「色々ありすぎるよね。考えても仕方ないよ!貴方は何の気兼ねをする必要はないの。安静第一!会社の人はいつ来るのかな?それだけは教えて。報告しなきゃ」「水曜日までには来るそうです。事前に連絡はするそうです。」といいつつベッドへ移ると「ご苦労であった。夕食までは絶対安静を命じます。何かあったら呼んで頂戴!また、見に来るけど、少し眠ったら?疲れたよね。安心していいよ。じゃあカーテン閉めるよ」Hさんは報告に向かった。眠ろうとはしたが、眠れるはずが無かった。これから「何が始まるのか?」は見当も付かない。だが、何かが確実に「動いている」のだ。KとDBを退ける事など出来るのか?私には「雲を掴む様な話し」でしかない。しかし、事は確実に進んでいたのだった。

ミスター DB ⑮

2018年01月30日 20時19分56秒 | 日記
翌日、私は看護師長さんから大目玉を頂戴した。「危うく捕らわれる場に出て来るなんて、馬鹿げてます。貴方は病人なんですよ!」お説ごもっともなので、ひたすら謝り続けて小さくなるしか無かった。一通りのお説教が終わろうとする頃、院内PHSが鳴り出した。看護師長の顔色が変わった。「今、警備員が昨日来た男らしき、怪しい者を追跡して逃げられたそうよ!一応、知らせて置くけど。貴方の言った通りになった様だわ。会社に対して厳重に抗議しなくてはならないけれど、窓口になりそうな人は思い当たる?」と問われた。確実なのはI氏しかいない。「Iさんの携帯番号なら分かりますが」と言うと「その人は医療の現場について理解があるの?」と更に聞かれたので「病院へ送り出してくれたのはIさんです」と言うと「唯一の理解者が居たのね。私から連絡してもいいかしら?」と言うので「異存はありません」と言ってI氏の携帯番号をメモして看護師長さんに手渡した。DBは懲りもせず、またしても病棟侵入を企て、失敗したようだ。後から聞いた話しによれば、マスクで顔を隠し目指し坊を被って「変装」しつつ、見舞い人に紛れて侵入しようとしたらしいが、警備員さん達が見逃すはずがない。たちまち、追跡される羽目になった様だが、発煙筒を投げて振り切ると言うはちゃめちゃな手口で逃げお失せたと言う。今後も週末の度に現れる事は間違いなく、それを考えると頭が痛くなり気分も滅入ってしまいそうだった。一体誰が嗅ぎつけたのだろか?事業所内では、限られた者しか入院の事実は知らないはず。DBのスパイ網は、壊滅しているので、私に関する情報が漏れるはずが無いと言うのに。暫く呆然と考えを巡らせているところへHさんがやって来た。「どう?昨夜は眠れた?結局、注射だったけど?」少し表情が冴えないところを見るとHさんも?と思っていると「私もやられました。看護師長に!」と言って、ようやく笑顔に変わった。「あれは、禁じ手だよね。でも、貴方はやはり男の子だったよ。私を庇って前に出たもの。それは女子としては、認めるよ!でも、もういいよ!貴方は患者さんなんだから、私達看護師を信じてね。守って行くのもこっちの仕事なんだから!分かったかな?!」確かにHさんの言う通りだ。「はい、お任せします」と私は頭を下げた。「分かれば宜しい!」また、看護師長さんの来訪であった。「2人とも今後は慎む様に!」またまた頭を下げて恐縮していると、看護師長さんが私に「今、Iさんとお話しをして、会社としての対応をお願いしました。早急に手立てを考えるそうですが、貴方に聞きたい事がある様なの。電話してもらえますか?」と言って来た。「構いませんが、談話室で携帯を使ってもいいですか?」と聞くと「そうしてくれると助かります。午後4時以降にかけて欲しいと言ってましたから、時間になったらHさんに車椅子で送って貰って下さい。Hさんは監視を怠らない事。貴方はなるべく早く済ませる事を忘れないで。向こうも困惑している様子でしたが、なるべく早く手を講じてもらえる様に、貴方からもお願いして置いて!」私は恐る恐る聴いた「私は、転院しなくてはならないのでしょうか?」「そんな心配は無用よ!Hさんも言ってましたけど、私達看護師は全力で貴方を含む患者さん達全員を守り抜くわ!余計な心配はしなくていいから、安心なさい!」さっきの話し聞かれていた様だ。「さあ、貴方は少しでも体力を温存して。電話で話すことだって疲れるものよ」カーテンが閉じられ、私はベッドに横たわって目を閉じ大きく息をはいた。DBが誰から情報を手に入れたのだろか?少なくとも私の入院について知っているのは4人。他の部課長クラスは関知すらしてはいないはずだ。誰だ?誰が嗅ぎつけたのだ?不意にある人物が思い浮かんだ。事業部の「陰の帝王」と呼ばれ、1年半前までは総務部に居た男。「K帝」と恐れられているDBの盟友。「まさか!」鳥肌が立ったが、9分9厘間違いはなさそうだ。Kならばあらゆるコネを通じて、極秘情報を集められる。何しろKに盾を突いたが為に、閑職に落とされた者は数知れないし、本社や営業にも顔が効く。DBが窮地に立っている今、裏から援護が出来るのはKだけだ。私は、知らない間に「K帝」を敵に回して居たのだ。事業所長と言えどもKに盾を突く事は「タブー」と知っている。あまりにも「手にしている権力」が強大だからだ。恐らくKの部下達も今回の「侵入事件」に関わっているだろう。そうでなくては、DBを警備員が取り逃がすはずが無い。Kと言う「強大な壁」が私を踏み潰しに動いている。そう認識した今、私は音を立てて血の気が引いて行くのを感じ、底知れぬ恐怖を覚えたのだった。

