limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 69

2019年11月28日 16時51分03秒 | 日記
水曜日の朝から、徳永さんと今村さんが首を傾げながら、返し、検査、出荷の後工程を巡りに来た。「Y,製品は何処にある?まさか、廃棄した訳ではあるまい?」「月曜の朝に、嫌と言う程に積み上げたんだ!それが、何処にも無いとはどう言う事だ?」2人は盛んに首を傾げる。「殆んど生産計上してありますよ!そんな事より、製品を流して下さい!間もなく手が止まりそうです!」僕は涼しい顔で答えた。「そんな馬鹿な!あれだけの量を僅か3日で押し返せるはずが無いだろう!」今村さんは、簡単に認め様としなかった。いや、認めたく無かったと言うのが正解だろう。日曜日の晩からフル回転で仕上げたのだ。それを意図も容易く、終わらせられるはずが無いと踏んでいたのだろう。僕等は、彼の思惑を完全に打ち砕いたのだから、青ざめる今村さんが可笑しくてたまらなかった。「コンスタントに計上している事、実際問題、検査が後1日で切れるところまで追い込んでいる事、今村よ、またしても“武田の騎馬軍団”にしてやられた事は間違い無いぞ!」徳永さんが、やっと現実を受け入れ始めた。「どうやら、認めなくてはなりませんな。Y,お前さんの“騎馬軍団”の進撃ペースを少し落としてくれ!我々としては、体制を立て直す時間が必要なんだ!」今村さんが泣きを入れて来る。「冗談じゃありません!前月比30%の上乗せ+αを目指して行かなくてどうします?来月は、中抜けがあるんですよ!先行しなくてどうしろと言うのです?」こちらが噛み付くと、2人は沈黙せざるを得なかった。理はこちらにあるのだ。落とすよりは積み上げた方が、いいに決まっている。実際、出荷は来週の月曜の分まで計上してあるし、文句を付けられる筋合いは無い!「問題は、整列工程の遅れですよね?僕が“殴り込み”に行って来ますよ!下山田さんは、何も見えて無いらしいですから!」僕が手を止めて、出かける支度を始めると「待て!待ってくれ!“信玄公”が自ら殴り込んだら、下山田は腹を斬りかねん!俺と今村で話を付けて来る!済まんが、控えてくれ!」と2人がかりで、制止される。「しかし、最早、時間の問題です!このままでは、50数名が遊んでしまいますよ!現実を知らせないとマズイ事になります!」と断固、“殴り込み”を主張すると、「とにかく、待ってくれ!ヤツの面子を潰す訳にも行かん!俺と徳永さんで煽るから、何とか繋いでくれ!切らせるのが一番マズイ!Y,お前の意思は必ず伝える!塗布工程も最善を尽くして応えるから、“総大将”が行くのは控えてくれ!」今村さんは強引に僕を押し留めると、足早に徳永さんと整列工程へ向かった。「今頃、磁器が届いて“総員戦闘配置”だろう。さて、どのくらいのペースで追い上げられるかな?」僕が呟いていると「Y、悪趣味だぜ!追い付かないのは目に見えてる!整列工程が耐えられるとは思えねぇ!」田尾が顔を出して言う。「実質、月曜日出荷までは先行してる。一部は火曜日以降のヤツまで食い込んでる!そろそろ、“潮時”じゃないか?」徳さんも言う。「だが、まだ先は長いし“飛び込み”も控えてる!計上出来る限り、積み上げて欲しい。こんな余裕を噛ませてられるのは、今週限りだ!手を緩めずに先へ進んでくれ!我々も出来る限り先行させる!“もう、1枚も地板がありません!”って言うまで追いつめてやる!そうしないと、今月は乗り切れない!」僕は危機感を煽った。「総司令がそう言うなら、やるしかねぇな!徳さん、掻き集められる限りやりますか?」「確かに、来週以降にならないと、磁器が納入されないヤツが半分以上残ってる!今が最初の山場だとしたら、指を加えて見てる場合じゃないな!」田尾と徳さんはパソコンに向き直り、計上可能なロットの検索を再開した。「冗談抜きで、後1日も持たないわよ!どうするつもりなの?」神崎先輩が心配そうに言いに来た。「遅れているのでは無く、先行してるのですから、文句が来る方が間違ってますよ。今一度、先頭から煽りを入れさせてますから、繋がる余地はあります。しかし、停滞してもやる事はあるでしょう?」「ええ、“検査実習と認証”をする時間は取れる!早紀と実里に声はかけてあるのよ。“品証の認証”を得るには、充分な時間と言えるわね!こっちは、それで凌いで行くから切れない様に繋いで頂戴!」「了解です」僕等はフッと笑った。これほどまでに上手く転がるとは、予想外だったからだ。「そろそろ、“安さん”が乗り込んで来るでしょう。さて、どう反応するか?愉しみに待ちましょうか?」悪戯っぽく笑い合うと僕等は更に追撃を加速させた。

その頃、整列工程では、徳永・今村の両名から知らせを聞いた下山田さんが、顔面蒼白で立ちすくんでいた。「例月の倍以上の製品を投入しても“もう切れる!”ですって?!あれだけの砲撃を加えても“武田の騎馬隊”の進撃は止められないのか?!“信玄”の追撃を止めて下さい!こちらは、次の砲撃の準備にかかっている最中です!今、この瞬間も追いつめられているとしたら、もう我々の手には負えませんよ!潰されてしまいます!」血の気を失った顔で下山田さんは訴えた。「だがな、理は向こうにある。“前月比30%の上乗せ+αを狙う”と言われれば、事業部としては文句は言えんのだ!遅れているのではなく、先行してい居るのだから、何も言えんのだ!」徳永さんも困惑を隠さない。「最大級で急いだとして、頭はいつ出せる?」今村さんが問い詰める。「今夜の夜勤の後半ですよ。外注もフル回転させたとしても、金曜日には一旦途切れてしまうでしょう。“馬防柵”を突破されてますから、手立てがありません!“信玄”に城を包囲して待機してもらうしかありません!」6月末から月曜にかけて入荷した磁器は全て投入されていた。その次となる磁器がやっと届いたばかりなのだ。下山田さんの計算では、次の砲撃までは充分に持つはずだったが、僕等の処理能力は、それを一気に押し潰したのだ。「ともかく、急ぎますが“切れる”のは覚悟して下さい!体制を立て直す暇も無いのですから!」下山田さんは、作業を急ぐ様に次々と指示を出して行った。「今村、“安さん”に相談しに行くか?」徳永さんが言い出した。「ええ、我々ではどうしようもありません。しかも、遅れている訳ではなく、先行しているのです!“信玄”の追撃を止めるなら仕方ありませんね。シモ、“安さん”に助けを要請しに行こうぜ!」「“武田の騎馬隊”を止めるには、それしか無いよ!」3人は、2階の管理室へ向かった。

「ははははははは!“信玄”めがやりおったか!」“安さん”が涙目になって笑い転げた。「“前月比30%の上乗せ+αを狙う”とは、大きく出たな!だが、方針としては間違っておらん!下山田、体制を立て直すのに時間はどの程度必要だ?」「今週末に休日返上で動いてやっと追い付くレベルです。“武田の騎馬隊”の進撃ペースが速すぎます!」「今村、そっちはどうする?」「やはり、土日返上で動いて置かねば、納期に間に合いません!Y達を止める以外に、この危機的状況を脱するのは不可能かと」「徳永、進捗状況は?」「来週の月曜日出荷までは、既に計上済です。使用高倉庫にブツは入ってます。営業に再度確認しなくてはなりませんが、例月の様に営業から“催促を喰らう”心配は無さそうです!」徳永さんは進捗状況を“安さん”に見せた。「ふむ、これらは全て、Yが仕組んだに違いない!例月だと、ぼちぼちしか上がらないモノが、すべからく計上されているとは、先を見越して手を回したとしか思えん!恐らく、中旬以降を見抜いての“策”だろうが、見事に当たっておる!悔しいがこうなるとは、予測もしなかった俺のミスだ!小賢しいヤツめが!」口調とは裏腹に“安さん”の目は笑っていた。「徳永、こうなっては手の打ちようが無い!ブツが溜まるまで、“信玄”を止めるしかあるまい!後工程の連中には、金曜日に“有給休暇”を取得させろ!“武田の騎馬隊”には“城を包囲して待て!”と伝えろ!下山田は、この隙を最大限に生かして砲撃を開始しろ!磁器の納期は前倒しさせるし、煽りもかけてやる!連続砲撃の準備を整えて置け!今村は、橋元と連携して、炉の前と後ろに“要塞”を築き上げろ!今度こそ“武田の騎馬隊”の息の根を止めるんだ!こうなるとは予測外の事態だが、むしろ俺としては“面白い展開”になって来た事に喜びを感じる!“信玄”めが!油断も隙も無いとは、やってくれるじゃないか!」“安さん”は微笑みすら浮かべていた。「では、直ちにかかります!」徳永、今村、下山田の3名は直ちに管理室を辞して行った。入れ替わるように、品証の井端責任者が入って来て「安田さん、検査の神崎から、“検査技術認証試験”の要請が多数上がって来てますが、これはどう言う事です?」と言った。「恐らく“信玄”の策略だろう!ヤツめが!検査工程も“改革路線”に乗せる算段を付けた様だな!スピードアップの秘策だろう。至急、“試験”を実施して欲しい!今月のみならず、次月以降の鍵になるだろう。返しに続いて検査工程までも“騎馬隊化”するとは。誰も考えもしなかったが、やるだけの価値はありそうだ!手間をかけるが宜しく頼む!」“安さん”は即断で容認して井端さんに依頼をかけた。「“信玄”の思惑は何です?」「既にウチの前工程が手詰まり状態に陥っておる。増産に向けた布石に間違いは無いだろうが、こうも早くに“見た事も無い景色”を見せ付けられるとはな!“後ろは、増産しても耐えられるだけの体力がある!”と言いたいのだろう。こうでなくては、営業の尻を叩く愉しみが無くなるし、半期の決算に向けての数字が跳ね上がり、通期で前年を上回る成績を残す愉しみが見えて来た!“お荷物事業部”の汚名を晴らす絶好の機会!逃す訳には行かんだろう?」「しかし、こんなに早く、しかも確実に数字が出て来るとは、にわかに信じられません!」「井端、“質”は向上しているんだろう?」「ええ、“特採申請”の数の減少と検査での“歩留まり”向上は、間違いなく進んでます!」「ならば、この波に乗らない理由は無い!後ろは“信玄”に任せておけばいい!問題は、むしろ前だろうな!休眠している“半自動整列機”を使いたいが、お前としてはどう思う?」「“馬鹿よけ”が担保されるなら、止める理由がありません。既に、現有設備はフル回転しても間に合わないのでしょう?」「これから、更に事態は深刻化するだろう。ともかく、前をしっかりとさせねば、増産も覚束ない事になる!これから、技術陣を総動員して、改修に当たらせて来週には稼働させたい。立ち上げの際には、付き合ってくれ!」「分かりました。“試験”も含めて予定に入れて置きますよ。それにしても、1人の首を挿げ替えただけで、こうも変わるとは驚きましたよ!」「それだけ、“潜在能力を秘めていた”と言う事だろう?あの時、散々議論して置いて正解だったな!」「私も、まだ“人を見る目”を養わなくてはなりませんな。彼には驚かされるばかり。帰すのが惜しまれますよ」「俺は、帰すつもりは更々無い!“信玄”無くして事業部の立て直しは不可能だ!本部長にも“刺し違える覚悟で引き抜いてくれ!”と言ってある!稀代の英傑を手放すなどさせるものか!」「同感です!彼は事業部の“宝”。部下達も“みすみす帰すつもりは無い”と言ってます。もし、帰還させるとしたら、猛反発を喰らいますよ!」「だろうな。ヤツは、既に事業の中核を担っている。失うとしたら反動は大きいだろう。安定路線に乗るまでは、ヤツに辣腕を振るってもらわなくては、先行きが怪しくなる!さて、“信玄”に言い聞かせて来るか!“城を包囲して待て”とな!」“安さん”は御輿を上げて管理室を出た。「先行しているのに、止めなくてはならんとは、何とも奇妙な事ですな!」井端さんが笑う。「だから、ヤツは恐ろしいのだよ!手抜きは一切無しだ!この俺に“前が詰まっておるから手を引け!”と言わせるとは、如何にも小賢しい!」“安さん”もニヤケて笑っている。2人はそれぞれに別れて歩き出した。

“阿婆擦れ女4人組”の内、有賀だけはサーディプ事業部に引き取られる事になった。それも、“大ピン”を担当する部署の検査工程である。責任者に連れられて、僕等の行程へ見学に来た頃に、“安さん”がやって来た。「Y、ご苦労!話がある!全員をここへ集合させろ!」「はっ!」僕は田尾を通じて、検査室へ全員集合を伝達した。有賀達も遠巻きに見守っている。「みんな、ご苦労!月初でありながら、ここまで前工程を煽った事は見事だ!下山田は、例月初の倍以上の磁器を投入したが、“武田の騎馬軍団”の凄まじい進撃の前に屈した。俺の目論見は、見事に外れて体制を立て直す事態に陥った!そこで、明後日はここに居る全員に有給休暇を取得して休んでもらう!最早、それしか手は無いのだ!計算外の事態だが、承知してもらいたい!Y!貴様の手腕は“凄まじい”だけで無く“末恐ろしい”モノだな。下山田も今村もペチャンコにしおって!再起させるのに苦労する身にもなって見ろ!だが、貴様の快進撃もここまでだ!休眠させてある“半自動整列機”も実戦に投入する!月曜日には、この部屋に“要塞”を築いて置く。如何に勇猛な“武田の騎馬軍団”をも跳ね返してくれる!覚悟はいいな?」言葉の激しさとは別に、ニヤニヤと笑って話す“安さん”の姿は返って不気味だった。「勿論です!どんな“要塞”でも突き崩して進んで見せましょう!」「良く言った小僧!覚えて置くぞ!後から泣きついても手遅れになるぞ!最も、貴様が簡単に引き下がるとは思っておらん!もっと突き上げて来い!攻めて来い!俺はいくらでも受けて立つ用意と覚悟がある!よし、全員職務を切り上げて休むがいい!Y、お前は残れ。解散!」“安さん”は解散を命じたが、僕は有賀の前に連れて行かれた。「この男の凄まじさを感じたか?50数名の部下を指揮して、この後工程全体を取り仕切る“総司令官”だ。君もO工場から来たのなら、これぐらいに活躍してもらわなくては困る。1日も早く戦力となれ!」“安さん”はそう言うと、有賀と責任者を激励した。「Y、これからの作戦だが、来週の水曜日までには“要塞”を突破出来るだろうな?」「はい、午前中には追い付く予定を立てますが?」「次の磁器納入は、どんなに急かせても水曜日の午前中がリミットになる!それ以降は、日追いにならざるを得ない!その辺を踏まえて作戦を組み立てろ!今度切れたら、繋げるのに更に時間を要する事になる!“手加減をしろ”とは言いたくは無いが、生産が間に合わないのは事実だ!後、1週間だけ待ってくれ!その間に体制を立て直す!前を改善するには、まだ時間が必要なんだ!上手く切れない様に回してくれ!」“安さん”は珍しく本音を漏らした。「了解です!出来れば突っ走りたいところではありますが、来週は、返し全員が揃う日が3日しかありません。“要塞”を包囲して、慎重に突き崩していきます!」「うむ、任せたぞ!その辺の攻め方は心得ているだろう?貴様の采配に期待する!」“安さん”は肩を叩くと引き上げて行った。「あれが、“安田順二に雷を喰らって無い男”の実力だよ!君は、大変なヤツと比較される事になるな!」有賀は呆然と僕を見ていた。そして、悟った。“Yは、途轍もない高みに挑んでいる!神の頂へ!あたしも負けてはいられない!”「O工場では、無名の戦士です。直ぐに並んで見せます!」有賀は不敵な笑いを浮かべて言った。だが、彼女は後にこう言っている。「全体を俯瞰して指揮するのがどれだけ大変か?あたしには見えて居なかったの。アンタ、物凄い力を出してたのね!追い付くどころか陰すら踏めなかったわ!」と述べている。自らの居場所を見出して、力を出すのは容易では無い。だが、僕は見つけてしまったのだ。真の力を発揮出来る場所と仲間たちを。

翌日、完全に行き詰った僕等は、半日での切り上げを余儀なくされた。「月初だから許さるが、こんな調子で今月乗り切れるのかよ?磁器の納入予定をチラッと見て来たが、来週の水曜日以降は、大口がねぇよ!ロット単位で日追いになっちまってる!」田尾が石を蹴って言う。「そうなると、相当に苦しくなるわね!下山田が倒れなければいいけど・・・」恭子も懸念を示した。「整列機をフル回転させて、外注もフル回転。整列と塗布で詰まった反動が、時間差でこっちへ降りかかるか。波があるのは仕方ないが、如何にして“平準化”させるか?調整はこっちで取らなきゃならない。来週が勝負の分かれ目だろうな!」「Y先輩、“安さん”から“速度を落とせ”って言われてるんでしょう?どうするんです?」永田ちゃんが言い出した。「“速度を落とせ”とは言われてないよ。“上手く調整しろ”と言われただけさ。速度を緩めるなんて、“失礼”な事はしない!攻撃の速度は維持し続けるさ!最速で処理するのが、僕等の仕事さ!悲鳴が上がろうが関係ない!」「“信玄”の攻撃は手を緩めないって事?」千絵が僕の顔を覗く。「手は抜かない!足りなければ煽りに行くだけさ!」「でも、それじゃあ、亀裂を生まない?」ちーちゃんが不安げに言う。「8月は更に上乗せが来るだろう。それに付いて行く素地は、今月の内に決めなきゃならない。喧嘩になろうとも、次月のためにも戦う覚悟は持って行かなきゃ負けるよ!“安さん”だって負けるのは望まないだろう?嫌なら、それに見合う体制をとってもらうしかないよ。僕等は“勝てる体制”を整えて待ってるんだ!それに付いて来れなければ、人手を増やしてでも対処するしか無い。伸るか反るか?大勝負に打って出たのは上の判断だ。僕等は出来る事を確実にこなして行けばいい!そうすれば、誰にも文句は言わせない!」「強いな!その覚悟、俺も乗ったぜ!」田尾が肩を叩いた。「当然、あたし達もYと心中する覚悟よ!あたし達は引き返さない!」恭子が女子を代表して言う。「それはさて置き、明日がガラ空き!予約はどうするの?午後4時以降は、あたしが取るけどみんなは?」「午前中にあたしを入れて!」永田ちゃんがリベンジに燃えている。「日曜日は、あたしが!」千絵もリベンジするつもりだ。「ならば、土曜日は?」恭子が見回すと、実里ちゃんが手を上げた。「早紀先輩と合同で!」「これで埋まったわね。Y、そう言う事で宜しく!」「気ぜわしいのは、毎度の事ですから」僕に決定権は無いのだ。いつもより長い週末は、呆気無く決められたのだ。

