limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 85

2020年01月10日 13時04分27秒 | 日記
「準備は?」「もう少し調整します。しばらくお待ちを!」僕は、新品の治具の具合を確かめた。「軸にグリスを。調整ネジも増し締めをして下さい。まだ、引っ掛かりがあるな」「やりますよ。万全の体制で撮影したいので」技術の吉越さん達が、あれこれと手を加えてくれる。生産技術の奥のスペースで、僕等は“ビデオ撮影”に臨もうとしていた。こうして、得られた“映像”を基に、半自動返し機は構想が練られて実用化されるのだ。“おばちゃん達”や歴代の“返しの担当者”の映像は、かなりのビデオテープに治めるられているが、僕の映像はまだ無かった。朝礼後から直ぐに始められた作業も佳境を迎えていた。GE向けのキャップとベースも揃い、出荷に向けて準備は万端整っていた。「OK、行けますよ」と僕が言うと、吉越さん達は、ビデオカメラに群がる。「録画用意!30秒後にスタートする」息を整え、気を落ち着かせる。「はい、では、お願いします!用意、GO!」吉越さんの合図で、僕はGEのベースを返し始めた。このところ“実務”からは、遠ざかってはいるが、腕が“錆付かない程度”の仕事はやっている。おばちゃん達にも“引け”は取らないはずだ。「間近で見ると、やっばり違うな!バワーとスピード。左手の使い方が、丸で別ものだ!流石は“武田の騎馬軍団”を率いる“総司令!”おい、テープは回ってるよな?」「はい、それは間違い無く!」「タイムも驚異的な数字が出そうです!最速記録を更新しそうです!」そうした雑音は、一切気にしないで、目の前のGEに挑む。久々に作業をした割りには、テンボが良い。新しい治具に問題は無さそうだった。1ロットを返し終えると、点検に入る。地板に残った磁器は見当たらない。「ふー、完了です」僕がそう言うと「凄いモノが撮れたな!タイムは?」吉越さんが誰何した。「見事に最速タイムを更新です!」と声がかかる。「“信玄公”、左手の使い方は誰から習いました?」と聞かれる。「これは、僕の“オリジナル”なんですよ。試行錯誤の末に得た結果です」と言うと「利き腕は右ですよね?左手をここまで巧みに使われる方は、初めて見ましたよ!“ヒント”は何です?」と吉越さんが目を丸くして聞く。「外科医のオペビデオですよ。同級生に医大生が居ましてね、ダビングしてもらったビデオテープを見て閃いたんです。利き腕以外の“左手を使う”事で、作業効率は上げられるでしょう?オペ時間が短ければ、患者さんの負担も減らせる。“鍵は利き腕では無く、反対の腕にあり”ってヤツは言ってました。それを聞いて応用したまでですよ!」「うーん、それも凄いが、オペからヒントを導き出す“発想”がまた凄い!あなたの頭はどうなってるんです?何処かに別の回路が繋がってませんか?」「昔、同級生の女子に分解するって言われたなー。同じ“容疑”で!」僕が薄笑いを浮かべると、吉越さんは「サイボーグの疑いで?」と笑いながら返して来る。「当たりですよ。生身の人間なのに」「でも、今、見せてもらった動きは斬新だった。“水平展開”とかしてます?」「ええ、やってますが、独特過ぎて“コピー不可能”なんですよ!」「そうだね。あなたの“境地”に立つとしたら、軽く半年間はかかる。2〜3日でコピー出来たら、返し工程は“あくび”してなきゃなりませんよ!さて、これを機械化して行く過程にどう生かすか?我々も真剣に考えなきゃなりませんな?続けて流すぞ!テープを交換しろ!今度は、一気に飛ばして下さい。出荷から“催促”が来そうですからね!」吉越さん達は、階下を気にした。「3ロット、連続で行きます。スタンバイOK!」僕が合図を送ると、カメラ部隊が頷く。「録画準備完了、30秒後にスタートして下さい」「了解、では、行きます!」僕は猛然とスパートをかけた。「これは!誰とも似ていない彼独自のスタイルだ!パワーとスピード、そして、何より正確だ!おい!ビデオはちゃんと回ってるよな?」「大丈夫です!」「“信玄”の異名たる由縁は、これか!」吉越さんは、ただ唸っていた。

1階でも“唸っている”者は居た。ただ、多少ヒステリックではあったが・・・。「Y君は何処なんだ!このままでは・・・」「今日のGEを返せないってか?Yが居なくても、返しはチャント回せよ!」橋口さんに田尾が釘を打つ。「いっ、言われるまでも無い!まっ、回してやるさ!本日は、私が“指揮官”だ!“おばちゃん達”を率いて立ち向かってやるさ!」彼は虚勢を張って準備を進めた。しかし、所詮は“虚勢”である。メッキが剥がれるのは時間の問題だった。「何処まで持つかしら。Yの居ない穴は途轍もなく大きいのよ!」「もしかしたら、“おばちゃん達”の方が冷静に対処するかもね」神崎先輩と恭子が密かに話していた。「神崎先輩、本日のGEは誰が担当ですか?」千絵が訊ねた。「あたしがやるわ!あなた達は、“スポット”と銀ベースを進めて!」事務的な指示に対して「Y先輩、何処に行っちゃったんだろう?先輩何か知りませんか?」と踏み込む千絵。「さあ、何処かしら?想像も着かないわ。“安さん”の緊急指令でも受けたのかもね」と焦点をぼかす。「それにしても、妙ですよね!事を必ずオープンにする人なのに、一言も無く消えるなんて・・・」永田ちゃんも心配していた。「大丈夫よ。そのウチ“ひょっこりと”顔を出すんじゃない?」みーちゃんが、僕のデスクを見て言う。「とにかく、目の前に集中して!先行して行くわよ!」神崎先輩が発破をかけると、全員が顕微鏡に目を凝らした。「Yより、先輩どうぞ」「神崎より、Yへ、GEはどうなの?どうぞ」「間も無くベースが仕上がります。予定通りにエレベーターで降ろします。どうぞ」「了解よ。細山田が付いてくるのね?どうぞ」「はい、そうです。続けてキャップに掛かりますが、30分前後お待ちください。どうぞ」「委細承知、交信終了。お恭、GEのベースが降りて来るわ。手筈通りに誤魔化してちょうだい!」「はい、徳さん、行くわよ!」恭子達は密かに動き出した。「神崎さん、今日出荷のGEは何処にあるんだい?」橋口さんが慌てふためいて飛んで来る。整列から塗布、炉の順に追っているらしい。「Yが居ない現状では、手が足りないと思って、品証に依頼してあるの!“例の儀式”も含めてね!」「誰の決定だ?」橋口さんは色を成して詰め寄った。「あたしと田尾の決定よ!Yが居ない“片手落ち”の状況、しかも“スポット”と銀ベースも急ぎ!総合的に判断した結果よ!」「私を過小評価するな!この程度のことで足許を見られる・・・」「“筋合いは無い?”かしら?GEは、殆どYが専属で返して来た製品よ。時間的な余裕と仕上がりを考慮した場合、あなたでは“間に合わない”と踏んだのよ!文句を言う前に腕を磨いたらどうなの?それと、感情的になっていては、“おばちゃん達”に伝染するわよ!Yなら、仮面を被っても押し殺していたでしょう。朝礼の“種”はメモしてあるの?伝えなくてはならない事は結構あるはずよ!ここへ嫌味を言いに来る前に、するべき事をやってからにしなさい!」神崎先輩の剣幕に橋口さんはスゴスゴと引き下がった。そうした喧噪の隙を突いてGEのベースが検査室に運び込まれた。「ふー、あれではたまらないわ!」と神崎先輩が嘆く。「Yの足許にすら及ばねぇ!こりゃあ、“地獄のシゴキ”に合うぜ!」と田尾も同調する。「彼が居ないだけで、こうも疲れるとは、如何に偉大な背を追っていたか痛感させられる。やはり、彼には“転籍”してもらわないと、ダメね!」「先輩、俺もそう思うぜ!だが、先輩も変わったな。“男子などと席を同じくせず”だったのが、嘘みたいだ!」との田尾のセリフに「そう思わせる力があったからよ!現に、それをひしひしと感じてるとこ!」と神崎先輩は返した。間も無くパート朝礼の時刻だが、橋口さんは、うろたえてオロオロするばかりだ。「朝礼が終わったら“戦場”になるわよ!田尾、徳田、覚悟はいい?」「分かってるぜ!」「ヒステリックにならなきゃいいが・・・」と2人は答えた。

