limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 58

2019年10月30日 16時48分40秒 | 日記
火曜日の朝、いつもの様に出勤の隊列を組むと「Y、昨日、土下座の浮き目に合ったんでしょう?良く我慢したわね!」と岩崎さんが言い出す。「誰?先輩を土下座に追い込んだのは?」「無論、八つ裂きにしてくれるわ!」「あたし達を甘く見ない事を思い知らせてあげるわ!」永田ちゃん、千絵、実理ちゃんが怒りを露わにし始める。「女だろう?美登里とか言う。礼儀を知らねぇヤツは、俺も気に食わねぇ!」田尾までが怒り出した。「でもさぁ、強制送還になるんでしょう?例え、現場に配属されても、誰も相手にしないよ!今日中には、工場全体に知れ渡るし!」と千春先輩が断言する。「そうか。みんな、釈明に追われるな・・・」と言うと「Yは、何も心配する必要は無いから安心しな。あたしから、事情は言って置くからさ!」と千春先輩が肩を叩いて言ってくれる。そう言われると少し気分は軽くなった。いつもの様に朝礼を終えて、淡々と仕事に精を出していると「Y,高山美登里とは、どんなヤツだ?!」と“安さん”が入って来た。「一言で言うなら、“剛直で恐れを知らぬ頑固者”ですが?」と言うと、「面白い!鍛えがいはありそうだな!顔を貸せ!レイヤーの責任者が待っている!」と言う。「まさか!配属になるんですか?!」と言うと「“ゲテモノ食い”が岩留の趣味でな!お前さんから、事情を直に聞きたそうだ!手間は取らせんから、着いて来い!」と2階の会議室へ連れて行かれる。岩留さんは、“安さん”とは対象的に穏やかな表情をしていた。唯一、同じなのは眼光が鋭く光っている事だった。僕は、高山美登里について、O工場での所業の数々を具体例を挙げて説明した。「とにかく、自分が“不条理”だと判断すると、節を曲げる事がありません!彼女の中の“憲法”に照らして、“違憲”と判決が下れば、上下や性別、経験に関係無く、攻撃的に攻め込みます!“引く”と言う文字は辞書に無いんです。故に味方が出来ずに、孤立無援になってしまう。我々も度々警告はしておりますが、あの“剛直で恐れを知らぬ頑固者”を矯正する事は至難の技なのです」と結んだ。岩留さんは、終始メモを取りながら笑っていたが「面白い!久々に骨のあるヤツに出会えた様だな。彼女は我々が頂くとしよう!」と即断でレイヤーに迎える事を決めてしまったのだ。「基本的な情報は手に入れたし、折角赴任した者を追い帰すのは、国分の威信にも関わる。まあ、任せてくれ!悪い様にはしないから」とやる気満々で引き上げて行った。「一見、穏やかに見えるが、俺よりアイツは厳しい事で有名だ!高山美登里もタダでは済まないだろうよ!Y、お前が土下座に追い込まれた事は、これから彼女自身に降り掛かって行く!成り行きだったのだろうが、お前の屈辱は“俺の屈辱”でもある!塗られた泥は塗り返す!それが俺のやり方だ!」と安さんは豪快に笑った。こうして、強制送還は見送られ、高山美登里はレイヤーパッケージ事業部に配属が決まり、残留扱いとなったのだ。噂は、瞬く間に国分全体に広まっていった。そして、その日の昼休み。社食の奥の休憩スペースでタバコに火を着けると「1本ちょうだい!」と岩崎さんがタバコを口元から横取りして行った。左側に座ると、もたれ掛かって来る。「どうしました?」と言うと「アレよ!邪な女の子達が狙ってるの!」と言う。有賀や滝沢、五味に西沢達がキョロキョロとしていた。同期の女の子達だ。千春先輩や千絵、永田ちゃんに実理ちゃん、細山田さんまでもが壁を作ってガードを固めだした。「Y,金曜日の夕方は開けときなさい!あたしの予約が優先よ!」と岩崎さんは言う。「土曜日は、あたしに付き合って下さいね!」と永田ちゃんが差し押さえを宣言する。となると、日曜日は当然ながら「あたしのモノよ!」と千絵が言い出す。まるで、心を見透かす様に。「休んでる暇はありませんね」とお手上げのポーズを取るしか無かった。「諦めたみたいよ!」と千春先輩が言うと壁を構成する女の子達がため息を漏らした。「神経質になり過ぎてません?到底敵わないのに・・・」「いえ、そんな事ありません!Y先輩に土下座をさせた人達です!近付けるのは危険です!」と永田ちゃんがハッキリと言う。「Yは既に、職場の中心人物なのよ。セクションの責任者だし、1ヶ月の差は簡単に埋められないわ!“トンビに油揚げ”なんてさせるものですか!みんな、気を引き締めて行くわよ!」岩崎さんの言葉に黙して頷くと、彼女達はやっといつもの様に喋り出した。「あーあ、お恥ずかしいったらありゃしない!鉄壁のガードでガチガチじゃないか」と言うと千絵が「そうよ!もう逃げられないからね!」と笑った。だが、敵も諦めては居なかった!次なる試練は、寮で待っていた。

残業で遅くなってしまったが、この日は鎌倉と買い出しに付き合う予定があった。寮に戻ったのは、鎌倉が戻る頃と差して変わらぬ時間帯になって居た。車は、鎌倉が押さえてあったので“足”はあった。「疲れてるのに済まんな。早速出ようか?」「ああ、時間は貴重だ。道は1回で覚えてくれよ!それ程“複雑怪奇”でも無いからな」と話ながら寮の裏手へ向かっていると「待ってよー!あたし達も連れててよー!」と有賀を先頭に4人の女の子達が追いすがって来た。「Y,お昼どこに居たのよ!あたし達必死に探したのよ!」と詰め寄られる。「ウチの“お姉様方”に囲まれてたからな。見えなかったんだ。ちゃんと第1社食に居たぜ!」とトボケる。「これじゃあ定員オーバーだ。ワゴン車じゃ無いから、2人に絞ってくれるか、女子寮の車を出してくれよ!」と鎌倉も困惑気味だ。「車は既に使われてるのよ!何とか押し込んで行けない?」と有賀は無茶を振る。「ダメだ。見つかったらヤバイ事になるぜ!ルールに違背すれば、車は使えなくなるし、始末書を書かされるぞ!高城がドリフト走行に失敗してやらかした時も、1週間の運行禁止を喰らってるんだ。みんなに迷惑はかけられない!」と僕は無茶を止めた。有賀は、あくまでも「一緒に行く!」と譲らないし、車は1台しか無い。「仕方ないな。鎌倉、地図を書くから自力で行ってくれないか?ルール違反だけは避けなきゃならない。このままでは、時間の無駄だよ!」と言って僕は地図を書き出した。「うーん、しゃあないか!目印はハッキリと書いてくれよ!」と鎌倉が折れてくれた。「Yは買い出しに行かなくてもいいの?」と滝沢が言うが「ストックはまだあるよ。週末に行けば何とか間に合うさ」と軽くかわす。「でも、週末まで車の予約は一杯よ!“足”はどうするの?」と有賀が無遠慮に言う。「ウチの“お姉様方”に助けてもらうさ。実は、この車を僕は使った事が無いんだ。そうでなくとも、週末は既に予定で埋まってる。身動きは取れないよ」と言うと鎌倉に地図を渡した。「まず、北へ向かって約1km,左折したら、踏み切りを渡ってから西に向かって約800m行けば、ホームセンターの看板が見える。後は、道なりに行けばOKだよ。ホームセンターを出たら左折して市内のスーパーまでは直ぐに見当は着くだろう。帰りは来た道を戻れば、迷う事は無い」と説明すると「じゃあ、行って見るか!Y、悪いな。貴重な時間を浪費さちまって、済まない」鎌倉は4人を乗せると車を走らせて行った。「やれやれ、手のかかる連中だ!」石を蹴りつつ寮に戻ろうとすると「Y先輩、行きましょうよ!」と実里ちゃんが声をかけてくれる。「見てたのか?」「ええ、ゴリ押しもいいとこ!誰です?あの4人組は?」「同期の女の子達さ。あれじゃあ、強盗と変わらないよ」とボヤくと「後で“通報”しときます!Y先輩を困らせるとどうなるか?思い知ってもらわないと!」と語気を強めて言う。「いつもの実里ちゃんらしくないね。どうしたの?」と車に乗り込みつつ言うと「目に余る無理強いは、許しません!わきまえてもらわないと、秩序が保てませんから!」と珍しく怒りを露にする。「また、ひと悶着ありそうな予感がするな。程々にしてよ」と返すと「あたしの大切な人に対しての侮辱は、許しません!」と言い放つ。「怖いねー」「そうですか?千絵先輩なら、殴りかかってますよ!あたしだから、手は上げませんでしたけど」と言うと頬にキスをして来る。「後部席、空いてますよ!」実里ちゃんは車を走らせると言った。「底無しが!」と言うとペロリと舌を出す。結局は、彼女を抱いてから寮に戻るハメになったが、次なるトラップは既に仕掛けられていた。

「Y!どこに行ってたのよ!いくら連絡しても“不在”とはどう言う事なの?!」インターフォンが壊れるかと思うくらいに、有賀が喚く。「どこで何をしてようが、こっちの自由だろう?あれから“お姉さま方”に捕まって大変だったんだ!もう、風呂に入って寝るから切るよ!」と言うが「待ちなさいよ!土曜日に近辺を案内してちょうだい!いい事、これは命令よ!」とまたまた無茶を振り回す。「悪いが、他を当たってくれないか?既に先約で一杯でね。身動き取れないよ!」と断りを入れるが「アンタが一番手が空いてるはずでしょう?早番だけなんだし!こっちは、地理不案内なんだから、面倒見てよ!」と勝手に決めつけ始める。「あのねー、こっちだって手一杯なの!事業部に関わる問題で飛び回ってるんだ!時間は裂けないし、やらなきゃいけない事は山積みになってるんだ!僕等は既に“国分のシステム”に組み込まれてるんだ!仕事が優先なの!空いてるヤツは他にも居るだろう?“命令云々”を言われても無理なものは無理!」と言うとインターフォンを叩き切った。午後9時まで後5分。これで諦めたか?と思いきや再び有賀の逆襲が襲い掛かる。「土曜日が無理なら、金曜日の夕方でもいいわ。どこかで時間取れない?」少しは軟化して来るが、ゴリ押しは続いた。「あのねー、週末に行けば行くほど、残業が増えるの!金曜日なんて一番不確定要素が濃い曜日だろう?下手をすれば、4時間はザラにあるんだよ!こっちは、もう事業部の戦力として計算されてるんだ。いくら事情があろうとも、仕事優先で動かなきゃいけないの!1ヶ月先行してる事を忘れないでくれ!ここでは、みんなが“各自の時間帯”で動いてる。それを理解してくれないと困るんだよ!」僕はウンザリし始めた。「そこを何とかして!Yにしか頼めないの!木曜でもいいからさ!」有賀は驚異的な粘りで対抗して来る。背後に居るのは恐らく滝沢だろう。彼女は、新入社員の時から付き纏って来た経緯がある。「その日の仕事の進捗に寄って左右されるから、曜日の確定は出来ない!週末も無理!本当に悪いけど他を当たってくれ!明日があるし、タイムオーバーだから切るよ!」僕はようやく解放された。だが、明日も昼休みは分からない。「困った連中だ・・・」早々に風呂に入ると僕は眠った。睡眠不足は集中力を低下させるだけで無く、判断力も奪う。睡眠が如何に大切か?国分に来て痛感した点だ。翌日の昼休みに、ひと悶着は待ち構えていた。

水曜日、昼の食事を終えて休憩していると、吉永さんが「子供が発熱して保育園から“お迎え”の要請が来てしまいました」と申し出て来た。「分かりました。直ぐに向かってください!後の事はお引き受けします」と言って“早退届”を受理すると、それを引っ手繰るヤツが現れた。「返して欲しければ、言う事を聞きなさい!」有賀と滝沢が僕の前に立ちはだかる。「てめぇら何しやがる!勝手な真似は許さねぇぞ!」田尾が駆けつけて2人を睨み付ける。同時に有賀の手を捩じ上げて“早退届”を奪還する人影が多数現れた。「Y、これ帰すわよ!」岩崎さんを筆頭に“お姉さま方”が集結し始めた。「事業部の事に手出しは認めないわ!Yは、25名のパートを預かっている責任者よ!職務遂行の邪魔は許さないわよ!」ピシリと言い放つと強制排除に取り掛かる。「他の事ならまだしも、仕事に関する事を盾に取るとは、問答無用!あなた達どこの事業部?責任者に言って不埒な真似を正してもらうわ!」と千春先輩も目を吊り上げる。「Y、これ、何なのよ?」有賀は下手に抵抗をし始める。「勝手な真似は許されないって事さ。個人的な事で、仕事の邪魔をすればどうなるか?分かっただろう?ここでは、O工場の論理や個人的な都合は通らないんだよ!“お姉さま方”をこれ以上怒らせる前に手を引け!」と言ってたしなめる。渋々、2人は引き揚げたが“お姉さま方”のお怒りは鎮まらない。「何なの?Yを“私物化”しようとしてるなんて信じられないわ!」と千春先輩が金切り声を挙げる。「ふふふ、あたし達と張り合おうなんて10年早いわ!千春、“回覧文書”を回してよ!あの2人を干してあげなくちゃ!」岩崎さんが不敵な笑みを浮かべる。「昨日もY先輩を困らせてましたよ!」実里ちゃんが更に追い打ちをかけると、千絵が「女子寮の掟をタップリと思い知らせてやるわ!」と燃え上がった。「あの2人、レイヤーの建屋に逃げ込んだわ!同期に手を回して思い知らせてあげる!」と神崎先輩も燃え上がった。「レイヤーのダチに言って置くぜ!“お仕置き”をお見舞いしろってな!」田尾も怒りに燃えていた。「あれではやって行けないのは明らかだ。“矯正プログラム”を組んでもらうしか無いな」僕はため息交じりに言った。「“矯正”では無くて“1からやり直す”べきだわ!」普段は大人しい宮崎さんも今日はお怒りだ!彼女は髪を緑に染めている不思議な方だが、いつも陰でみんなを支えている精神的な支柱でもある。その方をも怒らせた報いは、当然降りかかるだろう。「Y、あの2人の情報を教えなさい!あたし達に盾を突いたからには、無罪放免って訳には行かないわ!」千春先輩が僕の横に座った。「お手柔らかに願いますよ」と言って有賀、滝沢、五味、西沢の4人の情報を話した。「OK、直ぐに手配するわ!」千春先輩は内線をかけ始めた。「さあ、あたし達も手配にかかるわよ!」神崎先輩の号令で“お姉さま方”と田尾も動き出した。「こりゃとんでもない事になるな!」と言うと「当然です!一線を越えたんですから、相応の事は覚悟してもらいます!」と実里ちゃんが言い放った。これ以後、有賀たちは成りを潜めたと言うか、口を封じられて2交代勤務でシゴキを受けるハメになった。その証拠に、すれ違う事も無くなったのである。レイヤーパッケージ事業部の受注は好調で、休出に次ぐ休出も重なり増産に追われて行った。言うまでも無く“緑のスッポン”も否応なしに巻き込まれて、姿を見ることすら稀になったのである。女子寮でも、“要注意人物”のレッテルを貼られたのは言うまでもなく、厳しい監視下に置かれた様だった。