寮に戻ると、克ちゃんと吉田さんがおおイビキをかいて、爆睡中だった。作業着から普段着に着替えると、田中さんの部屋の前に行き、車の使用簿を調べた。だが、運の悪い事に全車が荷物の搬送に向けられていた。「第4次隊に占領されたか。まあ、歩くのも悪くないな」と呟くと財布と免許証一式をバッグに詰めて、国分市内へ向けて歩き出す。気の長い“散歩”である。寮から最も近いホームセンターへ行くと、サニタリー関係の欠品を買い集めた。結構な荷物になるが、生活に欠かせないだけに、やむを得ず両手にレジ袋を下げて歩き出す。すると緑のRX-7がクラクションを鳴らして停まった。「Y、乗ってきなよ!」「みーちゃん!助かったよ!」ハッチを開けて荷物を入れると助手席へ滑り込む。「歩いて来るとは、どうしたの?」「足が無かった。自転車も何も無し。だったら、歩くしか無いだろう?」「運動としてはいいけど、炎天下を帽子も被らずに歩くのは日射病の元よ!気を付けて!それで、ついでにお願いしてもいい?」「どうしたの?」「実は、トイレが詰まっちゃったの。お水が流れないのよ。Y、直せる?」「道具があれば、やってみるけど“詰まり防止”の道具ある?」「それを買いに来たのよ!あたしじゃ非力だから、自信無いの。出来そう?」「やるだけやってみるか!ます、どう言う状況かを教えて!」みーちゃんのアパートに着くまでに僕は、出来る限りの状況を聞いた。どうやら、生理用品の破片を流してしまったらしい。再び、みーちゃんの部屋と入ると、トイレと向き合う。溢れる寸前まで水が溜まっていた。掃除用のバケツに水を移してから、道具を手に配水口へ圧力を加える。最初は何の反応も無かったが、やがて水位が下がり出した。「どう?上手く行くかな?」「もう少しさ。バケツを貸して!」水を足して更に圧力を加えると、水位はグングンと下がった。「流して見ようか」通常通りに水を流すと、音を立てて水は流れ下った。「やったぁ!これで一安心!Y、ありがとー!」みーちゃんはキスの雨を降らせた。「ふー、意外に力を要するね。小さなビニールの破片だろうが、この奥は小指の先程の穴になってだけに、わずかな異物でも流れる抵抗になっちゃう。でも、何とか修復出来たからラッキーだったよ」汗を拭うと手を洗わせてもらう。みーちゃんは、アイスティーを用意してくれていた。「Y、これ使って。汗拭きシートだよ」顔に汗を拭いて、アイスティーを飲む。実に美味い!「Y、大抵の故障は直しちゃうよね?治工具だって、全部自分でメンテナンスしてるし」「うん、ボルトが折れたらダメだが、それ以外は何とかしちゃうよ。治工具のせいで“仕事出来ません”とは言いにくいだろう?」「あたしの“メンテナンス”もお願いしてもいい?」みーちゃんは、少し顔を赤らめて言う。「どこ?」「あたしのホール。ほら、もう濡れちゃってるの」みーちゃんはねロングスカートをめくって、パンティを見せた。水色のパンティの真ん中にシミが見える。「毎晩、自分で慰めてるの。早く・・・あたしのホールに・・・指を下さい」消え入るような声でみーちゃんはねだった。抱き寄せてから、指を入れてやると、息が荒くなり声も漏れだした。唇を重ねると舌が絡みつく。彼女は我慢の限界を超えていた。腕を雫が伝い始めると「暖かいのを下さい」と言って盛んにおねだりを始める。息子を潜らせて腰を使ってやると、みーちゃんは声を荒げて抱き着いて来た。「中よ・・・中に出して!お願い!」体位を変えて背後から突きを入れてやり、絶頂に至ると熱い体液を注いでやる。「気持ち・・・いい・・・いっぱい・・・出してくれたね」みーちゃんは満足そうに余韻に浸った。

みーちゃんに送られて寮へ舞い戻ると、鎌倉が戻って来ていた。「おい、有賀がサーディプに引き取られたって本当かよ?」「ああ、大ピン部門にな。こっちには実害は出ないからまだマシだが、よく“安さん”が引き取りに応じたもんだ!」「“安田順二”が駒を拾うとは、何か意味があるんだろう?」「まあ、そうだろうな。“阿婆擦れ女”と承知で引き取ったんだろうが、製品の検査工程だから、時機に根を上げるだろうよ!こっちは、O工場と違って“甘い世界”じゃ無いんだ!」「天下の“安田順二に雷を喰らって無い男”のセリフだけに、説得力はあるねー。メシは?」「食いに行くか。待ってくれ。着替えるから」僕は着替えると鎌倉と共に社食へ向かった。「おい、まさかとは思うが、“信玄の騎馬軍団”に蹂躙されて、有給休暇を取らせるハメに陥ったとは、お前さんの仕業じゃないよな?」「誰だよ?総務にまで言いふらしてるのは?」「やっぱりお前さんか!“安田順二”御自らが言ってたよ!“ウチの信玄にしてやられた!”ってな!」僕等は並んでメニューを選んでボードに取って行き、テーブルに座った。「誰が言い出したか?は知らんが、“信玄”云々と言われてるのは確かだよ」食事をしつつ話は進む。「もう、総務中の噂になってるぜ!“信玄の騎馬隊がディプを変えつつある”ってな。何気に凄い事やってるんだな!」「別に凄くは無いぜ。点を線にしようとしてるだけさ」「誰も考えつかなかった事だろう?」「かも知れんが、普通に連携を取ってるだけさ。違う目線で見られるからな。地の人間には見えにくい事なのは確かだろうが」「それにしても、お前さんの名は総務全体に轟いてる。“革命児”って言ってる連中もいる。これで、ここに留まる理由がまた増えたな!」「鎌倉だって、“管理責任者”のプレートだらけにされてるじゃないか!そっちだって、留まる理由は増えてるだろう!」「お互いに、結構な事だよ。名が“売れてる”って事は、アドバンテージになる!」「だが、そろそろ控えめにしないとな。“売れてる”だけに、やっかみも増えちまう!」「それは言えてるな!派手に“売れた”後が大切だよ」「だから、今月は是が非でも“結果”を求められてる。正念場だろうな」「事業部は数字で出るからな。嫌でも結果は公表されるし」「そうさ。だから、完膚なきまでに叩いたのさ。結果は数字で出る。だから、数字に拘った。結果として有給になっちまっただけさ」「だが、有賀には相当なプレッシャーになるな。嫌でもYと比較されるんだ。化けの皮が剥がれる前に、“強制送還”になった方が身のためじゃないか?」「向こうがどうなろうとも、関係ないよ。既にこっちは手一杯なんだ!」「おっと!噂をすればなんとやらだ!」有賀達“阿婆擦れ女”4人組が現れたのである。距離を保っているが、こちらの様子を伺っている。「Y、退散するか?」「いや、様子を見よう。妙な行動を取る様なら、田中さんに報告しなきゃならん!」僕等は、喫茶スペースへ移動してタバコに火を点じた。「赤羽が苦戦してるよ。“実地で覚えさせるしか無い”って言って大車輪で引継いでる。アイツだけは、先行して“帰還”させるらしいからな!」「天国から地獄へ真っ逆さまか。最もアイツの能力は、出荷業務の枠に収まらんだろう。O工場に戻って、資材を担うのが適材だよ」「確かに。総務関係全般をカバー出来る能力は、稀有だからな」「それにしても、“阿婆擦れ女”を捨てに寄越すとは。上手い手を使うもんだ!」「厄介払いだよ。向こうでも手に余るからだろう?」「本格的に量産開始ともなれば、使い道もあるだろうが、現段階では、然したる戦力にならんから、ここで時間稼ぎに使われるとは」「国分は“人足寄せ場”じゃない!実力の世界さ。まあ、“強制送還”になるのがオチだろうよ」僕等は時折、有賀達を見ながらズケズケとモノを言い合った。タバコを2本灰にすると、僕等はそっと席を立った。ぬるい風に吹かれながら寮へ戻る。「“阿婆擦れ女”4人組が借り上げアパートに入ったのは僥倖だな。煩くつき纏われるよりマシだろう?」「ああ、アイツらは最悪だ!」僕は石を蹴って応じた。「“緑のスッポン”はどうしてる?」「時間帯がズレてるから、実害は無いよ。アイツだって残業三昧だろう?」「制限ギリギリまで時間を使ってるらしい。向こうは品証だからな。4人組とは“格”が違う。仕事内容だって多岐に渡るだろう?」「専門性が高いからな。アイツもやっと“居場所”を見つけたと思うぜ!」美登里は頭は切れるし、呑み込みも早い。ただ、我が強いのが“難点”なだけで、上手く乗りこなせば国分の戦力としては、申し分無い実力を出しているだろう。最近、見かけないのは、忙しい証拠に他ならない。寮の談話室へ戻ると「Y、ここだけの話、赤羽と同時に“帰還要請”が来ているヤツがもう1人居たんだが、誰だと思う?」「さあ、誰だ?」「お前さんだよ!“プラ成型の技術者として育成したい”と言って来たらしいが、さっきの話で取り潰しに追い込まれたよ。危うかったな!」「冗談キツイな。こっちはプレスが専門だぜ!プラスチック成型なんて、未知の世界でしか無いぞ!」「それに、サーディプ事業部で名前が轟いちまった!国分としては“是が非でも確保”に動いたのは当然さ。総務も反対したしな!」「危ねぇー!知らぬ間に首を取られるところかよ!まだ、帰るつもりは更々無いぞ!」「事業部も国分総務も、認識は一致してる。“帰すに及ばず”だよ。各隊もそろそろ人選が進んでる。“任期満了で帰す”組と“是が非でも残留させる”組だ。第1次・2次隊が中心だが、振るいにかけられるてるのは間違いないよ。来月になれば、表面化し始めるだろうが、俺達は後者の方だ!安心しろ!」「鎌倉、その話誰に聞いた?」「総務で耳にした。田中さんとこっちの総務部長が協議してるよ。どうやら、半数は“任期延長”になるだろうよ」「耳をダンボにして、情報を集めてくれ!俺達の未来に関わる大事だ!聞き逃すなよ!」「任せとけ。新谷さんも岩元さんも協力者だ。逃しはしないぜ!」鎌倉は胸を張った。この後、鎌倉からの情報に幾度と無く救われ、事前にアクションを起こせたか?数え切れない。彼が同室でしかも“総務”に居た事は、僕に取って図り知れないプラスをもたらしたのは、確かである。鎌倉にしても、事業部の実態や内部事情を知り得る存在として、田中さんとの連携に於いて、“腹を割って話せる相手”として、僕の意見や考え方を頼りにしていたのも事実である。特に、“女性関係”については、お互いに“情報交換や注意喚起”をしあえる仲であったのは、共に有益だった。最後の最後まで共に国分に残り、止む無く引き上げる事になるのだが、後に鎌倉は「あの時が最高に充実感に溢れ、やりがいがあった。人生を、もう1度戻れる、巻き戻せるなら、迷わず国分の時代を選ぶさ!」と振り返って言った。僕にとっても、輝ける場所、時代として、今も褪せる事無く心の片隅で光輝いている。

life 人生雑記帳 - 68

2019年11月26日 12時59分51秒 | 日記
お昼を挟んでからも、3人の買い物旅は続いて行き、僕を大いに閉口させて手荷物は加速度的に増えて行った。「お待たせ!」この日4回目の車載から戻ると、みーちゃんがソフトクリームを差し出してくれた。「Yは、図形認識とか空間認識力に優れてるね。大抵の場合、迷子になるのに、ちゃんと戻って来るんだもの。それだけでも凄くない?」ちーちゃんがソフトクリームを舐めながら言う。だが、本心は明日に備えているのは明らかだ。試着室での失敗を取り返すべく、明日は朝から激しく迫って来るだろう。「味噌味、わさび味、コーン味が懐かしい」「そんなのあるの?!」みーちゃんが驚いて言う。「長野の各地に行けば、この手の“変わり種”はいくらでもありますよ。善光寺の味噌味、安曇野大王のわさび味、開田のコーン味。他にも数えだしたらキリがありません!」「うーん、奥が深そうだわ。されどソフトクリーム。全種制覇するとしたら、どのくらいかかりそう?」恭子が言い出す。「1週間はかかるだろうな。一口に長野と言っても東西南北に広いし、奥が深いから順序良く巡らないと、完全制覇は難しいよ。温泉地に行けば、半熟卵や饅頭は必ずあるし、山梨まで少し足を延ばせば、ウイスキーの醸造元もある。そこでしか売ってない銘柄もあるし、何より水が美味い。アルプスの雪解け水だからね」「雪解け水か。1年中解けない雪渓とかもあるんでしょ?」「アルプスの奥深くにね。歩いて往復5日くらいの行程だろうな」「ゲッ、車通れないの?」「人が歩く道しかありませんよ。3000mクラスの高地ですから」「飛行機の高度と同じか?遥か雲の上じゃない!」ちーちゃんが呆れた。「O工場の標高はどのくらい?」みーちゃんが言う。「約760m」「じゃあ、峠道だと?」「軽く1000mは行っちゃうよ」「冬は地獄の様に寒そう」「ああ、-10℃は普通だ」「冷凍庫と変わり無しか?ここでは、マイナス気温自体があり得ないから。それに、雪も滅多に積もらないし」恭子も呆れる。「でも、そんな世界の人が、暑さ負けしません?」みーちゃんが気遣って言う。「気温差がほぼ無いから、慣れれば過ごしやすい。長野は朝晩と日中の寒暖差が大きいから、迂闊に過ごしてると直ぐに風邪を引く。空気も乾燥してるから、呼吸器系の弱い人は大変だろうな」「あたし、喉が弱いから、長野での生活は無理かも」みーちゃんが残念そうに言う。「まあ、だけどこの子をタダで帰すつもりは、更々無いわよ!Yだって同意してるし、“安さん”だって“転属”を目指して動いてるの。表向きは“千絵の彼氏”だけど、実質的にはあたし達の“共有財産”なの!みーちゃんにも“権利”はあるわよ!これから、この子を自由にさせるから宜しくね!」またしても、恭子が恐ろしい事を言い出した。みーちゃんと2人でホッポリ出されるのだ!みーちゃんは嬉しそうに頷いたが、僕は内心恐れていた。“アパートで1対1か。何を彼女は狙って来るんだ?”頭の中でグルグルと思いは巡った。「Y、1つ決めて来なよ!」「みーちゃんを泣かせるなよ!」恭子とちーちゃんはそう言ったが、さて、どう転んでいくのか?帰りの車中では、不安が過った。

「散らかってますけど、どうぞ!」みーちゃんはそう言ったが、アパートの部屋は1分の隙も無く整理整頓がなされている。「失礼しますね。みーちゃん、もしかして、家族以外の男性が入るの初めて?」「はい、あたし、中学から短大まで一貫教育の女子学園に通ってましたから、男性との接点そのものが少ないんです。今日は、共学校についてあれこれ聞きたいです!」リビングのテーブルに紅茶を運びながら彼女は言った。「アールグレイですか。定番だったなー。ダージリンにオレンジペコも」「紅茶に詳しいとは聞いてませんが、どこで覚えました?」「高校の時、生物準備室が僕等の根城だったんですが、担任が生物先生だったから、たまたまそこを押さえたのがきっかけだけど、理科講師の明美先生から教わったのが最初だったよな?女子5名に僕1人のグループが自然と出来たのは良かったんだけど、他の女子のグループから睨まれそうになって、“どこか適当な場所が無いかな?”って考えた挙句に“昼休みにお茶会開けばいいかも”って閃いて、先生達の同意も取り付けてセッティングしたのが、紅茶との付き合いの始まり。僕等にとっても先生達にしても都合が良かったから出来た事だけど、それから卒業までの間、お茶会三昧で3年間を過ごしましたよ」「女子5名に男子1人とは、随分とアンバランスな組み合わせだけど、結成の経緯を聞かせて!」みーちゃんが前のめりになった。幸子との出会いに始まり、道子と雪枝との“劇的再開”、堀ちゃんと中島ちゃんの加入までを順を追って話すと、「へー!そんな偶然ってあるんだね!席が隣同士だったり、友達繋がりだったりしての5人なのね。あたしも、仲間に加わりたかったな。凄く愉しそうじゃない」「うん、最高の仲間達だったよ!何があっても、基本的に5人とは卒業まで続いたし、下級生からも加わった子が居るけど、優先順位は同級生が上、色々と助け合ったり、協力したり、時にはクラスを動かしたりしたものさ。強い絆で結ばれたよ」「Yさんの“綽名”は?」「“さん”付けはやめて!Yって呼び捨てでいいよ。みんなそう言ってるし。肩書は“参謀長”。故に僕等は“参謀本部”って呼ばれてた。堅苦しいのは苦手なんだけど、みんながそう呼んでたから」「妙に“似合う”のが面白い!でも、作戦立てるだけじゃ無かったでしょう?“陣頭指揮”をしてたんじゃない?」「それは、間違ってないよ!“指揮を執る者自らが先陣を切って動く”のがモットーだったし、常に最前線で戦って来たからね」「上級生に睨まれたりしなかったの?」「新設校だったから、僕等が2期生。1期生とは仲も良かったし、煩いOBやOGも居ないから、自由な風は吹いてたよ。その代わり、僕等が“礎”を形作る訳だったから、“悪いモノは残せない”って言うプレッシャーは常にあったね!」「ふーん、“自分達が歩いた道”が“伝統・伝説”になるのか!Yも沢山の“伝説”を残して来たんじゃない?」「誇れるモノは、何も残して来なかったよ。ただ、後継ぎは決めて託して来た。校章と共にね」「へー、珍しいね。ボタンじゃなくて校章かぁ。でも、受け取った子は大変だったろうね!Yの後だもの。“偉大なる背中”を追わなきゃならないし、自らの責任も重かったと思う」「彼女には3人の“ブレイン”が居た。継がせたのは上田加奈って女の子だよ。遠藤、水野、加藤の3女傑が付いてたから、鉄壁だったはずだよ」「えー、Y後継者が女の子?!それは、それで凄くない?」「適材適所で決めたから、男女は関係無し!」「Yらしい決断だけど、良く受けたものだわ!多分、育てたんでしょう?」「“停学”を喰らっても、自力で這い上がって来た“猛者”だから、下手な男より決断力と指揮能力・指導力はあった。学校の成績が全てじゃないよ。“人を心で見られるか?”その1点でいい。彼女達にはそれが見えていたんだ!」「Yの基本思考だよね。“力ではなく腕の確かさ”を見てる。足りなければ、育てるし指導を依頼する。1人1人を大切に見てくれてる。あたしも救われた1人だね!」そう言ってみーちゃんが笑った。2杯目のアールグレイを注ぎつつ「ところで、バレンタインとかはどうだったの?」と突っ込んで来る。「あれ程、悲惨な事は無いよ!“もらえるヤツ”と“もらえないヤツ”に、完全に色分けされちゃうんだから。男子にとっては“威信”に関わるし、惨めさを噛みしめる日になるから、気分の良い日では無いよ!」「Yは“当確”でしょう?」「最低限5個は手に出来たからまだいい方さ。でも、“自分がもらえた事”を誇示する様な真似だけはしなかったよ。クラスの中の空気が重いのなんの・・・」「あたしもそうだったな。短大卒業までずっと“もらう側”だもの。皮肉な事に、誕生日でもあるし・・・」「えっ!みーちゃん2月14日生まれ?」彼女は黙して頷いた。「誕生日なのに、お父さんにチョコあげるのよ!割に合わないの。あたし、背が高いから、必ずターゲットにされたし、男の子にあげた事も無いのよ!周囲は女子しか居ないし、先生にあげても何のメリットも無かったし!」「それは、別の意味で“悲劇”だよね。こっちは、もらえるだけありがたいから、袋を下げて持ち帰ってから“メッセージカード”のチェックが大変だったな。“読んでませんでした”なんて口が裂けても言えないからね。みーちゃん、もしかしてだけど、男性と1対1になるの初めて?」「うん、会社に入ってからも、男性と付き合った事も無いの。女子学園で、ずっとエスカレーター方式だったから、“純粋培養”みたいなモノなの。でも、神崎さんが“Yと話してみたら?”って言いだして、それを聞いてた恭ちゃんとちーちゃんが“怖がらずに突撃しちゃえ!”って無理矢理にセッティグしてくれて・・・、今日は初めて尽くしなの!」みーちゃんがモジモジしながら言った。「Y、そこでお願いしてもいい?」「なにを?」と返すと、みーちゃんは部屋中カーテンを閉め切って「あたしを“大人”にして下さい!初めてするの!でも、何をするのか?は知ってるから・・・、まず、膝に座らせて」と言う。多分、心臓はバクバクと震えているだろう。みーちゃんは、そっと僕の膝に座り込んで、背中に手を回した。やはり身体がわずかに震えている。恭子よりも華奢で、折れそうな細い身体は軽かった。そっとキスをすると「脱がせて」と言う。「怖かったら止めるから、ゆっくり脱がすよ」と言ってブラウスのボタンを外す。やがて、パステルカラーのブラが見えて来た。「ごめんね。ちっちゃい胸で」みーちゃんは自分でホックを外して胸元に手を導いた。大きさは小さめだが、身体全体からすれば、バランスの良いサイズだろうか。そっと、触れて揉み上げてやり、乳首も摘まんで刺激を与えた。「下もお願い」みーちゃんは脚を広げて、ロングスカートの裾をめくった。太腿の奥は湿り気を帯びていた。パンティを触ると、既に濡れている。「早く脱がせて。溢れちゃう」みーちゃんは身体をくねらせてパンティを剥ぎ取るのに協力しつつ、ロングスカートも自ら剥ぎ取った。真っ赤になりながらも「みーの穴に指を下さい」とハッキリ言った。背が高い彼女が膝に乗っているので、僕の顔の当たりにちょうど胸が来る。胸に吸い付きつつ、指を使ってやる。みーちゃんはピクピクと身体を激しく痙攣させながらも「もう1本下さい」とねだった。ホールに2本の指をそっと入れて、前後に左右に動かすと「いい・・・、気持ちいい・・・、何か出そう!出ちゃう!」と声を上げた。腕に雫が伝って来る。まもなく大量の愛液が噴出した。みーちゃんは呆然としていた。「ごめんなさい。いっぱい出ちゃった。服も汚しちゃったね」と手で顔を覆った。僕はみーちゃんの手をどけると唇に吸い付いた。舌を絡ませると、みーちゃんも積極的に絡ませて来た。「みーちゃん、するよ。その前にゴム付けるから」と言うと「ダメ。みんなと同じ様にそのままでいいの!」と制止される。ベッドへ抱き上げて連れて行くと、みーちゃんは脚を広げて「早くちょうだい」と言う。ゆっくりと息子を潜らせると、みーちゃんは「暖かい。早く突いて下さい」とねだった。結局、大量の体液は、余すことなくみーちゃんの体内に注ぎ込まれて行った。