「“半自動返し機”のコンセプトと言うか、“構想”は数年前からあったんだが、どうしてもクリア出来ない“壁”があってね。未だに実現されていないんだよ」GEのキャップを返し終わると、吉越さんが言い出した。「“壁”とは、地板に貼り付いて剥がれない磁器ですよね?」「ああ、炉までは確実に地板に乗っててもらわないと困るが、トレーに返す時は“剥がれてくれないと困る”んだよ。2律相反する問題なんだが、ここさえクリアになれば、人手を削減できるんだよ!コスト競争でも優位に立てるし、スピードも出せる。しかし、現在に至るまで、機械は完成していないんだ。“信玄公”の様に人手の方がスピードでも確実性でも上を行ってるからね。サイボーグ技術が進めば話は別だが、“機械より人手の方が早い”現実を見ると、先は長そうな雰囲気だろう?」「でも、技術屋の意地に賭けても完成させるつもりですよね?」「そうしないと、我々の存在価値が無くなる。だが、今日は良いデーターが取れてる。今後の参考にさせてもらうよ!」吉越さんは何かを掴んだらしい。僕の映像は、早速、分析にかけられて精密な検討が行われていた。「神崎よりYへ、どうぞ」「こちらY、GEのキャップも返し終わりましたので、降ろしました。どうぞ」「ご苦労様でした。“おばちゃん達”が“R計画”のファイルを持って、指示を仰ぎに来てます。検査より指示を出してもいいの?どうぞ」「“R計画”によれば、神崎先輩が指揮を執るべきと記されています。存分にされて構いません。どうぞ」「了解!では、返しの指示を発令します。橋口さんは、何も手を打てないで居ます。根本的に叩き直す必要がありと認めます。交信終了」「“信玄公”の留守を預かるのも、楽ではなさそうだね。大丈夫かい?」交信を聞いた吉越さんが言う。「今回の計画は、“問題点を炙り出す事”なんですよ。僕が“留守”をしても各パートが“ちゃんと回るか?否か?”を探るのが目的です。今、1つの問題が浮上してますが、それは想定の範囲内です。“地獄のシゴキ”をやらなきゃなりませんがね」「それ以外にもありそうだな。例えば“指揮系統の見直し”とか、“副指令官”の任命とかさ。機械はメインのCPU以外にも、サブのCPUを複数置いてるじゃない?階下で起きてる問題は、メインCPUに異常が発生した場合に“何処で信号を処理して、機械を安全停止に持って行くか?”と同じじゃないかな?セーフティ回路が明確になってないと、いずれは機械を非常停止に持って行かなきゃならないが、人が非常停止ボタンを押さないと、壊れるまで暴走しかねない。そうなる前に、自動停止してアラームを出すのが、機械屋としての親切だと思ってるがね!」「確かに仰る通りですよ。“膿と歪みを出し切る”のが、今回の最終目的です。“荒療治”ですが、逆にアプローチする箇所は絞れるから、対策は立てやすいんです。抜本的に回路を見直す“最後の機会”ですから、多少のゴタゴタは出ますよ。しかし、進捗や出荷には害が出ない範囲に留めてありますから、明らかになった点を早めに潰して行くのが、直近の課題ですね」「“モグラ叩き”だな?」「ええ、量産前の最後の詰めと同じですよ」「それを“組織改革に応用する”なんて、誰も考え付かないだろうな。“信玄公”らしい発想だよ!着任以来5か月余り。随分と力を付けたものだ。だが、任期は残り1ヶ月だが、帰るのかい?」「“安さん”が動いて“貴様はタダでは帰さん!”って粘ってますよ。先の田納さんとの話し合いでも“中核を担う者は、期限が来ても帰せない”旨を言ったそうです。僕も国分が気に入ってしまいました。帰れ!と言われても“嫌です”と答えますよ!」「ならば、我々の開発にも力を貸してくれ!基本構想は出来てるが、細部の詰め、すなわち“磁器の未落下対策”や“反転機構”などは紛糾して進んでいないんだ。今回のデーターや今後のデーターに寄って導かれた結果をどうするか?現場の意見を上げて欲しい。個々人の工夫点ややり方をデーターに反映させたい!頼めるかな?」「吉越さんの仰せを断るのは、不可能ですね。僕も“試作機”の試運転に立ち会いたい気分ですよ!」「よし、いっちょやるか?」「やりましょうよ!」僕等はデーターの比較・分析にかかった。吉越さんが“試作機”を完成させるまでには、長い時間が必要だった。実際に“試作機”が完成するのは、僕が無念さを抱えて帰った後になるのだ。しかし、在籍中に色々なデーター取りや機械の機構構成など、多岐に渡っての検討・アドバイスは続けられた。

“おばちゃん達”は、“R計画”に沿って動き出していた。“R計画”とは“リカバリー”の意味で、僕が欠勤を余儀なくされた場合に備えて“どう乗り切るか”を記したモノだった。西田・国吉・吉永・牧野の4名を核として、進捗に応じて作業を進める手順を予め決めて置いて、細部は神崎先輩や野崎さんにも加わってもらい、切り抜ける手段だった。橋口さんは、早々に“見切られて”しまい、“おばちゃん達”が主導権を握っての作業になった。経験値では、他を寄せ付けない実力者達である。僕が不在であろうとも、その意を汲んで動けるのは、日頃からの意思疎通を明確にした成果だった。「このファイルの存在は知らされていたが、中身までは確認してなかったな。こんな場面も想定してあるなんて、彼は何処まで読んでるんだ?」橋口さんは首を捻るのが精一杯だった。「神崎先輩、Yから“R計画”の概要は聞いてます?」恭子が小声で言う。「ある程度はね。けれど、ここまで緻密に組み上げてあるとは、聞いてないわ!“2~3日不在にしても何とかなります”とはYも言ってたけど、正直な話驚きしか無いのが本音よ。橋口さんを霞の中に放り込むとはね!」「けれど、これでハッキリしましたね。橋口さんは“地獄のシゴキ”に耐えてもらわなくてならない!」「ええ、“使える様に鍛え上げる”必要は生じるわね。あらゆる面で“Yの足許にも及ばない”では困るのよ!」「けど、それが現実だぜ!あの人に“おばちゃん達”の操縦は無理だ!それより先輩よー、営業からFAXが届いたんだが、どう返事をする?」田尾が紙を差し出した。「明日の依頼か!」「前倒しなんだが、ブツはあるんだ。予定にも乗ってる。ただ・・・」「出すか拒むかの判断ね。今月の売りに入ってるの?」恭子が問う。「入ってはいるぜ!」「OK、出す準備をして。当初の予定から外れなければ、問題は無いもの。ただ、これ以外に煽りが来たら、どうするか?よね?」神崎先輩が決断しつつも、続きを気にした。「昼休みに“中間報告と打合せ”に行くんだろう?Yの判断を聞いといてくれるかい?」「OK、問い質しとくわ。橋口さんの“シゴキ”についても話して置かなくちゃ!」「噂をすれば何とやらだぜ!」検査室に橋口さんが現れ、神崎先輩に向かって来た。「ちょうどいい。みんな聞いてくれ。“おばちゃん達”が組み立てた作業予定で、こっちは回ってるのかい?出荷に支障は?」「今のとこ何も問題は無いぜ!」「検査も順調よ」田尾と恭子が相次いで答えた。「ふむ、何処かで“見えない意思”が働いてないか?Yが不在にも関わらず、何も問題が無いとは、妙に感じないか?」3人の背筋は凍った。橋口さんが懸念と言うか、疑問を抱くのはマズイのだ。「問題が出ないならそれでいいでしょう?Yが居ない“片手落ち”の現状で、ここまでは踏ん張って来てるのよ!何が言いたいの?」神崎先輩が声を荒げた。「いや、その、本来は混乱するはずが、理路整然と流れてるのは、誰かが陰でYと連絡を取ってるのかと思ってね。彼の“策謀”だとすれば、説明が付く場面も多々あるし・・・」3人は顔を見合わせた。この男、直観力だけは優れているではないか!「神崎先輩が、苦労してこれまでの指揮を代行してるんだぜ!俺達も可能な範囲で走り回ってる!だが、“管理業務”までは手は回ってねぇ!あっちは、Yでないと分からんからな!それとも、午後から“管理業務”の代行をしてくれるのかい?」田尾が押し返す様に言った。「それは、当然無理だよ。勤怠や時間管理なんかは、Yでないと分からないから手出しすら出来ないさ。ただ、可能性の1つとして、言って見たまでの事だよ。Yから連絡は?」「今持って無し!余程の緊急事態に見舞われたのかもね。それも“極秘裏”に解決するべき案件だとしたら、焦ってるんじゃないかな?」恭子も必死に押し返す。「ともかく、連絡が来たら知らせて。文句は山の様にあるんだ!」橋口さんは、何とか引き下がった。3人は安堵のため息を漏らした。「危ないとこだったわ!危うく見抜かれる寸前よ!」神崎先輩が言うと恭子も田尾も冷や汗を拭った。「こりゃ、何か“仕掛けないと”不自然じゃねぇか?」「あたしもそう思うの。返しに波風を立てないと見抜かれるわ!」田尾と恭子が言い出した。「もう直ぐ昼休みよ。あたしがYに会って“仕掛け”についても問い質して来るわ!神崎先輩は決然と言った。