木曜日になると、寮内もやっと落ち着きを取り戻して、静かな時間が流れ出した。鎌倉の配属先は“総務部総合保全課”だった。A勤務と呼ばれる8時から5時の勤務帯だが、連日の残業で僕より遅く戻って来るのが日課になっていた。「何しろ広大過ぎて、設備も半端なく多いし、何もかもがデカイいんだよ!こんな巨大プラントを相手にするなんて想定外もいいところだ!」連日図面と格闘しつつ、鎌倉はボヤいた。「交代に放り込まれるよりはマシだろう?日曜日と祝日は確実に休めるんだから!」と吉田さんが言うが「訳が分からん!電力に水路にガスや危険物!あらゆる場所に何があるか?全てを覚えるんだぜ!脳のキャパを超えちまうよ!」と悲鳴を上げる。「女の子達だって2交代で365日連続稼働の世界に送られてる。そっちとA勤オンリーを秤にかけりゃ結論は簡単だろう?お盆休みだって何のしがらみも無く帰れるんだ。運がいいと思え!」と言ってやるが、「稼ぎは全く違う!俺は交代で稼ぐ事を選びたかったよ!」とむくれる始末だった。「だが、良い事もあるだろう?総務の“綺麗どころ”を毎日拝めるんだから!」と克ちゃんが言うと「唯一の救いはそれだな。土曜日に歓迎会でお相手をしてくれるってさ!」と少し上向きになる。「くれぐれも潰されるなよ!“薩摩おごじょ”は酒も強い!下手に調子に乗って飲み過ぎると、地獄を見るぜ!」と吉田さんがすかさず冷や水を浴びせる。「ゲッ!マジ?!ビールだけで済まないのか?」「お燗の付いた焼酎を飲まないとドヤされる!“水飲んでんじゃねぇ!”って総攻撃を喰らうぞ!みんな、それでコリてるんだ!」と肩を叩いて言い含める。「そんな・・・、聞いて無いぞ!」「聞いて無くても、それが現実なんだ。女の子だって“ザル”は大勢いるさ!それこそ“無敵艦隊”だよ!」と現実を教えてやる。「あー、一気に憂鬱になるじゃないか。Yもやられたのかよ?」「ああ、敢え無くノックアウトさ。みんなそうなる!そして、やっと一員として認められる。手荒いのが難点だがな。避けては通れない関門さ」「美人の前で無様は晒せない!対抗策は無いのか?」「無い!」3人で合唱する。「別の意味で頭が痛そうだな。日曜日は死んでるだろうな。くれぐれも起こさないでくれよ」鎌倉はスネた。「じゃあ、俺達は行って来るぜ!残業で遅くなるから、宜しくな!」吉田さんと克ちゃんは夜勤に向かった。入れ替わる様に田尾がやって来る。「Y、また知恵を貸せ!鹿児島日電の連中が仕掛けて来やがった!13対4で形勢は不利だ!何か手は無いか?」と喧嘩の作戦を立案しろとの仰せだ。「場所は?」「下井海岸を指定して来やがった!」「飛び道具が居るな。モデルガンかエアーガンはあるか?」「3丁しか無い。しかも、弾が切れたらそれまでだぜ!」「いや、まだ手はあるさ。鎌倉、消火器の更新がどうのとか言ってたよな?古い消火器はどこにまとめてある?」「Cブロックの排水処理プラントの裏にあるぜ。明日、業者に引き渡すが、それがどうした?」「本数は把握してあるのか?」「いや、廃棄するだけだから、台帳も何も無いよ」「鎌倉、ここから先は聞かなかった事にしてくれ!田尾、今夜中に消火器を10本ばかり手に入れろ!射程はスプレーより長いから、バズーカ砲の代わりにはなるだろう?」「ふふん!そう来るか!何となく読めて来たぜ!」田尾が不敵に笑いだす。「後は、釣り糸を50mばかり用意しろ!設置する高さは、足首の高さだ。それで陣地を形成する!逃げ道は背後にすればいい。前回の事を考えれば、奴らは接近戦を回避しようとするだろう。だから“腰抜け!”とか言って罵ってやれば、頭にきて前に来るはずだ。釣り糸に足を取られたところへ消火器をお見舞いすれば、目を潰せるし視界も悪くなる。後は、お前さん達の腕力で決めれば勝てるだろうよ!」「糸は2重3重か?」「180度で2重に張り巡らせろ!要は相手を転ばせればいいんだ。消火器の粉を喰らえば、呼吸も困難になる。粉を落とすには、海水で洗うしか無いんだから、人数が少なくても勝機はあるだろう?」「流石に抜け目がねぇな!じゃあ、ちょっくらと消火器を拝借してくるわ!陣地の図面を書いて置いてくれ!」「明日までに仕上げる。そっちも抜かるなよ!」「ああ、任せな!」田尾は勇んで出て行った。「お前、そんな事にも首を突っ込んでるのか?」鎌倉が呆れて言うが「成り行きだよ。同じ事業部に居たから避けようが無かった。でも、怪我はさせて無い!お互いにな」「悪知恵は、Yの独壇場だからな。研修の時に脱走の手口を考えたのも、お前だったよな?」「ああ、コンビニへ買い出しに行ったヤツだろう?あれは、今のよりは楽だったな!」研修期間中に、飢えた僕等は集団での脱走を敢行した事があった。その時に策を巡らせたのは僕だった。今でも忘れられない思い出だ。「ここでも、作戦参謀か。お前らしい生き方だな」「そうしないと、アイツらは傷だらけになっちまうし、上にバレたら大目玉さ。臨機応変にやってやれば仕事で協力してくれるし、目も瞑ってもらえる。何より信頼を得るのには、こうした事も面倒をみてやらないとな」「まあ、一理ありだな。女の子達にはどうしてる?」「マメに話を聞いてやったり、買い物に付き合ったりしてやれば喜ばれるな。鎌倉ならメカに詳しいから、車の修理とかメンテナンスをやってやれば、直ぐに仲良くなれるだろうよ。女性はボンネットすら開けないから、そこが付け目になる!」「相変わらず、抜け目無しだな。毎週末にYが居ない理由はそれか?」「どこから聞いてきた?」「田中さんからだよ。“Yは中々捕まらない”って言ってたぞ!」「優しい“お姉さま方”の注文は厳しいよ。あれやこれやと。聞かないと仕事に差し障るからな。ヘソを曲げられても困るんだ!」「全部で何人居るんだ?」「25名だよ。パートの“おばちゃん達”も含めれば、50名に膨れ上がる。それを回すのが、今来た田尾や徳田、それに自分さ。圧倒的に形勢は不利だから、機嫌を損ねるのは避けなきゃならない」「意外と苦労してるんだな。女ばかり50名かー。俺の手には余りある存在だな」「最初は、ビビッたさ。“どうやってバランスを取るか?”散々考えたよ。今は、自分の流儀を通させてもらってるがね」「“自分の流儀”か。いい事を聞いた。俺も“自分の流儀”を試してみるよ!ダメだったら、方向転換すればいいだろう?」「退け時をミスるなよ!それだけは見極めろ!」鎌倉との話は熱を帯びて続いた。

金曜日は何故忙しいのだろうか?毎週、朝から“飛び込み”も多く、出荷も集中する傾向は変わらない。だが、今月は徐々に押し戻す感じで仕事が進んでいた。一番頑張ってくれたのは“おばちゃん達”だ。明らかに目の色が違うし、競うように地板からトレーに返して行くのだ。“リスクの分散化”を目的にした僕の“弟子入り作戦”は、時間が経過する毎に結果を残しつつあった。最初は、2ロット程度の先行に過ぎなかったものが、今は10数ロットの先行に変わっているのだ。西田、国吉の2人を中心に、集団的かつ集中攻撃を繰り返せたのが大きかった。“飛び込み”が続いても、彼女達は果敢な攻めを繰り出しては乗り越えて行く。懐疑的な見方が無かったとは言えないが、効果が出ると“自分達で楽にしよう”と言う意識が働くので、1度転がり始めればプラスになるのは比較的に早かった。「こう言うことなのね。大勢でやれば、早く終わるから次が楽になる!」「次も終わらせれば、翌日も楽ができる。Yさんの計略はこれを狙ったとね?」西田、国吉の2名が僕の顔を伺う。「それもありますが、“飛び込み”があっても耐えられる様にするのが、最初の1歩ですよ。これから、出荷数量は加速度的に増えて行きますから、月末に向けて慌てない様にするのが今月の目標です。それには、僕が何でもカバー出来る様にならなくては!」こうして話している間も手は止まらない。随分と変わって来たものだ。「でもね、Yさんばかりに頼る訳にも行かないし、あたし達も努力しなきゃ!」「そうじゃね!風邪を引かれたりでもしたら、あたし達の責任だって言われそうじゃけん!」西田、国吉の両名が言うと、みんなが黙して頷いた。良い傾向だ。“今はこの路線を継続して行けばいい”と確信を持った。「Y、F社の金・銀ベースはどこだ?」徳永さんが見に来た。「もう検査に回ってますよ。“飛び込み”のロットも投入は済んでます!」「ほえ!随分と飛ばしとるな!その他は滞っておらんのか?」「大丈夫ですよ!連絡は絶えずとってますし、必要なキャップもベースも既にあります!」トレーを返しに来た神崎先輩が言う。「何!どれだけ先行しとる?」徳永さんは顎を外しそうになった。「約3日ってとこですね。Y、悪いがTI台湾の金ベースを入れてくれ!若干だが足りないんだ!」「了解です。僕がやりましょう。皆さんはこのまま進めて下さい」と僕が言うと「Y、返せるのか?」徳永さんが驚く。「あたしが伝授しました。安心して任せられます」と国吉さんが胸を張る。「“弟子入り”したとは聞いていたが、こんな短時間で習得したのか・・・」徳永さんは絶句した。「Yの底力、恐るべし・・・」「まだまだだ!Y、最速タイムは更新しておらんのだろう?手を緩めずに前へ進め!」“安さん”が乱入して来るとバシバシと肩を叩く。「徳永、Yの力はこんなモノでは収まらん!もっと尻を叩け!検査の尻も叩いて歩け!1ヶ月先行するまで手綱を引き締めろ!」と言うと検査室へ入って行く。「お前ら、Yのところに製品が唸りをあげて転がっとる!サッサと引き取りに行かんか!」と発破をかけて行く。「1ヶ月の先行?!まさか、本当にやるつもりか?」冷や汗を拭いながら徳永さんは“安さん”の後を追った。「あんな顔、初めて見るね!」「本当、今までに無い顔を見た気がする」牧野、吉永の両名がクスリと笑う。やがてみんなに伝染して行った。

「Y-、お疲れー!」岩崎さんがキーを放って寄越す。スカイラインを始動させると、気ままに街を駆け抜け始める。曲は“Drifter”。アルバム“For East”のスタートの曲だ。“放浪者”の意味で、僕等の気ままな旅にはふさわしいと思い、カセットを流した。「“木綿のハンカチーフ”とは、まるで別物ね」「ええ、1年間のニューヨーク滞在の後にリリースされてますから、アレンジも含めて全くの別物ですよ」「ニューヨークか。摩天楼が林立する街へ行きたくならない?」「2人なら行ってもいいですよ。でも、豚骨ラーメンは出ませんよ!」そう返すと、彼女はクスリと笑った。「気に入った!鹿児島市内まで飛ばして!今夜は寝かさないから!」「はい、仰せの通りに!」“正妻”の機嫌はこの上なく良い。国道10号を流れに任せて快調に飛ばして、市内のモーテルに入って行く。「久しぶりだから、ゆっくりと脱がせて」と彼女は言う。華奢なラインには不釣り合いな形の良い乳房に触れ、ロングスカートを落とすと、白いレースをあしらったパンティが現れる。「まだよ。坊やをあやしてから」と彼女は言うとトランクスを剥ぎ取り、舌を使う。「“ちーちゃん”はしてくれたの?」と尋ねて僕が頷くと吸い付いて舌を這わせた。「あたしだって負けないわよ」と嫉妬を隠さない。“正妻”を言うだけの事はある様だ。パンティを片足に残すとベッドに横になり「来て」と言う。激しく身体を動かして僕を受け止め「もっと・・・、もっと・・・突いて!」とうわ言の様に喘ぐ。初回が終わるとバスルームで汗を流し合う。身体を洗ってやると「初めてよ。気持ちいい!」と言って笑う。バスローブに身を包んでソファーで抱き合うと「美登里は、Yを追って来たと思うの。貴方を連れ戻す魂胆でね」と言った。「冗談でしょう!アイツはハナから“圏外”ですよ!」と否定すると「貴方にとっては“圏外”でも、彼女にすれば“圏内”に置いて置きたい人かもよ。滝沢にしても、“是が非でも手にしたかった”はず。ライバルの芽は早く摘んでしまわなくては、安心できないの!」と腕に力を込めた。「怖い。怖いのよ。貴方を失うのが何よりも怖いの!」と言うと頬に一筋の光が伝った。優しく拭いてやると「行かないで!お願いだからここに居て!」と顔を胸に埋めて泣き出した。「馬鹿な事言わないで。置いて行くものですか!」しっかりと受け止めて抱いてやると、何度も頷いてから泣き顔を上げた。涙を拭いてやり、外を見た。桜島が目の前に聳え立っている。「僕は帰らない。薩摩に根を降ろす」と言うと、やっと彼女は微笑んだ。久しぶりに恭子を抱いて、僕は決心を固めた。「我は、薩摩に根付く!」恭子は嬉しそうに馬乗りになった。「Y、2回戦始めるよ!」泣いたカラスが笑っていた。

life 人生雑記帳 - 57

2019年10月28日 14時58分30秒 | 日記
午前5時、けたたましく目覚ましが鳴りだした。上のベッドでゴソゴソと音がすると、克ちゃんがあくびをしながら着替えを始めた。土曜日の朝だが、克ちゃんは4直3交代勤務なので、曜日に関係無くご出勤だった。「わりぃ。起こしちまったか?」「いや、構わんよ。吉田さんは?」あくびをしながら僕が聞くと「残業だろうな。まだ戻ってないよ」と返事が返って来た。3人3様の時間帯で生活し始めて1ヶ月近くが経過していたが、3人揃って休みの日と言うのは今もって無い!「お前さんは、早番オンリーだけど、懐具合はどうなんだ?」と克ちゃんが言う。「それなりさ。克ちゃんの稼ぎには及ばないよ」と言うと「夜勤は儲かるぜ!今からでも遅くはねぇから、配置転換を希望したらどうだ?」と言われる。「そうしたのは山々だが、こっちにも“大仕事”が振られて来てる。それを放り出すのは認められないだろうな。もう、完全に取り込まれてるからな!」「第3次隊の連中もそうなる運命だ。知らぬ内が花さ。現実は甘くないって事を伝えて置けよ!どっち道、俺は歓迎会に顔は出せないからな」と克ちゃんは自嘲気味に言う。「ああ、そこら辺はきっちりと言っとくよ。向こうの常識は通用しないってな」「頼んだぜ!じゃあ、俺は行ってくる!誰が入って来るか知らねぇが、時間帯がズレてるってきちんと説明してくれよ!俺達が寝てる脇で騒ぐな!って釘を刺しといてくれ!」と言うと克ちゃんは仕事に向かった。「さて、寝直すか」とベッドに横になったところへ「Y、起きろ!お姉さま方からお呼び出しだぞ!」と田尾がシーツを剥ぎ取った。「インターフォンが入ってる。5番に出ろ!」と言う。「朝から何の騒ぎだ?今日は何も予定は入ってないぞ」と止む無く起き上がると「予定は向こうが決めるらしいな!岩崎が待ちくたびれてるぜ!」と鼻で笑われる。1階へ降りて5番のインターフォンに出ると「Y、昨日はどうだった?千春を満足させられたかな?」とクスクス笑っている岩崎さんの声が聞こえる。「それは、本人に聞いて下さいよ。日付を跨いでの帰りだったから、まだ眠いんですが・・・」と言うと「精気をすっかり抜かれた様ね!千春はどんな感じだった?」とたたみかけられる。「“ちーちゃんと呼んで”って言われまして・・・、疲れましたよ」と言うと「えっ!Y、今“ちーちゃんと呼んで”って言ったわよね!マジなの!」と声のトーンが跳ね上がった。「ええ、ご本人の強い希望でそうなりましたが、どうかしました?」「千春が“ちーちゃん”を言い出したとなると、彼女本気で奪いにかかってる証拠よ!千春が本気になったとなると、ヤバイ事になりそうだわ!また、“山口組の抗争”が勃発するわよ!それに、あたしの描いた構図にも狂いが出るの!Y、悪いけど非常招集よ!直ぐに支度して出て来てちょうだい!朝食を食べながら作戦会議よ!30分後に迎えに行くから急いでね!」と言うとインターフォンは切れた。「寝ても覚めても暇は無しか」僕は急いでシャワーを浴びると、寮の玄関前に急行するハメになった。

待機していたスカイラインに乗り込むと、岩崎さんは急発進をかけた。後部席には永田ちゃんと実里ちゃんも居た。「おはようございます」と言うと「Y先輩、実にヤバイ事になりましたよ!」と永田ちゃんが深刻な顔で言った。「“ちーちゃん”が出たと言う事は、予定外のハプニングじゃなくて、実に危険なサインなの!まずったわ!千春の心を読み違えるとは、迂闊だった!」と岩崎さんも唇を噛んでいる。僕にはさっぱり分からないが、彼女達にすれば一大事なのは間違い無さそうだ。車は海岸沿いの喫茶店に突っ込んで停まった。ボックス席で朝食をオーダーすると「Y、確認なんだけど、千春は“ちーちゃんと呼んで”の“範囲”を指定したの?」「ええ、“2人だけ”になった場合に限りと言われてますが」と言うと3人は一斉に安堵の溜息を洩らした。「指定されたなら、まだ手は残されてるわね。みんなの前で“ちーちゃん”が横行したら、血を見るだけでは済まないのよ!全てが崩壊するかも知れないの!千春が“ちーちゃん”を許可するって事は“誰よりも信頼するわよ!あたしを自由にしていいわよ!”って意味なのよ!悪いけど迂闊に“ちーちゃん”とは呼ばないでね!」と岩崎さんはコーヒーを飲んで言った。「それにしても、厄介な事には変わりがありませんね!“ちーちゃん”が出た以上は、これまでよりも神経を使わなければなりませんから!」と永田ちゃんも言う。「男性に対しては、初めてじゃないですか?」と実里ちゃんが言うと「そうなのよ!しかも、相手がYでしょう?どうやって封じるか?頭が痛いわ!」と岩崎さんも応じた。「“ちーちゃん”を言い出したのは、千春先輩ですが“イエローカード”なんですか?」と僕が聞くと「“レッドカード”なの!“Yと結婚します”と同じ意味よ!だから、困ってるのよ!」と岩崎さんに思いっきり釘を打たれる。「しかし、知り得ているのは、Y先輩と千春先輩とあたし達だけです。この中で封印してしまえれば、実害は免れませんか?」と実里ちゃんが言う。ちょうどモーニングセットが届いたところだ。「そうね。この中で封印してしまえれば、最善なのよ。でも、代わりの手も考えないと千春が爆発しかねないわ。さて、どうやって口封じに持ち込もうかしら?」3人はしばし思案に沈んだ。「千春先輩が納得した上で、“ちーちゃん”を封じる・・・か。まずは、公式の場では言わない事!これは当然ですが、千春先輩とはどう折り合います?」僕が言い出すと「Yには悪いけど、明日も千春の“生贄”になってもらうしか無いわね!果実で釣り上げてから、“ちーちゃん”を限定的にしか使わない様に説得するしか無いでしょう!千春に言い聞かせるのは、あたしがやるとして、実里と永田ちゃんはYの口元に注意してもらう。これしかないわ!」「でも、Y先輩なら口が滑る心配はしなくてもいいのでは?」と実里ちゃんが言うが「万が一に備えるのは、王道よ!Yだって完璧では無いの。監視の目は必要だわ!」と岩崎さんは主張した。女の子達は殊更に気を遣う。針1本でも見逃すつもりはない様だ。「Y、千春から連絡させるから、明日は予定を入れないでくれない?何事もこの先の平和のためよ!千春のワガママに、もう1日だけ付き合ってあげて!そうすれば、実害が出ない様に封印するから!」岩崎さんはそう言って釘を打った。「分かりました。平和のためなら、何でも致しましょう」と息を殺して返した。「さあ、行動開始よ!でも、ちょっとだけ遠回りしてから戻ろうか?Y!」岩崎さんがキーを投げて寄越した。「じゃあ、また、最速記録を叩き出しますか?」と僕が言うと3人が微笑む。こうして、朝の騒動は幕を閉じた。寮に帰るとトラックから大量の荷物が搬入されていた。いよいよ、第3次隊の受け入れが始まったのだ。