夕方、午後6時頃だろうか、電話が鳴りだした。みーちゃんがパンティ1枚だけの姿で出た。「うん、今夜は“お泊り”でいいから」と言っているのが微かに聞こえた。早紀に続いて2度目の“お持ち帰り”になるらしい。あれから、もう1試合をして2人で抱き合って寝ていたのだが、みーちゃんは心底、飢えていた様で2度目は激しく腰を使って来た。電話を切ると「Y、シャワー浴びて出掛けようよ!夕飯の食材を買いに行かなきゃ!」と言ってタオルを手渡して来た。ユニットバスに2人は、少々狭いがお互いにボディソープやシャンプーを付けて洗いっこするのは愉しいものだった。みーちゃんの緊張もほぐれて、キャーキャーとはしゃいでいる。着替えを済ませると、RX-7に乗り込んで市内のスーパーへ向かうはずだったが、一気に海岸線へ出た。適当な場所へ車を停めると、砂浜へ降りて行く。桜島は頂に雲を纏っていた。僕とみーちゃんは、手を繋いで砂浜を歩いた。「Y,ありがとー!やっと大人になれたよ!初めての人が、あなたで良かった。優しくしてくれたから、痛くも無かったし、あたしのしたい様にさせてくれた。これで、あたしも晴れて仲間入りだよね?」「恭子のヤツ、どこまで“側室”を増やすつもりなんだろう?全て、自分に跳ね返るって分かってるんだろうか?」「分かってるって!みんなが平等である事が、恭ちゃんとちーの狙いだもの。あたしもYを帰さない1人になれたんだから、これ以上は望まない。でも、たまには抱いて欲しいな。疲れてる時は、あたしに甘えに来てよ!」「みーちゃんを泣かせたら、それこそ一大事になる!顔に青アザや爪痕が残るハメになるから、それだけは回避しなくちゃ!でも、本当に疲れ果てたら、みーちゃんに助けてもらうよ。“救急外来”、いや“心のオアシス”になって欲しい。僕だって万能では無いさ。お姉さんにケアしてもらいたい時もあるからね!」「うん、必ず見てるから、危ない時には止めに行くから!決して無理はしないで!あなたが倒れる姿は見たく無いもの」みーちゃんはそう言うと背後から抱き着いて来た。「Y,お姉さんの言う事は守りなさい!あたしは、あなたの“主治医”になる!辛い時、悲しい時は治療を受けに来なさい!」「みーちゃん、ありがとう!必ず治療を受けに行くよ」「Y,これ!」肩越しに車のキーが差し出された。「思い切り飛ばしてごらん!みんな、吹き飛ばしちゃえ!」みーちゃんは、RX−7を操れと言う。「分かった。心ゆくまで走らせるとするか!」僕等は車に戻ると、加治木ICを目指して車を走らせた。ロータリーエンジンは心地よく吹け上がり、日常を忘れさせるのに充分な快感をもたらした。「こうして、助手席に座って駆け抜けるのが、あたしの夢だったの!Y,気持ちいいよね?」「ああ、別の次元に飛んでくみたいだ!みーちゃん、何処へ行く?」「あたしの気分次第!それもいいよね?」「よーし!捕まらない範囲で飛ばすよ!」みーちゃんと僕は北へ向かった。夕闇が迫る中、RX―7は高速道路を矢の様に駆け抜けて行った。

一夜明けて日曜日。みーちゃんのアパートの前に、ちーちゃんの真っ赤な910型ブルーバードが横付けされた。さて、ちーちゃんの愛車は“スタリオン”だったはずだが?何故、“ブルーバード”に代わったのか?少し説明を加えなくてならないだろう。6月の半ばに、ちーちゃんのスタリオンは事故に合ってしまったのだ。それも、かなり悲劇的なモノで、ちーちゃんが無傷だったのが唯一の救いだった。その日の夕方、国分市内のスーパーに買い出しに行ったちーちゃんは、駐車スペースにスタリオンを停めて、食品を買い集めていた。そこへ、パトカーに追われたベンツが暴走して来たのだ!“シートベルト非着用”と“一旦停止不履行”の容疑で追われていたのは、国分市議会議員の奥さん!いい歳の“オバさん”であった。無謀にもパトカーを振り切ろうとして、蛇行運転をしたのが間違いの元!“オバさん”のベンツは、ちーちゃんのスタリオンの右側前に激突して跳ね返り、更に3台を巻き添えにして停まった!大人しく捕まっていれば、こんな大事に至る事なく済んだのに、“悪あがき女製作所”は、道交法違反も加わりその場で逮捕されたのだ!旦那の面目だけで無く、ちーちゃんのスタリオンまでスクラップにして!突然の出来事にちーちゃんは、あ然とするしか無かったが、命に別状が無かったのは幸いだった。完全なる100対0の事故なので、特段のお咎めも無く市議会議員からの謝罪も受けたが、車が無いと生活に困るので、ちーちゃんは直ぐに車を探し始めた。だが、ここでちーちゃんはある事に気付いた。“後部席の広い車にしなくては、僕と自由に遊べない!”つまりは、車内で“したくなっても狭いと不便だ!”と閃いたのである。僕にとっては、悲劇の始まりだが、ちーちゃんにすれば“必然性”がある事だった。広い後部席とFRの駆動系。後は、お財布に優しい価格である事。そうした条件付きで探した結果が、910型ブルーバードに辿り着いた訳であった。赤い車体色に広い室内空間。走行距離も少なく、極上の状態のブルがちーちゃんの元へ届いたのが、3日前だった。「車両感覚が掴み易くて運転していて、安心感があるのよね!」ちーちゃんは、ご満悦だったが「ドアミラーじゃ無いのは仕方ないわよね!」と唯一の不満点を言った。これは、国分工場の規則で、唯一理不尽だと思ったのが“ドアミラー禁止令”だった。新車の殆どがドアミラー装着なのに、ドアミラーは“不正改造車”と言う不可思議な“認識”がまかり通っていたのは、時代遅れも甚だしい事ではあったが、守らないと構内及び寮に停められないのだ!若手は長年の間、不満タラタラだったが、僕が赴任した頃に、やっと“新車はこの限りでは無い”との一文が追加されたそうだ。後付けはダメだが、新車ならOKなのだ!空前の新車ブームが起こったのは、言うまでもない!寮でも新車のカタログが散乱しているのが、散見されたが何故なのか?理解に苦しむ日々があったのは確かだったが、後で聞いて腰を抜かしそうになったのは、事実である。

さて、みーちゃんが別れ際に「ちーは飢えてるはずだから、くれぐれも油断しないで!」と言ってキスを繰り返しながら心配してくれた。「うん、余り無理はしないさ。みーちゃん、ありがとう」僕はそっと抱き着いてから、みーちゃんの部屋を出た。「Y,おはよー!ほら、行くよ!」ちーちゃんがキーを投げて寄越す。運転席に座ると、奇妙な感覚に戸惑う。「城山公園へ行ってよ!まだ、人の気配は無いからさ!」助手席に鎮座したちーちゃんは、平然と言った。後ろを見ると後部席の足元にエアマットが敷かれており、座席とフラットに繋がっているではないか!しかも、タオルケットがさり気なく敷いてある!僕の背筋は瞬時に凍った。窓には除き見防止のフィルムが貼られており、何処でもその気になれば、戦闘を開始出来る体制は、整えられているのだ。恐る恐るブルを発進させると、ちーちゃんは身体をくねらせて、巧みにパンティを脱いだ。「Y!あげるよ!ほらほら、もう湿ってるの!」僕の膝にちーちゃんのパンティが載せられた。淡いブルーのパンティがヤケにリアルに見える。ちーちゃんは、僕の下半身に手を持って行くと刺激を与え始めた。既に息は荒くなりつつあった。「ねえ、早くしようよ!昨日、失敗してから、我慢出来ないのよ!」ちーちゃんは、心身共に飢えていたのだ!城山公園へ車を突っ込んで、奥の陰へ停めると、ちーちゃんは直ぐに襲いかかって来た。激しく身体を震わせて、腰を使って甲高い声を出して喘ぎまくった。最後は一滴も余さずに体液を吸い尽くした。「Y,恭子だって、ここまではしてくれないでしょう?」息子に舌を這わせつつ、ちーちゃんが言った。久々に激しい戦いが始まったのだった。「ちーちゃん、お腹空きません?エネルギーの源がアウトじゃあ、動けませんよ!」流石に僕が泣きを入れると、「そうね。食べに行こうか?」と言って身支度を整えた。デニムのミニスカートに、上はノースリーブだが、首元はV字にカットされていて、豊満な乳房とブラが覗けば見える。ファミレスに入ると、差し向かいではなく隣に座ってピッタリと寄り添って来る。「久々だから、逃さないわよ!」と言うちーちゃんは、隙を見つけては胸や太腿に手を持って行く。触られたくてたまらないらしいのだが、余りに露骨な方向に行かない様に仕向けるのには大変だった。“ちーちゃんと呼んで事件”以来なので、余程の事が無い限り満足度を上げるのは容易ではなかろう。朝からガッツリと胃を満たすと、「さーて、次は何処で抱かれようかな?」ちーちゃんは鼻歌混じりに思案を始める。短期決戦!しかも、午前中が勝負!と僕は計算を弾いた。ちーちゃんの底無し沼に沈む前に、寮に帰らなくては明日が大変だった。「余り、遠くへは行きたく無いのよね。自由に遊べるとしたら、空港周辺か?」「今からなら、ゆっくり出れば空きが見つかりやすいと思いますが?」「ふむ、そうするかの?どの道、水遊びもしたいのよね!水着あるし!」ちーちゃんは、何処までもおおらかだった。おNEWの水着を着た姿から、一戦交えるなんて、ちーちゃんにしか思い浮かばないだろう!「よし、行くよ!水遊びにイザ出陣じゃ!」意気込んでファミレスを後にした僕等は、鹿児島空港周辺に向けて山道を登って行った。“誰にも見咎められない部屋”を探しあてると、ちーちゃんはまず水着姿になり、バスムームでシャワーを掛け合って遊びまくった。はたから見れば“馬鹿騒ぎ”にしか見えないが、ちーちゃんにすれば、無上の喜び以外の何物でも無い!馬鹿騒ぎに飽きると、ベッドでの試合、その後は、少し抱き合って眠った。僕等が“乱痴気騒ぎ”に興じている頃、鹿児島空港には、第4次隊60名が降り立っていた。梅雨明けは、直ぐそこに迫っていた。

7月が始まった。着任から3ヶ月。通常なら、折り返し地点に差し掛かる訳だが、僕としてはどっちでもいい事に過ぎなかった。今日は、第4次隊60名が着任するはずだが、彼等にかまけて居る暇はないのだ!何より、“結果を残さなくてはならない”1ヶ月だからである。長い朝礼を切り抜けて、パート朝礼を終えたところで、やっと“作戦会議”は始まった。徳田、田尾、神崎先輩、恭子、ちーちゃんに僕が出荷室の隅に集まった。「今月から、炉から後は個々の判断で動く事になるけど、“意思疎通と統一”を図らなくてはなりません!特に出荷は、臨機応変に動いてもらわなくては、月末集中で“窒息”しかねない!徳さん、田尾、事前に“生産計上”出来そうなロットは、どのくらいあります?」「細かいヤツが20ばかりはあるが、それをどうするつもりだ?」徳さんが首を傾げる。「事前に使用高倉庫へ入れてしまいましょう!出荷が混乱する要因の1つが、営業指示を待ってからの動きに起因してるのは明らかです。予め入れてあれば、経管の仕事に出来ますし、慌てずに済む。まず、これで余計な神経を擦り減らす事から解放されるし、ゆとりも生まれ経費も削減出来る!」「ふむ、“アレどこだ?”って探し回る手前を省くか!そうすりゃあ、目の前を追う事に専念出来るか?」田尾が唸る。「勿論、使用高に入れた事は、記録しとかなきゃならないが、空いた時間に手間を惜しまずにやらなきゃ、当日回しに対処出来なくなるぜ!」「確かに、月の後半は、連日“その日回しの連続”になる!前半戦をどう乗り切るか?思案する価値はありそうだな!」徳さんは、早速計算を始めたらしい。「次は、検査工程の方ですが、神崎先輩、指揮はお任せしますよ!最終的な責任は僕が負いますが、スピーディーに進めないと“詰まってしまう”のは回避出来そうにありませんからね!作戦は考えられてますよね?」「ええ!今月の前半で目途を付けるわ!縦型を止めて“横型”つまりは、“横断型”へ編成替えするわ!特定個人にしか頼れない今までのやり方から、複数人でカバーする方式への転換で、スピードアップを図るの!既に、宮崎さんや千絵に指示は出してあるの。日に日に良くなっていく予定よ!」神崎先輩は自信を覗かせた。「目論見では、検査時間を3分の1に短縮させる予定よ!」「先月比30%の上乗せだから、苦しいのは確かだけど、乗り切って見せるわ!」恭子とちーちゃんも続いて言う。「“質”を保ちながらのスピードアップですから、二律相反する事をやらなきゃなりませんが、前半で答えを出して下さい。特に最終週は、真価が問われる場面。出荷を慌てさせるまで、追い込んでやって下さいよ!」僕はチラッと田尾を見た。「どれだけ慌てさせられるか?愉しみに待っててやるさ!」田尾は平然と言ってのけたが、実際は“息つく間も無い”程に慌てふためく事になるとは、予想すらしていなかった。「返しは、従来通りに馬力をかけて動かします!今は、何も指示をしてませんが、一度旗を振れば“ブルドーザー”の如き勢いで処理能力を上げてご覧に入れましょう!」と言ったが「今も、既にトレーが山になってるけど、本当に“何も指示してない”の?」と神崎先輩が唖然として言う。“おばちゃん達”は、黙々とトレーを検査室へ搬入しているからだ。「ウチの“おばちゃん達”を甘く見ない方がいいですよ!僕が居なくても“何をすべきか?”は叩き込んでありますからね。26騎の“騎馬軍団”の底力を今月も“嫌と言う程”に見せ付けてやりますよ!下山田・橋元のご両名の顎が外れるのは、時間の問題ですよ!」7月の生産は、6月が終了すると同時にスタートしていた。整列工程は4直3交代で、既にフル回転していたし、塗布工程も日曜日の夜から、事前にスタートを切っている。その結果として、今朝、返しの作業室には、溢れんばかりの製品が積まれているのだ!塗布工程の今村さんが「これなら切れる事は無いだろう!」と言っていたばかりなのだが、僕に言わせれば「甘いな!」の一言だった。26騎の“騎馬軍団”の力を持ってすれば、2日あれば煽れるはずなのだ!悠然と構えている場合では無いのである。「じゃあ、Yが指揮を執ればどうなるのよ?」恭子が恐る恐る聞いて来る。「水曜日には、“おばちゃん達”の手が止まるでしょうよ!前を煽りまくってもらわなくては、今月の数量はこなせません!先へ先へと進むだけですよ!」薄笑いを浮かべる僕の表情を見て「空恐ろしい現実が待ってるのね!」ちーちゃんが青ざめて言った。「ええ、整列と塗布には“死んでも”間に合わせてもらいます!」僕はそう宣言した。「だとすると、呑気に構えてる場合じゃねぇだろうが!Yが言うからには、必ずやってのける!徳さん、神崎先輩、急いでかかりますぜ!」「おうさ!」「みんな、行くわよ!」それぞれに各自が持ち場へ散った。作戦会議は、自然散会になった。僕は、作業室へ戻ると悠然と地板の山を見つめた。もう、4分の1はトレーに返されて、検査室へ送られていた。「さて、どう料理するかな?」と呟くと「そろそろ、指示をだしてけろ!」と西田・国吉のご両人が言って来る。「Bシフト、金・銀優先、付随してキャップも!」と言うと25名が即座に体制を変えた。「行くよ!」の号令の下、“騎馬軍団”は“本気”を出し始めた。猛然と敵を追撃するかの様に、トレーの山が積み上がって行く!「明日には、塗布工程に殴り込むわよ!」国吉さんが言うと更にスピードと回転が上がった。“無敵の騎馬軍団”は一段と敵を追い込んで行く。最早、誰にも止められない!