昼休み、僕は生産技術のフロアの奥まった部屋に閉じこもったままだった。下手に出歩くと事が露見するし、後が厄介だったからだ。「Y、どこ?」恭子の声がした。衝立の陰から手を振ると、神崎先輩も姿を見せた。「はい、お昼よ。本当にこれだけでお腹足りるの?」と言われるが、今日はそんな事を気にしている日では無い。「取り敢えず満たされれば事足りますから」と言ってパンにかじりつく。「Y、ちょっと“平和過ぎる”のよ!橋口さんが疑いを持ち始めてるの。適当な“波風”を立てられないかな?」恭子が言い出した。「“シゴキ”を入れるのは当然にしてもよ、直観力で事が露見する寸前なのよ!」と神崎先輩も言う。「ふむ、出来れば使いたくは無い手だけど、やむを得ぬか!」僕は2枚のペーパーを差し出した。「GEの緊急出荷依頼に、橋口さんへの問い合わせか!でも、営業からの指示は無しよ?」「あくまでも“偽り”の書面ですよ。GEは、来週の月曜日出荷の分だし、“朝礼の内容”と“進捗について”は、後からでも確認可能ですからね。橋口さんの尻に火を点ける。それが、最善策でしょう?」「でも、GE関係は、Yか西田さんのグループしか手を染めて無いはずよ。橋口さんに返せるの?」恭子が懸念するが「否応無しの場面でしょう?“返せる云々”では無く“返してもらう”しかありませんね。恐らく、それで手一杯になるはず。余計な事を考えている暇を与えなければいい。どの道、月曜日には出すんですから、急いでやるよりは、落ち着いて集中してやった方が効率も良いはずです。出荷は、月曜日で予定通りなので、煽るだけ煽ってやれば早く片付きますし、フラフラされるよりはマシでしょう?」「まあ、そうね。それにしても、良く似せて作ってあるわね!こんな細工も手抜き無しとは、恐れ入るわ!」と神崎先輩が溜息交じりに言う。「“敵を欺く”には、味方も欺かねばなりません。疑念を抱かれぬ様に、細工するのは当然の事。万事、策を弄するには、労力を惜しんではならないのですよ!」「OK、これを橋口さんに見せて、煽ればいいのね?」「ブツは炉から出ているはずです。午後は、“釘付け”決定ですよ!」「まあ、これなら露見する心配も無いわね。後は、“シゴキ”の内容だけど、腹案はあるの?」「来週から徹底的に鍛え直しですよ。治工具も完成しましたし、テスト結果も良好です。全品種、全品目の返しを1からやり直しさせますよ!歳も経験値も関係無し。ゼロから立て直させます!西田さんと国吉さんには通知済ですから、月曜からビシバシと飛ばしてやらせますよ!無論、僕も“監督”として付きますがね!」「それじゃあ、Yの負担が増えるだけじゃない!“責任者”としての雑務は?前との“調整”は誰がやるの?」「“口は出しても手は出さない”でどうです?僕にあーだ、こーだ言われるよりは、“おばちゃん達”の方が厄介ですよ。絶対的な経験値の差があるんですから、二の句が告げるはずも無い。しばらくは、検査室のデスクに陣取りますよ!指示もそこから出しますし」「うーん、地味にキツイ話だけど、着いていけるかな?」「行ってもらうしかありませんね。否応無しの状況下に置く事で“見えて来るモノ”を見てもらう。口で言う程楽じゃありませんよ!」「ともかく、橋口さんを“使える状態”に引き上げる。それが1つ、もう1つは、“副指令”を誰にするか?よね」「ええ、簡単な事ではありませんが、しばらく考えさせて下さい。各個々人の適性を見直して考えますよ。男女や年齢の上下は抜きますから」「それでいいわ。あなたが、どれだけの“荷物”を背負っているか?今回、あたし達も痛感したわ。“皆で持てば軽くなる”とも感じたけれど」「ひう言ってもらえるなら、今回の策は“成功”したと言って良いでしょう。後、数時間だけ踏ん張って下さい。午後3時をメドに階下に降りて行きますから」「OK、任せて!」神崎先輩と恭子は、階下に向かった。“反乱”は、こうして成功裡に幕を閉じた。

午後4時を過ぎると、僕は検査室のデスクに向かった。残業も終わって皆が帰り支度を始めたからだ。デスクの上には、山積みの書類が置かれていた。進捗管理表には、“おばちゃん達”の書き込みが多数あったし、田尾と徳さんからは、“レポート”が出されていた。これらを丹念に読み返して、来週からの“修正”に繋げなくてはならない。橋口さんからは、“苦情”の文面が出されていた。彼も来週からは“シゴキ”へ送られる。「最初で最後の苦情申し立てだな」フッと笑うときちんとファイリングして付箋を付けた。たかが1日、されど1日。得られたモノは少なからずあっただろう。「Y、おかえり」恭子が背中から抱き着いて来る。「今夜は寝かせないから!」と耳元で囁くとデスクの前に立って“レポート”を差し出した。「ありがたく、ちょうだいします」と言って受け取る。神崎先輩も裏口から来ると“レポート”を出してくれた。「これらを精査して、来週から“修正作業”に手を付けます。これで、膿や歪は出し切れたはず。“修正”が完了すれば、新たな体制も揺ぎ無きモノになるでしょうよ」と言うと「そうで無くては困ります!」と2人に睨まれる。強引な手法を取らざるを得なかったが、“欠点”を炙り出す作業は順調に推移した。これからは、頑丈な基礎の上に建屋を建てる番だ。“安さん”も徳永さんも追い上げは、急ピッチで進めるだろう。それらに先んじて、返し・検査・出荷を一体運用するのが、僕の構想であり、新体制だった。綻びは、今の内に繕わなくてはならない。2人にそう伝えると「繕うんじゃなくて、縫い直しだね」「問題は返しの頭と“副指令”の選任だけよ」と言う。「確かに、一筋縄では行かない事業だが、やり遂げなくては今後の増産に耐えられない。遅くとも月内には結論を出そう!」と告げた。2人は黙して頷いてくれた。「さあ、もういいでしょう?そろそろ帰らないと、“安さん”の雷が落ちるわよ!」神崎先輩が時計を見て言う。午後5時になろうとしていた。長かった1日が暮れようとしている。夕闇も迫って来た。「デスクワークは、月曜日にしよう。帰りますか?」僕は荷物をまとめると立ち上がった。「時間は有限だけど、知恵は無限よね。“修正案”を愉しみに待ってるから。お先に!」と神崎先輩が出て行った。僕と恭子は、各部屋の照明を落としながら、工程を巡った。「本来なら、来月が“ファイナル”でしょう?今のところは?」「年内は、“人攫い”は無い。帰還者名簿にも載ってない。つまり、勝負は師走と共に再燃するだろうよ」と言うと「お正月はどうなるのかな?」と恭子は不安げに言う。「僕の代わりが直ぐに見つかるか?それに、部門も事業部も“体制刷新”の最中だぜ!ここで、“安さん”が簡単に引くと思うか?」「そうよね。“代わりの利かない人材”を手放す様な人じゃないものね!」と自らに言い聞かせる様に言った。「Y、1時間後に待ってて!直ぐに支度をするから」恭子が腕を絡ませて来る。構内を抜けて寮を目指す。西の空に細い月が浮かんでいた。

夜空の細い月を見て居たのは、僕等だけでは無かった。遥か彼方のO工場の三井さんも、束の間の休憩の時間に空を見ていた。「5000台達成か。“飛車角落ち”で良くここまで来たもんだ。来月になれば、50人が戻るし、再来月になれば32人が戻る。“飛車落ち”程度までは、押し戻せるが、やはり“主力戦艦”が戻らなくては、互角の戦は無理だ!」「三井、面子が揃ったぜ!」長谷川が知らせに来た。「よし、作戦会議だ!」タバコの火を揉み消すと、生産技術の部屋に向かう。設計・企画・技術陣が集結していた。「新機種の生産も軌道に乗った。だが、まだ国分工場には110余名の仲間が留め置かれてる!彼らを取り返してこそ、真に“O工場の復活”を宣言出来る!どうすれば、早期に“帰還”させられるか?考えを出してくれ!」三井さんは、“主力戦艦”の奪還に向けての策を下問した。特に、ダイキャスト部門の技術者の不足は、深刻だったからだ。「田納さんの次の行脚は、年末年始にかけてだと聞いた。そこに向けて、“希望者リスト”を上げる必要はあるな!本部長の“専決事項”にはなるが、我々の意志を届けて“再考”を迫るのが近道だろう!」城田が口火を切った。「吉田、進藤、高山、Yは“是が非でも”帰してもらわなくては手が足り無い!」「ああ、Yを樹脂成形に“コンバート”するのは、規定路線だから1日でも早い方がいい!」「だが、今の4人は、全員が“プロテクトリスト入り”してる!特にYと高山は、“本部長表彰”になるらしい。ガードは固くなる一方だぜ!」「それに、調べた範囲を仔細に見るとだな、2人共に“責任ある立ち位置”に置かれてるし、持ってる“権限”も結構大きいんだ!代わりになる“人材育成”が進まなければ、長期間に渡って留め置かれる一因になりそうなんだよ。他所の事業部に対して、余り強烈な事も出来ないし、田納さんの“面子”を潰す事も控えなきゃならない。三井、ここは当初の計画を忘れてだな、“新たな飛行計画”を模索する方が得策じゃないか?」長谷川が冷静に言う。「国分に居る田中さんの“見解”とも一致するな。Yと高山と鎌倉を取り返すとしたら、“年単位”で考えろ!だそうだ!この3人に共通するポイントは、“重責を担いつつも成績も挙げてる事”だそうだ!向こうで“重用”されてるとしたら、戻る椅子が“平”じゃ格好が付かないし、本人達にしても“呑める条件”ではあるまい。O工場より平均年齢も若いし、実力主義で勝ち上がったんだ。未だに“年功序列主義”が蔓延るこちらに呼び戻すには、“相応の理由と待遇”を揃えなきゃ無理なんだ!やはり、長谷川の指摘の通りに“作戦変更”を思案すべきだな!」三井さんが決然と言った。「だとすれば、吉田、進藤の“帰還”を最優先事項にすべきだ!ダイキャスト部門の薄さを補強するには、それしかあるまい!」城田が言った。「小池や溝口、本田に遠藤も優先させなくては、各部門の“回し”に無理が出るぞ!現実でもギリなんだからな!」「そうだ、早く戻さないと支え切れん!」各個人から次々と名が挙がった。三井さんがメモをすると、ちょうど50人になった。「諸君、ちょうど50名の名が挙がった!これらを次回の“帰還希望者リスト”として上に挙げたいと考える!この辺が上限だろう。国分工場と一戦を構える事無く済ませるなら、妥当ではないだろうか?」「しかし、期限を越えて“留め置かれてる現実”をどう打開するんです?」「それは、忘れよう!起きている問題を1つ1つ潰して行かねば、全員の“帰還”も危うくなる!これからは、新しいMISSIONが始まると思え!どうなろうとも、時がかかろうとも無事に連れ戻す!とにかく、1人でも多くの仲間を“早期に帰還させる!”今はそれしか無いんだよ!」三井さんの結論は、大筋で承認された。用賀部隊が“対外情報”を集めて、O工場側が“弱点の洗い出し”を担う。要望書は、総合的観点から三井さんが“起案”して、小林副本部長に提出する事に決した。三井さんは、大車輪で要望書を書き上げる事になった。