部屋に帰り着くと、吉田さんは眠っていた。そーと、必要な物品を揃えると、僕はずっとやりたかった仕事にとりかかった。国分に来てから僕は“ワープロ”を手に入れていた。欠勤届や早退届の類は、原本を使われると新たに作ってもらうのに、手間と時間を必要とした。コピーの原本を複数作成出来れば、余計な心配をする必要もなくなる。時間はたっぷりあるのだから、こう言う時間にまとめて作成するには持ってこいだった。フロッピーにデーターを保存すると、感熱紙を使って試し刷りをして行く。仕上がりは順調だった。これで、コピーを大量に取れば、しばらくは心配することも無いだろう。昼前になったので、作業服に着替えて社食へと歩き出した。しばらくすると肩を叩かれた。「久しぶりだな。お前さんが週末に居るとは、珍しいな」と長老の田中さんが言った。「そうですね。“優しいお姉さま方”にずっと誘われてましたからね」と言うと「“薩摩おごじょ”は豪快だな。酒も強いし話も上手い。ウチは4人だが、Yのところは何人居る?」「年齢を問わなければ50人居ますよ。半分はパートさんですがね」「花園で勤務か!羨ましいね」「いばらの道ですよ。強烈な“おばちゃん達”と渡り合うには“通訳”が必要ですから」と言うと田中さんは噴出した。「確かにそれは分る!半分も理解出来ればいい方だ。今度、着任する連中も同じ苦労を味わうハメになるな!」と言って笑った。「勤務は?」と聞くと「夜からだよ。昼間起きてないと寝れないから、仕方なくこうしてるだけさ」と返して来た。あれこれと話して昼食を食べ、寮に戻るとダンボール箱の移動を手伝った。女子寮に運ぶダンボール箱は結構な量があった。一汗流して談話室で休んでいると、インターフォンが鳴った。誰も居ないので仕方なく出ると、相手は千絵だった。「Y先輩、これから空いてますか?」「ああ、今のところは空いてるがどうした?」と言うと「買い物に付き合ってくれません?買い溜めするから、荷物持ちお願いしてもいいかな?」と言うのでOKすると「じゃあ、15分後に車付けますからお願いします!」と嬉しそうに言った。そそくさと着替えて、財布と免許証を持つと玄関を出る。千絵のマーチは既に横付けされていた。「運転任せます!」と言うので、マーチを市内に向けて走らせる。「何を買うか決めてあるのか?」と言うと「日用品と食料品だから、2ヶ所に行くわよ」と明るく笑って左手に右手を重ねて来る。“千絵となら未来が見えるのかな?”とフッと思った。同じ事を考えていたのか分からなかったが、千絵は横顔を見て「毎週、こうして買い物に行くのが夢よ。明るく楽しい家庭を築きましょう!」と言った。「いつからにする?」と聞くと「明日からでもいいよ。あたし、待ってるから!」と力強く言った。千絵の笑顔が眩しかった。

日曜日、赤いスタリオンは、錦江湾の東沿いを南下して、佐多岬を目指していた。「昨日、恭子に散々怒られたわよ!“大奥取締役が抜け駆けしたら、何も意味が無いでしょう!”って力説されて、延々とお説教!でもね、あたしは“一番槍”を取るわよ!見事に男子を挙げるからね!」ちーちゃんは挫けてはいなかった。2人だけの時は“ちーちゃん”と呼ぶが、公の場では今まで同様に“千春先輩”と呼ぶ事で合意した様だが、彼女は意欲満々で助手席に座っていた。デニムのミニスカートにチェック柄のタンクトップ。ノーメイクだが、肌は透き通る様に白い。明らかに“連れ込む”算段だろう。化粧道具を持参しているが何よりの証拠だ。問題は“いつどこで仕掛けて来るか?”だった。何故なら、ちーちゃんの右手は、既に僕の下半身を触っているからだ!「ちーちゃん、余り刺激しないで下さいよー」と言うが「Yの息子は良く知っておる。良いではないか!早くあたしの元へ来るがいい!」と笑っている。これは、半分拷問だ!恐らく、仕向けたのは岩崎さんだろう。条件提示の段階で、ちーちゃんの要求を飲んだ結果がこれなのだ。朝からこの調子では、先が思いやられる!鹿屋付近を過ぎると、対向車線から車が来るのも少なくなった。「Y、あそこに停まってよ」ちーちゃんが路側帯を指した。鬱蒼と枝が茂っている中へ車を停めると、ちーちゃんは襲い掛かって来た。唇を重ねている間に助手席が倒されて、ベッドの代わりになった。「Y-、おっぱいちゃんだよ」と言ってブラのホックを外すと、豊満な乳房に触らせる。巧みに体をくねらせると、スカートを脱いでパンティに僕の手を持って行く。湿り気を帯びているちーちゃんのハンティの中に手を入れてやると、嬉しそうに声を上げ始める。「お願い、早くしようよー」知らぬ身体ではない。ちーちゃんの中へと息子を入れていくと、たちまち喘ぐ声が高まった。「あん!もっと・・・、いっぱい・・・突いてちょうだい!」ちーちゃんは首に腕を巻き付けると、何度もキスをしながら突きをねだった。猛然と突きを入れてやると「あー・・・・、あーあー・・・、イク・・・あたし、いっちゃう!」と腰をくねらせた。ありったけの体液を注いでやると、痙攣しながら1滴も余さずに吸い取った。「気持ち良かった。Y、ティシュ取って」と言うと、ちーちゃんは溢れる体液を拭き取り、僕の息子も拭いてくれた。「抱いて」と言って膝に座り込むと、ピッタリと密着して「出来るといいね」と妊娠を願う。その表情は真剣そのものだ。「Y、このパンティあげるよ。濡れちゃったし、着替え持ってるから」ちーちゃんはあっけらかんと言う。この底抜けの明るさこそ、ちーちゃんの魅力だろう。どうにかして、お互いに服を着ると再び車を走らせる。佐多岬ロードパークまでは、まだ先があった。だが、ちーちゃんは我慢が続かなくなってしまったらしい。「Y―、もう1回しようよ!」と盛んにおねだり大作戦を展開し始める。「しょうが無いなー!」と諦めると急遽、鹿屋へ転進してモーテルを探す。やっとの思いで空き部屋を見つけると、ちーちゃんは直ぐに部屋へ僕を押し込んでから、服をもどかし気に脱ぎ捨てて、襲いかかって来た。応戦しつつ、後ろから猛然と突きを入れてやると、たちまち理性をかなぐり捨てて「もっと・・・、もっと・・・、いっぱい突いてちょうだい!そうよ・・・!もっと激しくして!」と喘ぎながら言って、自らも腰を動かし始めた。身体を入れ替えて正面から突くと「気持ちいい・・・!中よ・・・!中に出して・・・!お願い!」と盛んに言って脚をクロスさせて、逃さない態勢を取った。大量の体液を注いでやると「気持ちよかった。Y,頑張ったね」と言ってから、僕の左側に寄り添うと胸元に顔を埋めて目を閉じた。ちーちゃんは、スヤスヤと眠りの世界へと入って行った。乱れた髪を直してやりながら、寝顔を見るとカワイイ顔をしていた。シーツでそっと覆い隠すと、もう一度寝顔に見入る。女の子の寝顔なんて滅多に見られるモノじゃないので、しばらく観察していると、ちーちゃんが現実の世界へ戻った。「ごめん!あたし、今まで寝てた?」「うん、スヤスヤと」「どうだった?あたしの寝顔は?」「可愛かったですよ!寝言を除けば」と言うと「何ていったの?教えなさいよ!」と馬のりになって問い質す。豊満な乳房に手を伸ばして、乳首に刺激を加えてやると「ダメよー!また、したくなっちゃうー!」と身体をくねらせた。ちーちゃんも、僕の息子に触ってパワーを入れようとし始める。「元気にしてあげる!だから、もう1回頑張ってよ!」ちーちゃんは、舌を使って息子にエネルギーを送り込んだ。「今度は、あたしが上よ!あっ・・・、大きい・・・、Yのが根元まで・・・入ってるよ!じゃあ、動くね」と言うと、たちまち理性をかなぐり捨てて、喘ぎ声を出し始める。下から突き上げてやると、悲鳴に似た声をあげて「もっと・・・、もっといっぱい・・・突いて下さい!・・・突いて下さい!」とねだった。再度、背後を取ると猛然と突きを入れてやる。「いい・・・、気持ちいい・・・!あたし・・・、イク、いっちゃうよー!」ちーちゃんは絶頂に登りつめた。同時に体液が注がれる。ちーちゃんは、ベッドに横たわると、僕の体液を指ですくってホールへと押し込んで行く。「気持ちよかった。これで妊娠出来るかな?あたし、Yの子供欲しいの!」と言う目は真剣な眼差しだった。それからは、バスルームでシャワーを浴びながら、互いにボディソープを塗り合って遊び出した。バスタブに湯を張ってから、2人してゆっくりと浸ると「お腹が大きくなる前に、ドレスを着たいから今回は期待してるのよ!絶対に当てるからね!」ちーちゃんは、その気満々だ。「Y,あたしを置いて行くな!妻として何処までも共に歩むからさ!」抱き着いて来るちーちゃんを僕は優しく抱きしめた。結局は、もう一度の熱戦をして、佐多岬ロードパークには行かずに、国分の街へと帰ったのだが、ちーちゃんの機嫌はすこぶる良くなり、ちーちゃんと呼んで問題は無事に決着したのだった。「アンタ、相当に頑張った見たいね!千春の晴れやかな顔を見れば一目瞭然!Y,お疲れ様でした。次は、あたしの番だから、覚悟してなさい!」夕方に入ったインターフォンで岩崎さんが言った。「少しは、休ませて下さいよ!」と言ったが「ダメよ!大奥の掟は厳しいの!正妻の顔は立てなさい!」と敢え無く撃沈の浮き目にあった。「こりゃ、痩せるな。しっかり食べないと体力が続かない」僕は作業服に着替えると社食で目一杯食べて、翌日に備えた。

月曜日、月が代わって6月。南九州一帯の梅雨入りは、間近に迫っていた。全体朝礼に備えて整列していると「Y,昨日はありがと!」と千春先輩が後ろから抱き着いて来た。「はい!そこまでよ!千春、Yは共有財産なのよ!控えてちょうだい!」と岩崎さんに引き剥がされる。「Y,結局、何試合したのよ?」彼女は入れ替わり際に囁いた。僕は黙して指を4つ立てた。「ボクシングのタイトルマッチをしてから、アメフトの試合に出た訳ね。分かったわ、今日は仕事で無理はさせないから!」と言って列に並ぶ。延々と続く朝礼を乗り越えて、おばちゃん達との格闘も済ませると、1日はあっと言う間に過ぎ去った。「Y先輩、帰りますよ!」と千絵が呼びに来る。寮に向かって歩き出すと、後ろから第3次隊、50名が着いて来る。「道を譲るよ」と僕が言うと左側に寄って、隊列を先に出させた。数名が僕に気付いて手を上げた。「Y先輩、お知り合いですか?」と千絵がボケをかます。「全員が知り合いだよ!来月に第4次隊が着任すれば、今回の派遣隊全員が揃う。先月に着任したのを忘れたか?」と返すと「あっ、そうか!でも、Y先輩は元々居た様な気がするんです」と永田ちゃんが言う。「それだけ、Yの存在感は大きいって事よ。今回も誰か配属されるのかしら?千春、何か情報は?」「今のところ無し。ただ、レイヤーとディップで駆け引きしてるのは確か。押し付け合ってる感じらしいわ」と不穏なニュースを聞いた。「まあ、明日になれば分かるさ。今晩は、ヤツらの出方を伺うとしましょう!」僕等もゆっくりと寮へと歩き出す。「今回は、女の子が多いのが特徴的だよね。女子寮も久々に満杯になるのよ。各部屋へ分散するけど、どんな子が来るのかな?Yを付け狙う子は居そう?」岩崎さんが心配気味に言う。「厄介なヤツは居ませんよ。例え居たとしても、これだけ厳重にガードされてるんですから、付け入るスキはありませんね!」「そうだといいけど、予防対策はしっかりと取りますからね!」と女性陣は奪取されぬ様に厳戒体制を敷いている様だ。「好きな様にして下さい。どの道、みんなバラバラの時間帯に放り込まれるんです。すれ違う暇すらありませんよ!」僕は差して気にもしなかった。寮ですれ違う事でさえ稀な事なのだから、己の事で手一杯になる明日からの生活で余裕は無いはずだ。寮の玄関先で「また明日ねー!」と手を振り千絵達は女子寮へと入って行った。田尾と僕もそれぞれの部屋へ急いだ。誰が来るのか?皆目見当が付かないからだ。克ちゃんが爆睡中だし、吉田さんもTVの前で寝ている。部屋のドアには何も表示が無い。「セーフか?」と思っていると、ゴソゴソと音が聞こえた。「よお!」と言って現れたのは、同期の鎌倉だった。慌ててヤツの口を塞ぐと「静かにしろ!寝てる連中に袋にされちまう!ここでは、みんな違う時間帯で生活してる。騒いだらタダじゃあ済まない。手伝うから静かに運べ!」と言って荷物を運んでやる。吉田さんも起きてくれたので、鎌倉の荷物運びは、直ぐに終わった。「ベッドは僕の上を使え。細かい作業は、克ちゃんが起きる午後7時以降にしてくれ。どの道、寮長からの説明会だろう?」と言うと「お前さんは上がりか?」と言うので「僕は早番オンリーだが、吉田さんは3交代、克ちゃんは4直3交代だ。残業だってバンバンあるから、定時上がりは稀なケースさ!」と説明会をしてやる。「思ってる以上に過酷だな。コンビニはどこだ?」「無いよ!向こうの常識は通じないんだ!それから、調味料も丸で違うから、ここの味に慣れるまでは味噌と醤油は節約するんだな。ちなみに、醤油味と塩味のラーメンは無いから、覚悟して置け!」と釘を刺した。「マジ?!そんな中でどうやって生きてくんだよ?」「“住めば都”だろう?大丈夫だ。慣れればどうって事は無い」と吉田さんも言う。「さあ、談話室へ行け!詳しい話は、それからだ!」鎌倉は肩を落として階段を降りて行った。「最初はあんなもんさ。その内慣れるだろう。後の世話は頼んだぞ!俺達は仕事があるからな」と吉田さんが言う。「鎌倉で良かった。アイツなら妙な事はしないから、安心ではありますよ」「ああ、ヤツなら直ぐに女の子とツルんで遊び回るさ。お前さんの様にな!」「お姉様方に遊ばれてるんですが?」「同じだろう?」「違いますよ!」僕等は意見の相違を言い合った。時を同じくして、談話室でも言い合いは始まっていた。そして騒ぎは僕にも降り掛かって来た。「Y,助けてくれ!美登里が騒いでるんだ!鎮圧に手を貸してくれ!」田中さんが青ざめた顔でやって来た。「“緑のスッポン”がですか?!何故ヤツが国分に?」「直前になって入れ替えがあったんだ。本来なら向こうに釘付けになるはずだったのに、やむを得ない事情で送られるハメになったらしい。ともかく火を消すのに人が足りないんだ!何とか封じ込めるしかあるまい!」田中さんも唇を噛んでいる。1階へ降りると、激しいやり取りが聞こえた。「あたしは、不条理を指摘しただけです!!男子寮に空き部屋があるなら、そこを使わせて下さい!バラバラにされたら、連絡も容易には付きません!変えて下さい!!」美登里の金切り声は、相変わらずキンキンと響く。「ともかく、連れ出そう!Y,このままでは、他の連中の迷惑になるだけだ!行くぞ!」僕と田中さんは、素早く美登里を捕捉すると、有無を言わさずに談話室から屋外ヘ引きずり出した。