ミスター DB ⑭

2018年01月29日 20時34分13秒 | 日記
相変わらず「進歩」の無い遠吠えだった。DBはまたしても「寺での精神修行」を強行しようとしているのだ。ある意味で、私はDBの姿が「ピエロ」に見えて笑いをこらえるのに必死だった。「寺で精神修行か・・・。それで私の病が完治するのか?」私は改めて誰何した。「お前の様な惰弱者の腐り切った性根を叩き直すには、寺に籠り、禅を組み、滝に打たれ、心と体を極限まで追い込まなくてはならん!お前を更生させるには、精神を鍛え直すのが一番なのだ!薬や休養などといった軟な事では、何時になっても立ち直る事は出来ん!さあ、寺へ行くのだ!嫌とは言わんだろうな?姿を見せた以上は、それなりの覚悟を持って出てきたのだろう?抵抗するならば、縄で首を括ってでも連れて行くぞ!」吐き捨てるように、一気にまくし立てたDBは、足元のカバンからロープと手錠を素早く取り出しながら、私の方へ歩を進めようとした。その時、準夜勤に就くべくナースステーションに居たHさんが私の前へ立ち塞がった。「止めなさい!」DBに向かって鋭く視線を向けて威嚇した。だが、DBが怯むはずがない。「何だ?白衣に守られる正当な理由でもあるのか?お前は何処まで堕落したのだ?!大人しく縛に就け!!俺に従え!!寺へ行け!!」DBは完全に周囲が見えなくなっていた。普通、自ら墓穴を掘るような事はしないだろうに、私を捕縛したいがためにすっかり「本性」を曝け出してしまっていた。私はHさんの前に出てDBと再び向き合った。「そこまでだDB!寺ではなく警察へあんたが行くことなった様だ。後ろを見るがいい!」私は病棟入り口を指さした。「何だと?」慌ててDBが振り向くと、警備員と看護師さん達がずらりと勢ぞろいして、DBを睨みつけている。「あんたの目的は見舞いではなく、患者を不当に略取することにあるのだろう?証人は山の様に居る。言い逃れは出来ない。縛に就くのはあんただよDB!!」私は精一杯力を込めて言い放った。DBは一瞬凍り付いた。その隙をHさんは逃さなかった。右足で思い切りDBの股間を蹴り上げた。「ぐぇー・・・」衰えたりとも、股間を至近距離で思い切り蹴られれば痛くないはずがない。DBは悶え苦しみ廊下に伏し転がった。「今よ!!」副看護師長のAさんが警備員を促した。DBは持っていたロープで逆に縛り上げられ、病棟から排除されていった。ヤツのカバンからは、ロープや粘着テープや金槌や五寸釘などが見つかった。抵抗された場合は、こうしたモノを駆使して病棟から私を連れ出すつもりだったのだろう。私は膝をついて廊下にへたり込んだ。DBとの対峙で全精力を使い切ったからだ。病室からガードについて来てくれた看護師さんとHさんに支えられて、ホールの椅子に座った時には息も荒くなり、目の前が暗くなった。「なんて無茶をするの!普通ならとっくに倒れてるはずよ!命を粗末するなんて、おバカだわよ!」Hさんはカンカンだった。「でも、あの男の化けの皮を剥いだのは、貴方の力があったからだわね。もういいわ。安心なさい。休みなさい。無事でよかった!病室へ戻りましょう」車椅子が用意され、私は病室へ戻った。副看護師長のAさんも様子を見にやって来て「馬鹿者!」と言いながら私の頭を軽く押した。「上司って言ってたけど、あの男はどう言う考え違いをしている訳?ともかくまともに話し合う相手ではないわね。これに懲りてもうここへは来ないと思うけど・・・」私は首を振って「奴はまた来ますよ。常識がないだけでなく、狂気が奴を支配してますから。何か手を考えないと、また踏み込んできます。」一同の顔色が曇った。だが、しつこさに掛けて「他の追随を許さない」DBに見つかった以上、覚悟しなくてはならない事実だった。「これだけの問題行動を起こした者がまた来ると言う訳?」みなさん懐疑的だったが、私は「必ず、いかなる手段も辞さず、侵入して来ます。DBは狙った獲物は逃さないのです!」私はこれまでDBから受けた「仕打ち」を話して、奴は諦めることは無いと説明をした。何か「策」が無ければDBは必ず現れる。そしてまた、狂気をまき散らす。狂犬よりもタチは悪い。今日は、押し返したが「明日」はまた押し寄せてくる。津波の様に。私には体力が戻っていないし、治療中で薬も強力なモノが使われ、その副作用から様々な支障を受けていた。次にDBと戦う力は今は残っていない。