「ねえ、あなた。何を考えてるの?」週末の逢瀬を堪能した恭子が、バスローブ姿で聞く。「“おばちゃん達”の先発ローテーションさ。橋口さんを“国家老”に留め置いたまま、“シゴキ”に手を回すとしたら、西田・国吉・吉永・牧野の4家老に“指導”を依頼しなきゃ無理だ!原田さんとの“競争”に持って行くしか、目先を逸らせる方法が無いんだよ!」「Yが“雑務”や“計画の手直し”に時間を割くとしたら、それしか無いものね。苦情だけは1人前に出してるし、妙な“直感力”は働かせるし・・・」「元々は、チームリーダーだったんだから、全体的な視点からモノを見る能力はあるだろう。ただ、個別の作業では、“難しい品種”をやらせた反動で、“基本”が分からなくなってる。新たに製作した治工具で、“基本”からやり直しをさせるには、“もう1手”を加えなきゃダメだろうな!」「何を加えるのよ?」「新品の治工具で、僕がGEのベースとキャップの“返し最速記録を更新した映像”を見せるのさ!記録を刻んだ治工具で、“やってみろ!”って挑むのさ!“悔しかったら抜いて見ろ!”って“挑戦状”を送り付けるんだ!そもそも、彼も面白くは無かったはずだ。歳下に指示を仰ぐのは、“屈辱的”だったろうよ。だが、ウチへ来た以上、年齢や性別で区別はしない。経験値や過去の実績も加味はしない。“腕と実力の世界”なんだ!“力のある者”が上に立つのは当然だし、“自らの努力”無くして道は開かれない!それを今1度突きつけるのさ!僕は、記録を出した。“あなたはどうする?”と問いかけるのさ!」「それで、どう出ると思う?」「まあ、反発するだろうね!“そんな事やってられるか!”ぐらいは言われるだろうよ。でも、“やってもらわなくては困る”んだ。彼を降ろすのは、いつでも出来るが、まずは、尻に火を点けてやって、どう出るか?“お手並みを拝見”してからでも遅くはないだろうよ。元々は“僕の領域”なんだ。“直轄”にするのは容易いし、“おばちゃん達”でも仕切る方法はある!だが、彼が自立してくれれば、更に僕等は強固な体制を手に出来る!賭けにはなるが、やらないよりはマシだろう?」「Yのその思いは届くと思うな!“おばちゃん達”が黙って居ないよ!Yに出来て、橋口さんに“出来ない理由”が無いんだらさ!」恭子は隣に座ると身体を預けて来た。「ねぇ、もう1回頑張れない?あたし、我慢出来そうも無いのよ」恭子は上半身を曝け出した。豊かな乳房が僕を誘う。「しょうがないなー!」僕は恭子を抱き上げるとベッドに向かった。夜は更けて行ったが、求めあう僕等に時間は関係無かった。

life 人生雑記帳 - 84

2020年01月07日 17時19分24秒 | 日記
羽田行きの飛行機に乗り込んだ田納さんは、「今回は、上出来や!次の“年末決戦”までに、“策”を巡らせて置かなあかんな!」と上機嫌だった。「しかし、思った以上に、各事業部や部門の反発は強烈でしかも、“残留狙い”が透けて見えます!残る約110名を如何にして連れ帰るおつもりです?」と小林さんが言う。「“タカが3ヶ月”やろうが、下期の受注が思わしく無いとこもある!12月に来る時は、“景色が一変してる”部門かてあるやろ!そこがつけ目になる!半導体部品は容易には落ちんが、機械工具や自動車は軟化する余地はでる!そこで一気に引き抜けば、50〜60人は確保出来るやろ。最も、その前に“進物”を出さなあかんがな!」「新機種の発売ですか?故に“人手が欲しい”と説得工作に回られる?」「せや!発売日も決まりました。“これからぎょうさん、こさえなあきません!”と言って回れば、各本部長かて無下にはせえへんやろ?O工場には、まだ頑張る余地はある!総力を挙げて生産高を上げれば、人材も帰って来るんや!光学事業本部の総力を集めて、新機種の成功と人材の帰還を目指すんや!」轟音と共に飛行機は離陸した。今回、帰還予定となった人材の名簿は、直ぐにもO工場の掲示板に貼り出された。「Yのヤツは未帰還かー!」「次は年末年始だって話よ!」「途中で投げ出すより、“やり切って帰る”だろうね。アイツの性格からして、“成し遂げる”までは、粘ると思う。大丈夫、アイツはあたしのところに帰って来る!」ダブル酒井と松下先輩達は、そう言って足早に昼食を摂りに行った。用賀に 戻った田納さんは、O工場の河西事業部長に連絡を取り進捗を聞いた。「順調に積み上げております!」「よっしゃ~!そのまま突っ走れ!年末商戦にぎょうさんバラ撒くんや!一気にシェアを取るで!」本部長は、企画開発部にもCMの制作を急がせた。発売までの“カウントダウン”は、既に始まっていた。

「何?“空白の一日”を作る?!何故そんな必要性がある?」徳永さんは、色を成して言った。「橋口さんがどれだけ“自らの力で返しを回し、検査や出荷との連携を取れるか?”を試したいのです!現状では、彼の“本来の力”は見えませんし、“指示待ち”の姿勢を変える事もままなりません。一種の“ショック療法”ですが、各パート毎に“どう動けるか?”も含めて見て置きたいのです!その上で、必要な“処置”を取り、来月に備えたいのです!」「だがな、“信玄無くして後無し”の現状で、例え1日でもお前が抜ければ、相当なダメージを残すぞ!後半で取り返せるのか?」徳永さんは、進捗を気にした。「既に9月の絵図は見えています。10月に向けての準備も整いつつあります。やるなら今しかありません!僕がインフルエンザや怪我で、出勤出来なくなってからでは遅いのです!」「うーん、確かにそうだが、今、敢えて無茶を振る理由があるのか?“総司令官”が不在になるなど、前代未聞だぞ!橋口の尻を叩くなら、別の手もあるだろう?」徳永さんは、“信玄不在”を恐れた。その時、「徳永、やらせて見ろ!“信玄不在”で“何処までやれるか?”いずれは、直面する問題なんだ!コイツが居るウチに皆に思い知らせてやれ!」と“安さん”が支持を言い出した。「この先、“信玄”が現場を仕切る上で、“実作業に手を染めている時間”は、無くなる一方だ!“重臣達”で切り抜けられる体制を築かねば、コイツに更なる負担がのしかかるだけで無く、我々も安んじては居られないのだ!徳永には、“工程改善”を仕切ってもらわねばならんし、“信玄”には“部門を背負う”と言う重責が待っておる!使える“駒”を配置しなくては、通期での黒字化も体制の刷新もおぼつかんのだ!橋口が“使える駒”として機能しなくては、我々の計画も見直しを迫られるだけで無く、予定も狂う事になる。“信玄以後”を意識させるには、多少荒療治だが、これくらいの事で揺るがぬように腰を据えてかからせるとするなら、やって見る価値はあるぞ!それに、ちょうど“信玄”を借り受けたい“案件”もあるからな!」と“安さん”が意味ありげに言う。「“借り受け”とは、例の“開発”に関する事案ですか?」と徳永さんも聞くと“安さん”は黙して頷いた。「ならば、技術陣に通知しなくてはなりませんな。Y、今週の金曜日でいいな?」「はい、しかし、一体何を?」「“半自動返し機”の実用化に向けた、試験データーの収集だよ。丸1日技術陣に付き合ってくれ。来月初に打診するつもりだったが、早まる分には異存はあるまい。ちょっと待て」と言うと徳永さんは、生産技術とコンタクトを取り出した。「“信玄”、貴様には、まだ倒してもらわねばならん“宿敵”が居る!それは、“泥縄根性”と言う我々に染み付いたモノだ!貴様が始めた“改革路線”と“新体制”に寄って大分、消滅しつつはあるが、まだ事業部のそこかしこに“宿敵”は蔓延っておる!それらを駆逐して、新たな体制を築くには、貴様の“騎馬軍団”の力が必要なのだ!今のウチに叩いて置け!貴様には、まだ“先の長い戦い”の場が待っておる!来期に向けての足掛かりを定めて置け!田納さんには“中核を担う者を帰すには、時間が必要だ!”とハッキリ明言してあるし、田納さんも“年単位の交渉も辞さず”と言っていた。時間は気にせずとも良い!ただ、真っすぐに先を駆けて突き進め!」と“安さん”は言った。「Y、金曜日でOKだそうだ。場所は、生産技術のスベースの奥だ。“雲隠れ”にも支障はあるまい。準備を整えて置け!」と徳永さんも了承した。こうして、“反乱”の下準備は整えられた。