「離してよ!何をするの!」美登里は抵抗するが、僕と田中さんの手で、寮の外ヘ連行された。「初めに言って置くが、“郷に入れば郷に従え”と言うだろう?ここは、国分なんだから国分のルールに従うのが筋だろう?自己都合を押し付けて、みんなを困らせるな!」田中さんが、いつになく語気を強めて、美登里を黙らせる。「お恥ずかしいったらありゃしない!部屋割り1つであの騒ぎか?信頼を得るには、黙々と努力を積むしか無いが、失うのは一瞬でおじゃんさ!第1次隊と2次隊のみんなの顔に泥を塗る真似は許さんぞ!立場をわきまえろよ!」と僕も半分脅しをお見舞いする。「でっ、でも、各部屋にバラバラにされたら、連絡も取れなくなります!納得出来ません!大体、事前に根回しをして無いなんて、信じられない!みんな、受け入れ準備すらして無いじゃありませんか!無責任過ぎます!」美登里は悪びれる素振りも見せずに言い返した。「田中さん、向こうに連絡して強制送還の依頼をして下さい!これでは話になりませんよ!君は帰った方がいい。協調性の無い自己中心的な考えは通じないんだ!旅費は出してやる!だから帰れ!」と美登里を突き放した。田中さんは早速、O工場に電話を入れに行った。「そんな命令は無効です!不条理に立ち向かって何が悪い訳?」「アンタの理論では不条理かも知れないが、僕達には不条理とは見えないぜ!そもそも軒先を貸してもらうんだ。ありがたくお世話になるのが、普通じゃないか?」「それは男性だから言えるんです!女性の立場に立って、考えてくれなければ困るんです!」議論は平行線を辿ったままだった。“緑のスッポン”は石橋を叩き壊しても渡らない頑固者だ。田中さんが「美登里、総務部長が呼んでる!電話に出ろ!」と呼びに来た。美登里は、仕方なく受話器を取る。「Y,アレどう言う事?」千春先輩が聞いて来る。彼女は寮生会の幹部でもある。「見ての通りの頑固者ですよ!自分の我が通らないと、気が済まない悪癖があるんですよ。協調性の欠片も無い“鼻摘まみ者”で通ってます。すみませんね。皆さんの気分を害してしまい、お詫びのしようもありません。寮長さんに頭を下げて来ます。田中さん、いいですか?」「済まんが頼む!後で、1次隊と2次隊の隊長も行くと伝えてくれ!」「そんな!Yが土下座する必要は無いのに!あたしが取りなすから、止めときな!Yの責任にされちゃうよ!」千春先輩は止めに入ろうとするが、僕は聞かなかった。憮然とした表情の寮長さん達に詫びを入れて土下座を繰り返した。第3次隊の連中も必死になって詫びを入れ始める。「分かりました。もうその辺で頭を上げて下さい。Yさんに、こんな事されたのが知れたら、私が吊るされますよ!そうでなくても、現に睨まれてますから」と寮長さんは、慌てて僕の土下座を止めた。女子寮の幹部達が、僕を助け起こすと「Yの責任にしないで!やむを得ない事情があったんだからね!」と千春先輩が言い放った。「それは分かってるさ。彼が、どれだけの信頼を勝ち得ているか?を考えれば、女子寮の意向は無視出来ない。彼にかかっている期待と仕事も含めれば、罪に問える訳ないよ!」と寮長さんは言って、女性陣の追求を逃れた。「Y、ちょっといいか?」田中さんが呼びに来る。美登里はうつむき加減で、受話器を握りしめていた。「総務部長が、話たいそうだ!代われ!」僕は受話器を握りしめて話に耳を傾けた。美登利が、派遣隊に加わった経緯から説明されたが、現実に美登里が引き起こした“騒動”に話が及ぶと、総務部長の声は上ずり氷漬けになった。「信頼関係を一瞬で破壊されたんです!明日中には、国分全体に話が拡散するでしょうし、我々も釈明に追われるでしょう!Oの恥を晒す真似は許されません!部長!美登里は引き上げにすべきです!」と僕は釘を打った。「Yからそう言われると、無下には出来んな。お前さんの評価は、群を抜いて高いし期待も大きい。ウチのエースが無理だと言うなら、従うのが筋だろう。分かった!高山美登里は、引き上げとする!代替え要員は、1週間以内に派遣する。工場長、それで宜しいですか?」どうやら、会話はオープンマイクで聞いていたのだろう。工場長は、即断で引き上げを了承した。「詳細は、これから国分の方と詰めるが、そちらに迷惑をかけるつもりは断じて無い。田中さんにもそう伝えてくれ!Y,済まなかったな。大変だろうが、頑張ってくれ!」と言うと電話は切れた。「どうだ?」詫びを入れに行った田中さんが戻った。「引き上げが決まりそうです。O工場の恥は晒せない。工場長も同意した様です。我々に迷惑はかけないから、安心しろと言ってました」「やはりそうか!美登里、責任は取れ!我々の顔に泥を塗った罪は重いぞ!」彼女は蒼白で頷いた。寮長さん達の説明会が終わると、3次隊の連中が談話室から出て来た。一様に美登里を睨み付ける。1人の子が美登里の手を引いて、女子寮へ向かった。「“緑のスッポン”を派遣した方が間違ってるんだ!」「Y,済まなかったな!」男達は僕の肩を叩いて言った。「先が思いやられるな。これで終わりとは行かんだろう。爆弾を抱える覚悟はして置こう!」と田中さんは言った。実際、騒動はこれで終わらなかった。

life 人生雑記帳 - 56

2019年10月28日 14時35分43秒 | 日記
「Y先輩、1言お願いします!」千絵に言われて立ち上がったものの、僕は何を話していいか?分からなかった。すると「あたしから質問してもいい?」と神崎先輩が立ち上がった。「今の心境は?」「緊張して頭の中が真っ白です」と言うと笑い声が起こった。「美女の集団に囲まれて、戸惑ってるって感じかな?いつもの切れが無いわねー!リラックスして聞いて!別に噛み付くつもりは無いもの。鹿児島に来て1番驚いた事は?」「コンビニが近くに無い事。それと自販機が少ない事かな?」「コンビニは分かるけど、自販機はどうだろう?長野だともっと多い訳?」「公園や道端や駅に“これでもか!”ってくらいにあるので、そう感じるのかも知れません。タイプもモデルも違いますし」「どう違うの?」「歩道にはみ出さない様に全体的に薄く作られてますね。“スリムタイプ”と呼ばれてますよ。品数も多いですし、地域限定品もありますね。黒ビールなんかは向こうにしか無いかも」「黒いビール?金色じゃなくて、真っ黒?」「炭みたいに黒い訳では無いですよ。茶色のやや黒みがかった色って言えば分かります?」「何となく想像してるけど、黒は予想外だわ。他に無いモノは?」「インスタントラーメンの醤油味と塩味ですね。味噌味は見かけますが、他は陰も形も無いのがショックでした」「ここは、豚骨が主流だから諦めて!貴方の基本的戦略は?」「風林火山ですね!」「武田信玄か。原典を言える?」「“疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷振の如し”」「流石、Yだわ!スラスラと出て来るのが貴方らしいわ。現代語訳を言える?」「物凄く簡単に言うと“進むときは風の様に早く、機を待つときは林の様に静かに、攻めるときは火が燃え広がるように急激に、じっとしているときは山の様にどっしりと、自分自身は暗闇の中にいる様に気配を消して、動くときは雷鳴が轟く様にドーっと、行動にはメリハリを付ける事が肝要であり、中途半端はダメだ。1つ1つの行動に全力で取り組まなくてはいけない”と孫氏は言っています」「やっと乗って来たじゃない!それでどうやって勝つのよ?」「誤解しないで欲しいんですが、孫氏の兵法の基本は、“戦わずして勝つ”なんです。如何に兵力を温存して相手を挫くか?時には引く事も考えるように、孫氏は言ってます。“撤するは恥にあらず。勇気を持って引くに際しては戦いを避けよ”とも言ってます。もっとも、今は引いてる場合ではありません。勇気を出して戦わなくてはなりませんよ。そのために私は選ばれたのでしょう。“安さん”が言ってました。“最初の2ヶ月は思う通りにやって見ろ!笛吹けど踊らずか?全員が踊るか?俺は後者に賭ける!お前をあそこに据えた真価を見せてみろ!必要な支援は、直ぐにしてやるから遠慮なく言うがいい!”と。ですが、正直に言うと引き継いだはいいが、何から手を付けて行くか?最初は全く分かりませんでした。しかし、問題点は直ぐに見えました。余り前任者の事を悪く言うのも気が引けますが、岡元さんは“放牧状態”で仕事をしてましたよね?統率を取って居なかったに等しい状態なんです。だから、“おばちゃん達”もお喋りに夢中になると手が止まるし、ふざけ始める。これを是正するとなると、相応に手がかかるし、時間も必要です。もう1つは、“情報の伝達”を怠っていました。朝礼で伝えるべき事を伝えていなかった。これは、意思疎通が全く取れていない証拠でもあります。そこで、まず考えたのは、伝えるべき情報を“漏れなく伝える”事です。朝礼のやり方は変えていませんが、関係がある事は、例え些細な事でも余す事無く伝える様にしてます。そして、みなさんご存じの“ボード”です。あれの目的は“情報の可視化”です。“言った、言わない”の様な不毛な争いを無くす事も勿論ですが、“次に自分は、何をやらなくてはならないか?”を常に意識させる事も含まれてます。“おばちゃん達”を動かすには、力で動かすのでは無く“自主的に動いてもらう”方が角が立たないで済みます。今、自分は国吉さんに“弟子入り”してますが、そこから学んだ事は順次横へ広げるつもりです。“おばちゃん達をマルチに使う”事が最終目的ですが、並行して“1極集中を避けて楽をさせる”目的もあります。人間は楽をする事を覚えれば、もっと楽をしたがるものです。楽をしたいなら、大勢で手早く片付ければいい。そうすれば、検査工程にもっと早く製品を送り込めるし、余裕も生まれる。質が上がれば受注も増えるでしょう。少しづつではありますが、流れは良い方向に向かいつつあります。みなさんには、今しばらく待って欲しいとお願いしたいのです。意識を変えれば、必ず好循環が生まれます。後は、継続して取り組むのに加えて、意思疎通をしっかりと取り続ける事です。鉄の扉を引き戸に変えるだけでも、溝は確実に狭くなるでしょう。僕が“こうしましょう!”と押し付けても、人は動きません。“動くように仕向ける”事で、僕は立ち向かっています。まあ、褒められた作戦ではありませんが・・・」と言うと、みんなは真剣に聞いていてくれた。「なるほど、こんな深慮遠謀が隠れていたのね。貴方なりに“おばちゃん達”を動かす算段をしてくれていたとは。確かに雰囲気は変わったわね。品証もそれは肌で感じる?」と神崎先輩が細山田さんを見た。「明らかに違いますね!今までは“厄介者”と見られているのをヒシヒシと感じましたが、今は“今日は何を取りに来たの?これ、持って行きなさい”って感じですから、行くのも苦にならなくなりました!実里は特にそうじゃない?」「ええ、Y先輩が直ぐに対応してくれるので、助かってます!」「あたしも度々お邪魔してるけど、トゲトゲしい雰囲気が和やかになりつつあるのは感じるわね。さあ、重たい話はこれくらいにしましょう!自由に聞いていいわよ!Yさんも座って飲んで!」と神崎先輩が宣言すると、女の子達はガヤガヤと話し出し、飲み始めた。「まずは、一献」と神崎先輩がお酌に来た。「恐縮です」と言い受けると「今まで、あたしに臆す事無く、真正面から受けて立ったのは“安さん”だけだったの。貴方はひょっとして信玄の生まれ変わりじゃない?“風林火山”の計で、あの手強い“おばちゃん達”に何も言わせないとは、驚き以外の何物でも無いわ!」と言われる。「僕には“最強の騎馬軍団”を率いる力はありません。ただ、聞いて信じて戦うだけですよ。まだ、道半ばですがね」と返すと「それでいいの!聞いてくれる。信じてくれる。どれだけ、あたし達が望んでいたか?今は分るでしょう?貴方は“自分らしく”走りなさい!どこまでも貴方を追って行くから!頼むわよ!」と手を重ねて言い含めた。彼女が去ると「Y先輩、どんなパンティが好みですか?ちなみに、今日はピンクのチェック柄ですよ!」と千絵がスカートをめくる。恐ろしいギャップだが、千絵らしい質問だ。「あたしは水色のレースよ!」と千春先輩も見せ付けるべくスカートをめくる。「ねえ!」「どっちが好き?」とステレオ攻撃を受けてしまう。「じゃあ、逆に聞くが“勝負パンティ”は何だ?」反撃するならこれしか無かった。「ふむ、数ある中でとなると・・・」千絵がもたついていると「Tバックの赤いヤツよ!」と千春先輩が先制攻撃を見せた。「先輩!入るのあるんですか?」と千絵も切り返す。「あたし、そんなにおデブじゃないもん!サイズ合うの持ってるから。Y―、見たいでしょ!今度お姉さんと遊んでー!」と抱き着かれる。だが、千絵も負けてはいない。膝元に座り込むと「Y先輩は、あたしのモノ!」と千春先輩の腕を引き剥がして行く。「それは無いでしょう!Yは共有財産なんだから!」と両者での争いに発展し始める。僕は“紛争地帯”から早々に逃げ出して、田尾のいるテーブルに潜り込んだ。「あーあ、派手にやってるねー。酒が入ってるから収拾が付くのは簡単じゃねぇだろうよ!」と田尾も気圧され気味だ。「もう、見てられないから止めて来るね!」と岩崎さんが調停に乗り出した。「Y、“おばちゃん達”をどう操縦するんだよ?」と田尾が突っ込んで来る。「操縦はしないよ。“自主的に従う様に仕向ける”のさ。力でねじ伏せようとすれば投げられるか潰さるが、自分の意志で付いて来るなら手を差し伸べる。極論にはなるが、脱落者が出ても仕方がないと考えてるよ」「ヒュー、そこまで腹括ってるのか?」「ああ、付いて来れなければ足手纏いになるだけだ。非情にならなきゃいけない事もあるだろうよ」「反発喰らってもか?」「勿論、既に予測は立ててあるさ。3分の1は入れ替わる可能性は否定しない!」「古狸は一掃するか、一気に塗り替えるつもりだな!相変わらず思い切りがいいじゃねぇか!まあ、1杯やりなよ!」と焼酎のお湯割りを差し出した。「これからの活躍を祝して!」男2人で乾杯をしていると、品証の2名が押しかけて来た。細山田さんが田尾に、実里ちゃんが僕に近寄ってお酌をしてくれた。「“山口組”の抗争は、しょうがないよね。2人共、Y先輩と遊びたいだけなのに、どうしても主導権を勝ち取りたいらしいわね?」細山田さんが言うと「御大将を差し置いて、何やってんだ?まあ、実害がねぇだけマシだけどさ!」と田尾は投げやりに返す。「Y、矛を収めさせる手立てはあるのか?」「ある訳ないじゃん!勝手にやってるんだから、火に油を注ぐ様なもんさ。あーあ、また飲んでからやり合ってる!こうなると最悪だ!」僕は陰に隠れる様に身を潜ませた。「Y先輩、こっち、こっちへ!」実里ちゃんが盾になる様にして僕を奥へと逃がしてくれる。「そろそろ、バックレる頃合いか?Y、幸い誰も見ていねぇ。まずは、一服着けてからにするか?」田尾がライターを取り出した。「外で一息付こうか。こう騒がしくちゃ落ち着けないからな!」田尾と実里ちゃん達と席を外すと、僕らは外へでてタバコに火を着けた。中の喧騒がウソの見たいに、静かに街は夕暮れ時へ向かっていた。「今は、喧嘩をやらかしてるが、千春も千絵も岩崎も神崎先輩もアンタの手腕に期待してる。無論、俺達もそうだ。返しと検査は一体で運用しないと、これから増々苦しくなるし、いずれは行き詰まりになっちまう。そうなる前に、アンタがどれだけ見せてくれるか?“安さん”の関心もその1点だ。御大将!采配に抜かりはねぇだろうな?」「日々の積み重ねがモノを言うだろう。“おばちゃん達”も抜け目なく見てるしな。失敗は許されないのは承知してるが、焦ったら負けだし手綱を緩めてもマズイ!ちょうど微妙な時期に差し掛かってるのは、間違いないが裏を見れば、思い切って動ける時期でもある。そろそろ、鞭を入れるタイミングかもな!」「それは、犠牲を伴ってもか?!」「さっきも言ったろう?3分の1は脱落しても仕方ないと。“古いしきたり”でしか動けないとしたら、これからのスピードには足手纏いになるだけだ。“新しいやり方”に慣れなければ、置いて行くしかない!時代の流れは速いし、弱者には優しくない!事業部の方針に乗り遅れないためにも、ピッチは上げるしかないんだよ!」「非情と言われてもか?」「ああ、それが僕に課せられた使命だとするならな!」「でも、Y先輩はそんな事はしないと思います。みんなを拾い上げて荷車に乗せてでも、時の流れに立ち向かうつもりでしょう?」細山田さんが言う。「あたしも、そう思います。先輩の性格からして、弱者を見捨てるとは思えません!」実里ちゃんも同調した。「見抜かれてるぜ!多分、“おばちゃん達”も抜け目なく感じてるだろうよ!鬼の面は似合わねぇ。“仏の参謀長”だったんだろう?」「そう言われた事もあるな。もう、昔だが・・・」「だとしたら、“仏の参謀長”を思い出せや!戦う姿は似合わねぇよ!じっくりと策を巡らせてジワジワとやればいい。“おばちゃん達”を敵に回したら、元も子もねぇだろう?」田尾は核心を突いて来た。「いずれにしても、流儀は僕の流儀でやるさ。それだけはハッキリと言える!」「その言葉を忘れるな!自分に対して、他人対しても譲れない流儀を貫けよ!御大将!」田尾の言葉は心に響いたモノになった。“自分の流儀を貫け!”と言うセリフは、最後まで僕を奮い立たせる指針となった。「ここに居たの?ごめんね!もう騒ぎは収まったから飲み直さない?」岩崎さんが呼びに来た。「よし、もう1度乾杯からやり直しだ!」田尾の一言で僕らは部屋に戻った。宴会はその後も盛大に盛り上がったし、僕は散々に女の子達に絡まれ続けたのは言うまでも無い。