まずまずのスタートを切って、寮に戻ると“金剛力士”の如く田中さんが仁王立ちして、待ち構えていた。「済まんが、付き合ってもらうぞ!鎌倉が戻り次第、作戦会議だ!」「今度は何です?」と聞くと「10名余計に派遣されて来たんだが、第1次隊・2次隊から“早期帰還”を要請されたヤツらと交代させるんだよ!1ヶ月の猶予期間で“置き換え”は可能か?」「仕事の内容にもよりますが、かなり厳しい注文ですよ!第1次隊・2次隊は、各職場・事業部の中核を担ってます!おいそれとは、“置き換え”が進むとは思えませんね!」「だがな、O工場としては、切実な現状に直面しているらしい。赤羽を筆頭に9名の設計・総務の人員を帰還させねば、開発は泡と消えかねない!」田中さんの説明によれば、3機種が同時開発されている事、ボディの金属製からプラスチックとの“ハイブリッド製”への転換、下位機種2機も同じコンポーネンツを使い、機能を絞る戦略などを聞いた。第4次隊が持参した図面を見ても、意欲作で一気呵成に追い付く算段らしい事は容易に推察が付いた。「カラーリングまで変更するとは、これじゃあ、設計と資材の連中が欲しい訳だよ!」途中から参入した鎌倉も唸るしか無かった。「それと、もう1つ、有賀・西沢・五味・滝沢の4人が再派遣されて来た。受け入れ先に困ってる!」田中さんも腕組みをしてうな垂れた。「あの、阿婆擦れ4人組か!女性じゃあ交代にも残業にも“制限”がある。“緑のスッポン”程、頭に切れがある訳でも無い。“遊び駒”を押し付けられてもどうしようも無いぞ!」鎌倉も思案に窮した。「こっちのニーズに見合わない人選だが、O工場に置いといても然したる戦力にはならない。総務筋、電子部品関係は、厳しくて足手纏いにしかならない。自動車部品か機械工具、原材料に頼み込んで、引き取ってもらう以外に無いだろう!」僕が言うと「やはり、その筋だろうな・・・」と2人も同意した。「よし、この4人は俺が当たりを付けよう!お前たちは、赤羽達の“帰還”へ向けての手助けを進めてくれ!」と田中さんが言う。「容易じゃありませんが、やらなきゃならないですな!」「1ヶ月で何処まで追い付けるか?やってみますか?」僕と鎌倉も腹を決めた。部屋へ引き上げると、早速赤羽がワープロを借りに来た。「引継ぎ文書をタイプしたいんだよ!しはらく貸してくれ!」と言う。「文書だけで引継げるか?」「多分、無理だ!だが、参考にはなる!限られた時間で引継ぐんだ。手は広く打つに限る!」赤羽は、そう言ってワープロを持って行った。「アイツ、帰っても地獄を見る事になるのに、よく平然と言えるよな」鎌倉は前途を案じていた。「俺達は、“極秘作戦”を展開してる最中だ。向こうが、もたついてくれる事を祈りつつ、足元を固めようや!」「それ、それ!俺、今度の電気設備の点検の責任者に抜擢されちまったよ!」鎌倉が頭を掻いた。「こっちは、後工程の“総司令”に任命されたよ!もう、引き返すのは困難だろう!」「お互いにVIPに遇されたか!それは一先ず安心だな!」僕等はニヤリと笑った。折り返しの月を迎えて、仕事も私用も益々重要性を増して来た。周囲を見ている余裕は余り無い。「さて、やらなきゃならない事が増えちまったな」足元にも周囲にも難題が転がっている7月が始動した。

life 人生雑記帳 - 67

2019年11月26日 10時27分41秒 | 日記
日曜日の夕方、クタクタになって寮に引き上げると、鎌倉が精気の無い虚ろな顔で談話室に椅子に座り込んでいた。「よお!お疲れさん!」「Y、意外に元気じゃないか。俺は“女の執念”に潰されたぜ・・・」「新谷さん、そんなに激しかったのか?」「いや、岩元さんも加わって、3人で缶詰さね。“とっかえひっかえ”で攻撃されてりゃ、休んでる暇もありゃしない」「おいおい、それでずっと缶詰か?新谷さんと岩元さんを“両手に花”状態で?」「そう・・・、ずっと一緒に過ごしたよ。食料は買い溜めされてるし、岩元さんは“お泊り”の支度万全だし、どこに逃げ道がある?」鎌倉はゲンナリとして言った。僕はある意味“救われた”部類だろう。永田ちゃんも千絵も“生理”が来てしまいNGになったからだ。「血まみれでもするわよ!」と2人共に意気込んだのだが「ヒットしないよ!」の一言で撃沈出来たのは大きかった。早紀や恭子との連戦で疲れていただけに、“休養日”が取れたのは幸い以外の何物でも無かった。ただ、“チラ見せ”の応酬になったのは、致し方無かった。永田ちゃんも千絵も、下着を“これでもか!”と言うくらいに見せ付けるのだ!勝負は“引き分け”としたが、永田ちゃんの方が、セクシーさでやや勝っていたと思う。「Yはどうだった?」「“生理”に救われたよ。こっちもコンビだったが、2人共にNGになっちまった。偶然とは言え、2人共に張り合うから“火花バチバチ”さ!」「運に恵まれたか。たまには、そう言う事もありだろうな。金曜日から連戦だったんだろう?“休養日”も必要だな!」「鎌倉、ここに居る限りは逃げられん。他の連中からすれば“夢の様な生活”だぜ!それだけは忘れるな!」「まあな、俺もYも余り嘆いたらバチが当たるな。最終目標は、“帰還せず残留”なんだから、お互いに密かに励むとしよう!バレたら“総スカン”を喰らっちまう!俺達だけの“秘密”にしなきゃならんな!」「そう言う事だぜ!O工場の言いなりになんかなるものか!“先手必勝”これしかあるまい。でなきゃ嫌でも元の仕事に戻されて終わりさ。ここなら、国分なら実力さえあれば、上を目指せる!そのつもりで、“職務”に精励しなきゃな!」「休日の“職務”でもか?」「そっちは別だろう?とにかく、水面下で進めるしか無いんだ。僕等、以外は“全員ダマして”かからなきゃならん!極秘裏に進めようぜ!」「了解だ。Y,カップ麺、持ってるか?」「ああ、あるよ。だが、社食に行く方がバランスはいい。腹が減ってはなんとやらだ。付き合うぜ!」「じゃあ、付き合ってくれ!食べないとダメだよ!体力が維持出来ない!」ボヤく鎌倉をなだめつつ、僕等は社食へ向かった。体力勝負なら食べて置くのは必須項目だった!

月曜日、いよいよ、6月も最終週に突入した。“安さん”の言葉通り、返しの作業室には満杯の製品が鎮座しており、一部は炉の前にまで溢れていた。「やってくれるねー。だが、これくらいで引き下がる僕達ではないぞ!」その日はBシフトを組んでの対処を選んだ。Aシフト、Bシフト、Cシフトの順に作業の振り分けを変えるのだ。AからCへと配置を変化させる事で“飛び込み”が入っても、揺るがない体制を、“おばちゃん達”みんなと考えて練り上げた僕等の作戦だった。“おばちゃん達”にも考えてもらう事で、責任と自覚を促しつつ、流れを維持して行く。経験値がある分、“おばちゃん達”も何処を押さえればいいか?は分かっている。知っている人に聞いて“策”を練る・組み上げるのが、一番早いし落ちも出ない。結果として作戦は、見事に当たりと出て、翌日には炉から出る製品に追いつく寸前まで追い上げた。「Y,手加減しろよ!立錐の余地も無いんだぜ!検査室がパンク寸前だ!」田尾が悲鳴を上げに来るが、意に介するつもりは更々無い!返しの作業室にもトレーの山を築いて対抗した。「何処まで煽るつもりだ?」「来月の“貯金”を作る手前までさ。そうしないと、ロケットスタートは無理だろう?」と返すと「GEがあるからな。厄介なヤツから片付けなけりゃ、来月末はもっとキツくなるだろうな?」「だったら、“在来品種”を煽る理由にはなるだろう?」「そりゃそうだが、手加減をしてくれよ!」「いや、そのつもりは更々無い!明日の午前中には、“貯金”も含めて勢揃いさせるさ!」「マジかよ!こんな馬力で押されたら、たまらねぇ!検査の段取りを取り直して来なきゃならねぇじゃんか!」田尾は不満たらたらだったが、神崎先輩との調整に入った。驚異的とも言うべき追い上げの成果は、当月の出荷にプラスをもたらすのに充分な量があった。

そして、恭子が密かに危惧していた事は、木曜日に現実のモノとなった。明日の予定も目途が付き、次月の頭も予定が確定し始めた午後2時前、「Y、ちょっと顔を貸せ!神崎先輩と徳永さんが、一戦始めやがった!岩崎が“呼んで来い!”って言ってる!」田尾が狼狽えて言いに来た。「宮崎さんの髪の色か?とうとう、火が付いたな!」僕は田尾を追って検査室へ向かった。ただ、その時、帰り支度を始めていた“おばちゃん達”も顔を見合わせて頷くと、後を追って来たのには気づかなかった。検査室では、激しいやり取りが戦わされていた。「“外聞が悪いから染め直せ?!”と言うのには納得できません!彼女が何をしたと言うのですか?髪を染めている女性は、他にも山の様に居るじゃないですか!何が違うと言うんです?!」神崎先輩は、引き下がらずに喰らい付いていた。「だから、色合いがマズイのだ。違う色なら何の問題も無いんだが・・・、ともかく変えてはもらえんか?」徳永さんも気おされ気味だが、責任者である以上、引き下がれないので、何とか粘ろうと試みる。「それならば、あたしが銀色に染めたらどうします?色合い云々を言われるなら、そうしますが、どうされますか?!」徳永さんの目が泳いだ。助けを求めるかのように、僕と視線を合わせた。「Y、お前はどう思う?常識の範疇で答えてくれ!」救命胴衣を期待した徳永さんだったが、残念ながら溺れるハメになった。「僕個人の意見としては、“何がいけないのですか?”と改めて問いたい気分ですが?派手な茶色の髪をした女性社員は、そこかしこに闊歩してます。“外聞が悪い”とおっしゃいましたが、誰が言ってるんです?それを“蹴散らして来る”のが責任者の務めではありませんか?茶髪の女性社員も“染め直す必要がある”との“規則”でも出来ましたか?僕は一切知りませんよ。宮崎さんがミスをしましたか?事業部に損失を与えましたか?何も無いなら、何故“部下を護ろうとしない”のです?彼女の仕事ぶりや検査の正確さは、折り紙つきです!もし、彼女が居なくなってしまったら、計り知れない損失になりますよ!髪の色合いが何だと言うのです?彼女そのものを見て、総合的に判断してほしいですね!これから、益々増産に向かうと言うのに、戦意を削ぐような物言いはお止め下さい。気持ち良く仕事をしたいですし、些細な事でとやかく言う日ですか?今日は?明日の午前中に最大の山場が待っていると言うのに、責任者御自ら“予定を落としても構わない”と言わんばかりの物言いはお控え下さい。本当に“落としますよ”!出荷を止めればいいんですから!重箱の隅を突く様な真似だけはやめて下さい!人は髪の色ではありません!仕事ぶりを、心を見て判断したらどうです?!」「Y、お前までそう言うのか?!」「ええ、言いますよ!理不尽な要求に対しては、断固反対ですから!」徳永さんは、言葉に詰まった。早紀さんや実里ちゃんも来ている。品証を代表して降りて来たのだろう。神崎先輩は「彼の意見に賛成します!今は1つならなければ、この難局を乗り切れません!」と目を据えて言った。その時、「徳永、お前の負けだ!ここは手を引け!」と“安さん”が出てきて静かに言った。「Y、お前も引け!後ろに控えている“武田の騎馬軍団”を大人しくさせろ!」と言う。振り返ると、化粧をバッチリ決めた“おばちゃん達”が睨んでいた。僕は慌てて「心配いりませんから、上がって下さい」と言って解散を命じた。だが、“おばちゃん達”は結果を見定めようとして引き上げない。「徳永!“木を見て森を見ない”では、彼女達は納得させられんぞ!お前が勇猛で果敢な薩摩隼人だと、みんなが知っている。だが、丸腰の上に素手で“武田の騎馬軍団”を止められるか?憎たらしい事に、今月も“武田の騎馬軍団”が敵を蹴散らしてくれたから、予定を上回る成果が出せる!しかも、“貯金”付きだぞ!信玄を相手にするなら、軍勢を整えて、陣を張り、城を整備して全力で迎え撃たねば勝てはせん!ここは、最早信玄の領国。やおら喧嘩を売っても叩き帰されるのがオチだ。Y!言ったことに対して責任は取れるな?!貴様が指揮する“武田の騎馬軍団”だ。総大将としての責任は分かっおるだろうな?!」「結果が出なければ、首を差し出す覚悟はございます」僕は、神妙に答えた。「うむ!よく言った小僧!その言葉、忘れるでないぞ!徳永!越後から謙信を呼んで来い!信玄めを黙らせるには、“越後の龍”の手助けがいる。“人は髪の色では推し量れん。仕事ぶりを、心を見て判断してやれ!”だそうだ!ゴチャゴチャ言う輩は、お前が蹴散らして来い!Y、後の始末は任せる!よく話を聞いてやれ!結果は俺に報告に来るがいい!期待しておる!」と言って“安さん”は徳永さんを連れて2階へ上がって行った。みんなから、一斉に安堵のため息が漏れる。そんな中、「Y、“全責任を追え!”って言われたも同然よ!アンタ、どうするつもりよ!」恭子が腕を掴んで身体を揺さぶる。「いや、そうでも無さそうだよ。“後ろは任せた!俺達は前を煽り手を打つ”とも取れる。これで、少しはやり易くなる。品証も協力してもらえますよね?」僕は、早紀さんや実里ちゃんに声をかけた。「勿論です!Y先輩の手腕に期待してますわよ!」とニッコリ笑う。「でも、宮崎ちゃんはどうするのよ?」神崎先輩が肝心な点を言う。宮崎さんは、半泣き状態だ。パートさん達に支えられてはいるが、ショックは隠せないでいた。「何もする必要がありませんから、今まで通りにしてればいいんですよ。変に髪を染め直したりしないで下さいね!オシャレをして何が悪いんだ!女の子の権利を剥奪することはさせませんよ!」「けど、“安さん”にどう報告するんだよ?あの人の事だ、余程の事が無い限り納得しないぜ!」田尾も懸念を示した。「手はある!その言葉の内を読み解ける人なら、分かるはずさ!ダメだったらそれまでだけどね」「そこまでして、何を狙ってるのよ?」恭子も心配そうだ。「返し・検査・出荷を一体で運用するのさ。既に素地は今月に作ってあるから、更に連携を強化したいだけさ。後ろが盤石なら、問題の目は前に向く。そして、前とも連携できれば、増産しても耐えられるだけの体制が整う。“安さん”にしても、それが分からないはず無いだろうに!」「それで、徳永さんをわざと溺れさせたの?」神崎先輩が呆れたように言う。「あの場面でやるのは流石に気が引けたけど、いずれはやらなきゃならなかった事。早まる分には、早く片付けて置きたかったしね!さあ、解散しましょう。遅くまでありがとうございました!」僕は“武田の騎馬軍団”と呼ばれた“おばちゃん達”を引き上げさせた。「ごめんなさい!あたしのせいで、重荷を負わせてしまって・・・」宮崎さんが袖を掴んで泣いていた。「気にしないで。いずれはやろうと決めてた事だし、宮崎さんに責任は無いもの!」僕は、両手を握って泣いている彼女に語り掛けた。「Y先輩、これですよね?」早紀さんが1枚の紙を返しの作業室から持って来てくれる。「“人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり”か」「何だよ?これ?」神崎先輩の読み上げに、田尾が反応した。「“どれだけ城を強固にしても、人の心が離れてしまえば、世の中を収める事は出来ない。熱い情を持って接すれば、強固な城以上に人は国を護ってくれるし、仇を感じる様な振る舞いをすれば、いざと言う時自分を護るどころか裏切られ窮地に立たされる”信玄の言葉ですよ。徳永さんは危うく“仇”を作るところだった。陰で見ていた“安さん”も危ういと感じたから止めたんでしょうよ。これが、読めなければ組織を束ねて行けるはずが無い!」「これが答え?」恭子が言う。「ああ、これから行って来るよ!多分、あの人なら読めるだろうよ!」僕は2階の管理室に“安さん”を訪ねて行った。そして、例の紙を差し出した。しばらく無言で目を落としていた“安さん”は、「小賢しい奴めが!“後ろは固まりつつある。前を煽り改善しろ!”と言うのだな!ふん!いいだろう!やってやろうじゃないか!確かに、結果は明確に出た。これから手を回さなくてはならんのは、下山田と橋元だ!徳永を“仇”にせずに、溺れさせたのも見事だった。あの場面で“遺恨を残す”のは一番マズイ事だ。貴様の心意気に免じて、今回の事は“不問”にしてやろう!来月は、更に数量が増えるし、鍵は前にある!炉は時間を変えられんし、1度入ったら止め様がない!下山田と橋元に踏ん張ってもらわねば、来月は“落ちる”確率が高い!Y、“後ろの仕置き”は任せたぞ!“武田の騎馬軍団”を率いて敵を蹴散らして行け!前は我々で引き受けるし、落武者狩りも引き受けてやる。“戦国最強”の武勇を存分に示せ!徳永!Yが答えを持って来た。読み解いて見るがいい!」“安さん”は紙を徳永さんに手渡した。「Y、見た事も無い景色が浮かんで来たな!もっと、存分に暴れまくれ!あそこを取り仕切れるのは、お前しかおらん!信玄の知略と攻めに期待しているぞ!下がっていい!」徳永さんは首を捻っていたが、“安さん”は一目で看破した。こうして、僕は検査と出荷に対しての権限を手に入れた。実質的に“焼成炉から後ろ全般”の指揮を執る事になったのだ。これにより、一体運用は更に1歩踏み込んで動いて行くのだった。