夕方の社食。鎌倉と美登里と食卓を囲むと、自然と田納さんの話になった。「今回は、32名で“区切り”を付けたらしい。次回は、年末だとさ」と鎌倉が言った。「やけに少ないな。トータルで82名じゃあ半分以下じゃないか!あの田納さんが、良く“我慢”したな!“プロテクトリスト入り”してるヤツらは、“避けて通る”とはどう言う戦略なんだ?」僕が驚くと「国分側と全面対決するのは、“得策”で無いと悟ったからじゃないかな?岩留さんの口振りだと今回は“挨拶程度”で、本格的に“交渉”に入るのは、年末から年明けらしいわよ!」と美登里が言う。「まあ、こっちの“事情”を勘案すれば、妥当な線だな。“事業の中核を担う立場”に居るヤツを“引き抜く”としたら、“後任の問題”で必ず引っかかるからな。そうした懸念が“無い”か“薄い”連中をピックアップしたらしいぜ!」と鎌倉が答えた。「なるほど、無理せず、摩擦を避けて、時間を稼いだか。“長手数”になっても指し切る構えだな!年末年始が“本番”って訳か」「そうみたいよ。特に半導体部品と総務は、“鉄壁ガード”だから手出しは極力控えて、下手に出てるらしいの。サーディップで2名、レイヤーで1名で“引いた”らしいわ!」美登里が言うなら間違いは無いだろう。だが、安田・岩留の両名が、簡単に“はい、そうですか”と手を打つとは限らない。「こりゃ相当に揉めるぞ!次回は、O工場だって、田納さんだって安々とは引かないだろうから、“誰を引き抜くか?”で血の雨が降るかもな」僕は身震いした。「Y先輩、“本部長表彰”ですが、あたしとY先輩に決まりそうですよ!岩留さんから聞きましたから、間違いありませんよ!これで、“金看板”が増えますから、あたし達を引き抜くのは、より困難になりますよ!」と美土里が言う。「“安さん”からは、何も聞いて無いが、本当だとしたら容易には手が出せなくなるな。鎌倉も“大仕事”が降って来たんだろう?」「ああ、受電設備の改良工事を任された。3工期に分けて新年から着手する。完成は、来年の5月だよ」「そうなると、我々3人は、当分の間は“残留”させられるな!何しろ代わりの人材が居ないんだからな!」「ええ、あたしは“品証で代わり無し!”、鎌倉先輩は“大工事”Y先輩は“責任者”どなたも簡単には“代えが利かない人材”ですからね」と美登里が言う。「問題は、吉田さんや克ちゃん達だろうな。O工場にしても、“喉から手が出る程欲しい人材”だけに、次回は間違いなく“ターゲット”にならざるを得ない!」と鎌倉が指摘する。「今回は選に漏れたが、第1次隊の連中だって、まだ優秀な技術者が残ってるし、任期延長にもそろそろ無理が生じるだろう。だとすると、年末年始には1次と2次を合わせて40名前後は抜かれるだろうな!そうした“火の粉”を掻い潜って“生き残る”とすれば、自ずと“責任”は重くなるなー!」と僕が言うと「必然よ!」「そうでもしなきゃ“大望”は、果たせないぜ!」と2人が返して来る。「まあ、そうだな。“キノコが生えてる年功序列主義”に戻って“平”に甘んずるよりは、“実力主義”の自由な空気を吸いたいからな!」と言うと「そうよ!」「異議無し!」と2人も返して来る。理由はどうあれ、事情はどうあれ、僕等は“自由で生き生きとした空気”に馴染んでしまったのだ。O工場の“キノコが生えてる年功序列主義”の淀んだ空気を吸って生きる選択は無かった。

そして、“反乱”前日の木曜日。昼休みの時間に、神崎先輩との“最終打ち合わせ”が密かに行われた。「明日は、生産技術とお付き合いか。おあつらえ向きよね。“雲隠れ”先としては、申し分無いわ。トランシーバーはこれよ!」先輩から黄色の機体を受け取る。「電池は交換してあるから、充分に持つはず。残る問題は、“何処まで公開するか?”ね。岩崎と徳田・田尾には、耳打ち程度の話はしてもいいかしら?」「出来れば避けたい事ですが、最小限の範囲は、やむを得ませんね。3人には、それと無く耳打ちしてもいいでしょう」と同意すると「“おばちゃん達”には、“策”は巡らせてあるの?」と聞かれる。「“R計画”、つまりは、僕が欠勤した場合に備えての“非常対策ファイル”ですが、西田・国吉のご両名には、ファイルの存在と運用方法を教えてありますよ。橋口さんがパニックに陥っても、西田・国吉のご両名が、ファイルの記載通りに動けば、2日は持ち堪えられますよ!」「検査室との連携も含めて?」「ええ、最終的な指示は“神崎先輩に仰げ”と記載してありますから、ご心配無く」「よし、手は尽くしたわね!後は、橋口さんがどうするか?を見定める事か?彼が“任に耐えない”としたらどうするつもり?」「“しごく”しかありませんね!徹底して叩き込む!しばらくは、“責任者業務”+“現場育成”を両立させるしかありませんよ!並大抵の事では無いのは、百も承知。“育て上げる”しかありませんよ。“おばちゃん達”との関係も含めて、課題は多いですからね!」「でも、今回の“反乱”で焦点は絞れる!“何処を強化するか?”は明らかになるわね!これは、あたし達にも突き付けられる“課題”でもあるけど・・・」神崎先輩は、肩を竦めた。「いずれにしても、新体制の構築の総仕上げにしたいですよ。みんなで共有して、支え合い、助け合い、前を見据えて進む。今回で浮き彫りになった事を1つ1つ潰して行けば、最良の結果は着いて来るでしょうよ」僕は期待を込めて言った。「じゃあ、予定通りに明日“決行”だね!」「ええ、騙すのは気が引けますが、仕方ありませんね」僕等はさり気なく言葉を交わした。だが、その前に思わぬ“難敵”“難問”が待ち構えているとは、予想もして居なかった。昼休みに事は発生した。

電子部品営業部は、本社と東京の八重洲事業所の2拠点があった。統括責任者は、本社の渡部部長だが、八重洲事業所にも国分サーディップ事業部の“9月分の売り”についての通知は、抜かり無く出されてはいた。しかし、“出張中の営業部員”にまでは徹底されては居なかった。八重洲所属の営業部員に西本と言う新人が居た。彼の担当は、CVR(半固定抵抗)であった。今月の彼は、不良品対応に追われる日々だった。半期の決算を控える中、売上は半減し、このままでは赤字を覚悟しなくてはならない状況下に置かれて居た。好調な電子部品営業にあって、CVRの予定未達は、やむを得ない事由ではあったが、何とか売上の数字を落とさぬ様に関係各所へ働きかけを強めて、各事業所に脚を運んで“談判”を繰り返していた。「後、350万か。レイヤーパッケージかサーディップなら、1ロットで穴埋めは出来るな!」彼が国分工場に乗り込んで来たのには、必然性があった。CVRに対して単価の高いレイヤーパッケージかサーディップを2ロットばかり積み上げてもらえば、営業としても“面目”が保てるからだ。製造現場と同様に営業にも“売上目標”はある。電子部品営業“トータルでの数字”を落としたく無い彼は、個別に各事業部を回って、積み増しを依頼した。その結果、残額が350万にまで圧縮はされたのだが、残り半月で350万を積み増し出来る事業部は、国分工場にしか無かった。まず、西本は、岩留さんと交渉に及んだが、色良い返事はもらえなかった。ただ、「サーディップ事業部なら、進捗は先行して推移しとる。安田に言って何とかしてもらえ!」と“情報”を得てサーディップ事業部に乗り込もうとしていた。しかし、如何せん“情報”があやふやである。彼は、経管に顔を出して計上済の在庫を調べた。だが、経管の使用高の在庫はカラで、先行している気配は無い。「ガセか?」と疑いつつも、サーディップ事業部の建屋に向かった。地理不案内の上に、国分工場は初めてである。西本は、僕等の出荷スペースから建屋に入ってしまったのだ。「うお!未計上の在庫の山じゃないか!」彼の目には、10月分の内部留保品が積まれているのが見えてしまった!「これなら、穴埋めは楽勝だ!さて、誰に聞けばいいんだろう?」あいにく、昼休みで出荷工程にも、検査室にも誰も居ない!「さて、どうしよう?取り敢えず、目星だけは付けて置くか?」西本は、出荷端末を操作して、来月の頭に出すロットを探った。「ヒュー!余裕じゃないか!特にこの“スポット”の大口を動かせば、赤字解消どころか、上積みすら狙える!ターゲットは、これで決まりだな!」徳さんと田尾が後は、計上するだけの状態に梱包を済ませてあるので、端末処理を済ませて伝票を出せば事は済む。西本は、数字に目が眩んでしまい、“安さん”との“交渉”の2文字も忘れてしまった。夢中で出荷処理をすると、伝票を発行してしまったのだ!「こら!てめぇ何をしてやがる!」田尾が戻って来た事で、やっと我に返った西本は、慌てながらも「八重洲事業所、電子部品営業の西本です。このロットを出荷して上乗せをお願いしたいのですが?」と言い出した。「誰の許可を得て端末処理をしてるんだよ?そんな話聞いてねぇぞ!貴様、勝手に忍び込んで“横取り”に来たな!悪りぃが、俺達の汗と努力の結晶を簡単に攫われてたまるかよ!」喧嘩慣れしている田尾にして見れば、西本を捕まえる事など容易い事だった。脚を掬い床に組み伏せてから、両手をネジ挙げて「泥棒だ!泥棒が居るぞ!」と叫んだ。田尾の声を聞き付けた徳さんや今村さん達が、出荷スペースに駆け付けて、西本を逮捕するのに然程の時間はかからなかった。「私は、泥棒などではありません!八重洲営業の西本です!安田さんに会わせて下さい!」と必死に訴えるが、「“スポット”の大口を横取りしようと伝票処理をしてやがったぜ!本社営業のヤツら、何て汚い手口を使いやがる!忍び込んで、勝手に“上乗せ”を狙うなんざぁ問答無用だ!」と田尾が言って袋叩きにし始める。徳さんや今村さん達も怒りに燃え上がり、たちまち西本はサンドバック状態になり、殴る蹴るの暴行を受けた。「たーおー!その辺で止めときな!正当防衛の範囲内にしとかないと、後が厄介だよー!」僕が怒れる男達を止めた時には、西本はボロ雑巾と化して居た。「Y、コイツは泥棒だぜ?!情けは・・・」「無用だってか?ならば、僕が聞いて見ようじゃないか!田尾、60cmの金尺とビニール紐と鋏を出してくれ。それから、このボロ雑巾を起こしてくれ。千絵と神崎先輩は、ビニール紐を縦に割いて三編みに編んでくれ。長さは50cmくらいのヤツを4本ばかり作ってくれないか?」「ああ」「分かったわ」田尾が西本に水を浴びせて、叩き起こしている間に三編みの紐は完成した。西本が意識を取り戻すと、僕は尋問を開始した。「私は、少ピン部門の後を預かるYだ。通称“信玄”と呼ばれている。君は、不正に製品を持ち出そうとして捕らえられた!誰の命令だ?」「やっ安田責任者に、取り次いでくれ!営業売上の確保のために、個別交渉に来たんだ!CVR部門の落ち込みをカバーしなくては・・・」「見え透いた嘘は通じないぞ!本社営業の渡部部長と話は着いてるんだ!“来月分は計上しない”とな!君の真の目的は何だ?“横取り”売りか?勝手な暴走か?下手な手出しや功名心にハヤる行為は、禁じられてるはず!知らぬとは言わせんぞ!」僕は、廃ダンボール箱を手にすると、西本の眼前に置き、金尺で寸断して見せた。「正直に申告しろ!タカが金尺だが、首を飛ばすのは、造作も無い事。誰の命令だ?目的は何だ?あの世に行く前に、正しく申告しろ!」首すじに金尺を当てて“自白”を迫った。西本の顔から血の気が失せた。「Y、喋ったか?」「ダメだ!どうも怪しい!本当に八重洲事業所の営業なのかな?」「身分証をコピーして本社営業部へ通報するか?」「どうやら、それをやらなきゃならんらしいな!田尾、両手を後ろ手に、脚はひと括りに縛り挙げろ!台車に載せて倉庫へ押し込んてしまえ!その上で、本社の渡部部長と談判だ!“2階”へは、話は伝わっているか?」「徳さんが通報した。“安さん”と徳永さんからは、“信玄に仕置は任せる”と一任を取り付けてあるぜ!」「ならば、作戦開始だ!明日、出荷のGE以外は1個たりとも出すな!泥棒を送り込むに至った経緯はどうでもいい。営業を“日干し”にしてやろう!向こうが謝罪に来なければ、我々にも覚悟はある!まずは、本社営業部に厳重抗議からだ!」僕と田尾は、西本を閉じ込めると、本社営業部にFAXを流して事の次第を問い質した。