そして、月曜日。眠い目を擦り、痛む頭を抱えて寮の玄関に立つと「オス!」と田尾がやって来た。だが、いつもの切れが無い。「昨日、何時に帰って来たか覚えてるか?」と靴を履きながら聞いて来るが「記憶が飛んでるんだよ。何時だったかな?目覚ましはセットしたらしいが、どうも靄がかかってるんだよ」と返すと「同じかよ。結局、最後まで付き合ったらしいが、どうもイマイチ思い出せねぇんだよな!」と言う。「3次会でカラオケに行ったのは、薄っすらと思い出せるが・・・」「確か、千春と千絵がマイクを離さなかった様な記憶があるぜ。それ以降はどうしたんだよ?」「・・・、分からん!」2人して工場へ歩き出すと、前を行く岩崎さんと永田ちゃんが振り返って「おはよー!」と元気な声を上げた。「千絵と千春は?」田尾が聞くと「それがね、2人共“化粧に時間がかかるから先に行って”って言うのよ。顔中、傷だらけなのを隠すのに必死なの!」と岩崎さんが笑って言った。「でも、“何で傷だらけなんだろう?”って口を揃えて言うの!喧嘩した事、完全に忘れてる見たいよ!」永田ちゃんが可笑しさを隠す事無く笑いながら言う。「都合の悪い記憶だけが抜け落ちてるとは・・・」「ノー天気なヤツらだぜ!」僕等は、お手上げのポーズを取るしか無かった。「カラオケで20曲を熱唱したのに、それもすっかり抜け落ちてるの!全くどう言う事かしら?」岩崎さんも首を捻るが、当人達にしか分からない事だろうと思った。多分、“安さん”の雄叫びを聞けば目覚めるはずだ。僕等に遅れる事5分後、千絵と千春先輩も到着し、朝礼に備えて整列を終えると「昨日はごめんなさいね。今日からまた、しっかりと頼むわね!」と神崎先輩が言いに来た。「お任せください」と言うと彼女はホッとしたのか微笑んで列に戻った。“安さん”のご機嫌は相変わらず斜めで、太く大きな声が頭の中で反響し続けた。今週を乗り切れば、いよいよ6月に入る。着任から1ヶ月が過ぎ去った事になるのだ。しっかりとメモを取り、パートさんの朝礼の“種”を拾い集める。月末でもあり、朝礼は1時間45分を要してやっと終わった。パートさん達が出勤して来るまで45分しか無い。ボードに書き込みを入れ、治具を用意して、炉から出た製品を仕分ける。その間に、徳田、田尾の両名が“本日の出荷予定と不足分”をボードに書き入れた。“おばちゃん達”は、早い組と遅い組に別れていた。早い人は8時15分には到着するし、遅い方は保育園へ子供さんを預けてからギリギリに入って来る。早く来てくれる人にも手伝ってもらい、何とか朝礼に漕ぎつける事が月曜日の宿命だった。型通りの朝礼を終えると、みんな三々五々に仕事を始める。検査担当のパートさんは、鉄の扉の後ろへ急いだ。僕も国吉さんの隣で“修行”に精を出す。スピードでは、まだ国吉さんに及ばないが、基本的な手技は大体掴みつつあった。「Yさんは筋がいい。後は、焦らんで確実にトレーに受け止めるだけよ」と“師匠”は言う。「Yさんは、全体を見ながらでいいのに、どうしてあたしに“弟子入り”したの?」と国吉さんが言い出した。「岡元さんの“遺言”なので。“オールラウンドにならんといかん!”って言われてますから」と返すと「それにしても、非常に熱心にやられるから、教えることはもう無いよ!」と言われる。「いえ、まだまだ盗ませてもらいますよ!」と言うと「家には来ないでね!」と笑われる。他のパートさん達も釣られて笑い出す。しかし、手を止める人はもういない。少しづつだが、ここは変わろうとしている。「Y、悪いけどF社の銀ベースとキャップ、至急寄越してくれるか?」徳田が急遽の返しを要請して来た。「了解、じゃあ手分けして一気に返してしまいましょう!」国吉さんと僕が銀ベースをその他の2人でキャップをトレーに返して、徳田に手渡す。その間、およそ20分。1人なら倍の時間を要する作業だ。「Y、サンキュー!」田尾が笑顔で検査工程へ送り込む。「こう言う事か!1人より2人。3人なら15分で終わるものね。Yさんの目論見は、楽に早く終わらせることなの?」と国吉さんが言う。「そうですよ。今みたいな“飛び込み”が今週は多いはずです。通常の流れもやりながら、“飛び込み”にも臨機応変に答えて行く。そのためには、複数の手が欠かせません。僕がマルチに作業する事で、少しでも手厚く構えれば、みなさんの負担は減りますよね?」「そうだね。そのために“弟子入り”したの?」「ええ、どうせなら少しでも楽したいじゃないですか!後ろに“借り”を作って置けば、大目に見てくれる場合もあるでしょうし、苦情も減る。険悪な空気より、和やかな空気にしたい。その一心ですよ」「ふむ、いいとこに目を付けるわね!“借り”を作るか。気分もいいよね!」担当してくれた方が頷く。「ですから、今後もみなさんから、色々と盗ませていただきますよ!」と言うと「警察に突き出そうか?」と笑われる。「家には侵入しませんから!」と言うと更に笑い声が広がった。「やってくれるじゃない!Yの真骨頂はこれか!」隠れて様子を伺っていた岩崎さん言うと「こんなモノでは終わらないわよ!彼の力はまだまだのはず。知らずに操縦されてる“おばちゃん達”が本気になれば、あたし達もずっと楽になるでしょうよ!」と神崎先輩が返した。目に見える成果は日に日に挙がっていった。

金曜日、月末最終日も何とか乗り切って、見事に月初予定の達成が成されると、僕は心底ホッとした。“足を引っ張らずに済んだ”と言う安堵感に浸れたからである。午後には終礼で目標達成が報告され、“安さん”のご機嫌も少しは良くなった。後片付けと来月の予定の書き込みに追われていると「この野郎!冷や冷やさせやがって!だが、口やかましい“おばちゃん達”を見事に使いこなしたのは、僥倖だったな!Y、どうやって躍らせた?」と“安さん”が怒鳴り込んで来た。「躍らせてはいません。“自主的に動いてもらった”だけです。やらなければならない事は、ここに全て書き出してあります。これを見れば誰でも分かるし、“飛び込み”があっても慌てなくて済みます。“可視化”した事で、自主性が出てきましたから、少しは良い方向に向いた結果です。眠っていた力を呼び覚ましたに過ぎません」と言うと「ふん!小賢しい物言いだ!お前が仕掛けた策が当たったにも関わらず、それを殊更に言わないとは、どう言う了見だ?!」「まだ、半月しか経過していませんから、成果に乏しいのが実情です。ですが、来月はもっと貢献出来るように努力します」と返すと「過少評価をするな!岡元が仕切っていた頃には、検査で手が空いて困っていたんだぞ!それが月末の今週、検査は誰も手が空いていなかったじゃないか!徳永も顎が外れるほど呆れていた!“Yが仕切ったら流れが変わった!”とな!俺の目に狂いは無い!お前はここの歴史を塗り替えたんだ!来月はもっと驚かせろ!徳永が腰を抜かすくらいにな!」と言うと、僕の頭をくしゃくしゃにして、豪快に笑って去って行った。「褒められたのか?はたまた、発破をかけに来たのか?どっちだ?」と言っていると「両方だよ!Y、お疲れ様でした!」「嵐の月末を、意図も簡単に乗り切った感想は?」と千春先輩と岩崎さんが顔を出した。「何とか、無事にやり切った!その一言ですよ。少しは余裕が出てますか?」と言うと「余裕も余裕よ!月初にドカンと1発売り上げが立つ!今までこんなウハウハな事はあった試しもねぇよ!」と田尾も言いに来る。「改革の成果は、確実に積みあがってるわ!あたし達もがんばらなくちゃ!」と岩崎さんが頭を撫でた。「Y-、今日これから空いてる?」千春先輩が聞いて来る。「そうですね、後、30分もすれば上がれますが、どうしました?」「ちょっと付き合ってよ!千絵の承認も取ってあるからさ!お姉さんと遊んでー!」と千春先輩に抱き着かれる。「岩崎さん、これどう言う仕組み何です?実里ちゃんともそうですが、次々にお誘いが来るのは何故です?」田尾が引っ込んだのを見計らってから、彼女に問いただすと「知らぬはYだけね。実は、大奥が出来てるのよ!」と彼女は悪戯っぽく笑って言う。「Yをこちらに頂くに当たりまして、“既成事実”を積み上げる事に決めちゃったの!誰かに“ヒット”したらYだって置き去りにはできないでしょう?何とかして残る手を考えるはず。それを狙って恭子とあたしが結託してるのよ!」と千春先輩は恐ろしい事を平然と口にした。「前にも言ったけど“正室”はあたし。他は“側室”だけど、みんな順番にYの“子種”をちょうだいするの!まだ、“当たり”が出ないのが気がかりだけどね!」と2人して魔性の微笑みを浮かべる。「だから、本日は、あたしの番なの。30分後に帰りましょう!後は、黙って付いて来て!」と千春先輩はノリノリだった。「大奥とは・・・、いつの間にそんな組織を?」「簡単に帰すと思ってるの?あたし達は帰すつもりは、更々無いからね!さあ、大車輪で片付けてよ。あたし待ちきれなくてソワソワしてるんだから!」岩崎さんも千春先輩も意に介す風が無い!どうやら途轍もなく深いワナに落ちたらしい。釈然としない事も多々あるが、彼女達は“帰任阻止”で一致して結託したらしい。「無駄な抵抗はしない方がいいですね。分かりました。さて、急いで片付けるか!」僕は半ば諦めつつも片づけを始めた。千春先輩と寮に戻って15分後、僕は先輩の車に連れ込まれたのだった。「海岸へ行くよ!」赤いスタリオンは、グングンと加速して行った。

国分の街は、錦江湾の最も奥まった場所にあった。擂鉢状のカルデラの北端に広がっている平地に形成されていた街である。猛加速で疾走した赤いスタリオンは、海沿いの空き地に停まった。「下井海岸よ。大丈夫、呼び名は怪しいけど、墓場じゃ無いからさ」と千春先輩は笑った。砂浜へ出ると「Y、高校生活はどうだったの?」と聞かれた。僕は、道子と雪枝との再会から始まった高校時代について、ダイジェストを話した。「へー、意外とドラマチックじゃない!小学校以来の再会かー、お互いに意識はしてたでしょ?」「まあ、それなりには。でも、僕には幸子が居ましたからね。名前の刺繍が入ったネクタイを交換して、3年間そのままでしたし、道子と雪枝もそれぞれにパートナーを見つけて付き合ってましたから」と返した。今、僕が鹿児島に居るとは、誰も想像しては居ないだろうが・・・。「あたしは、最初に総務に入ったんだけど、“何か違う”ってずっと思っててね、半年後にサーディプ行きを志願したの。そして、恭子と出会って彼女の“更生”に手を貸したの。当時、“カミソリお恭”って言われてたけど、内面は意外にもナイーブで心は傷だらけだった。この地域では“超有名なワル”で名前は轟いてたけど、今は見ての通り、普通の女の子よ。そして、Yの“正妻”を自負してるの。ちょっと強引なとこもあるけど、恭子は誰よりもYに信頼を寄せてる。最初に10人で自己紹介した時に“アイツが欲しいな”って言いだして、その通りに配属先が決まったから、恭子にしてみれば“してやったり”だったのよ。その辺は聞いて無いでしょう?」「ええ、全く聞いてません。最初からハメられてたんですね」僕等は少し小高い草地に座った。心地いい風が吹き抜けている。千春先輩は白いロングスカートに水色のタンクトップ1枚というラフな服装で、ブラがチラチラと見え隠れする。缶コーヒーを開けると「そう言えば、Yは大抵ブラックコーヒーだよね?何か理由があるの?」と聞かれる。「何せ猫舌なので、例えば、ファミレスとかに入っても“アイスコーヒー”なら、直ぐに飲めるでしょう?そのクセがあるからですよ」と言うと「如何にもYらしい理由だね!」と笑われる。今頃は第3次隊の連中は、眠れぬ夜を過ごしているだろう。月曜日には50名が新たに着任するのだ。その内3分の1は女子社員で構成されている。僕には1ヶ月のアドバンテージがあるが、いつ追い越されるか分からない。7月に着任する第4次隊を持って派遣部隊全員が揃う。総勢200名が各事業部に分散して半年の任期で働くのである。工場に残った人々も大変なはずだ。「Y、月曜日に着任する部隊から、1人品証に配属されるって知ってる?」「いえ、初耳ですよ。どこからネタを仕入れてるんですか?」「それは内緒よ!秘密の情報網を駆使して、調べてるの。さて、付き合ってもらうわよ!今日はあたしのモノなんだから!」千春先輩の目が悪戯っぽく輝いた。腕を絡ませると車へと歩き出す。「3回戦までは根性見せてよね!」と言いながら胸を押し付けて来る。千春先輩は、少しポッチャリとしているが、底抜けに明るいのがチャームポイントだ。車のドアを開けると、キーを放って寄越す。「Yが行きたい場所へ連れてってよ!」と言う。僕は垂水経由で鹿児島市内を目指して、スタリオンのハンドルを握った。「Y、これ見て!」千春先輩がスカートをめくってパンティを見せ付ける。赤いTバックは“勝負パンティ”だった。「これからは、“ちーちゃん”って呼んでね。あたし、離さないから!」彼女もマジで仕掛けてきていた。夕暮れが迫る中、僕は思い切ってアクセルを踏んだ。スタリオンは即座に反応して加速を見せた。ちーちゃんとは4回戦まで付き合うハメになった。寮に戻る頃には、日付が変わろうとしていた。

life 人生雑記帳 - 55

2019年10月23日 17時26分09秒 | 日記
日向国、日本書紀に記されている神話の舞台。それもあるのだが、今日は青い空と海が舞台だ。日向灘は、コバルトブルーの輝きを見せてくれていた。青島付近に差し掛かると、岩に砕ける波が一層美しくなった。路側帯に、スカイラインを止めると、僕はカメラを取り出してシャッターを切った。「35ミリを持って来るんだった!50ミリだと画角が足りない!あー、不覚をとっちまったなー!」僕が地団駄を踏んでいると、みんなが集まった。「Y先輩、レンズの選定を誤った様ですが、何が違うんです?」千絵が不思議そうに言う。「画角の問題さ!標準レンズじゃあ、この雄大な景色は、収まらないんだよ!覗けば分かるが、50/F1,4だと無理があり過ぎる!」「ふむ、見た目がほぼ一緒ですよね?もっと広い範囲が写せるレンズにすべきだったと言うんですか?」「ああ、35/F2.8か、28/F2.8にすべきだったよ!」僕がガックリしていると「Y,“標準レンズ”って、どう言う意味なの?」岩崎さんが小首を傾げていた。「あー、分からないですよね!まず、レンズのミリ数つまりは基本的に数字が小さくなる毎に、写る範囲は広がります。見た目も広く見えるんです。ただ、人の目は、大体45度くらいの視野ですから、それと同じ範囲が見えて写るレンズが、50ミリ。故に“標準レンズ”と言われるレンズが50/F1.4と言う訳ですよ」「そうなんだ。じゃあ、カタログに載ってる写真はどうしてるの?」「レンズは色々と使いわけて分けて撮影してます。ただ、ボディは“新機種”を使いますよ。最終試作が完了した段階で、撮影開始なんです。そうしないと、発売日に間に合わなくなるんで。撮影地は海外やスタジオですね。結構費用はかかってますよ!」「例えば、“8ミリ”なんてレンズがあったとしたら、どう写るの?」「“魚眼レンズ”ですから、まん丸な絵になりますね。360度が写るんで、空に向けて森を写すとか、用途は撮影者の使い方次第ですね。学術的な用途向けですよ」「反対に“500ミリ”とかは?」「サバンナに行って野生動物を撮ります?象とかライオンとか、接近戦に持ち込みたくない場合や、山奥の秘境にある滝の紅葉を狙うとか、超望遠レンズですから!」「そんなレンズがあるのが、怖いくらい。お値段もそれなり?」「8ミリなら1本30万、500ミリなら1本100万はしますよ!車と変わらない相場の話になりますよ!」「ひぇー!相場がまるで違うのね!ちなみにYが持ってるセットは?」「10万超えてますよ!11万5千円だったかな?」「ヒー!1ヶ月のお給金の半分が飛んでくの?永田ちゃん!Y先輩に返して!やたらと触っていいモノじゃないよ!」千絵がそーとカメラを僕の手元に返して来た。「これでも安い方さ。恐れる必要性は無いよ」と僕は言うが「されど約12万、壊したらバチが当たる!」とみんなは恐れをなして引き下がった。車に戻り、“鬼の洗濯岩”付近を目指して南下を再開すると、南国らしい風景が続くワインディングロードが現れた。スカイラインは苦もなくコーナーを駆け抜けて行く。「Y,やっぱり男の子だね。コーナーからの立ち上がりとか、ハンドルさばきが全然違うもの!」と後席の岩崎さんが言う。「FRならではの走りが出来るのは、エンジンのトルクがモノを言いますからね。ターボ車の特性にやっと慣れて来ましたよ」スカイラインは快調に疾走して行った。