ミスター DB ⑬

2018年01月27日 23時03分54秒 | 日記
夢でも幻でもなかった。ナースステーションの前に居たのはDB本人であった。「あの方は叔父さんですか?」当直の看護師さんが聞いている。私は声を絞り出す様に答えた。「アイツは私を追い詰めた上司です。親族ではありません!」看護師さんの顔色は瞬時に変わり、院内PHSでナースステーションに、DBが偽りの申告をしている事を告げた。ナースステーションからの指示は「病室へ引き返して、身を潜めて!」であった。幸い私が居た病室は「個室」であり、施錠さえすればしばらくは何とかなる状況だったので、看護師さんと急いで引き返し入口の「在室表示」を消して、内側から鍵かけた。万が一に備えて看護師さんも室内から入口のガードに付いた。
その頃、DBは苛立ち始めていた。「貴方はどなたですか?患者さんは、貴方は親族ではないと言っています。ご家族以外の方の面会は出来ませんので、ご身分を明らかにして下さい!」副看護師長のAさんがDBを問い詰めた。DBは「親族がわざわざ来て居るのに、面会を断るとは何事だ!本人を連れて来い!顔を見れば分かるはずだ!」と一歩も引かない。「面会は出来ません!」「本人を連れて来い!」DBの口調は徐々に荒くなり、恫喝に近くなり始めていた。話は平行線のままで、いつ終わるかわからない「堂々巡り」に突入して行った。このままでは、病棟全体に類が及ぶのは避けられそうにない。何しろ相手はDBである。あらゆる手段と備えをして、乗り込んでいるはずだ。徐々に、病棟に動揺が広がるのは、ひしひしと感じられた。私はこのままでは「他の患者さん達に類が及ぶ」と感じて決断した。看護師さんに「ナースステーションに行きます!」と言った。「そんな危険な事はさせられません!」看護師さんは顔色を変えて、私を止めようとした。だが、私は決然として立ち上がって言った。「奴の狙いは私を捕縛して帰る事。私が、奴の真意を皆さんにお見せしましょう!時間を稼いでいる間に警備員さんを呼ん下さい。これ以上、動揺を広げる前に事を収めるには、奴と対峙するしかありません!やらせて下さい!」私は鍵を開けて、廊下に出た。看護師さんは、院内PHSでナースステーションに私が向かうと話し、ガードに付くと告げた。前代未聞の対峙が始まろうとしている。DBは何を用意しているかも分からない。だが、私は立ち向かうしかない。廊下を歩いて、ナースステーションが見える場所までゆっくり歩いた。DBはまだ気づいて居ない。「DB!そこで何をしている!」私は声を張り上げて誰何した。「貴様に呼び捨てにされる程、俺は落ちぶれてはおらん!やっと現れたな!この惰弱者!今日こそ貴様を寺へ押し込んでやる!」DBの目からは狂気が溢れ出していた。やはり、DBは私を捕縛するつもりだったのだ。