「八重洲の西本が“泥棒行為”?!そんな馬鹿な・・・」渡部部長は、言葉を失った。「営業部は、泥棒を送り込んで製品を“強奪”するんですか?!そちらが、“約定を違えた”罪は重い!GE以外は出しませんよ!今月の予定を落とした原因は、“営業の暴挙にある”と振れて回りますから、ご承知下さい!それと西本を引き取りに来て下さい!その際は、“手錠と腰縄”をお忘れ無くお持ち下さい!」と一方的に言うと電話を叩き切った。「田尾、西本を運んで来い!ヤツに聞きたい事がある!」僕は憤然と言った。「ああ、直ぐにも」田尾も僕の怒りに怯えた。西本を載せた台車を建屋の外に運ばせると「最終通告だ!素直に“泥棒行為”を認めれば、紐を切って逃してやる!認めないなら“監禁”するまでだ!君は何を企んだ?」僕は、西本を睨み付ける。「自分は、CVR部門の売上減をカバーしてもらうために安田・・・」と言う西本の首すじに金尺を当てた。「白を切っても無駄だよ!君は製品を“強奪”しようとして、建屋に侵入した!証拠は揃ってるんだ!“見え透いた嘘”は通じない!田尾、経管の責任者を呼んでくれ!“泥棒行為”を働いた者として引き渡す!」「まっ待ってくれ!“泥棒行為”など働いてはいない!安田責任者に会わせてくれ!」西本は懇願したが、「安さんは“仕置は任せた”と言ってる!“罪人”として“留置”するのは、当然の事だ!」と斬り捨てて、台車から放り出した。西本は、経管に引き渡して、“留置”を依頼した。「前代未聞だが、盗みに入ったとなると、仕方ありませんな・・・」と経管も呆れていたが、身柄の拘束は引き受けてくれた。検査室のデスクに戻ると、FAXの束が置かれていた。「渡部部長からは、“出荷要請と謝罪”か。八重洲事業所からは、“身元の保証と解放要求”。更には、“安さん”に会わせてくれ!との依頼か。あー、お恥ずかしいったらありゃしない!“今更、信じて下さい!”の連呼か?誰も、西本を引き受けに来るとは、1行も書いて無いところを見ると、“何処かに後ろ暗い事”があるな!ヤツの持ち物は?」「このトランクだよ。中身は、CVR部門に関する文書と、赤字解消のための穴埋めの取引についてのノートだったよ。不良処理や納期についての文書もあったぜ!」徳さんが中身を見せてくれる。「増々怪しいな。CVR部門の営業が、サーディップ事業部に乗り込んで来るとは、どう言う魂胆だ?しかも、“泥棒行為”までやらかす意味が分からん!」僕は首を捻った。その時、内線が鳴った。「はい、ええ、居りますが?無駄だと思いますよ!証拠は挙がってますから!はい、はあー、では聞いてみますね。Y、八重洲の大岩根さんからよ!」と恭子が内線を指す。「大岩根か。鹿児島人らしいな。聞くだけ聞いてみるか?もしもし・・・」僕は大岩根さんと話し始めた。大岩根課長は、西本の上司で、まず西本の不始末を詫びて“泥棒行為”をする意思は無かったと釈明した。そして、CVR部門の“穴埋め”のために全国を飛び回っており、本社の渡部部長の“通達”を知らない事と、初めての訪問であるが故に、あらぬ誤解を与えてしまったと説明をした。「西本に他意はありません!落ち込んだ売上をカバーしようとしているだけです!“泥棒行為”を働く様な輩ではありません!これから、羽田へ向かいそちらに引き取りに行きますので、今しばらく待っていただきたい!」と懇願して来た。「そう言う話ならば、待ちますが、大岩根課長、彼が勝手に出荷端末を操作して、伝票を出力して、梱包済の製品を持ち去ろうとした事実は覆りませんよ!」と釘を刺した。「安田さんに“大岩根が来る”と言ってもらえば分かりますから、ともかく待っていただきたい!」と必死に縋って来る。「仕方ありませんな。“安さん”に言って置きますし、西本の処置も一時棚上げにしましょう。夕方になりますね?」「ええ、遅くなりますが、必ず行きますので!」と言って電話は切れた。僕は内線で“安さん”に“大岩根課長が西本を引き取りに来る”と告げた。「大岩根か!あの野郎、まだ生きておったか!」と“安さん”は懐かしそうに言った。「“信玄”よ、大岩根はかつてここに居た事もあるヤツだ。ヤツが来るまで結論は棚上げにしろ!アイツの“申し開き”を聞いてからでも遅くは無い。ともかく、待て。それと、“手土産”を考えて置け!“武士の情けだ!”その辺は心得ているな?」「はい、何かしらは考えて見ます」「渡部には、俺から言って置くから、出荷制限も“解除”してやれ!どうやら、勘違いが複雑に絡んでいる気がしてならん。余り本社を刺激するのも考え物だ。まずは、一歩譲って置け!いいな?」「はっ!」僕は内線を切ると、田尾を呼んだ。「出荷制限を解く。通常体制に戻していい。それと、10月出荷予定で、200万相当のロットを1つ用意してくれ」と告げた。「どうなってるんだよ?まさか、泥棒に“情け”をかけるつもりか?」と噛み付かれる。「まさにその“情け”をかける必要が出るかも知れん!どうやら、“誤解”と“勘違い”がごちゃ混ぜになって絡み合っている気配が出て来たんだよ!」と返すと「サッパリ分からねぇな!“安さん”は知ってるのか?」「“安さん”が“待って手土産を用意しろ”と仰せだよ。ともかく、決着は夕方になる。田尾も、もう一度発見した時の状況や西本が“何を持ち出そうとしていたか?”を整理して証言出来る様に準備して置いてくれ!」「了解だ。だが、ヤツのやろうとしていた事は“犯罪行為”なのに変わりはねぇ!キッチリと落とし前は着けてもらうからな!」田尾は不満げに言ったが、“手土産”になりそうなロットを物色し始めた。「ともかく、待つか!」僕も溜まっている雑務に手を付け始めた。雑音を排して勤怠・進捗管理に没頭した。