そして、金曜日。当初の予定を上回る成績で6月は締められた。総括演説で“安さん”は、「危機的な状況を逆転出来たのは大きい!“武田の騎馬軍団”無くして、今日は来なかっただろう!今月のMVPは、文句なくYにくれてやる!来月からは、コイツが後ろの指揮を執る!問題は、整列・塗布の2工程の効率化と安全の担保にかかっている!来週からは、重点を前に移す!総力を挙げてかかれ!」と号令した。終礼後、神崎先輩と恭子が肩を叩いた。「Y、やったね!」「これで、あたし達の思う通りに仕事が出来る!大きな1歩よ!」「いえ、まだまだですよ。やっと入り口に達したばかり。正念場はこれからですよ!」「でもね、ここまで来た事に意味があるの!声さえかき消されて来た過去を思えば、雲泥の差なのよ!やっと“認められた”のよ!宮崎ちゃんの事にしても、下手をすれば制圧されてた!あなたが全てを変えて行くの!歴史的な転換点なのよ!」神崎先輩は感慨深く言う。「岡元の運命も変わったわ!整列から焼成炉へ配置転換になるの。もう、戻る“椅子”すら無くなるわ!Y、これで“姑息な手段”で、蹂躙される事も無くなるの。存分に指揮を執りなさい!あたし達は、信玄公に付いて行くから!」恭子は両腕を掴んで、言い聞かせる様に言った。「まだ、先は長い!落さなくてはならない城は数多ある!甲斐は平定したが、西への出口を開かねば、京への道は開けない!厳しい戦いになるよ!」「例え、倒れても誰かが続くわ!“武田の騎馬軍団”は止められない!真っ先駆けて行きなさい!総大将を見捨てる者は居ないから!これからよ!あたし達の真の力を見せ付けてやりましょう!」神崎先輩が手を差し出す。「急がないと置いていきますよ!」僕は笑って手を握った。2ヶ月にして、僕は“総司令”に据えられた。率いる者達は70名を超えるのだ。望むべくも無い地位に立ったのだが、責任も一気に重くなった。「真の戦はこれからですよ!」僕は、2人と語らいながら、建屋の中へ戻った。

「Y、ちょっと路肩に停めてよ!」恭子が悲鳴を上げた。「どうしたの?ブラのホックでも外れたの?」「うん、冗談抜きでそうなのよ!1つだけサイズの小さいブラがあるのよ!どうも、間違えてして来ちゃったらしいわ」恭子は助手席で身をくねらせて、ブラと格闘していた。「えーい、面倒だから取っちゃえ!」勢い良くブラが後席に投げ出される。「パンティはいいのかい?」野暮な事を聞いて見ると、「下は問題ないの。どうせ、Yにあげるつもりだし!」と意に介す風が無い。白いワンピースは、恭子の体にフィットしたサイズなので、覗かれる心配は無いだろう。「さあ、前進よ!」恭子の指示でスカイラインは、加治木ICを目指す。九州自動車道経由で宮崎自動車道へ乗り入れるためだ。時刻は午後5時半。日はまだ沈まない。「2階の連中も、概ね好意的に受け止めてるわ!早紀の話だと、井端さんなんかは“積年の課題にやっと手が回るのか!”って、ホッとしてるらしいわ。徳永もそうよ!前も後ろも“問題だらけ”の泥沼から抜けられるんだもの!向こうだって内心ホッとしてるんじゃないかな?“安さん”にしても、心中は“してやったり!”で踊り出したいはずよ!これからは、前工程を追い掛ければいいんだし、労力も節約出来るし、目の配り方も変えられるはず!みんなが待ち望んでいた状況が、やっと出来上がったのよ。反発云々は心配する事は無いわよ!」「だとすると、次なるターゲットは橋元さん達だな。下山田さんは引き続き監視対象だろうが、塗布工程の効率化も喫緊の課題になるだろうな。僕等“武田の騎馬軍団”としては、徳田・田尾を“楽にしてやる”方策を考えなきゃならない!それには、“貯金”と“相互乗り入れ”が鍵になる。検査の方は、神崎先輩に一任するが、恭子とちーちゃんも補佐に付いてくれよ!」「了解、検査は“クロス作戦”を展開する予定よ!基本は、Yが返しで取った方法と同じ。“縦割り組織”を“横断型”に転換するの!誰が休んでもカバー出来る体制を整えるわ!それと、宮崎ちゃんからのご要望よ。“明日、付き合って下さい!”だって。千絵も永田ちゃんも、今回は“謹んで進呈します”って譲ってくれたわ!彼女はアパートで1人暮らしだから、あたしと千春が立ち会うけど、いいわね?」「否応無しでしょ?時間は?」「朝からよ!何をしたいか?は宮崎ちゃん次第になるけど、覚悟しときなさい!」「はい、はい!それは、一先ず置いといてだが、今夜は何処まで行くんだ?」「気分次第よ!日はまだ沈んでないもの。ともかく前に行きなさいよ!」恭子は、肩口を叩いて“スピードを上げろ!”と言う。スカイラインは、加速して追越車線を駆け抜けた。結局は、宮崎市内まで駆け抜けて日向灘に出た。一ツ葉道路の路肩に車を停めて、2人揃って海を眺める。「夕日に染まる海も悪くないでしょう?Y、ご苦労様!」恭子は唇を重ねて来た。海風に髪が流されて綺麗だ。「信玄公の“正室”って誰なの?」「“三条の方”。京都の公卿の家から嫁いでるよ」「公卿か・・・、あたしの家そんなに身分が高い訳じゃないけど、いいでしょ?」「何を言うか!“正室”は恭子にしか務まらないよ!それにこんな“甘ちゃん”を手放すつもりも無いよ!」「あなたの前だから、“甘ちゃん”なの!本来の姿は、誰にも知られたくないもの。田尾が“鉄の女”なんて言ってるから、そう演じてるだけよ。本当は、知っての通りなの!」「じゃあ、今日は、何処で甘えるつもりだ?」「折角、こっちに出て来たんだもの、もう少し海を見ていたな。浜辺で座ろうよ」恭子は、無謀にもヒールを履いたまま、土手を降りて行く。2人して砂浜に座り込むと「あたし、もっと早くYに出会いたかった。そうすれば、高校時代を棒に振る事も無かったのかな?って思うの。でも、不思議だよね。今は、何にでも落ち着いて向き合えるし、公私共に充実してる。Yが実質的に“総司令”に座ってくれたのが、何よりも大きいの。これで、思う存分に出来る!“かき消された”時代は終わった。これからも、あたし達の話を聞いてよね!」そう言うと肩にもたれかかる。「治世を執るにしても、“内政”を疎かにはしないよ。みんなが居てこその“改革”だから、これからも意思疎通を取りながら、“外敵”に立ち向かうさ!ただ、無用な戦はしないよ。力で屈服させるのが“一番やってはならない事”なんだ。これからは、話し合いを重ねて行きながら進める。力を使うのは最終手段さ。もう、血を流さずに行けると思うよ!」「そうして。思う通りにやりなさい!後、一山越えれば“全く違う景色”が見えるはずよ!」「そうさ。それを見たいからこそ、ここまで来たんだ。来月が鍵になるな!」「うん!」恭子は腕を絡ませて身を寄せて来る。海辺での静かな時間の後、宮崎市内へ戻り“2人だけの部屋”に行くと、恭子はいつにも増して“甘えて”来た。激しく身体を動かし合って、何度も絶頂に上り詰めては注ぎ込んでやる。その夜は、恭子も僕も心ゆくまで逢瀬を重ね続けた。

明けて、土曜日。宮崎さんの自宅アパートは、国分市の西部にあった。白壁の洒落た作りで、2階の一番東に部屋を借りていた。愛車は緑のRX-7。しかも、MT車と言う拘り様である。これまで、彼女との接点は意外にも少なく、直接会話も数える程しか無かった。ただ、仕事は正確無比で“針の先”すら見落とす事は無く、信頼も高かった。初対面の人が、必ず“ブッ飛ぶ”と言われた髪の色、つまり緑色(ベースは黒髪なので、わずかに緑に見える程度)なのだが、これまで唯一“Noリアクション”だったのが、僕だけだったらしいのだが、彼女にして見れば“異例の事”だったらしく、関心は持っていたとの事だった。しかし、如何せん、共通の接点が少なかったのが響いて、今日まで余り踏み込んでの話も出来ずに居たのだが、宮崎さんからの“リクエスト”を機会に、突っ込んだ話もあるだろう。“お目付け役”は、恭子とちーちゃんが務めてくれるし、出かけるにしても不便の無い様にちーちゃんの愛車ブルーバードが選ばれて居た。予定時刻ピッタリに現地に着くと、宮崎さんは出かける支度をして、部屋から出て来ていた。「Y,ほれ!」ちーちゃんがキーを放り投げる。助手席に宮崎さん、後部座席に恭子とちーちゃん。必然的に“運転しろ!”と言うのだ。問題は、何処へ向かうか?だった。「宮崎ちゃん、何処へ行けばいい?」ちーちゃんが聞くと「鹿児島市内へお願いします。服を見て欲しくて。あたし、背が高いから、サイズが中々無いんです」と言う。確かに、宮崎さんは背が高い。僕が170cmなのに対して、彼女は175cmあるのだ!しかもヒールを履いているので、完全に見上げる格好になる。「Y,行くよ!国道を飛ばして頂戴!」恭子がアゴをシャクる。「いざ、前進!」僕はブルを走らせた。流れに乗って快調に南西を目指す。「あっ、コレ面白そう!Y,カセットテープ流してよ」肩越しにちーちゃんがテープを差し出す。選ばれたのは、“Tokyo bay freeway”、滝とのオリジナル企画作品集だった。スタート曲は「あたしか?」と恭子が笑う、岩崎良美だった。「コイツ、女性アーティストの曲しか聞かないから、勘弁してね!」と断りを入れた。「これ、どう言うコンセプトなんです?」宮崎さんが問う。「首都高速、湾岸線をクルーズするためのテープですよ。CMも入ってますから、驚かないで下さいね」と返すと「物凄く手間暇かけてるんだ。でも、景色にはマッチしてますね」と言う。左に錦江湾と桜島、国道と線路は外輪山の麓ギリギリの場所を通っている。海沿いには間違い無い。「Y,“Night driving music”も、同じくでしょう?“中央フリーウェイ体感テープ”だって言ってたけど、実際に体感してるの?」ちーちゃんが言う。「勿論、実際に体感してますよ!昼夜両方共に実験は済ませてあるんです。場所も問わずに流してもいい様に企画してますからね!」「凝るのねー。こう言う拘りは半端ないね。男子は、テープの種類から長さまで、とことん突き詰めるもんね!」ちーちゃんが半ば呆れて言う。「“一応”Yも男子なんだから、それは当たり前でしょ!」恭子が微妙な言い回しをすると、「オカマさんなんですか?」と宮崎さんに笑われる。「無い!無い!恭子、変な事言わないでよ!あたし達の大切な“殿”だよ?!オカマだったら困るじゃん!」とちーちゃんが否定するが、車内は盛大な笑いに包まれた。しかし、僕は内心“ヤバイ!”と思っていた。恐らく、アパレル店舗に行くのだろうが、“荷物持ち”は厭わないが“下着売り場と水着売り場”を避けて通るのは不可能に近い!“3人が共謀すれば、地獄を見るなー!”嫌な予感に背筋が凍るのを覚えながら、車は鹿児島市内へと乗り入れて行った。

“嫌な予感は当たる”を地で行くハメに陥った。女の子3人組が、まず向かったのが“水着売り場”だった。メンズの取り扱いもあるのだが、3人が単独行動を許すはずが無い!「Y-、試着するから見に来てよ!」早速、ちーちゃんが暴走を始める。豪快な性格もあって、見られる事に対しての抵抗感すら無い様だ。試着室から頭だけを出して、周囲を窺った彼女は、僕を素早く中へ引きずり込んだ。「ほら、“おっぱいちゃん”だよ!触ってよ。久しぶりでしょ?あたしの?」ちーちゃんは、僕に触らせてからホックを外して、更に太腿にも手を導き出す。「もっと、エッチな事もして!」ちーちゃんは火が付く寸前だ!その時、「Y―、Y、どこよ?」恭子が探す声がした。「うーん、邪魔されたか。次は、あたしの番だから、日曜日空けといてよ!」ちーちゃんは悔しそうに言うと、外を窺ってから僕を解放した。「Y、どこに居たのよ?」「手荷物係として、この裏におりましたよ!」咄嗟にトボけに走って逃げ切りを図る。「ちーは何処よ?」「あたしならここよ!試着終わったから、直ぐに出るね」ちーちゃんもトボけて言う。「アンタ達、不埒な事してないでしょうね?」恭子が痛いところを突く。「無い!無い!恭子、心配し過ぎよ!」ちーちゃんが姿を現して言った。「ちーがそう言うなら間違いないでしょう。Y、宮崎ちゃんの選んだヤツ、見せてもらいな。感想が聞きたいそうよ」宮崎さんが袋の中身を見せてくれた。緑を基調に選んでいる。「可愛いですね。緑色を選ぶ理由は何です?」「名前が“緑”なんです。みんなに“みーちゃん”って呼ばれてたから。これからは“みーちゃん”でお願いします!」彼女はそう言って笑った。“地獄の売り場”を後にすると、やっとトップスやボトムス売り場へと雪崩れ込む。少しは、安心させられる場所だ。3人それぞれにお目当ての服を見て歩き出した。僕は、みーちゃんに同行してトップスから見て回った。「恭ちゃんやちーが羨ましいなー。あたしは、見ての通り背があるから、選択肢そのものが少ないの」みーちゃんは苦労していた。そんな中でも、ワンピースで大きめのサイズを見つけると「これ、どう?」と聞いて来た。「着て見たら?」試着を勧めると、嬉しそうに荷物を預けてから、試着室に入った。色は彼女の基調色とは言えないが、サイズが合うなら買って置かないとマズイだろう。カーテンが開けられると、みーちゃんが「どうです?」と聞く。サイズもゆとりもあり、何より似合っていた。「決まりでどうです?」「うん、押さえとく。もう2着は揃えたいな」と言ってカーテンは閉じられた。結局、後の2着の内、僕が1着を見つけてやり、みーちゃんも1着を気に入って購入した。「男の子に選んでもらったの初めてなの!」みーちゃんは嬉しそうに笑った。「Y-!」「荷物持ってよー!」恭子達も手提げ袋を持ってやって来た。かなりの荷物だが、軽いのでキツくは無いが、嵩張るのが難点だ。「車のトランクに入れて来るよ!次はどこへ行ってる?」「1フロア下。なるべくまとまって居るから、迷わないでよ!」ちーちゃんが言う。立体駐車場は2階層上だった。「了解。直ぐに追い付くよ!」僕は、立体駐車場へのエレベーターに向かった。1度見た場所は、頭に入っていた。逆に辿って行けば迷う心配は無い。それにしても、女性の買い物は長いし、目移りが激しくて疲れるものだ。無事にブルへたどり着きトランクを開けると、大量の袋を仕分けてからリッドを閉じた。「まだまだ、長いだろうなー!」先行きに不安を抱きながらも、僕は指定されたフロアを目指して降りて行った。