“鬼の洗濯岩”で撮影を済ませた僕等は、鵜戸神宮に立ち寄った。「別名“運動神宮”よ。」「本殿までしっかり歩いてね!」とみんなが言う。歩き出すと直ぐに意味が理解出来た。岬の突端近くにある本殿まで、丘を越えて行かねばならないからだ。健脚を競って本殿へ辿り着くと「みんなの健康と改革の成功を祈念して!」と岩崎さんが言い賽銭を投げて祈りを捧げた。しばらく自由な時間を取ると、千絵達は御守りの吟味に向かった。「Y,昨日、あたしが話した事覚えてる?」と岩崎さんが問うた。「ええ、覚えてますよ」「Y,“おばちゃん達”は一筋縄では行かないわよ!そこをどう突破するつもり?」「時間はかかりますが、“相互乗り入れ”をやろうと思います。今は、岡元さんが決めた“規定路線の範囲内”でしか回っていませんが、あれだと誰か1人が休んだらアウトなんですよ!おばちゃん達の壁を取り払って、誰もが“何が来ても対応可能な人材”に育て直す。まずは、僕が“マルチプレイヤー”になる事。次は、技術を横に展開して行きます。専門家は必要ですが、それは1部の製品だけに絞り、複数でより早く返せる体制にする。キャップもベースも返せる人材に育て直して、よりスピードを重視します。確かに、一筋縄では変わらないでしょうが、1度でも好循環に乗せられれば、恩恵は図り知れません。1人に負担を強いるのでは無く、みんなでカバーし合える関係に持って行くつもりですよ!」「それが実現すれば、あたし達も相当楽になるわね。余裕を持って検査が出来るし、質も上がる!時間にもゆとりが生まれるから、徳田達も慌てずに済む。“岡元体制”を“Yのカラー”に染め直す。何か、貴方が言うと本当に実現可能に思えるから、不思議よね。手は回ってるの?」「ええ、足りない治具の製作依頼は出してあります。F社向けの新製品の治具製作に紛れて、必要なモノは揃えます!」「後は、Yの腕次第か。目星は着けてあるんでしょう?」「その第1歩が、ホワイトボードですよ!目先を変えれば、見えて来るモノもあります。否応無しにすれば、余計な事にかまけてる暇も無くなります!人は1度楽をすれば次からはもっと楽をしたがる。そこを突いてやれば壁は崩れる!」「戦略に抜かりは無い様ね!Y,思い切ってやりなさい!改革は貴方の腕にかかってるの!掩護はしてあげるから思う通りにやって!」「はい、やりたい様にやらせてもらいます!」2人で語り合っていると3人が袋を手に戻って来た。「Y先輩、これを!」3つの恋愛成就の御守りが届けられた。「あー、ズルい!あたしも行って来なきゃ!」岩崎さんが慌てて御守りを買いに行く。「岩崎先輩と何を話してたんですか?」千絵が気になる事を問い質す。「これからの改革の進め方さ。特にウチの“おばちゃん達”をどうするか?について、真剣に話してたよ」「本当ですか?嘘言っても通じませんよ!」と千絵は僕の腕をねじ上げ様とする。「おっと!その手は食わないぞ!逆にこうしてやる!」と言って、千絵を背後から包み込む様に抱いてやる。「馬鹿!もっとしっかりと抱きなさいよ!」と千絵は言うが、満更でもないらしく大人しくなった。「やれやれ、手のかかる子だこと!Y,これ持っててよ!」岩崎さんからは大願成就の御守りが手渡された。「あたし達の改革の成功を祈って。そして、その波が事業部全体を動かす大きなうねりになる様にね!」僕と岩崎さんは、ハイタッチを交わして誓いを確かめた。再び丘を越えて車に戻る頃には、全員が腹ペコになっていた。「“運動神宮”恐るべし!」「でしょう?甘く見るとヘトヘトになるの!あー、お腹空いた!」と千絵が言うと「誰か近くに知ってる食堂とかある?かなりヤバイわね!」と岩崎さんも言う。「志布志に行けばありますよ」と実理ちゃんが言う。「じゃあ、Yに頑張ってもらわなきゃ!とにかくブッ飛んで!」慌ててスカイラインに乗り込むと、ワインディングロードをひたすらに飛ばす。海沿いから山道へ入り、峠を越えた先のまた先に志布志はあるのだ。必死に車を走らせる事、約40分後、車は志布志へと入った。「流石にYだわ。最速記録じゃないかな?」岩崎さんが言うと「あそこです!左側のスタンドの次です」と実理ちゃんが言った。「これで一息付けるな」僕は安堵のため息を漏らした。取り締まりに合っていたら、間違い無くアウトだったからだ。「実理、お勧めは何?」千絵が聞くと「海鮮丼です!食べ切れないくらい御飯が山盛りで来ますよ!」と実理ちゃんは言った。「器さら食べてやりましょうよ!お腹空いた!」永田ちゃんはダウン寸前らしい。海鮮丼は、確かに美味かった。御飯もこれでもか!と言うくらい量はあった。だが、誰も残した人が居なかったのが、今でも不思議である。

我々もだが、車もガソリンを食って腹を空かせていた。軽快に走った分、メーターも無くなる寸前を示していたのだ。隣りのスタンドで満タンにしてから、これからの道筋を探り出す話になった。「さて、どうやって帰ります?北へ向かえば、山の中を走る事になりますから、ガソリンスタンドは少ないですし、時間もそれなりにかかりますよ?」実家が近い永田ちゃんと千絵、実理ちゃんが頼りだ。「西に向かって、鹿屋へ出るのが最短かな?後は海岸線沿いを北へ向かえばどう?」千絵はそう言って当たりを付けた。「OK、千絵に任せようか?ナビは永田ちゃんだね!Yは、後ろで少し休んでいいよ。昼前に大分頑張ってくれたから、ゆっくりして」と岩崎さんが決断した。スカイラインは千絵にハンドルを委ねられ、西に向かって進路を定めた。僕は後席でゆったりかと思いきや、岩崎さんと実理ちゃんの餌食となった。「実理!岩崎先輩!ズルいですよ!」たちまち千絵の機嫌は悪くなった。僕の左側には、岩崎さんがピッタリと貼り付き、膝には実理ちゃんが乗って、首に腕を回しているのだ。楽をしている暇は無いに等しい。「千絵先輩、前!前を見て!信号赤に変わってますよ!」永田ちゃんは、必死になって千絵を運転に集中させようと注意を促す。しかし、急ブレーキで車体はつんのめるように止まった。「危ないわねー!千絵!前をキチンと見て!」岩崎さんも悲鳴を上げた。「だったら、Y先輩から離れて下さい!あたしに見せ付けるなんて、やってる事が嫌らしいじゃないですか!」千絵は、すっかりおカンムリだった。「分かったわ。実理、膝から降りて、あたしも離れるから」と2人が離れるのを見た千絵は、少し冷静さを取り戻した。車は、スムーズに進んでは止まる様になった。その時、岩崎さんが実理ちゃんの耳元で何かを囁いた。彼女は、軽く頷くと腕を絡ませて来た。そして、僕の手をスカートの中へと導きだす。「触っていいですよ。でも、優しくしてね」と小声で言う。千絵は気づいていないが、分からないように2人は、色仕掛けを仕組んできたのだ。気が気では無いが、逃れる術は無い。僕の手は実里ちゃんのパンティにまで達した。彼女は、直も奥へ手を引っ張り込もうと画策する。だが、ここで車が突如として路側帯に止まった。「あー、道を間違えたみたい!Y先輩、地図を見てくれますか?」と言うと千絵が振り返る。僕は慌てて左手を引っ込めて地図を広げた。実里ちゃんは悔しそうに唇を噛んでいた。「どこだい?土地勘の無い人間に地図を見せても分からないぞ!」と言うと「地図を貸して下さい」と永田ちゃんが言う。前席の2人は、あーだ、こーだと議論を始める。「実里、惜しかったね。でも、夕方になったら、Yを貸し出すから自由にしていいよ!」と岩崎さんは言った。「Y、今夜は実里に付き合ってあげて!理由はあたしが作るから」と彼女はウィンクをして囁いた。「Y先輩、運転を交代して下さい!あたしがナビゲートしますから、最速でお願いします!」と永田ちゃんから要請が来た。「現在位置は?」「ここらしいんですが、どうも自信が無くて。先輩の直感を信じます!」と千絵が言い出す。「明後日の方向へ行っても知らないぞ!」と言ってから、僕はスカイラインを走らせた。方角が分からないので、標識と永田ちゃんのナビゲートが頼りだ。車は国道から逸れて県道を北西方向にズレて進んでいた。しばらく進むと“細山田”の交差点に辿り着いた。「左折して国道269号へ!」永田ちゃんが導く通りに走ると、国道220号に突き当たる場所へと出た。「ふー、元のルートに戻れました!このまま錦江湾へ降りて下さい!後は桜島に突き当たるまで1直線です!」永田ちゃんの声も明るくなった。「Yの本領発揮よね。未知なる道でも灯を掲げてくれる!まるで、灯台の様に」岩崎さんもホッとしていた。行く手には桜島が噴煙をたなびかせていた。

大正の大噴火で桜島は大隅半島と陸続きになっている。桜島に近づくとゴツゴツと溶岩が目に飛び込んできた。右折ポイントから3km過ぎた辺りで、僕は車を止めた。自販機もあり、飲み物の入手や空き缶を捨てるのに都合が良かったからだ。鹿児島市内とは表情も違う桜島を撮っていると、永田ちゃんが僕の撮影姿を自身のカメラで撮っていた。「Y先輩、このカメラには写すための枠があるんですが、1眼レフと何が違うんです?」と質問を投げかけられた。「レンズを通過した光を直接見てないからさ。1眼レフが世に出る前は、こっちが主流だったんだよ。ファインダーとレンズの位置がズレている関係上、見かけの位置を補正しないと絵はフィルムに正しく写し込めない。レンズとファインダーの2本の線に別れてるから、ズレを調整するには“視野枠”って言う枠を表示しなくちゃならない。こっちは、見たままが写るから、その必要がない。でも、小型化するためには、そっちの方が有利だから、今も生き残ってるけどね」「じゃあ、もしズームレンズを付けたら?」「ファインダーもズーム式に作る事になるね。そうしないと、見かけの変化に対応できないから。いずれは、その競争が始まるだろうよ」「良く分からないけど、カメラを作るのって大変なんですね!」永田ちゃんは半分くらいを飲み込んだ様だった。この年の7月、富士フィルムから“写ツルんです”が発売され、カメラ業界に新たな激震が走った。“レンズ付きフィルム”と言う新ジャンルは、コンパクト銀塩カメラの“高機能化”に拍車をかける事態を引き起こすのだった。この時は僕も知る由も無いことではあったが・・・。無事に錦江湾沿いを駆け抜けたスカイラインが寮に帰り着いたのは、午後4時を少し回った頃だった。「Y-、お疲れー!無事に帰れたから良かったね!千絵に運転させたのは誤算だったけど」岩崎さんが笑顔で言うと「不覚だわ!地元の近い場所で迷うなんて!」と千絵は悔しそうに言った。「さて、引き揚げますか?」と永田ちゃんが言うと、みんな寮に向かって道を下り始める。「あっ!Y、重要な連絡を忘れてたわ!明日の午後3時から、飲み会をやるから出てよね!検査と品証の女子合同での決起集会だからさ!」と岩崎さんが言い出した。「えー、マジですか?!そんな話、何も聞いてませんよ!」「神崎先輩と千春が隠密行動で仕掛けたからね。知らなくて当然よ!迎えは午後2時半。場所は寮の玄関前よ!分かったわね?!」有無を言わせぬ言葉に圧倒されて頷くと「千絵と永田ちゃんは、あたしの部屋で打ち合わせよ。Yに何を喋らせるか決めとかなきゃ!」「そうそう!」「残らず吐いてもらうから!」3人の目が悪戯っぽく輝いた。「さあ、急ごう!」岩崎さんは、永田ちゃんと千絵を急かして足早に寮に向かった。実里ちゃんと僕は取り残された。でも、これが岩崎さんの計略だった!実里ちゃんは、2人だけになると「行きましょうか?」と言って僕を車へと連れ込んだ。彼女は軽自動車を発進させると、北に向かった。国分市内の北側にある“城山公園”へ着くと「後部席へ」と言ってシートに座り直した。窓にはフィルムが貼られていて、外からは見えない様になっている。「さっきの続きをして!」と実里ちゃんは言った。白いロングスカートをめくると、ピンクのパンティを見せ付け僕の手を導いた。そっと手を入れてかき回してやると、喘ぎ声が漏れ始める。ブラウスのボタンをもどかし気に外して、ブラのホックを外すと小ぶりな乳房が見える。「優しくしてね」と言ってキスをして来ると、乳首を顔の前に押し付けた。彼女の手は僕の下半身をしっかりと掴んでいる。乳首を吸いながら下をかき回すと、ピクピクと反応し始める。「しよう。もう、我慢できない!」と彼女は言うとパンティを片足に残して馬乗りになり、ゆっくりと腰を動かし始めた。「ダメだよ。避妊しなきゃ」と言うと「いいの、中に出して」といい、次第に激しく動き始めた。下から突き上げてやると「ああ・・・、もっとよ!いっぱい突いて!」とねだった。いつもの彼女とは別人の様に、僕のモノを吸い込んで行く。ゆっくりと上下に動いて、奥深くまで余すことなく入れようとする彼女は、愛おしかった。「お願い・・・、出して・・・、いっぱい出して!」締め付けが強まる中、体液を注いでやると、ぐったりと体を預けて来る。「気持ちよかった・・・。暖かいね」と言うと、しばらく抱き着いて離れないでいた。ティシュを掴むと下半身にあてて、車内に垂らさない様に拭き取った。僕のモノも綺麗に拭いてくれる。「千絵はこんな事はしないでしょう?」と言うと僕のモノに吸い付いて舌を使う。パワーを取り戻させると、また馬乗りになって腰を動かした。小さな乳房を掴んでゆっくりと下から突いてやると「ああ・・・、もっと激しく・・・突いて!もっと!もっとよ!」と狂ったかのように言う。細く華奢な体は岩崎さんと似ているが、髪が長く背が小さい分、幼くも見える。2回目も大量に注いでやると、彼女は満足そうに「いっぱい出たね。うれしい」と言って、また後処理をし始めた。「きれいにしてあげる」と言って舌も使った。何とかお互いに服を着ると外へ出た。国分の街が一望出来る高台からは、工場の巨大さを改めて実感した。「優しいんですね。あたし、初めての時はもっと乱暴にされたから、余計にそう感じるんです」と彼女は腕を絡ませながら言った。「痛くなかった?」「全然、Y先輩の優しさを肌で感じました。今度は、2人だけでドライブに行きません?」「うーん、どこに行きたい?」「知覧方面かな。こことはまた違う景色がみられますよ!」「じゃあ、今度は2人だけで行くか?」「はい!期待してます!エッチも!」「底無しが!」と言って拳を頭に乗せると、ペロリと舌を出した。こうして、実里ちゃんとも関係を持ってしまったのだが、仕掛人は岩崎さんである。彼女が何を考えているのか?想像も着かなかったが、無意味に女の子を宛がうはずは無い。岩崎さんの真意。それは、翌日に探るしか無さそうだ。僕と実里ちゃんは寮の手前で別れた。歩いて玄関をくぐると、克ちゃんと赤羽に出くわした。「よお、久し振り!」「Yはどこに行ったんだよ?」とステレオで聞かれる。「優しい“お姉さま方”に誘われてね。日南海岸までブッ飛んで来たとこ。明日は“お姉さま方”と飲み会がセットされてる。休みは無いに等しいよ」「そうか、俺はこれから職場の“歓迎会”だよ。3次会まであるらしいから、いつ帰れるか分かったものじゃない!」と吉田さんも姿を現した。「“安さん”も出るのかい?」と僕が聞くと「ああ、そうだ。あの親父に捕まるとどうなるんだ?」「“焼酎を飲まんヤツは、俺のとこには居らん!”って言ってお燗の付いた焼酎で攻撃される。間違いなく撃沈の憂き目にあうだろう!」と返すと「ゲゲ、そう来るのかよ!Yはどうなった?」「2次会以降の記憶が飛んでるよ!後で、ボディブローの様にジワジワと効いてくるぜ!」「嫌な予感は良く当たるからな。仕方ない、覚悟決めて行って来るぜ!」と吉田さんが玄関を出て行った。「みんな同じ目に合ってる!潰されないヤツは居ないさ!」と赤羽が笑う。「Yのところに女性は何人居るんだよ?」克ちゃんが聞いて来る。「年齢を問わなければ、総勢50名。優しい“お姉さま方”がその半分だ。漏れなく仕事上で関わりがあるから、逃げる事は不可能だよ!残りの半分のパートさん達を指揮するのが俺の仕事。手も首も回らないよ!」「それもキツイな!女の集団の統率か?俺には出来ねぇ!」「俺もイコールだ。人数が多過ぎるぜ!」克ちゃんと赤羽がため息を漏らした。「それでも、やらなきゃならんのだ。とにかく休ませてくれ!本当は3交代になれば、こんな苦労とは無縁だったろうにな。悪いが、おやすみ!」僕は2人を煙に巻くと部屋へなだれ込んだ。ベッドに横になり上を見る。「とてもじゃ無いが“本当の事”は言えないな!」と呟く。5月も末を迎えつつある。来月になれば第3次隊50名が着任する。その内3分の1は女の子達だ。「疑いを持たれる事は避けなけりゃならんな」そう言うと目を閉じて眠った。午後8時に揺り起こされるまで、死んだように眠りこけた。