八重洲の大岩根課長が到着したのは、午後4時を過ぎた頃だった。経管から西本の身柄を預かると、2階の“安さん”の元へ直行した。午後5時近くになって、3人は検査室の僕のデスクへやって来た。「“信玄”、大岩根の野郎だ。今回の騒ぎの発端は、西本の“勘違い”と“先走り”が原因だ!渡部に罪は無いと言うか、ヤツの“不手際”も絡んでいる!関係者の証言を聞いて、時間を追って事を“再現”したいが、ウチのヤツらは集められるか?」と“安さん”が言い出した。「はい、関係者には待機若しくは、残業で残ってもらってます。田尾、関係者を集めてくれ!」「おう!白黒、決着をつけてやる!」田尾は今村さん達を呼んだ。関係者各位の立ち合いの元で“事件”が時系列で再現された。無論、僕も金尺を手に詰め寄った場面を“再現”して見せた。「大岩根、西本が勝手に伝票発行をしたのは、覆らんぞ!これは、“泥棒行為”と言われて、ウチの兵士に袋にされても“信玄”に凄まれても仕方あるまい!俺が当事者なら、“流血の惨事”は間違い無い!それは、認めろ!」「はい、これは消せない事実として認めます」“安さん”の主張に大岩根課長も同意した。西本は、俯いたままだ。「しかし、“未遂”に終わっている事実と、経管で大人しく“拘留”されとった点を差し引くと、“喧嘩両成敗”にするしかあるまい。ウチの連中も“やり過ぎた”事は反省しなくてはならんし、西本も勝手に入り込んだ事実と“我を忘れた”事実は消し去れん!CVR部門の落ち込み分をカバーしようと躍起になっとった事とは言え、“目先の欲に目が眩んだ”のは、言い訳にならんぞ!それと、ウチが“売りを立てる方向”を決めているのが、伝わらなかったのは、そっちのミスだ!これだけ“複雑怪奇”な事案でのゴタゴタだ。目を瞑れる範囲は瞑るしかあるまい」と“安さん”は方向性を示した。「けれど、営業が“持ち逃げ”しようとした事は事実ですぜ!」「まず、営業から詫びを入れるのが“筋”じゃないですか?!」田尾が今村さんが噛み付いた。「その点については、本社と八重洲合同で、改めて“詫び”を入れますよ。まず、この場は、私が詫びます!申し訳ございませんでした!」大岩根課長と西本は真摯に頭を下げた。「今回はやむを得ない事情もあった。これで、双方が“引く”事で幕引きとする!“信玄”、例の“ブツ”を出してやれ!」“安さん”の一声で“手土産”が出された。「これは?!」西本が顔色を変えた。「195万のロットだよ。CVR部門の足しにしな!」と田尾が伝票を付けて差し出した。「大岩根、これで勘弁しろ!」“安さん”がニヤリと笑う。「恐れ入りました!」大岩根課長と西本は深々と頭を下げると、大事に抱えて外へ向かった。「やれやれ、これで一件落着か」「いや、まだ油断大敵だぜ!戸締りを一段と厳重にしねぇと、同じことは繰り返すぜ!」今村さんが溜息交じりなの対して、田尾は気を引き締めていた。「明日は折り返し地点!皆、心して掛かれ!」“安さん”は、気合を込めて言うと2階へ上がって行った。後日、渡部部長と八重洲事業所長の連名で、“詫び状”が郵送されて来た。更には、八重洲から“草加煎餅”の詰め合わせが届けられた。営業としても、“不始末”をしでかしたのだから、製造のご機嫌を損ねる事だけは避けたかったらしい。西本は、始末書を書かされたが、CVR部門の売上の落ち込みを改善させた事が評価されて、それ以上の処分は下されなかった。

遅くなったついでに、明日の“反乱”の準備を密かに進めていると、神崎先輩と恭子、田尾に徳さんが集まって来た。「今日は“予定外”だけど、明日は“本番”よ!3人には、概略は説明してあるわ。Y、本気で“決行”するんでしょ!」「ええ、本当に“消えます”よ!橋口さんには、悪いけど“自力”を付けてもらわないと困りますからね!」「Y、GEはどうする気だ?」徳さんが進捗予定を見つつ言う。「キャップもベースも僕がやりますよ!検査は神崎先輩にお願いするとして、どうやって運ぶか?だよな?」「生産技術のフロアでどうするってんだよ?」田尾も心配している。「橋口さん用と原田さん用の治工具が、やっと出来上がったんだ。テストとビデオ撮影も兼ねて、2階で片付けるつもりなんだが、最終ロットが炉から出るのが、明日の朝一番なのさ。炉の方に手を回して、品証で預かってもらう算段なんだが、トレーを運ぶ方法をどうするか?なのさ。荷物用エレベーターで、細山田女史に裏から運び入れられないかとは考えてるが・・・」「となると、極秘裏に取りに行かなきゃならねぇな!トランシーバーはあるんだろう?」田尾が聞いて来る。「ああ、午前中には片付けたいからね。随時コールはするよ」「姿を見られたら速アウト!ここは、連携プレーの見せどころじゃない?」恭子が心なしかウキウキしている。「後は、銀ベースがヤバイかも知れんが、そっちは橋口さんに“宿題”として残して行くつもりだ。直近で急ぎなのは、GEだけ。特段の問題が・・・、今日みたいなヤツも含めて、起きない限りは安全は担保されてるはずだ。そうなると、自然に“力量”が問われる場面になる。煽るなり、焦らせてやってくれ。膿は早く出し切りたい!」「知っているのは、ここに居る4人のみ。聞かれても答えたらダメよ!いいわね!」神崎先輩が念を押す。「Yが居ない世界か。どう転ぶかな?」徳さんが腕を組んだ。「いつかは、来る“可能性のある日”だ!“予行演習”出来るだけまだマシだよ!」田尾が言うと3人の顔が暗くなる。「いずれにしても、これで新体制の欠陥が浮かび上がる。それを叩けば、僕等は更に前に進める。“可能性のある日”など気にするな。今は、ただ前を見据えて進むんだ!」「そうだな、やるなら早いに越した事は無い!」徳さんが言って僕の肩を叩いた。「最高の名演を期待してるぜ!」「迷う方にならない様に心がけるさ!」と返すと皆が笑った。前夜の謀議は和やかだった。

life 人生雑記帳 - 83

2020年01月06日 16時44分40秒 | 日記
田納さんの国分工場滞在は、3日間だった。2日目の夕方には、総務棟の大会議室で“歓迎レセプション”が開催されたが、僕と鎌倉と美登里は“業務多忙”を理由にして参加しなかった。鎌倉と美登里の意向はどうなのか?分からなかったが、僕は“想定外の事態”に見舞われて身動きが取れなかったからだ。月曜日の夕方「“スポット”の引きが“想定”と言うか“予定”を越えても、出荷指示が入って来てやがる!それも、“10月の頭”に出すヤツまで“前倒し”でだ。Y、どうする?」ミーティグの席上、徳さんが毒づいた。「磁器の納入予定分を“そっくりそのまま引く”と言う事らしいな。営業にしても“1円でも多く売りを立てたい”訳だから、金額のデカイ“スポット”に目を付けたか!だが、マズイな。GEも、まだ半分以上残ってるし、金も銀もベースは残ってる。田尾、明日と明後日の出荷への影響は?」「今のところは、無しだ!積んであるヤツで凌げる。問題は、“木曜日の大口”だぜ!半分以上足りねぇ!前の予定を変更させるしかねぇよ!」「了解だ。整列に“スポット”を優先させよう。勿論、塗布にも通知する。だが、間にGEを割り込ませる必要はあるから、どこかで1度切れるな。木曜日以降の出荷指示は?」「明日にならんと分からない。金と銀は、凌げるだろうが、“スポット”を煽られたらアウトだ!」と徳さんがお手上げのポーズを取る。「橋口さん、返しにある“スポット”の在庫は?」「2つだけだよ。数も大して多くない。大半は、今日の午前中で送り込んだからね」「だとすると、今から変更をかけないと間に合わないと言う話だな!OK、早速、前に予定を変えてもらう!“スポット”とGEを最優先で回させる!出荷は在庫の確認と計上済のロットの数量把握を、神崎先輩達は、検査体制の再編成を至急で!橋口さんは、焼成炉の前後を確認して、明日に備えて!」「了解!」みんなが合唱すると、各自が持ち場に散った。僕は整列と塗布へ向かう。下山田さんを捕まえると“スポット”とGEを優先してくれる様に依頼する。「話は分かった、こっちはどうにでもなる!急ぎなら“新型整列機”の威力を試すのに、打って付けになるだろう。ただ、橋さんの方が大変だ!そっちの“調整”を上手く取ってくれ!」と2つ返事で了承してくれる。確かに問題は塗布工程だった。夜勤に回っている橋元さんに代わって今村さんを捕捉すると、事情を説明して変更依頼を持ち掛ける。「話は分かったが、GEを挟むとなると、途切れ途切れに流さなきゃならない。橋さんにも伝えて置くが、当面は“木曜の大口”が山場なんだな?」「ええ、それ以降は、明日にならないと分かりません」「よし、段取りを変えて“スポット”とGEを優先する方向へシフトさせる!丁度、切り替えのタイミングなんだ。他の品種の流れが細くなるが、それは勘弁しろ!木曜日以降の“情報”が入ったら直ぐに知らせてくれ!その都度、そちらの意向に合わせてセッティグを変える!Y、“情報”も鮮度が命だ。今頃なら毎日、段取りを切り替えるタイミングになる。別口が急ぎになるなら、早めに“情報”を寄越せ!俺達もお前からの“情報”で動いてるんだ!指示は的確に素早く出してくれよ!」と今村さんも変更を呑んでくれた。焼成炉の脇を抜けて、返しの作業室へ戻ると、橋口さんが炉から出たばかりの“スポット”2つを作業台へ乗せていた。「全部で1200個だよ。前はどうなった?」「大車輪で回してもらいますよ!しかし、一旦は切れますね。早ければ明日の午後一番になるでしょう」「明日は、3人が休みで欠ける。“残業”を覚悟しなきゃいけないね」と言うので「僕も手伝いますよ。そのためにも、雑務を片付けて来ます。準備が済んだら上がって下さい」と言って検査室のデスクへ座り込む。「どうだ?上手く行きそうか?」田尾が聞いて来る。「“スポット”とGE優先で話は付けて来た。早ければ、明日の午後一番には、炉から出るだろう。首の皮1枚だな」と言うと「どうやら、月初の予定は“忘れた”方がいいかもな。新たな“ミッション”が始まると思った方がいいぜ!」と言って来る。「だとすれば、完全に“未知の領域”を地図も無しに飛べと言うのか?こりゃあ、相当に骨だぞ!前例が無いんだ!」「“フライト・ディレクター”の腕がモノを言う世界さ。Y、アンタならやれる!」「そうなると、“雑務”にかまけてる時間は無いな!ある程度は、“残業”も組まなきゃならんだろうよ!余裕を持ってられるのは、今の内だけだな。OK、最悪の場面を想定して動こう!各工程は、それぞれの指揮官の指示で動いて構わん!右か?左か?前か?後ろか?迷った時だけ僕が決断する!各工程毎に適宜飛んで見よう!“擦り合わせ”は、夕方に1本化する!明日からは、各個別の判断を優先してくれ!」僕は敢えて“重臣達”の判断で飛行する手に出ると決めた。「でも、それじゃあ、全体の統率はどうするのよ?」神崎先輩が言う。「最早、全体がどうこう言ってる場合じゃありませんよ。それぞれの範囲を固めてくれればいい。“予定”は完全に崩れたんです。“何を想定したか?”では無く“何が出来るか?”に思考を切り替えなくては、今月は着陸不可能です。行けるところまでは、各自で行ってもらう。一見、無謀な策ですが、どうやらこれが“最善手”なのかも知れませんよ。責任云々や時間云々を言っているヒマは無い。その都度、“修正”して、着陸を目指しましょう!僕はしばらく、返しの作業室で指揮を執ります。全体の進行管理とその他“雑務”も含めて。とにかく、落ち着いて冷静に対処して行きましょう!当て推量は、墓穴を掘るだけです!」前例の無い世界への飛行。危険極まりない賭けではあったが、やるしか道は残されていなかった。