life 人生雑記帳 - 65

2019年11月21日 11時35分21秒 | 日記
国分市内の中心から少し離れた雑居ビルの2階。恭子の知り合いが営んでいるバー“胡蝶蘭”はそこにあった。路地1本を入っただけなのに、人通りも少なく静かな空気が流れている。隠れ家としては、申し分無かった。「ママ、お久しぶり!」「まあ、恭子ちゃん!いらっしゃい!今日はどう言う風の吹き回し?」「うん、ちょっと“親睦会兼作戦会議”なの!一番奥、いいかな?」「どうぞ!恭子ちゃんが来たなら、“指定席”だもの!」と言われて店の一番奥まったボックス席へ通される。面子は、恭子とちーちゃんと早紀さんに僕だ。僕の左側に恭子が座り、ちーちゃんと早紀さんが向かいに座った。「Y、タバコは自由にしていいよ。みんな、取り合えず何にする?」恭子が注文を取り出す。「折角だから、ボトルを入れません?その方が密かに話すには、都合が良さそうですし」僕が言い出すと「面白いわね!Y、乗ったわよ!」恭子が直ぐにその気になった。お酒のセレクトは僕が決定権を取り“ロバートブラウン”のボトルを1本入れた。「どんな感じなんです?」早紀さんが言うので「バーボンに近い味わいですよ。水割りでゆっくり飲めば丁度いい感じになるでしょう」と言った。氷にピッチャーの水、お通しが揃ったところで、乾杯をして宴は始まった。「うん、美味しい!焼酎もいいけど、ウイスキーも悪くないわね!」ちーちゃんが目を丸くした。「早紀、やはりこの男、タダ者じゃないでしょ?」恭子が言うと「ええ、切れ味鋭いカミソリの様ですね!」と早紀さんも応じた。僕が、懐からタバコのBOXとジッポーを取り出すと、恭子が手を伸ばしてタバコに火を点じた。「何か、すごく自然な流れに感じますよ」早紀さんが言うと「あたしは、Yの“正室”よ!これくらいの事、Yが眉一つ動かすはずが無いでしょう?」恭子が微笑んで返した。「さて、“重たい話”から片付けようか?早紀、どうだったの?」恭子が訊ねた。早紀さんは「結論から言うと、限り無く“クロ”に近いと言えます!」と切り出した。「調査対象は?」「整列工程の同期の男子です。カマをかけて脅したら、アッサリと落ちました。“品証を敵に回す意思はあるの?”って迫ったら、色々と喋ってくれましたわ!」「じゃあ、やはり岡元が仕組んだのね?」恭子の声が暗くなる。「ええ、その様です!岡元には、幾つもの“誤算”がありました。まず、整列工程への異動は一時的なもので、また直ぐに呼び戻されると言う身勝手な誤解です!たった2週間の引継ぎだけで、Y先輩が返しを回せるはずが無いと踏んだのですが、Y先輩の能力は岡元の想像を遥かに越えた高いポテンシャルを持っておられました。最初の躓きはこれでした。次の誤算は、神崎先輩との関係です!男性を嫌悪する、神崎先輩と“良好な関係を築けるはずが無い!”と侮っていた様ですが、これもY先輩は、いとも容易くクリアしてしまい、岩崎先輩や千春先輩とも良好な“信頼関係”を構築してしまわれた。“後門の狼”が味方に付いたのですから、想定外もいいところでした。そして、“前門の虎”であるパートさん達とも打ち解けて、傘下に治めてしまわれた。岡元が、力でねじ伏せるしか無かった“虎”が“猫”に代わり、懐いてしまった!これは、最大の誤算だったでしょう!1ヶ月弱で全権を掌握され、“安さん”のバックアップも付いた。岡元が、面白いはずがありません!そこで、若輩者の“弱みに付け込む策”に打って出た!しかし、2回共にY先輩とパートさんに看破されてしまい、敢え無く失敗!岡元は、臍を噛むしか無かったのです!しかも、Y先輩と岩崎先輩、千春先輩との“改革路線”は、確実に成果を出しています。橋元さん達、塗布工程からも信頼を得始めているのですから、岡元の焦燥感は深くなる一方でした!」「それで、こんな手の込んだ策を巡らせた!Yを失脚させるために!何て卑劣なのよ!」ちーちゃんが怒りの声を上げた。「最早、手を選んでは居られなかったのです!これまで、“事業部内最悪の組織”と言う“烙印”を押されていた、かつての職場が180度変わり、“点が線”になりつつあるのです。己に出来なかった事を軽々と実現されたら、みなさんどうします?」早紀さんが聞くと「そりゃ、面白くないわね!」「自分の“無能さ”を晒されたと思うでしょうね!実際、何もしなかったし、変えようともしなかったけど」ちーちゃんと恭子が言った。「これまで、塗布・返し・検査・出荷がまとまる要素が無かっただけに、岡元は自由を謳歌して来ました。自分の都合を優先させて、他人を思いやる事すらしなかった。その結果は、みなさんがご存じの通りです。ウチの井端責任者がよく言ってました。“点でバラバラだから、組織力が働かない。だから、悪循環に陥れば収拾すら図れない”と。Y先輩達が赴任されてからも、“再建は困難だろう。前門の虎と後門の狼とどう折り合える?拗れた糸を解すのは容易ならざる仕事だよ!”ってこぼしてました。そして、ここだけの話なんですが、“Y先輩をどこに配属するか?”で井端・“安さん”の2人での協議は、ギリギリまで難航したんです!“岡元の首を挿げ替えるのはいいが、彼にその大役が務まるか?”って井端責任者は反対。でも、“安さん”は“いざとなれば、俺が腹を斬る!一見ひ弱に見えるが、その腹の内に秘めた力を発揮させれば、あるいは変化をもたらすかも知れん!”と言って押し切ったんです!そして、今、点は線に代わり、事業部の中でも非常に“革新的”とされる事が進んでます!成果も着々と上がり、あたし達、品証も胸を撫で下ろしている状況です。“武田信玄が最強の騎馬軍団で、島津を圧倒した様なものだ!あの男はタダ者じゃない!”って井端責任者も腰を抜かした程です。岡元が弄した策も看破して見せましたし、塗布・返し・検査・出荷の4工程を一体化するとは、誰も思わなかった事です。今回の“事件”についても、より一体感を強める結果になりました。下山田も、“信玄を相手に喧嘩を売るつもりは無い”と断言してます。岡元の命運は分かりませんが、末端に追いやられるのは間違いないでしょう!」早紀さんはそう報告を締め括った。「結果はどうであれ、あたし達が引き返す事は無い!積年の課題がやっと解決されるのよ!1度好ましい循環を知った以上、誰も後戻りしたいとは言わないでしょうよ!」ちーちゃんはそう言ってグラスを空にした。「そうよ!Yは、誰の話でもまず聞いてくれるし、何より“変えて行こう”とする強固な意志がある!必要ならば、真っ先駆けて突き進むし、落ちこぼれた者にも手を差し伸べる!だから、みんなが後を追って行くのよ!“アイツに遅れを取るな”ってね。それが分からない岡元に何が出来ると思う?精々、こんな姑息な手を繰り出すだけよ!“安さん”もそれは見抜いてるし、分かってるはず。下山田をこき下ろしはしたけれど、内心は“Yの後を追え!”と言いたかったはずよ!今日の夕方、下山田と回って来た時だって、“Yに出来てお前に出来ない理由は無い”って教えてた。下山田も現実を思い知らされて、うな垂れていたけど、内心は心穏やかでいたはずが無いわ。“俺も続かなくては!”と思ってくれれば、体制は更に強固になるもの。どうやら岡元の椅子は消えた様ね!ヤツが戻る席は無い!Yが変えた景色は、簡単に覆るモノではないもの!」恭子も3杯目を飲み干した。「しかし、“改革”は、まだ初期段階です。一貫しての仕事の回転率の向上や品質の向上は、これからの課題。邪魔をされたら、ひとたまりもありませんよ!まだ、安心できる状況ではありません!」僕も2杯目を飲んだ。「そうでも無いですよ。Y先輩が形作った“新体制”は、もう揺らぎません!」早紀さんが笑って言った。「何故、そう言い切れる?」「“安さん”は、完全にY先輩の“思う通り”にやらせる意思を固めてますし、ウチの井端責任者も信頼を寄せてます。“GEのトレーについて、営業の馬鹿どもに一矢報いた功績は、Yの意見があったからだ!”と申しておりました。品質保証部としては、Y先輩がこれから更に“改革”を進める上でも、後押しを惜しみません。技術陣もそうです。下山田が“信玄に攻め込まれぬ様に、完璧な馬防柵を築いてくれ!”と懇願したんですが、技術者は笑いながら“あの騎馬隊を止めるのは不可能だ。蹂躙されたくなければ、籠城しろ!”と言ったんです。真っ向から立ち向かうには、今の下山田の力では無理なんです。ですから、技術陣も徹底してY先輩から文句を言われない様に知恵を絞りました。“あの突撃を止めるのは容易くないが、それだけにやりがいはあった。俺達を困らせてくれる分には、一向に構わない。そうでなくは、我々が仕事をするフィールドが無くなってしまう”と言ってました。2階で仕事をしている部隊は、みんなY先輩に期待してるんです!岡元の様な“蠅”如きヤツが姑息な事をしても、もう誰も見向きもしないんですよ!」「こっちだってそうよ!あたし達は、もう振り返らない!ただ、ひたすらにあなたを追うだけよ!」恭子も言った。「“人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり”か」「何よそれ?」僕の呟きに、ちーちゃんが反応した。「“どれだけ城を強固にしても、人の心が離れてしまえば、世の中を収める事は出来ない。熱い情を持って接すれば、強固な城以上に人は国を護ってくれるし、仇を感じる様な振る舞いをすれば、いざと言う時自分を護るどころか裏切られ窮地に立たされる”信玄の言葉ですよ。岡元さんは、“仇は敵なり”を地で行ってしまった。僕はそんな過ちをしない様にしなきゃならないって事ですよ!」「そうかも知れません。あなたは、人を大切になさる。どんな些細な事にも目を配られる。そうした姿勢をみんなが見ているんです!だから、あなたを追って行く。岡元に無いものを持っていた。いいえ、何も持たずに空手で国分に来られた。それが、あなたの最大の武器だったのでしょう!」早紀さんはそう評した。「Y、もう1度乾杯しようよ!」恭子が言い出した。「“改革”の成功を祈念して、カンパーイ!」4つのグラスが軽く重なった。

適度に酔いが回りだすと、3人の女性陣の口も軽やかになり、次第に話に花が咲いた。だが、露出度も高まり目のやり場に困る事にもなってしまった。恭子もちーちゃんも早紀さんも胸元を“ここぞとばかり”に見せつけるのだ!「Y、高校の時は2期生だったんでしょう?1期生とともに“礎”を築く立場よね?大変だったと思うけど、“校風と伝統”を形作った感想は?」ちーちゃんが言い出す。「後々まで続く訳だから、“悪しきもの”は残せない。僕らが“これはダメだ!”と思った規則や生徒会則は、全て破壊して3期生に託しましたよ。“太祖の世に復せ”が合言葉でしたね」「“太祖の世に復せ”とはなに?」「あー、分かりませんよね。“1期生の時に戻せ”って言った方がいいかな?」「Y先輩、たまに難しい言葉を使われますよね?高校の頃、何て呼ばれてました?」早紀さんも突っ込んで来る。「“参謀長”だよ。堅苦しい肩書だけど、それも、後輩の女の子に継がせた」「どうして女子に継がせたのよ?」恭子が不思議そうに言う。「実力の差ですかね。継がせた子には、入学直後に停学を喰らった過去があったけど、更生させてクラスの委員長にまで這い上がらせた。地に堕ちた人は、クサるか?這い上がるか?の2択しか無いけど、上田・遠藤・水野・加藤の4人には、這い上がるだけの根性はあった。這い上がった者は、他人の辛さや悲しみや痛みを誰よりも理解できる。人として確かなモノを手にした彼女達なら、僕等の後を継げると踏んだ。だから託して来た。それだけですよ」「今の原点は、その時にありか!Yは、“任せられる”と決めたら、パートさんでも信じてやらせてるものね。人を見る目の確かさは、そうした環境で養ったのか!」「まあ、ベースは高校時代ですかね」「化粧も“容認派”だし、自らもネックレス付けたりしてるし、柔軟な考え方が出来る素地を作った3年間だったのね」「それもありますが、3年間を通して“常にクラスの危機”と戦った時間でもありますよ。平穏無事だった日々を数えた方が早いくらいですから」「誰がYを戦いの場に送ったのよ?」「菊池美夏。忘れようにも忘れられないモンスターです。クラスの全権を握りたくて、あれこれと画策してくれましてね。無期限の停学を喰らっても、脅かすのを止めなかった。ですから、彼女との戦争に終止符が打たれるまで、つまり3年生の4月まで振り回され続けました。最後は、友好的に別れましたけど」「彼女、Y先輩が好きだったんじゃありませんか?」早紀さんが痛いところを突く。「僕にとっては“圏外”だった。でも、彼女にして見れば“圏内”に留めたかったらしいね。けれど、結局は“一方通行”だったよ」「レアなケースよね?Yが“一方通行”って断言するなんて」ちーちゃんが言う。「僕だって、認めないケースはあります。最も、今はそれが通じませんがね」「そうよ!“大奥の掟”には逆らえないわよ!」恭子が釘を打ちに来る。「そう言えば、あたしにお呼びが来ないのはどうしてです?」早紀さんが言い出した。恭子とちーちゃんは顔を見合わせて「早紀も“大奥”に入るの?」「彼氏はどうするのよ?」と口々に返した。「別に、薄っぺらなヤツですから、袖にすればいいんです!大切にしてくれる人に抱かれたいだけです!」と言い放った。僕等3人は、早紀さんの顔色を窺った。酔ってはいるが、彼女の強い意志は読み取れた。「Y-、どうする?」「“側室”が増えてもいいの?」恭子とちーちゃんが僕の顔を覗き込む。「品質保証部の大物を、敵に回すのは得策とは言えませんね。今回も活躍してもらいましたし・・・」「Y先輩、ボトルが空になりましたよ。追加しますか?」早紀さんは、こっちの心配をよそにお酒の追加を言い出した。「追加してもいいよ。まだ、時間もあるし・・・。恭子、ちーちゃん、断れない雰囲気だよ!」と僕は言った。「やむを得ないわね」「あー、ローテーションに悩む事になりそう」2人は渋々了承した。ボトルの追加を受けて、更に話は続いた。

夜の11時。すっかり酔っ払った4人が“胡蝶蘭”を出て、表通りに停まっているタクシーへヨロヨロと進みだした。恭子と僕が支払いを済ませる間、ちーちゃんは早紀さんを支えるのに必死だった。「まだ、夜更けじゃないわよ!先輩!2次会・・・、行きます・・・よ!」呂律の回らぬ口調で、早紀さんは暴走しようとする。「早紀!飲みすぎよ!さあ、帰るわよ!」体格で勝るちーちゃんに抑え付けられていなくては、彼女は何処に行くか分からなかった。「ちー、お待たせ。早紀のヤツ完全にイッちゃってるわね」「頭脳明晰のしっかり者でも、酒に飲まれちゃうとは・・・」「Y、肩を貸してよ。早紀のヤツ、そろそろ沈没しかねないわ!」ちーちゃんの危惧は当たった。早紀さんは、完全に落ちてしまったのだ。3人がかりでタクシーへ押し込んでから、彼女のアパートへ向かう。ポーチからアパートの鍵を取り出したのは、ちーちゃんだった。5分程走ると、早紀さんのアパートに着いた。「早紀!早紀!アパートに着いたわよ!」ちーちゃんが頬を叩くと、早紀さんが眠りから覚めた。「Y先輩・・・、おんぶー・・・」早紀さんは、身体を預けて来る。「仕方無いわね。Y、早紀を宜しく!」「部屋は、2階の真ん中よ!鍵はこれ。それと、早紀の荷物がこれ」恭子とちーちゃんがそれぞれに言う。彼女を背負うと「明日の朝、迎えに来るから、頑張りなさい!」恭子が恐ろしい事を言ってから、タクシーを出発させた。「おい、聞いてないぞー!」と言っても手遅れだった。夜の闇の中に、早紀さんと取り残されたのだ。夜明けを待つには、部屋に入るしか無い。仕方なく、早紀さんを背負って部屋の鍵を開けて中へ入った。照明のスイッチを手探りして、明かりを点けると女性の1人暮らしの部屋が浮かび上がった。整然と整理された部屋には1分のスキも無い。ベッドルームに行き、早紀さんを背中からベッドへ移す。デニムのミニスカートに白いブラウス。胸元からは、薄紫のブラが見えた。タオルケットで覆い隠してから、ベッドルームから出てリビングに座り込む。「さて、どうしたものか?」夜明けまでどこに居るべきか?散々考えるが、名案が浮かぶはずも無い。かと言って、鍵をポストに入れて帰るのは如何にも不用心だし、不審者と見咎められる恐れがあった。「恭子とちーちゃんの陰謀だな!何となく、嫌な予感はあったが、本気でハメるとは・・・」喉の渇きを覚えたところで、シンクから水を流し手ですくって水を飲んだ。ハンカチで手を拭くと、リビングの床に座り込む。その時、不意に後ろから素肌で抱き着かれた。「先輩、早く!」振り返ると、薄紫のパンティ1枚だけの早紀さんがいた。「謀ったなー!」「ええ、酩酊するほどじゃありませんよ。2人きりになるための演技です」早紀さんは悪戯っぽく笑っていた。膝に入り込むと、いきなりディープキスをされる。「ねえ、しようよー」と言って舌を絡ませながら、中くらいの乳房に手を持って行く。「嘘はつかないね。だって、坊やが大きくなってるもの。あたしじゃダメなの?」「そう言わせたくないんだろう?早紀さん!」「ヤダ!“早紀”って呼び捨てにして!パンティがびしょ濡れなの。外してもいい?」早紀は、生まれたままになり、下に手を導いた。「かき回して!お願い!」指を2本使って弄んでやると、腕がびしょびしょになった。「ああ・・・、出る!・・・何か出ちゃいそう!・・・イッてもいいですか?・・・いいですか?」言葉が終わらぬ内に、早紀は愛液を大量に滴らせた。「今度は・・・、あたしの番」早紀は、僕の息子を引き出すと舌を使ってエネルギーを送り込み始めた。こうなれば、後は成り行きだった。「早紀に入れて頂戴」僕は、思いっきり腰を使ってやり、早紀は何度も息子をねだって、声を上げた。体液は一滴を余さずに早紀に注いでやった。

早紀を抱いて、眠りについた頃、多分午前3時ぐらいだろうか?雨が強くなり始めた。窓に打ち付ける雨音で目を覚ました僕の隣には、早紀がピッタリと寄り添って眠っている。目鼻立ちがクッキリとした美形の顔にかかる髪を避けてやり、寝顔にしばらく見入った。左手は胸のあたりに置かれ、スヤスヤと眠る早紀は綺麗だった。才女の呼び声が高く、仕事も手抜き無し。ヤワな男なら寄せ付けぬオーラを纏っている普段の彼女とは、別の顔が見えた。一輪挿しが美しいのは、花がしっかりしているからだが、余りにも“しっかり”し過ぎていると、男は声をかけ難いものだ。早紀は甘えん坊で、男女の営みが好きだった。彼氏とはどうしているのか?聞くのは野暮だが“薄っぺらい”早紀に言われた男はショックだっただろう。タオルケットを引っ張って、早紀の身体を覆うとフッと目覚めた。「あたし、寝てた?」「ああ、可愛い顔で」「うれしい。そんな事、初めて言われた」「甘えん坊さんなんだね」「そう、誰も気づいてなかったと思うけど、あなたになら甘えても許してもらえると思ったの。あたし、綺麗?」「勿論、特にお尻は形がいい」「どこ見てるのよ!」早紀が胸を叩いて怒る。「普段は、こんな姿見せる事無いのにな」「それはそうよ。秘密だもの」と言って早紀は笑った。安心して笑った顔がとても可愛い。こんな表情を知っているのは、いったい誰なのだろう?早紀は自身の胸元へ手を導くと「どう?少しちっちゃいけど気に入ってもらえるかな?」と問うた。僕はそっと乳首に手を触れて「うん、この可愛い乳首は特に」と言った。「ダメ!また・・・、したくなっちゃうー!」と早紀も息子に刺激を与えだす。互いに、また抱き合う事に異存など無かった。早紀は、馬乗りになると「もう1度、入れるね」と言って息子を中に呼び入れた。早紀の乳房を鷲掴みにすると、僕は下から勢い良く突きを入れてやる。「ああ・・・、ダメ!・・・おかしくなりそう・・・、もっと・・・、突いて下さい!」早紀は、覆いかぶさるようにして、唇に吸い付いた。もう、才女の仮面はかなぐり捨てて、1人の女として快楽に溺れていた。「お願い・・・、中に・・・注いで下さい!」うわごとのように言うと、激しく腰を使って来る。締め付けも強くなって来た。「ああー・・・、イク!あたし・・・、イッちゃうよー!」締め付けが一段と強くなる中、体液を余さずに注いでやると、ピクピクと痙攣をしながら、早紀は覆いかぶさって来た。「気持ち・・・いい!いっぱい・・・出たね」口元からチラッと舌を覗かせた表情が可愛らしい。「早紀は、欲張りさんだ」「うん、特にあなたに対してはそうよ。実里にばかり独占されたくないの。あたしにも子種をもらう権利が欲しかったの!」彼女は本心を語りだした。「実里は、まだ子供よ!あたしは、男を1人捨てて、あなたに乗り換えると決めたの。弄ばれた実里より、あたしの方が強いんだから!」早紀はそう主張した。「捨てられた男に同情はしないが、余程、早紀の事を知らなかったんだろうな。こんなに、可愛くて甘えん坊なのにな」「そうよ。自分の欲望を満たせれば、それで良かっただけ。あなたみたいに、優しく抱いてはもらえなかったの。こうして、肌に触れてくれるだけでいいのよ。暖かくて愛おしい感じを味わわせてくれるだけでいいの」早紀は、左肩の頭を預けると、寄り添ってきた。「腕の中で眠らせてくれない?」「少し休むか?」僕等はベッドの中で、しばらく眠った。雨は徐々に強く降りだして来て、窓に打ち付ける雨音も強くなっていた。でも、早紀の寝息でそれらはかき消されていた。