ミスター DB ⑫

2018年01月24日 21時51分59秒 | 日記
ゴタゴタはあったものの、私は無事に大学病院へ入院する事が出来た。DBは、見込み通りに郵便物に網を張ったが、待てど暮らせど「診断書」は届かない。情報網も寸断され、五里霧中に陥ったDBは、血眼になって私の行方を追った様だが、何の情報も手掛かりも得られず、挙句「降格人事」を言い渡され「課長補佐」と言う名前だけの窓際へ落とされた。即ち、管理監督権限を剥奪されたのである。最も、最初は「辞職勧告」が出るはずだったのだが、会社から放り出せば逆にDBの「思う壺」になり、何をするか予測不可能なので、事態をより悪化させる事になりかねず、危険度は増すばかりとなると判断した会社側は、窓際へ追いやる事で「監視の網」から逃げ出せない様にする策を選んだのである。ある意味、この策は後に大きな意味を持ち、図に当たるのだが、正直なところ「治療計画」を台無しにし、療養期間を長引かせる一因となるのだから皮肉なものだ。
精神科病棟イコール「鉄格子」と思われている方も多いと思うが、大学病院の精神科病棟は「開放病棟」、すなわち「普通の病棟と変わらない」場所であった。私が病棟へ案内されて、真っ先に洗礼を受けたのは「手荷物検査」であった。金属やガラス製品は、精神科病棟では「御法度」なのである。何故なら「自傷行為」を防ぐためには、入って来るものを取り締まるしかない。周囲に「置かせない事」が入院患者さん達の命を守る事になるからだ。検査の結果は「問題なし」。担当看護師さんを紹介され、病棟での生活について、事細かに説明を受けた。私の担当はHさんと言う「大柄な保育士さん」の様な方だった。割と美形。でも「しっかり者」だと直ぐに分かる話し方、手際の良さは今でも良く覚えている。最初の担当看護師さんは、誰でも印象が残るもの。一通りの説明を受けてから、まずは「一般検査」の旅へと送り出された。血液、尿、心電図、レントゲン、一回りをして異常が無いがを確認し、異常があれば合わせての治療計画が組まれる。検査の結果、血液中のイオンバランスが崩れており、心肺に負担がかかっている事、肝機能の数値に異常が見られる事、慢性的な脱水症状となっている事が判明した。こうした症状については、主治医の先生が予期していた通りではあったが、少しでも入院が遅れていたら「より深刻な状況」になっていてもおかしくはなかったそうで「ギリギリのところで踏み止まっていた」と後から説明をされたが、仮にも境を越えていたらどうなっていたのか?今でも思い出すと背筋が寒くなる。
治療の第1段階は、体力の回復から始められた。左腕には「点滴ライン」が固定され、24時間の点滴処置がなされ、小水は管へ流れる様に尿管へラインが確保されたが、苦しくて痛くて恥ずかしくてたまらない処置でもあった。更には尿管のラインが上手く入らなくて、膀胱から小水が少ししか出なかった為、入れ直すハメになったので、同じ苦しみを2度味わうことになってしまった。どうやら、男性は膀胱までの距離がなまじあるため、管が素直に通らない事があるそうなので、覚悟しておかれた方がいいらしい。当然の事ながらトランクスから紙おむつに「履き替える」事となり、上半身にはモニター用の電極があたこちに貼り付けられ「絶対安静」が言い渡された。それから10日程の記憶はあまり定かでは無い。食事や検温、清拭の際のぼんやりとした状況しか思い出せないのである。恐らく、強力な薬剤と睡眠薬が投与されていた影響だろう。だが、そのお陰で体力は回復に向かい、小水の管は外され自力で病棟内を歩ける様になるまでに漕ぎ着ける事が出来た。まだ、点滴ラインは取れなかったが、食事も「流動食」から「通常食」になり、静かな時間が緩やかに経過していた。Hさんも「段々と血圧が下がって行くし、脈が遅くなってるのは何故?!普段から低血圧で脈が遅いの?」と首をかしげるので「そうです」と答えると「私の勘違いや血圧計の故障じゃないのね。毎日の記録だけ見ているとこっちが不安になる!そう言う事なのね。みんなに申し送りしておかなきゃ!」と笑いながら検温をしてくれる様になり、主治医の先生も「順調ですね。このまま経過すれば回復も早まるかも知れませんよ!」と安堵し始めていた。入院から2週間、誰もが「もう底から離れた」と思っていた矢先に「事件」は発生した。土曜日の昼過ぎにかかって来たナースコールで平和は破られた。「叔父さんがお見えになりました。ナースステーションに出てこられますか?」親戚に入院するとは一切伝えて居ない。「叔父とかには入院するとは知らせていませんが?誰ですか?」聞き返しつつ冷や汗が出た。心臓は早鐘の如く脈を打ち、嫌な予感が頭を駆け巡り出した。「そのまま待っていて下さい」とナースコールが切れて10秒で当直の看護師さんが病室へ駆け込んで来た。「50代半ばの割と小柄な方ですが、親戚の方ではありませんか?」と聞かれたが、親戚などが来るはずがないと言うと「とにかく面会したいと言っておられるのですが、陰から覗いてみます?」と言うので廊下の壁からナースステーション付近を覗いた。電流が流れて全身が硬直し、一気に血の気が引いた。ナースステーションの前に居たのは、他ならぬDBだったのだ。