日曜日の午後、寮の部屋で支度をしていると、田尾がやって来た。「野郎からの呼び出しなら、喜んで出るがウチの“お姉さま方”からとなると腰が引けるぜ!何を企んでるか知ってるか?」「いいや、何も聞いて無い。お前さんも呼ばれてるのか?」「ああ、俺とそっちだけらしい。どうやって切り抜けるつもりだ?」田尾はTVの前に座り込んだ。「出たとこ勝負!生贄は俺だろうから、折を見て引き揚げろ!最後まで付き合ったらタダじゃあ済まない!」「それが通るか?神崎の姉さんが黙って帰すわけがねぇ!ピラニアの様に食い千切られるのがオチだよ!考えただけでも寒気がするぜ!」珍しく田尾は青くなっている。勇猛果敢な男なのに、神崎先輩は苦手らしい。そう言えば、岡元さんが“神崎と山口千春と岩崎は要注意だ!とにかく逃げろ!”と言っていたのを思い出した。忙しさの中ですっかり忘れていたのだが、岩崎さんと千春先輩とは良好な関係(?)を構築しているし、神崎先輩とも仲は悪くは無い。千絵や永田ちゃん、実里ちゃんや細山田さんとも悪くはない。千絵と実里ちゃんとは“男女の仲”になっている。田尾は知らないが・・・。「ともかく、特攻を仕掛けるタイミングだけだ!“三十六計逃げるに如かず”を地で行くしかねぇよ!市内に潜伏して夜中に戻ってくるしかねぇだろう?」「いや、真正面から突撃するさ!正面を突破してから裏を突く!“死中に活を求める”をやるしかあるまい!」「だったら、どう出る?」「したい様にやらせればいい。どうせ筋書きは出来てるはず。俺たちがトイレに立って逃げるのも計算されてるだろう。ならば、最後まで演目を楽しむしかあるまい!」僕は“開き直り”を提案した。「そう来るか。読まれてるとすれば、下手な手は通用しない。逆に“弱虫”のレッテルを貼られるのがオチか。それだけは譲れねぇ!Y、覚悟決めて行こうぜ!」「ああ、腹は括ったから、何でも来い!」「よし!乗り込むぜ!」男2人は、威勢よく玄関に向かった。迎えのマイクロバスは、既に寮の前に横づけされていた。「田尾―!Y先輩!こっち!こっち!」女の子達の黄色い声が響く。田尾が乗り込むと「アンタはここよ!」と岩崎さんに捕捉され前方に座らされる。僕は、実里ちゃんに背を押されて最後尾に座らされた。右手は千絵が、左手には実里ちゃんと永田ちゃんが控えている。「後は、誰が来てないの?」岩崎さんが言うと「千春先輩が最終確認してます!」と返事が聞こえた。「“地獄の宴席”へご招待かよ!」と田尾が迂闊にも言うと「“天国の宴”の間違いでしょ!」と岩崎さんが耳を引っ張った。そのテンポの良さにドッと笑いが起こる。「確認完了!お願いします」と千春先輩が言うと、マイクロはゆっくりと市内へ走り出した。「千春、現地集合のメンツの確認は?」「神崎先輩がやってくれてるはず。時間通りなら、もう集まってるわ!」と岩崎、山口の両名がやり取りをした。「Y先輩!覚悟はいいですか?」永田ちゃんが言う。「覚悟も何も、洗いざらい“自白”しなきゃ帰れないんだろう?」と返すと「そうですよ!耳の痛い事も全て話してもらいますから!」と千絵が心を見透かす様に言う。実里ちゃんはクスクスと笑っていた。昨日の今日だ。そこまでは千絵とて知らないだろう。マイクロは市内の大きな居酒屋の前に停まった。「さあ、開宴よ!」千絵が先に立って僕を引きずって行く。室内には大きな円卓が2つあった。「田尾は手前の奥へ、Yは主賓だからずずいと奥へ」と千春先輩が指示する。現地集合組も含めた“椅子取りゲーム”に寄って席順が決められた。僕の両隣は、千絵、千春の両“山口”が座り、正面には神崎先輩が座った。田尾は、岩崎さんと永田ちゃんに囲まれている。実里ちゃんと細山田さんは、こちらのテーブルだ。「では、宴会を始めます。みんな、参加してくれてありがとう。早速だけど乾杯しちゃいましょう!グラスを持って!」と千春先輩が直ぐに乾杯の用意を促す。千絵の手によってビールがグラスに注がれる。お返しに僕も千絵のグラスを満たした。「お疲れ様!今日はゆっくり話をしましょうよ!では、乾杯!」「カンパーイ!」岩崎さんの音頭でグラスが重なった。こうして女の子だらけの宴会は始まった。

「神崎先輩、一言お願いします!」千春先輩が指名をした。「えー、この様な場での挨拶は不慣れなので、まとまるか分かりませんが、Yさん!国分へようこそ!みんな、拍手して!」神崎先輩が上がり気味で言うと、ひとしきり拍手が響いた。「あたしは、正直ホッとしています。何故なら、岡元さんが居なくなったからです!あの人は、ご自身の足元しか見ていなかった。それで、あたし達はいつも、ヒーヒー言ってたし、けんか腰に喰ってかからなくてはならなかったわね。ことごとく跳ね返されても。無視されても。でも、今は、あたし達の話にとことん付き合ってくれて、職場を変えて行こうとする人に出会えました。もう直ぐ1ヶ月だよね?この1ヶ月で変わった事は数多あるけど、あの頑固な“おばちゃん達”をも巻き込んで、根底から職場を変えようとする動きは、みんなも知ってるわよね?改めてご紹介します!Yさんでーす!」「イエィー!」「彼が、千春と恭子と組んで進めようとしている改革路線をあたしは全面的に支援していきます!もっと、あたし達は変われるし、明るく楽しく仕事がしたいし、仲良くして行きたい!冷たい戦争はもう終わりにしましょう。鉄の扉も引き戸に替わると聞いてますし、返しの部屋にホワイトボードも設置されました。あれは、相互にコンタクトを取るためだよね?そうした発想自体が画期的だし、今までに無かった新たな事です。この前、“安さん”があたしに聞いて言いました。“どうだ?アイツはやるだろう?違う血を注ぐとまったく違う反応が連鎖する。それを育ててみろ!お前達次第で世界は劇的に変えられる!Yは、そのための起爆剤。ヤツを生かすも殺すもお前達の行動にかかっている!最後に決めるのはお前だ!”と。震えが止まりませんでした。でもね、この機会を逃したら、また次の機会が来るとは思えなかったのは確か。あたしは、“彼に賭けて見よう”と思いました。そして、思ってる事を全部吐き出しました!彼は、眉一つ動かさずにあたしの話を最後まで聞いてから、“このボードから全てを作り直しましょう”と言いました。男性に真剣に話を聞いてもらうのも初めてなのに、彼は全てを受け止めて答えをくれた!どれだけ、あたしが嬉しかったか!みんな分かる?」全員が黙して頷いた。「ここから、変えて行こう!変わろう!あたしは後戻りしたくない!前進あるのみ!進もう!彼を先頭にして、全てを一新しましょう!今日は、そのための決起集会よ!さあ、飲んで話して盛り上がろう!宜しくね!」「イエィー!」」神崎先輩が“サシで話したい”と言ってきた日を思い出した。彼女は今までの“負の歴史”を語り、それらを“変えて欲しい”と訴えて来たのだ。決死の思いで来ているのは、直ぐに察しが付いたが“安さん”のプッシュもあった事は初耳だった。彼女達は、ずっと抑圧下に置かれていた。悲しい事ではあるが、事実は覆らない。僕の使命は想像以上に重いモノだと改めて気付かされた挨拶だった。「では、Y先輩、答えて下さい!貴方はどうしたいか?何をしたいのか?教えてください!」千絵がそう言った。みんなが固唾を飲んで僕を見ていた。この思いにどう答えるか?僕はたじろぎながらも腰を上げた。僕の言葉をみんなが待っている。さて、どう答えるか?

life 人生雑記帳 - 54

2019年10月21日 16時22分18秒 | 日記
翌日の昼休み、昨日の余波がまだ残っている中、僕は岩崎さんに呼び止められた。「Y,当然ながらMTの運転、大丈夫だよね?」「ええ、問題ありませんが?それが何か問題でも?」「何でもなくは無いか。千春、Yに話してもいい?」「うん、アンタがその気なら、止める権利は無いもの」と山口千春先輩は言った。「あたしの心の闇に興味ある?千絵は知ってるから、貴方も知って置くべきかと思ってさ!」出荷検査のトップであり、笑顔を絶やさない岩崎さんの心の闇とは何なのか?僕は吸い込まれる様に、彼女達の前に座った。

「タバコ吸ってもいいよ!大した話でも無いからさ!」と岩崎さんは言った。僕はタバコに火を着けた。「あたし、小学校の6年間を通して“イジメ”に合ってたのよ。毎日毎日、陰湿な事をされて、言われて過ごしたの。その反動は、分かるわよね?中学校からは、グレて男子とツルンで、喧嘩に明け暮れたの。今の田尾と同じよ!イジメを主導してた子には、倍以上のお返しをしたし、タバコ吸ってサボって“問題児”と言われてたものよ!高校に行っても変わらなかった。むしろ、酷くなってく一方。学校にも行かなくて、パチスロやらゲーセンに通う毎日。この会社に受かったのも“奇跡”と言われたのよ!それだけ荒んだ日々を過ごしていたわ!今のあたしの事とは、にわかには信じられないでしょう?」僕は咥えていたタバコをポロリと落とした。「嘘でしょう?!」「残念ながら、本当の話。髪もショートだったし、今とは風貌も随分と違ってたのよ。化粧も派手だったし。ここへ来ても、あたしは誰ともツルンだりしなかったし、口を聞く事も億劫だったの。そんなあたしを“安さん”は、陰からずっと見ててくれて、ある時に千春に言ったの。“アイツを助けてやれ!”って。千春は、あたしと同期で同い年だから、何となくは知ってたのよ。そして、洗いざらいを話したら千春は一緒に泣いてくれたの。“もう、いいよ!誰も気にしないから、そのままの恭子でいいじゃん!”って言ってくれたよね?」「うん、恭子を助け出すのは大変だったよ!」と千春先輩は笑って言った。「それから、やっと“更生”して、今のあたしが居るのよ。髪を伸ばすのだって、千春が“ロングが似合うから、そうしたら?”って言ったのがきっかけなの。でも、未だに昔の自分は完全には消せないで居るのよ。車は、その最たるモノ。“スカイラインのMT車”なんて、乗ってるのはあたしだけじゃないかな?女の子らしく無い選択でしょう?」「そうは思えませんが?女性のレーサーが居るんですから、ありじゃないですか?」僕は紙コップのコーヒーを飲み干しつつ返した。「千春、これよ!Yの落ち着きを見た?普通は引くと思うけど、コイツは全部受け止めるのよ!そして、何より心を見てくれてる。その辺で偉そうにしてる男子とは、明らかに違うと思わない?」「うん、何か違うと思ってたけど、そこらのヤツとは丸っ切り違うね!この姿勢は何処から来るんだろう?」千春先輩が宙を見る。「多分だけど、高校時代に女の子達と付き合って来たのが下敷きじゃないかな?確か5対2で女子が多数のグループだったよね?」「ええ、女子の人脈や繋がりは多かったですよ」「話が合わない事は無かったの?」千春先輩が聞いて来る。「それは無かったですね。ノートの貸し借りや困り事の解決とか、昼休みに“お茶会”してワイワイとやってましたし」「ふむ、“お茶会”かぁー。乗っかったの?」「いえ、考えたのは自分です。場所やポットやカップとかも、こっちで交渉して借りましたから」「良くやったね!先生も公認してたの?」「そうです。先生達には“生徒の裏情報を提供して、自分達も学校側の裏情報を聞く“見たいに双方が利を見いだせたから出来た事ですが。何せ新設校だったので、伝統も何も無いんです。学校も生徒もお互いが”手探り状態“でしたから」「そう言う環境だから、何でもありだったのか!羨ましい限りだわ!でも、絆は強かったでしょうね。男女じゃなくて”人と人の付き合い“があったはずだから、信頼関係は物凄くあったんじゃない?」「”1を言えば100を知る“を地でいってましたね。あんな関係は中々無いと思いますよ!」「千春、コイツは手放したらダメなヤツになると思わない?」岩崎さんが言うと「そうだね!閉じ込めてでも守り抜く必要性は高いね!取り敢えずは、千絵が接着剤の代わりだけど、あたし達も含めてみんなでガチガチにしないと、かっ攫われる恐れがありそうね!Yはこちらに頂かないとマズイ事になりそう!」と千春先輩も同調した。「Y,高校時代の信頼関係をここで再現して見ない?既に下地はあるんだし、あたし達と一緒にもっと良い関係を作ろうよ!そのつもりで、今日は腹を割って話したんだけど、やって見る気はある?」岩崎さんは真剣に聞いて来た。「それは勿論、ありますよ!仕事も遊びもメリハリ付けてやりたいですからね。でも、みんなが乗りますかね?」「それは”要らぬ心配“ってヤツよ!あたし達はハナから待ってたのよ!千春、いいわよね?」「大賛成!早速、Yの滞在期間の延長を”安さん“に進言しなきゃ!」千春先輩も乗って来た。「Y,アンタが起爆剤よ!全てを一新しようよ!」「ええ、変えて行きましょう!」こうして、僕等は新たな地平へと踏み出した。さしずめ、”国分同盟“とで言って置こう。

その日の帰り道は賑やかになった。今まで別々に帰っていた千春先輩も田尾も加わり、遠足の様な状態になった。「Y,高校時代のあだ名は何だ?」「“参謀長”だよ」「やっぱりそれだろうな!でなきゃスラスラと色んな手が言える訳がねぇ!奇想天外な作戦を思い付くのは、常に策を巡らせてる証拠があればこそだな!」「田尾!喧嘩もいいけど、もっと平和的な策を考えさせなさいよ!」と岩崎さんがゲンコツをお見舞いする。「いてぇー!流石に元ヤンキーだけあるな!」「それがどうだって言うのよ!これからは、Yを中心にして仕事も遊びも変えてくからね!」と岩崎さんが一瞥すると田尾は小さくなった。「Y,まずは、“飲み会”をやらない?あたし達だけでさ!」千春先輩が言い出す。「いいかも!おじさん達とやるとクドいから、あたし達がワイワイ、ガヤガヤ出来ないもの!」と千絵が賛成を言い出す。「Y先輩、お醤油持ってません?東京のお醤油とこっちのヤツを比べたいんですが?」永田ちゃんが自由研究の様な事を言い出した。「ああ、1本あるよ。味の素は?」「スーパーに売ってますよ。何か思い付きました?」「うどん出汁を作る要領で比較するのはどう?」「お湯に溶いて出汁を作るか!面白いかも!ポットはあるし、ボールも3つはあるから、みんなで味見出来る様にスプーンを探せばOKだよ!まずは、それだね!」岩崎さんが決断した。「Y,明日お醤油持って来て!永田ちゃんは味の素を、スプーンは千春と千絵も探し出して!自由研究からやってくよ!」岩崎さんの声に「おー!」とみんなで答える。「醤油に違いはあるのか?」田尾が首を捻る。「明らかに違いはあると思う。ここの醤油は少し甘いんだ。まずは“百聞は一見に如かず”をやってみようじゃないか」と僕が押し切ると寮の玄関が見えて来た。「明日、忘れないでよ!」と千絵が言うので「おー、必ず持って来る!」と返して、それぞれの玄関へ別れる。「明らかに違うとは、どう言う意味だよ?」田尾が突っ込みを入れて来るので「味噌を味見すれば分かるさ!付いて来な」と言って部屋へ案内すると、味噌を舐めさせた。「なんじゃこりゃ?!これが東京の味噌かよ?むちゃくちゃ美味いじゃねぇか!」と田尾は腰を抜かす。「信州味噌を甘く見るな。ここは白い麦味噌だが、これは米麹を使ってるヤツだ。これで少しは分かったか?」「うーん、確かに一理ある!明日に期待するぜ!」と言うともう1回舐めた。「きゅうりに付けて、かじったら最高じゃねぇか?」「ああ、それは保証する。たが、きゅうりが無いのが残念だな!」2人してニヤリと笑うと、「明日が愉しみだぜ!うどんも用意させたらどうだ?」と田尾が言い出すが「そしたら“安さん”に見つかったらヤバイぞ!“喫食率を下げるとは何事だ!”ってドヤされそうだ!」と言うと「ありえるだけに確かにヤバイな!うどんはまたの機会に残しとくか?さて、俺は寝るわ!睡眠不足だからな」と言って田尾は引き上げた。荷物の中から醤油のボトルを引っ張り出すと「明日は記念すべき日になるな」と呟いてから、風呂へ向かう支度を始めた。翌日の昼休み、味噌とお醤油の“味見会”は、パートの“おばちゃん達”も巻き込んで盛大に行われた。牧野、吉永のご両名が監修に付いてくれたので、出汁はキチント仕上がった。「うっ!これは・・・、Y、これ1本いくらするんだよ?」まずは田尾が絶句した。「本当に美味しい!1本1000円くらい?」と“おばちゃん達”も絶句した。「150円ですよ!スーパーで普通に売ってますよ!」と僕が言うと「東京は贅沢やね。同じに出汁を取ってもこれ程違うとは思わなんだ!高級料亭の味だね!」「それが、1本150円?!次元が違う。違い過ぎる!」“おばちゃん達”は幾度も試飲しては唸った。「懐かしいなー、素うどんでもいいから暖かいうどんを入れたくなるね!」牧野、吉永のご両名は、久しぶりの味に感激していた。「本当に違う!お刺身に付けてもお寿司に付けて旨いかも!」“予想外”と言う表情で永田ちゃんと千絵が頷く。「Y、本当にこれ150円?」「桁を1個間違えてないよね?」岩崎さんも千春先輩も心底驚いた様だった。「普通にスーパーで売ってるヤツですよ。標準的な醤油ですが?」「どこが“標準”なの?まるで別物じゃない!何が違うんだろう?」永田ちゃんは、ラベルを食い入るように見つめた。「しいて言うなら、醸造工程が違うんだろうな。原材料に差は無いから、地域差と言うか土地柄も影響しているんだろうよ」と僕が言うと「それだけでは説明が出来ない“この差”はなんだろう?お味噌だって全くの別モノだし、この品のある味わいは、どう言う事なの?」パートの“おばちゃん達”も首を捻るばかりだった。「Yさん、お味噌少しもらってもいい?」牧野、吉永のご両名は、抜かりなくラップを持って来ていた。「あたし達にも分けてよ!」他の“おばちゃん達”も加わり、カップの味噌は3分の1を残すだけになった。醤油のボトルも同じく3分の1にまで激減した。水筒やペットボトルのお茶を捨ててまでの“争奪戦”が繰り広げられた。懐はさみしくはなったが、みんなの笑顔が唯一の救いだった。「Y、大成功だね。こうした事はYが居るから出来るのよ!貴方には“みんなを変えていく力”があるの。これで、“おばちゃん達”とも共通の話題が出来た。“初めの1歩”としては上々よ!」岩崎さんも手応えを得た様だ。「小さな1歩ですが、これで“凍てついた壁”に風穴は空きましたかね?」「もう、止まらないわよ!これで、変革の土台は出来たもの!」彼女は胸を張った。たかが、味噌・醤油だったが、これから先への大きな試金石になったのは確かだった。