僕が再び目覚めると、早紀は隣にいなかった。代わりにキッチンで何か調理をする物音がする。時計を見ると午前7時を回っていた。「ヤベェ!完全に朝帰りだよ!」窓に打ち付ける雨音はかなり強くなっていた。「先輩、おはよー。シャワーを浴びてスッキリしたら、朝ご飯にしましょうよ!」早紀が笑顔で言いに来る。「台風の位置は?早く帰らないとヤバイ事になる!」「心配ご無用ですよ。さっき、岩崎先輩から電話がありまして、“今日の予約はキャンセルにして、明日に順延にする”って知らせて来ましたから、遅れても問題ありませんよ!それに、真面目な話もありますし!」早紀はクスっと笑った。とにかく、“釘付け”なのには、変わりなかった。早紀の勧めでシャワーを浴びた。シャンプーやボディソープは、早紀の好みだから選択肢そのものが無いので、それを使わざるを得なかった。「こりゃあ、鎌倉に思いっきり突かれるな!」と呟きながら、ユニットバスから出ると、早紀が朝食を出してくれた。思いの外、美味いのに驚いた。「どうです?社食より上を行ってるでしょう?」「うん、それが何よりも驚いたよ。自炊はもう長いの?」「2年前からですよ。将来に備えて、日々試行錯誤してます!」早紀は得意げに言う。メニューとしては定番の和食だが、味付けはオリジナルだろう。社食にも取り入れて欲しいところだと思った。「Y先輩、どうして“改革路線”を推し進めようと決めたんです?ご存じの様に、サーディプは“小ピン”“中ピン”“大ピン”の3部門に分かれてますが、“小ピン”部門の“仲の悪さ”は有名で、“誰がやっても治世は安定しない”と言われたところなんです。“安さん”や品証としても頭の痛い問題で、“名君を以てしても、難治の地”と言われてました。そこへ、あなたが“火中の栗を拾う”かの様に治世を取り始められた。何故、敢えて危険を承知で踏み込まれたんです?」早紀は真顔で聞いて来た。「受け取った“バトン”をただ繋ぐだけなら誰でも出来るが、どうせなら“より良い形”で渡したいと思ったからさ。今は、安々と渡すつもりは無いけどね。江戸幕府の8代将軍、徳川吉宗を知ってるよね?」「ええ、幕府の“中興の祖”、デレビドラマの“暴れん坊将軍”ですよね?」「その吉宗にしても“まさか、徳川宗家を継ぐとは、思ってなかった”のは分かるかな?」「いえ、どう言う話です?」「紀州徳川家の5代藩主に就くにしても、“想像だにしなかった”事なのさ。彼は四男坊で、紀州藩を継げる立場ですら無かった。精々、分家として小領地を拝領するか、養子に出て1諸侯として終わる定めだと思われていた。だが、突然、吉宗は紀州藩を継ぐ事になってしまう。上の兄達が相次いで病死したからだ。口の悪い人なら“棚ボタ藩主”と言うだろうが、そこから吉宗の運命は大きく変わる。吉宗が藩主に就いた時、紀州藩は“借金地獄”に陥っていた。蔵には備蓄米すら無かった。そこで、吉宗は“倹約令”を出して自らも食事を減らして率先垂範の姿勢を取った。“一汁三菜”の質素な食事に、お酒も量を決めて飲み過ぎない様にした。藩主が質素を心がければ、部下も否応なしに従わざるを得ない。こうした努力が実って、将軍職を継ぐ直前には、借財も全て完済して、備蓄米も蔵に積み上げられるまでになった。こうした藩主としての手腕と家康の“玄孫”と言う血筋の近さから、宗家を継いだのさ。幕府も財政再建が急務だったし、実際“享保の改革”は一定の成果を上げてる。御三家に次ぐ“御三卿”の制度も作って、将軍家の継嗣問題に1つのケリも付けた。僕は、O工場から来た“部外者”に過ぎないが、引継ぐまでの2週間で、嫌と言う程、問題点を見せつけられた。“これでは、継いでも回らない”ってつくづく実感させられた。だから、いっその事、“継ぐなら自分のやり易い方向へ持って行っても、誰も文句は言わないだろう”って思ったよ。実際、“安さん”からも、“思う様にやって見ろ!”って言われたしね。だから、思い切って“大鉈を振るう”覚悟が出来た。ダメで元々で始めた訳だが、やり始めたら検査も出荷も乗り気で付いて来たし、“おばちゃん達”とも話してみたら打ち解ける事が出来た。気づいたら、みんなが“改革”を望み、実践に協力してくれた。ある意味“棚ボタ改革”なんだけど、運が良かった事、時が満ちていた事、時期も良かった事も重なって、引くに引けない状況に進んでいった。それなら、とことんまでやるしかないだろう?僕は、吉宗の様な力は無いけど、策を巡らせて周囲を乗せる事は出来る。とことん話を聞いて、“より良い方法は何か?”を探る事も出来る。そうした“基本”に立ち返る事で、みんながもっと楽に仕事をする事が出来る様に仕向けるのが、僕なりの“改革”なんだろうな。他所から来たからこそ“見える”ものがあった。それだけだよ」「やはり、あなたはタダ者ではありませんね!確かに、外部からの視点なら“見えるもの”は多々あったでしょう。しかし、それを敢えて“打ち壊して、立て直す”と言う発想に繋がる事は稀です!そもそも、“話を聞く”と言う姿勢そのものが、今まで無かった事。しかも、男女や年齢の枠を越えて、誰とでも忌憚なく意見を言い合うなんて、あり得ませんでした。しかも、どんな些細な事でも、答えを出す事が斬新なのです!“あの人なら”と思わせる。しかも、実行して成果を出す。あなたは、吉宗公か信玄公の生まれ変わりなのかも知れませんね!」「早紀も“輪廻転生”を信じているとは思わなかったよ。だが、僕は・・・」「いいえ、今、あなたが中心になって進めている事は、革新的な事なんです!これまでは、“点”でしか無かった組織を“線”で繋ごうと言う計画は、誰も手を出さなかった、いえ、出せなかった事なんです!構想は随分前からあるにはありましたが、“指揮官”が居なかったのです。“旗振り役”が不在と言った方が的確かも知れません!そこへ、あなたは彗星の如く現れた!最初は、皆、疑問視していました。あたしも含めて。でも、これまでのところ、成果は着実に積み上がり、人も変わりつつあります。“風林火山”の計、“目安箱”の計、あなたは、知らず知らずにこの2つを進められ、“誰も出来ない”と思われた事を成し遂げようとされている!出任せでも、偶然でもありません。事実です!この先に何が待っていても、皆はもう引き下がりはしません!あなたが“真っ先駆けて突き進んだ”背を追うでしょう!あたし達、品証も期待しています。品質は向上し、クレームも減っています。実際の数字をお見せ出来ないのが残念ですが、あなたが来られてから数字はガラリと変わっています!直行率は反転して上向いてます!新しい時代を、世界を見せて下さい!あなたなら出来る。きっと、誰も見た事の無い世界・景色を見せてくれる!あたし達も支援は惜しみません。続けて下さい。あたしも、あなたを追って行きます!」早紀の言葉に僕は、ただ頷くしか無かった。彼女の目は、期待に輝いていた。「“難治の地”か。確かにそうだが、裏を返せば“宝の山”でもある。まだ、秘宝は眠ったまま。僕は、それを掘り起こして磨く事だな。品質・直行率・効率はまだまだ改善の余地がある。早紀の、いや、みんなの期待に背かぬ様に、ただ前を向いて歩む。答えは、後から付いて来るだろう。僕は“他力本願”を嫌うクセがある。“指揮官先頭”しか出来ないんだよ。手綱さばきは、早紀たち“品質保証部”に委ねるさ。これからも、宜しく頼む」と頭を下げると「“暴れ馬”であり続けて下さいよ!乗り手としては、その方が愉しみが大きいですから!」と微笑んだ。その後もコーヒーを飲みながら、早紀とこの先の“戦略”について語り合い、豪雨が通り過ぎるのを待った。この日の語らいで話し合った事は、後に“改革”を大きく・確かに前進させる原動力となった。

life 人生雑記帳 - 66

2019年11月20日 16時22分51秒 | 日記
早紀のアパートを出たのが、午前11時過ぎ。「Y先輩、楽しかったです!また、泊りに来て!」と玄関先で別れのキスをしてから、傘を広げて表通りを目指す。早紀は、ずっと見送ってくれていた。雨は、大分治まって来てはいたが、時折横殴りに吹き付けた。表通りには、恭子の車がハザードを点けて停まっていた。助手席へ乗り込むと、ゆっくりと車は走り出した。「Y、早紀はどうだったかな?」「自分でハメといてよく言うよ!どうしたの?目が真っ赤じゃないか!寝てないのか?」「うん、だって・・・、悔しくて・・・、寂しかったの!」恭子は泣きながら車を走らせる。これまで、金曜日の夜は、恭子との時間だった。他人を挟まずに2人だけで逢瀬を重ねて来たのだ。それを手放したダメージは恭子の予想を越えたものだったのだろう。車は、城山公園へ突っ込んだ。恭子はシートを倒すと、後部席へ滑り込む。僕も続いた。膝に恭子を乗せると、しっかりと抱いてやる。「あなた・・・、置いて行かないで!」恭子は僕の胸で泣きじゃくった。華奢な身体をしっかりと包み込んでやり、思いっきり泣かせる。「置いて行かないよ。恭子の傍にいる」彼女は、泣きながら何度も頷いた。しばらくすると、恭子は、徐々に落ち着きを取り戻した。「早紀の匂いがする。あたし、馬鹿な事したのね。早紀にYを丸投げするなんて、自分で自分の首を絞めるだけなのに、愛しい人を差し出すなんて愚かだったわ」と消え入りそうな声で言う。「恭子、“正室”なら、もっと我儘を通していいんだよ。引き下がる理由なんていらないだろう?」「うん、自分の時間は大切にしなきゃダメよね。Y、今晩、出掛けようよ。あたし、我慢出来そうも無いの!」「分かったよ。でも、その前にしなきゃならないことがある!」うつむいた恭子の頬を掌ですくってから唇を重ねた。恭子も舌を絡ませて来る。狂おしい程に恭子が愛しく感じられた瞬間だった。雨は次第に弱まって来たが、風は依然して強く車を時折揺さぶっていた。

寮に戻ると、鎌倉も“非常招集”から上がって来た直後だった。「Y!昨夜は何処に泊ったんだよ?帰って来ないとは、罠にハメられたのか?」「ああ、見事にハメられたよ。酔った挙句に“お持ち帰り”にされちまった!」僕は、昨夜の顛末をダイジェストで説明した。「うわー!最悪のパターンだな。それで、ボトル代はどうしたんだよ?」「こっちで払ったよ。今までの事を考えれば、それくらいは出さないとヤバイだろう?」「何分の一かは知らんが、少しは見返りを出した訳か。まあ、当然だな!それで、朝メシは?」「手料理でおもてなしだよ。それは成り行きだからまた別の話だが、相手が品証の大物の女の子だから断る訳にも行かなかった。実権もかなりの部分を握ってるし、発言力もある子だ。恥をかかせて“品証を敵に回す”のは得策とは言えん!」「うーん、相当“危ない橋を渡る”を地で行ってるな。もう、首まで固められたか?」「そうらしいよ。“側室”がまた増えちまった。“大奥”が一段と賑やかになったのは、喜ぶべきか?嘆くべきか?頭が痛いよ」「まあ、そう悲観するな。俺も同じ運命だよ!総務の女の子達が“サーディプみたいに大奥制度を創設しなきゃ!”って張り切り出した!俺も時間の問題さね。しかも、新谷さんは近所にアパートを借りて1人暮らしをしてる。今日は、そこへご招待されてるんだよ!あすは、間違いなく朝帰りさ!Y、彼女の部屋はどんな感じだった?」「きれいに片付いていて、一分の隙も無かったよ。ついでに言うと、当然だが“してない”ぜ!」「やっぱりか!俺も“させてもらえない”のは分かってる。俺も、そろそろ腹を括る潮時だな!総務の女性陣に総攻撃を喰らったら、Yより恐ろしい事になりそうだしな・・・」鎌倉も同じ道を歩もうとしていた。総務での“大奥制度”創設に関しては、早紀が子細に答えているので、同じ制度が立ち上がるのは時間の問題だろう。「ともかく、風呂へ行こうぜ!鎌倉、ずぶ濡れじゃないか!」「Yは、女物のサニタリーの匂いがプンプン!」互いに笑い合ってから、風呂へ入り温まってから出た。「今晩に備えて寝ておかないとマズイな!」「ああ、少しは休んで置かないと、新谷さんの部屋で沈没しちまう!」僕と鎌倉が正に寝床に入ろうとした瞬間、「悪いが待ってくれ!2人に相談しなきゃならない事がある!」と田中さんが止めに来た。「最悪!」「寝入り端に何です?」僕等の機嫌が良いはずが無い。「まあ、そう怖い顔をするなよ。お前達を捕まえるには、こうでもしないと捕まらんのだ。早速だが、異例の要請が来てしまったのだ。第1次隊の赤羽以下、4名の“緊急召喚”だ。本人たちは何れも“今、抜けるのは無理だ”と答えた。しかし、O工場側は“どうしても戻してくれ”と譲る気配が無い。板挟みなのだが、どうしたものかな?」田中さんはため息交じりで言った。「送って置きながら、今になって“帰せ”とは如何にも無責任でしょう?みんな、それぞれに責任ある立場に立っているんです。後任問題を解決しなくては、事業部に迷惑がかかりますよ!」「そうだ!何のための派遣なんだよ!今更“帰せ”とは、ご都合主義もいいところじゃないですか!」僕と鎌倉は反発した。「O工場側としても、台所事情は厳しい。総務と設計に携わる連中については、喉から手が出る程人手が欲しいんだよ。向こうの開発状況に変化が出ているのは確かだ。当初の目論見以上に、事の進行が速いのか?複数の開発が進んで人手不足に陥っているのか?判断は微妙だが、第4次隊の派遣中止も視野に入れている節が見受けられる。だが、“早期帰還”を言い出した事を勘案するとだな、第4次隊の縮小は避けて通れなくなりそうなんだ。現場レベルで“早期帰還”は実現しそうか?」「それは、無理ですよ!第1・2次隊の連中は、特に各事業部の中核を担ってます。後任を出そうにも、現状の仕事量を考えれば、帰れる保証はありませんよ!せめて、任期が満了しなくては、帰還問題云々を議論する余地はありません!」「そうだな。任期が終わる時期が近いなら、こちらも考えるでしょうが、我々、第3次隊も中核を担い始めてます。国分のシステムに組み込まれてる以上、抜けるのは容易ではありませんよ!O工場側は、それが見えて無いから無茶を振るんでしょうが、既に“国分の一員”となった今、無責任な事は避けるべきですよ!」僕と鎌倉は“無理だ”と繰り返した。「となると、個別に事業部と交渉しなくてはダメか。ふむ、厄介だな!」「それに、各派遣隊員は、職場でも信頼を勝ち得ています。最低限、任期満了の日が来るまでは、動かすべきではありませんよ!O工場の信用にも関わる大事ですよ!向こうも苦しいでしょうが、我々も苦しみながらそれぞれの道を進んでます。ここは、“痛み分け”でケリを付けるのが順当ではありませんか?」「そうだ、第4次隊の派遣は中止してもやむを得ないが、既に着任している第3次隊までは、任期を全うしなくてはO工場の威信に関わる大事になっちまう。田中さん、ここは向こうにも我慢をしてもらわなくは、困りますよ!そうしなくては、全社から非難を浴びちまう!」僕と鎌倉は盛大に釘を打った。「うーん、2人の言う事は最もだな。ここで引いたらO工場の恥を晒す事になりかねん。どうやら、再検討を依頼しなくては無理だな。分かった。向こうには“途中で引き返す事は出来ない”とハッキリ断言して、判断を出し直させよう!いや、悪かったな。ゆっくり休んでくれ」田中さんは、確信を得て引き上げて行った。「虫のいい話だよな!」「知らぬは、無節操な考えを生むもの。ご都合主義は通らないよ!」僕等はやっと眠りに付く事が叶った。

数時間後、目覚ましのタイマーが作動する前に僕は目覚めた。深く眠った事で、疲労感も倦怠感も失せていた。克彦ちゃんと吉田さんは、偶然にも休みになったらしく、同僚と出掛けていた。そんなメモがあった事にも気づかずにいた程、疲れていたのだろう。鎌倉は爆睡していたので、起こさぬ様にそっと部屋を出てシャワーを浴びに風呂へ向かう。早紀の匂いを消すためだ。恭子の手前、それぐらいの気遣いは必須事項だろう。サッパリとして部屋に戻ると、鎌倉も起きだしていた。「おはよ。もう、身づくろいかい?」「ああ、別の女の匂いは消して行くのは、最低限のマナーだろう?“正室”に対して失礼のない様にするのは当然だよ」「気苦労が絶えないねー。でも、そうした姿勢が評価されて、今の地位がある様なもんだ。俺も参考にさせてもらうよ」鎌倉もそそくさと風呂場へ向かった。支度を整え手荷物を揃える頃には、鎌倉も戻り急いで身支度にかかった。「何か、緊張するぜ!女性の部屋に乗り込むんだ。粗相の無い様にしなけりゃいけない!」「まあ、余り力を入れても仕方ないぞ!普段の姿や休日の姿は見られてるんだから、下手にメッキして行っても何の効果も無い。“そのまんま”で行くのが最善手だよ。ただ、タバコは気を付けろ!迂闊に出すなよ!」「おっと、それを忘れるところだった。基本“禁煙”だよな?」「ああ、匂いを残すものはご法度だ!それくらいは我慢しろ!」「お前さんに言われなけりゃ、危うく吸っちまうとこだったぜ!禁煙、禁煙!」鎌倉は呪文の様に唱えている。ヤツも内心は浮かれているに違いない。何が待っているか?までは想像もつかないが。「Y、お迎えの時間は?」「4時半だぜ。そろそろかな?」「こっちも同じくだ。出るか?」「行きましょう!」連れ立って寮の玄関を出ると、白いローレルとスカイラインは既に待機していた。「無事に帰還しろよ!」「そっちもな!」別々に分かれて車に近づくと「Y、これ!」恭子がキーを放って寄越す。ベージュのワンピース姿は初めて見る。化粧も念が入っていた。運転席に乗り込むと、左の頬にキスが飛んで来る。「マークを付けなくても大丈夫だよ」「ふふふ、今、拭いてあげる。それより、お腹空いて無い?あたし、お昼食べてないからどうする?」小首を傾げた恭子はゾクゾクする程美しい。「鉄の桶でもカジれそうなくらい腹ペコだよ。まずは、食事だな。どこへ行く?」「加治木まで飛ばして!角煮丼でも食べようよ!」恭子が言うので、スカイラインは西へ向かった。「Y、これ読んだことある?」恭子が1冊の文庫本見せて言う。「“天璋院篤姫”か。読んではいないけど、内容は想像が付く。島津一門に生まれた彼女は、島津斉彬に見いだされて、京の近衛家を経てから13代将軍家定の元へ嫁ぐ。家定は、病弱で虚弱体質だったため、子宝に恵まれる事は無かったが、彼女は大奥で重きを成して、明治維新の際に“江戸城無血開城”と“徳川家存続”に力を尽くす。作中では、天真爛漫に育った少女時代から、徳川家の行く末を案じた晩年までを記した“1人の女性の一代記”が描かれているってとこでしょう?」「流石、Yだわ!篤姫が薩摩の人だって知ってる事も驚きだけど、読んでないのに内容をスラスラと言えるのは、脱帽モノでしか無い!神崎先輩が貸してくれたんだけど、あたしも“御台所の心得”のつもりで頑張って読んでるのよ。最も、子宝に恵まれない云々は別にしてだけど」「斉彬公について、安政の大獄の背景について掘り下げれば、自ずと分かる事ですよ。あの頃は、女性の政略結婚は当たり前の事。運命に翻弄された女性は、数多くいましたからね。特に“大奥”は鬼門の様な場所。篤姫も苦労が絶えなかったはずです。僕等は幸いにして、互いの大切さを思い、逢瀬を自由に重ねられますが、結果が出ないのが残念ですよ」「そうね。でも、あたしは、必ず結果を出して見せる!そう、思わなくは生きて行く支えが得られないもの。もう少し先の信号を右に曲がって。Y、早紀の匂いを消して来たのね。そう言う細やかな心遣いを忘れないのがうれしいわ!」恭子は左手に右手を重ねた。目指す場所には、意外と早く到着する事が出来た。暖簾をくぐって、椅子に座ると恭子がオーダーを入れる。運ばれてきたお茶の飲みながら、改めて恭子を見ると美しかった。「何見とれてるの?最も、それが狙いでもあるけど」「美しい人に見とれて悪い事がある?」「無いわよ!惚れ直した?」「うん、改めてね」「やけに素直に認めるのね。早紀と何かあったの?」「特に何もないけど、あんな状況にホッポリ出されて、面食らったのは事実。それと、罪悪感だろうな。居心地が悪かったのは確かだ」「どうして?」「上手く説明するのは難しいけど、金曜日の夜は基本的に恭子の日だろう?バツが悪いんだよ。他の女の子を抱くには」最後は小声になって言うと「それを聞いて安心したわ。あなたもそうだったのね。あたしも、ずっと泣いてたの。“どうしてYを置いてきちゃったの!”って自分を責めたの。だから、車の中で待っている間も悲しかった。寂しくてたまらなかったの!」恭子の目から光るモノが頬を伝う。押し潰されそうな不安と戦った一夜だったのだろう。人目をはばかる事無く、彼女は涙を流した。「恭子、金曜日を潰すのは止めようよ。2人の時間はちゃんと確保しないか?」「うん・・・、もうあんな事・・・、しない!」ハンカチで涙を押さえながら、恭子は言った。その声は強い決意に裏打ちされている様に感じた。角煮丼の入った器が運ばれて来る頃には、恭子も落ち着きを取り戻していたが、その器の巨大さに半ば呆然とする。「大盛だから、しっかり食べようよ」と彼女は言うが、ご飯はてんこもりだし角煮も個数が多い!だが、昼を抜いている僕等には丁度いい量だった。無心に食べていると「人間、3食キチント食べないとダメよね」と言う。「ああ、チャント食べて、飲んで、笑って、寝て、そうしてから考える。答えは僕等の内にある。自分を誤魔化すのは一番辛いしダメな事だろう?」と返すと「うん、その通りだね」と言われる。恭子も僕に負けまいと無心に丼に喰らい付く。見事に完食すると、自然と笑顔がこぼれた。「どう?お腹足りてる?」「これで“足りない”と言う人が居たら、絶食してるか?大食いの人だけじゃないか?」と返すと「良かった」と笑みが浮かぶ。女性としての器の大きさは彼女は抜群だ。千絵は足元にも及ばない。“正室”と自ら言い切るだけのことはある。何気ない気遣いや細やかな心配り。“大奥総取締”を自認するだけの力量は間違いなかった。お腹を満たした僕等は、宛ての無いドライブに出た。カセットは“For East”、スタートの曲は“Drifter”だ。「“Drifter”って“放浪者”のことでしょう?今の気分には合ってるわね。このまま、全国を巡る旅にでも出ようか?」「ふむ、それ、いいかも。だが、支度が整って無いよ?女性なら一荷物積んで来なきゃ!」「Yだって、撮影機材がいるでしょう?」「ああ、だから今は、“アスファルトの迷路をさすらう”だけでいい」「ずっと気になっていたんだけど、何故、女性アーティストばかり聞くのよ?男性がNGな理由はなに?」「うーん、明確な基準は無いんだ。フィーリングの問題。と言うか運転していて“心地いいか?”だろうな。本能的に女性を欲しているのかもね。レーサーならともかく、助手席に女性が居た方が僕としては落ち着くからかな?」「今は、あたしが居るのに?」「クセになってるからだよ。男の怒声を聞いてたら、コーナーからはみ出すかも知れない。落ち着いて運転するためにも、必要な要素になっちまってるんだろうな」「ずっと“女性”とつるんで来たからじゃない?高校時代の付き合い方を思えば、必然性はあると思う。あなたは、女性と組むのが“宿命”なのかも」恭子が笑う。「“宿命”か。そうだとしたら、今は文句の付けようがない無い環境にいる事になるな。故に、自然と力が湧いて来る。僕は女性に囲まれた方がいいのかも知れないな!」「そう思ってくれるなら、帰ろうなんて気は起きないでしょう?」「ああ、黙って引き下がるつもりは無いよ。“安さん”は伏せろと言ったが、恭子にだけは話した方がいいかも。実は、“安さん”の嘆願が受理されて、本部長が僕の任期延長に動いてくれる事が決まったらしい。当面、半年だが、後は自動的に“転属”になるってさ。願ったりだから、どうなっても“構いません”って返事はして置いた」「本当!Y、残る事に異存は無いの?」「恭子を置いていけるか?他の“側室”もそうだが、今更、引き返す意味があるか?自分の道は自ら切り開く!縁あって出会った子達を、置いて帰る理由が見当たらないんだよ。“改革”も道半ばだし、やりたい事は、ここにあるんだ。まだ、僕は“見たい世界”を見ていない。それに、中途半端が一番嫌だ!完結させて、根付かせるまでは、走るのを止めたくないからね」「あなたなら、そう言うと思った!何一つ疎かにしない姿勢の人が、途中下車なんて屈辱じゃない!ここで暮らそう!あたし達の子を育てようよ!」恭子は、左側から袖を掴んで、僕を揺さぶった。「誰の人生でも無い、僕の人生だ!後悔しない生き方を選ぶさ!だから、恭子と共に歩みたいと思う!我は“この地に根を降ろす”誰にも邪魔はさせない!」スカイラインは、徐々に鹿児島空港に近づいて行った。“誰にも見咎められない部屋”を目指して。

“部屋”で2人きりになると、恭子は甘え始めた。膝に座り込むと唇を重ねて舌を絡ませてから、胸元へ手を導いた。華奢な身体には、不釣り合いな豊満な乳房だ。「ねえ、あたし髪を切ろうかしら?少し邪魔に感じるのよ。どうすればいい?」キスを繰り返しながら聞いて来る。「長さは変えるなよ。もう少し、長い方が似合う。だが、毛先が痛んでるから、少し整えた方がブラッシングにはいいかもね」「じゃあ、そうするわ!どうして、長い髪に拘るの?」「素直に真っ直ぐな髪だから、余計な飾りなんていらないだろう?恭子はロングが似合う。たまには、こっちの意見も聞いて見ろよ!」「分かったわ。毛先の傷み具合まで見抜かれてるなんて、初めて言われたわ。上からボタンを外して!今夜も寝かせないから」恭子は嬉しそうにほほ笑んだ。パステルカラーのブラが見えるまでボタンを外すと、ホックをもどかし気に緩める。掌に余る乳房をゆっくりと揉んでやると、「下も早く」とせがんだ。ワンピースを剥ぎ取りパンティ1枚にすると、ソファーに押し倒す。乳首を摘まむと「ダメ!濡れちゃうでしょう!」と悲鳴を上げるが、恭子はそれすら愉しんでいる様に感じた。指で下をかき回してやると、雫でパンティにシミが付いた。「そうよ、もっと・・・、かき回して!ああ・・・、いい・・・、もう出ちゃいそう!あっ・・・、ああ!」と喘ぎ声高まると同時に、愛液が噴出した。ソファーも床もびしょぬれ。パンティも被害を免れなかった。「気持ち・・・良かった。濡れた・・・パンティあげるわ。今度は、あたしの番よ」恭子は息子を引き出すと、夢中で舌を這わせた。「もっと元気にしてあげる。あたしの中で思いっきり暴れられる様に」愛おしそうに息子にエネルギーを送り込むと、ベッドへ飛び込んで馬乗りになる。「さあ、イタズラ坊やをちょうだい!」恭子は狂ったかのように腰を振って喘いだ。昨日の鬱憤を晴らすかの様に、貪欲に息子を欲しがりねだり続けた。

「ねえ、ちょっと気になる事があるの」「なにが?」3試合を終えた恭子が、胸元で言い出した。ピッタリと身体を寄せ合ってベッドで休んでいる最中に。「宮崎ちゃんの髪の色なんだけど、徳永が問題にしようと画策してる節が見受けられるのよ!どう思う?」「あれか?宮崎さん、何か失敗でもしたの?」「いいえ、彼女はどんな時でも完璧よ。手抜きなんて彼女の主義じゃないもの」「それなら、反論の余地はあるね。“個性”を抑え付けるなんて暴挙に等しい。仕事上で問題があるなら、付け込まれる隙があるけど、それが無いとすれば、原則的にどうこう言う、言われる筋は無いよ」「Yの様に寛容な考え方が出来る人じゃないから、困るのよね。月末、最終日に決着が付いた当たりに、言い出して来ると思うの。Yは助けてくれる?」「勿論、応戦はするさ!制限の多い中、唯一のオシャレなんだから、出来る限りやって見るのも悪くない。けれど、そんな“重箱の隅を突く”前に、他を叩いて欲しいな!」「何を?」「塗布工程の効率化とか、下山田の尻を蹴るとか、課題は山積してる。田尾の喧嘩を止めさせるなら、話は別だが」「そうでしょ!何故かズレてるのよね!」恭子は不満げに胸元を叩く。「まあ、今までがズレまくりだったんだから、仕方ない側面はあるが、そろそろ上も意識を変えてもらわないと困るな。返し・検査の一体運用にメドは立って来た。出荷は、徳田と田尾に任せるにしてもだ、整列・塗布の前を強化しなくては、生産能力の引き上げは覚束ない。整列には、矢を打ち込めたからいいが、次は橋元さんに楔を打っとく番だろう。それに、返し・検査の頭を誰にするか?これも、早急に決めなきゃならない!」「Yがやれば済む事でしょう?」「それはそうだが、順序を踏まないと、いきなり座り込んだら変だろう?“貴様が全責任を負え!”って“安さん”が咆えてくれなきゃ勝手は出来ないよ。やるからには、誰にも文句は言われたくないし、思う様に変えて行きたいし」「やけに慎重にするのね。その心は?」「征服者が失敗するケースのほとんどが“焦りから来る軽率な行動”だからさ。段階を踏んで、徐々に傘下に治める方が反乱が起きる心配は少なくなる。最も、恭子達が叛くとは思ってはいないよ。問題は2階の連中さ。影響力を削がれるのを恐れて、簡単には譲歩しないだろう。だからこそ、“安さん”の決断が必要なのさ!」「でも、“安さん”の腹の内は決まってると思うの。だからこそ、宮崎ちゃんをダシにして、“試験”するつもりなのかも」「もし、そうだとしたら、絶好の機会になるな!ここで、一気に全権を握れれば、後が楽になる!受けて立ちましょう!」「見せてちょうだい!武田の騎馬軍団の勇猛さを!」恭子は上から覆いかぶさると、キスをして来た。もう、1試合を望んでいる様だ。下に手を伸ばすとゆっくりとかき回し始める。「そうよ!もっと指を入れて!」恭子は、息子を掴んで刺激をし始めた。夜は更けていったが、熱く燃える逢瀬は果てる事無く続いた。

寮に帰り着いた頃には、日付が変わろうとしていた。「じゃあ、おやすみ」キスをすると運転席を代わる。「これからは、金曜日は誰にも譲らないことにするわ!Y、愛してるわ!」恭子は投げキスをすると、ゆっくりと駐車場に乗り入れて行った。部屋に戻ると、誰も居なかった。克ちゃんと吉田さんも外泊らしい。鎌倉は「考えるだけ野暮だな」と斬って捨てた。ヤツも今頃は、眠れぬ夜を過ごしているはずだ。僕は、目覚ましをセットするとベッドに横になった。“旧態然とした組織を打ち壊して、目を覚まさせるのは容易では無い。だが、これ程、やりがいのある仕事をO工場でやれるか?”“そんな事出来る訳無いでしょ!年功序列だぜ?!”自問自答をすればする程に、“帰還の日”が近づくのが憂鬱になった。“最初で最後、最大のチャンスを棒に振るな!”そんな声が聞こえる。確かに、今が絶頂期なのは間違いあるまい。ならば、自分はどうすべきか?答えは1つ。「何としても“残留”を勝ち取る事!これしか無い!」僕の心は定まった。もう、揺らぐべきでは無かった。歩む道が定まった以上、惑う事は避けなくてはならない。何度かの寝返りを打った後、僕はようやく深い眠りに落ちて行った。

遠くでベルが鳴っている。隣に眠っている恭子が起きてしまうじゃないか!必死に手を伸ばして目覚ましを止めると、寮のベッドの上だった。「うーん、昨夜の逢瀬が潜在意識に残存していたか?」部屋には誰も居なかった。克ちゃんも吉田さんも鎌倉も、未帰還の様だった。「ふむ、今日は千絵と永田ちゃんか。2人が組むのは久しぶりだな。何を企んで来るやら!」そう呟くと、シャワーを浴びに1階へ降りた。眠気を振り払い、サッパリすると身支度を始めた。フィルムは3本用意して、ポートレート撮影に備える。レンズは85/F2.8と28/F2.8を選んだ。ボディに予め装着したのは28の方だ。集合予定時刻は、午前9時。後30分は猶予があるが、僕は早々に談話室へ降りて行った。玄関先を窺うと“緑のスッポン”がウロウロとしていた。どうやら、待ち構えているらしい。車はまだ横づけされていない。「どうせ喰いつかれてるんだから、適当に追い返すか?」僕は、外へ出て周囲を見回した。「先輩、今、いいですか?」美登里が駆け寄って来る。「あまり時間は無い。手短に済ませてくれ!」「実は、業務で板挟みになってるんです!NGなのに、“合格品にしろ!”って現場が言う事を聞かないんです。どうしたら、いいと思いますか?」“スッポン”曰く“マルチレイヤーパッケージに、欠けがあるにも関わらず現場は合格品扱いを言い、品証はNGの判定を下せ!と主張している”と言うのだ。まだ、経験の浅い美登里にすれば、どちらの言い分を通すべきか?判断しかねるらしい。「基準が分からないから、推測でしか答えられんぞ!その点は、勘弁しろよ。品証が“NG”の判断を下した以上、合格にはならないだろう?まあ、現場にしてみれば、これまでの苦労が灰燼に帰すんだから、粘るのは当たり前だ。だが、厳格な基準が存在する以上、品証が揺らいではならない!“ダメなものはダメ!”で押し通すのが筋じゃないか?製品の用途を考慮すれば、CPUのケースである以上、不完全な製品を納めるのは、客先の信頼と受注を失う一大事だ。時と場合にも寄るが、品証である以上は“非情な決定も下さなきゃならない”事を意味する。上が“ダメ!”を出したら、覆すのではなく“何故NGなのか?”を現場に納得させる事が先決なんじゃないか?その上で“特別採用”なり、再生産を指示する。品証の権限は絶大だ。恐らく、君は“試されてる”んだろうよ。“正しい判断”が下せるか?否か?をな」「じゃあ、現場が何と言おうが“ダメなものはダメ!”で押し通せと?」「さっきも言ったが、品証の判断は“絶大で、余程の事が無い限り覆らない”んだ。情に流されず、己の立ち位置を良く考えるんだな!O工場の様に“なあなあ”では済まないんだ。“白か黒か”の2択しか答えは無い。それは、自分でも良く分かるだろう?多分、答えは既に君の中にあるはずだ!自分の地位は自分で確立しなきゃならん。任された責任は果たせ!それが、ここの流儀なんだ!」僕はそう言うと、道路を見た。“ブルドック”が重低音を響かせて停まった。お迎えの到着だ。「じゃあ、僕は出掛けて来る。岩留さんの期待を裏切るなよ!ここで踏ん張れば、信頼されるようになるだろうさ」踵を返して僕は車に向かう。「先輩、ご自身が判断に迷われたら、どうするんです?」美登里は背に声をかけて来た。「品質基準を読み返せ!基本は、そこにあるだろう?迷ったら品証に問い合わせるさ!君はあらゆる事に対して、答えられる事を求められている。もっと、身を入れて仕事に向かえ!」振り返ってそう言うと、僕は前に向き直り、永田ちゃんの笑顔と千絵の笑顔を見つめた。「Y先輩、これ!」永田ちゃんがキーを投げて寄越す。「さて、どこへ行くんだ?」「それがね、まだ決まらないのよ!永田ちゃんはワインディングロードって言うし、あたしは大事な“種”をもらいたいし、膝に座りたいの!」千絵はそう言って悩んでいた。「別に2人同時に“種”をちょうだいしても、問題ないですよね?」永田ちゃんは開けっぴろげに言った。その目は悪戯っぽく輝いている。「両方の希望を同時に叶えるか?のっけから難題だな・・・。ともかく、走りに行こう!それぞれの希望は、走りながら考えればいい!」「“成り行き任せ”って事?」千絵が膨れる。「そうしなきゃ時間がもったいないだろう?1対1じゃないんだからさ」「まあ、いいわ。どっちが魅力的か?永田ちゃん勝負する?」千絵が挑んだ。「受けて立ちますよ!若さでは、負けませんからね!」永田ちゃんも燃え上がる。「よし、行こう!」僕は“ブルドック”をスタートさせた。快調に飛ばして、牧之原台地へと駆け上がる。「まずは、宮崎県へ出よう。食料と飲み物を調達しなきゃ!」「あー、お腹空いた!」「基本はそこからね」2人も同意する。さて、今日はどうするのか?まだ、名案は浮かんでいなかった。“ブルドック”は勢い良く裏道を駆け抜けて行った。