その日の夕方、部屋の壁に2枚のホワイトボードが設置された。前々から要望していた、月次予定表と出荷検査の優先順位を書き込むためのボードである。パートさん達にも予め分かっている欠勤日を書いてもらうし、徳田、田尾の両名には急ぎの製品や数量の不足している製品を書き込んでもらい、何を優先するか?を“可視化”するためだ。意思疎通を明確化して、不毛な“村根性”を止めて行く第1歩である。まずは、返しと出荷検査、出荷工程から壁を壊して行くのが目的だ。僕は定時上がりだったが、千絵達は1時間半の残業になっていたので、月次予定表の作成をしながら、今週の仕事をどう回すか?を考えていた。「金曜日は苦しいな。さて、どうするか?」と1人椅子に座って思案に沈んでいると、ドアが開いて岩崎さんが顔を出した。「これ、余りのトレーよ。机の上に置いとくね」と言うと後ろからそっと抱き着いて来て、頬に唇を押し当てる。「Y,金曜日の夜、開けて置くのよ!あたしに付き合いなさい!」と耳元で囁く。「千絵にばかり自由にさせない!最初に目を付けたのは、あたしなんだから!」と言うと、膝に座り込んで首に手を回すと左肩に顔を乗せた。そっと抱き寄せると「甘えたいんですか?」と聞いた。「そうよ!次は、あたしの番!お姉さんの相手はダメ?」と言うので「ダメとは言いませんが、千絵に知れたら“ヤキモチ”が炸裂しますよ?」と言うと「気付かれなければ、いいじゃない。コッソリとすればいいのよ!」と意に介す風が無い。彼女にして見れば、千絵はまだ“子供”も同然なのかも知れなかった。その時、背後で物音がした。「田井中ちゃん、Yに用事?」と岩崎さんは、平然と言った。「あっ、・・・あの、お邪魔でしたら、明日・・・、出直します!」「実里(田井中さん)、変な気遣いはよして!Yに用事があるんでしょう?あたしは済ませたから、遠慮しないで!」と言うと膝から降りて僕を自由にした。「Y,実里の用事を聞いてあげてね。金曜日、忘れないでよ!」と言うとさり気なく部屋を出て行った。「すいませんね。御用は何です?」と僕も何事も無かったかの様に言う。「灯りが見えたので、まだ残って居られるかと思いまして。TI台湾の金ベースを1トレー、頂きたいんですがお願いしてもいいですか?」田井中さんは、少し遠慮がちに言い出した。「ロットはどれです?治具を出しますね!」と言って専用治具をセットすると、新品のトレーも出した。「これです」と彼女は焼成炉から出たばかりのロットを指定した。「ちょっと待てます?もうしばらくは冷まさないと、トレーに穴が空きますよ」と言うと彼女は黙して頷いた。何となく気まずい空気がまとわり付く。「あっ・・・、あの、岩崎先輩と、その・・・、お付き合い・・・されてるんですか?」田井中さんが思い切ったのか突っ込んでくる。心持ち顔が赤い。「“お付き合い”と言うか“おもちゃにされてる”って言った方が正しいかな。検査工程の人達は、みんなあんな感じですよ。抱き着かれるし、膝には平気で座るし、男性として見られて無いって事なのかなー。ふざけて遊ばれてるのが実態ですよ」と言うと「あたしも仲間に入りたい!膝に・・・、座ってもいいですか?」と恥じらいながらも言い出した。「構いませんよ」と言うと、僕は椅子に座った。彼女は膝に座ると岩崎さんと同じ姿勢を取った。ただ、1つ違うのは離れまいと強く抱き着いてきた事だった。「これで、あたしも仲間入りですね。週末空いてますか?」「残念だけど、先約がありましてね。岩崎先輩達とドライブに行くんですよ」と言うと「あたしも連れてって下さい!お願いします!」と懇願して来た。さて、どうしたものか?と考え出すと「実里、いいよ!同行を許可する!」と岩崎さんが顔を出して言う。どうやら、気配を消して伺っていたらしい。田井中さんは、驚いて立とうするが僕が手を回しているので、動けずに顔だけをドアの方向に向けた。「実里、やるじゃん!今まで積極性に欠けるのが、実里の欠点だったけど、ようやく目覚めたようね!Y、いいよね?」「僕の意思とは関係なく、ハナからそのつもりでしょう?」とため息交じりに返すと「当たりー、これで品質保証部にも楔を打ち込めるから、一石二鳥だわ!実里、細山田もYにサンプル返してもらってるよね?」「ええ、Y先輩がここに来てから“明らかに空気が変わった”って言ってました。岡元さんの時とは“対応が違うね”って最近言ってたんです」田井中さんは僕の膝に座り直すとそう言った。「実里、あたしとYが組んで、今、壁を取り払う仕掛けをやってるの。この鉄のドアも引き戸に変えてもらう予定よ。あたし達は1つのセクションとして生まれ変わろうとしてるの。“安さん”も“やって見せろ”って期待してる。品質保証部としても、気づいた事はどんどん言ってよね!細山田にも伝えておいてね!Yは“起爆剤”として、ここの改革に取り組んで!“安さん”も固唾をのんで見守ってるから、積極的に行こうよ!あっ!千絵が来るから2人共離れて!」慌てて離れると、千絵が大量の空きトレーを持って来た。「実里、まだ残業やるの?」「いいえ、上がるつもりだけど、明日の朝に検証する分を取りに来てるだけ。Y先輩に無理言って、サンプルを返してもらってるの」と何事も無かったかのように言う。“薩摩おごじょ”はみんな聡い。「Y先輩、お待たせ!帰りましょ。実里も一緒に帰らない?」「うん、待ってて。直ぐに支度するから!」田井中さんは足早に、僕からトレーを受け取ると品質保証部へ急いだ。「田尾!まだ終わらないの?」と千絵が言うと「てめぇらがトロトロしてっから、もう1時間延長戦だよ!」と喚く声が微かに聞こえた。「ほら、知られなければ何とも無いでしょう?」岩崎さんが腕を絡ませて来た。お姉さんのやる事に抜かりは無い様だった。

そして金曜日の夕方、僕は寮を出て市内へ向かう道路沿いを北に進んでいた。しばらくするとシルバーのスカイラインRSがハザードを着けて追い越して止まった。助手席へ乗り込むと、岩崎さんが微笑む。「Y、お・ま・た・せ!千絵達に見つかって無いよね?」と問われる。「それは大丈夫ですよ。まだ、社内に釘付けですから」と言うと「あたしも“適当な理由”を付けて抜けてきたから、足が着く心配は無いわ!まずは“買い物”をしましょう。手荷物が無いと怪しまれるから」と言うと市内のホームセンターに向かった。カートを引いて2人揃って日用品を買い込んだ。「2人だとこう言う作業も楽しいわね。Y、シャンプーとリンスこれに変えちゃいな!朝のスタイリングが楽になるからさ!」と言われて女性が使うシャンプーとリンスを勧められた。価格も手ごろなのでお勧めに従う。「これで、怪しまれる心配は半減する。Y、遊びに行くよ!」RSは心地よいエンジン音を響かせて、空港周辺のモーテルへ向かった。白いジーンズに白いキャミソール。黒の羽織ものがアクセントになっている。ここからは“長丁場”になるだろう。部屋へ入ると、岩崎さんは羽織ものを脱ぎ捨ててから、僕の胸元に滑り込んだ。「さあ、やっと2人だけになったわよ。イチャイチャしよう!」と言うと唇を重ねて来た。折れそうな華奢な体をしっかりと抱きしめてやりながら、ベッドに押し倒すと「ダメよ。あたしが上」と言ってジーンズとキャミソールを脱ぎ捨てた。「脱がせてあげる」と言うと、彼女は1枚つづ僕の衣服を剥ぎ取った。もどかし気にブラを外し、パンティを片足に残すと「かき回して、早く!」とせがむ。馬乗りになると、猛然と腰を使って喘ぎ声を出した。下から突きを入れてやると更に声は高まった。「気持ち・・・、いい・・・、もっと、もっと突き上げて!」と言いながら胸元へ僕の手を持って行く。華奢な体には不釣り合いなくらい豊満な乳房を鷲掴みにして、思いっきり突き上げると喘ぎ声は一段と高まり、締め付けも強くなった。「お願い・・・、中よ・・・、中に出して!」と言うので白い体液をありったけ注いでやる。汗ばんだ体を預けると荒い息で「気持ちよかった」と囁いた。3回戦を終えると、2人でシャワーを浴びながらボディソープを塗りあって遊んだ。浴槽は泡だらけになったが、終始笑いながら浴槽に並んで浸かった。「Y、貴方が返しを担当するって聞いて、あたしやっと胸のつかえが降りたの!」岩崎さんが意外な事を言い出した。「どうしてです?」「岡元さんが嫌いだったからよ!あの人、後ろのあたし達の事、何も考えてくれなかったから!“おばちゃん達”には人気があったけど、所詮はそれまでの人。Yは常に返しも検査にも気を使ってくれる。それがどれだけありがたいか、最近身に染みて分かるの。ホワイトボードにしても、Yじゃなきゃ思い付かないだろうし、実里や細山田の態度を見れば一目瞭然!“おばちゃん達”も変わり始めてるのが分かるから、みんな期待してるのよ!」と言うと顔を泡だらけにした。「あー、目に入った。痛いなー」「そうでなくては、困るの。貴方は“人の痛み”が分かるし、誰に対しても“分け隔て”はしないわよね?その姿勢を忘れないで!そのまま、突っ走りなさい!そうすれば、みんな着いて行くからさ。でも、実里にだけは気を付けて!あの子、捨てられた過去があるから」と急に真顔で言い出した。「捨てられた?誰にです?」僕も真剣に聞き返した。「薄っぺらな同期の男よ。それ以来、男性と距離を取る様になったのよ。でもね、Yが来たから“もう1度信じてみよう”って言い出したのよ。あの子にとって、貴方は“未来への希望”なの。だから、誰よりも気を使ってあげて!希望の灯を消すような事は避けなくちゃ!勿論、あたしとこうして遊んでいる事も伏せてよね」と言って顔にシャワーを浴びせた。「難しい注文ですね。でも、何とかやってみましょう!お姉さんの命令ですから!」と言うと「“お姉さん”じゃなくて“妻として”の命令よ!正妻の椅子はあたしのモノ。明け渡しはしないから!」と言うと首元にしがみついて、しばらく離れなかった。帰りは食事を共にしてから、寮の1km程手前で別れた。「明日は、午前9時には出発するから、寝坊しないでね!Y、愉しかったわ!明日も宜しくね!」と言うと岩崎さんは走り去った。「“薩摩おごじょ”は、情熱的か。言われた通りだ」と言いながら寮までの道を歩いた。

そして土曜日、田井中さんを加えた5人で、僕らは日南海岸を目指して、岩崎さんのスカイラインを疾走させていた。出発直前に、田井中さんから「名前で呼んで下さい」と言われたので、僕は“実里ちゃん”と呼ぶことにした。宮崎自動車道の中程で“中央フリーウェイ”がかかると大合唱が始まった。景色は似ても似つかないが、高速を巡行していると気分も変わる。「次のPAで止まるわ。少し休憩よ!Y、運転交代してね!」岩崎さんのご指名である。「了解です!」と言って地図に目を落とした。しばらくは高速を走る事になるが、いずれは国道へ降りなくてはならない。素早く地図を頭に叩き込む。PAに着くと自販機班とトイレ班に分かれて行く。先にトイレに行った人が自販機班から飲み物を受け取り、車に戻る仕組みだ。僕と実里ちゃんは、飲み物を受け取ると先に車に戻った。「Y先輩、“中央フリーウェイ”は実在する場所なんですか?」実里ちゃんは興味を引かれた様だった。「そう、中央道下り線の調布ICの先にあるんだよ。地図で説明しようか?」と言って僕は、中央道の路線図を広げた。「ちょうどこの辺だよ。首都高速4号線から、ずっと山へ向かうルート沿いにある。“右に見える競馬場”とは東京競馬場のこと。“左はビール工場”とはサントリーのビール工場のこと。歌詞の通り“滑走路”に思えるよ」と言うと「O工場はどこです?」と返してくる。「O工場はここ。2時間半も走れば都心へ入れる位置だよ。正し、渋滞が無ければの話だが・・・」「慢性的に渋滞ですか?」「首都高はそれが当たり前なのでね。都内に降りればまた違うんだけどね」「凄く複雑なんですね。1車線間違えたら・・・」「全く意図しないところへ行くことになるし、Uターンは禁止。気は抜けないから、慣れないと大変ですよ」と言っていると3人が戻ってきた。「あっ、東京の地図?」永田ちゃんが手に取って見入る。「正確には、中央道全線の地図だよ。中央道は、東名の“バイパス”だからね。それに、首都高に接続してるから、その案内も載ってる訳」「本当に“目と鼻の先”に東京があるんだね。向こうからの観光客も多いの?」「連休の最後になると、上り線、つまり東京方面だが、30kmを超える渋滞はザラに発生するよ。だから、逆をやればいいんだ!こっちが都心を目指して、遊んでから帰ってくれば渋滞とは無縁で走れる!」「いいな、そんな事が出来るなんて羨ましい。普段は空気の綺麗な高原地帯に住んで、たまに東京にブラリか。地理的な優位は覆らないね」千絵がため息交じりに言う。「たまに行くからいいけど、東京に住みたいとは思わないよ。満員電車で数時間もかけて通勤するなんて考えたくも無い!」「それは、そうだね。チカンに会いたくないし!」「千絵だったら、追いかけて組み伏せるだろうな。腕の1本でも・・・」「“へし折る”って言うの?!」セリフを千絵が引き取ると全員が笑った。「アンタならやりそう!チカンに同情する!」岩崎さんが腹を抱えて笑う。「おしとやかではありませんから!」と言うと千絵は膨れた。そして、僕の首に手を回すと背を取って「チカン!チカンよ!」と言いながら腕を捻じ曲げた。「痛いよ!折らないでくれ!車の運転をしなきゃならないんだから!」と僕は必死に逃げようとするが、千絵は抱き着いて離れない。「おんぶー!」と言うと背中に飛び乗ろうとする。永田ちゃんと実里ちゃんも続いた。流石に3人の体重を支えるのは不可能だった。僕はさながら“車に轢かれた蛙”になった。「はい、はい、はい、Yが潰れたら何にもならないじゃない。そろそろ、解放してあげなさい!」岩崎さんの助け舟でようやく窮地を脱したものの、千絵は僕の手を掴んで離さない。「千絵、この先ナビゲート出来る?」岩崎さんが聞くと、千絵は頷いた。「それじゃあ、Yと千絵に任せる!日南海岸へ連れてって!」と言うと車に乗り込んだ。カセットテープを入れ替えて、真理の曲を流すと僕はスカイラインをスタートさせた。フル乗車にも関わらず、スカイラインは苦も無くスピードに乗る。曲を聴いた千絵は、少しづつ落ち着いて来た。「まるで、千絵を落ち着かせるためのテープだね。Y、男性の曲は聴かないの?」岩崎さんが聞いて来る。「何かフィーリングが合わないと言うか、イマイチ乗れないんですよ。それに、落ち着いて運転できますしね」と返すと「やっぱりYは変わってるね。そう来るか!」と勝手に納得される。「もう直ぐ、降りるよ!」ICの案内看板が目に入った。一般道に降りると、千絵が指示を的確に出してくれる。スカイラインは一路、日南を目指して南下して行った。