「よっしゃ!これで、“包括和平協定”の締結や!国分工場に対しても最大限の“配慮”をするさかい、順次、人を戻してくれへんか?O工場かて“火の車”やさかいな!」田納本部長と国分事業所長の間で“包括和平協定”が調印されたのが、僕等が、地図を見ずに“有視界飛行”に踏み出した、月曜日の夕方だった。午後3時過ぎに工場長主催の“工場責任者会議”の席上で、光学事業本部の“帰還予定計画”が承認されたのを受けてのトップ会談での決着だった。だが、半導体部品事業本部傘下の事業部は、強硬に“反対論”を展開した。「既に事業の中核を担っている者を交代させるなど、時間を要する事案をこの場で、即決では容認は出来ない!事業部内に持ち帰り、協議をした上で回答する!」「採決を強行するのは、事業所としての理念に反する!“横車”に屈するなど、あってはならない事だ!」と安田、岩留の両責任者は、採決を“延期”する様に再三申し入れた。会議は紛糾し、昼を挟んで午後にもつれ込んだ。国分工場長としても、大量の“人材の喪失”は避けたかったし、他の事業部にしても、人手の流出には、前向きになれなかった。200名のO工場の派遣隊は、それだけ国分工場の各所で“根”を張っていたのだ。それが、最短では、年内には居なくなると言うのだから、事態は深刻だった。国分工場内での人員のやり繰りをしたとしても、4分の1に当たる50名前後を捻りだすのが限度だった。同じく鹿児島にある川内工場や隼人工場に応援を要請しても、30~40名が限度だ。そうすると、O工場の派遣隊の半数である100名前後は、期限を越えて“留め置く”必要があり、来春の新規採用が定着するまでの間は、“支えて欲しい”と願っている職場・現場の声は無視出来なかったのだ。各事業部の“本音”は、“任期延長”と“残留・転籍”に傾いていた。そこへ、田納さんが自ら乗り込んで来たのだから、各事業部の責任者の心中は穏やかでは無かった。まさに“戦々恐々”だったのだ。“工場責任者会議”の紛糾が、田納さんに伝えられると、「そりゃ、あかん!ワシが“誠意”を示すさかい、会議に参加させてくれ!」と懇願して、午後の会議に乗り込んだ。「国分に迷惑をかける意思は無い!拙速な計画を進めるつもりも無い!各事業部と膝詰めで協議して、影響を最小限にしつつ、“帰還事業”を実行して行くつもりや!O工場も苦しいが、まだ耐えられるレベルではある!本部長であるワシが責任を持って事に当たるさかい、どうか協力をお願いしたい!」と平身低頭を貫いて各事業部に“協力”を打診した。こうなると、安田、岩留のご両名も、一旦は引かざるを得ない。「各事業部の実情を踏まえて判断するなら」との条件を付けて合意に回った。田納さんは、この条件も“丸呑み”にして「無益な争いをするつもりは、毛頭無い。国分工場の実情を優先して判断する」と言って“工場責任者会議”を無事に切り抜けて、“包括和平”の調印に漕ぎ着けたのだ。「小林、やはり一筋縄では行かんな。国分側の“反発”は予想より強い。若手を“野に放った”んが最大の間違いや!」とホテルに戻る車内で、田納さんがボヤいた。「しかし、“後の祭り”でもございます。粘り強く進めるしかありますまい」「そうやな、明日からは“落としやすい”順で回ろう。人数の確保が最優先や!」と言って汗を拭った。容易ではない“交渉”はこうして始まったのだ。

火曜日の朝、出荷に新たな指示が営業から入った。「Y、先行して計上してある10月分に軒並みに出荷指示が出てる!このまま放置すれば、とんでも無い事になるが、どうする?」徳さんが、FAXを片手に飛んで来た。「予定では、“10月の頭”じゃないか!日干しにされるだけで無く、磁器の手配にも影響が出るな!営業のヤツらある分は、まとめて引き出して“数字”を積み上げる算段らしな!こっちがコツコツと積み上げた“貯金”を自分達の“エゴ”に利用するとは、何と浅ましい連中だ!」「まあ、“決算”が関わってるから、ある程度は仕方無いが、これは完全な“禁じ手”だぜ!どうする?」田尾も憤然と言う。「ならば、残された手は1つしか無い!使用高にある分は“無いモノ”と考えて、出荷を“制限”しよう!今月分以外は、計上するのを“差し控える”んだ!例え、営業から指示が来ても応ずるな!“塩止め”すれば出そうとしても、出せない!まあ、文句は来るだろうが、一切耳を貸すな!“製造営業会議”の合意事項を無視してるのは営業だ!こっちにも正当な理由はあるし、川内工場にも事が波及するのは、回避しなきゃならない。別途、指示するまで“内部留保”として抱え込め!」「だが、営業が黙って引き下がるかな?ヤツらは“蝿”より厄介だぜ?」「今月の“売り”の予定は、ある程度、目処が立ってるし、勝手に“上乗せ”は出来ない。2階の意向は無視できん。方向性が決まるまで、営業には黙ってもらう!構わんからやれ!“赤伝票を切っても死守”しろ!責任は僕が取る!」「Yが、腹を括ってるなら、百人力だ!」「よーし、イッチョ仕掛けるか!」徳さんと田尾は、勇んで出荷を止める手立てを取り出した。僕は、徳永さんを呼び出して「営業が無断で出荷を強行している!」と訴えた。徳永さんは、5分もしない内に飛んで来ると、進捗、磁器在庫、入荷予定、出荷状況の数字をプロットし始めた。「うーん、このままだと、10月の予定や構想がモロに狂うだけで無く、川内にも影響が及ぶな。営業の連中は一体何を考えてるんだ?!Y、どう手を回した?」と誰何して来た。「既に計上したモノは“無いモノ”として考え、今月分以外は、計上を差し控えました。徳田と田尾には“赤伝票を切っても死守しろ!”と命じてあります」と言うと「営業の意向を至急確認する!“貯金”まで根こそぎ持って行かれたらたまらん!しばらくは、様子見でいろ!“安さん”の判断もあるだろうからな!」と言って「最新の進捗、磁器在庫、入荷予定、出荷状況の数字を出してくれ!このままだと、予定に対して140%前後になってしまう。どこかで、セーブしないとまずいぞ!営業からギャーギャーと言って来るだろうが、無視して構わん!Y、しばらくは持ち堪えてくれ!結論は、急いで出させるから」と言って数字をメモすると徳永さんは2階へ駆けあがった。僕は、返し作業を中断すると、電卓を片手に最新の各数字を追う。“スポット”と金・銀・GEを出荷すれば、充分に115%は達成出来る段階まで進捗は見えていた。「Y、営業から催促の電話だ!どうする?」田尾が聞いて来た。「問答無用!叩き切れ!ついでに着信拒否にしちまえ!」田尾は受話器を手で押さえていないから、会話は筒抜けだった。しかし、それも計算の内だ。「了解だ!別ルートで来てもシカトでいいな?」「構わん!“蠅叩き”が面倒なら内線を停めても構わん!営業に邪魔される言われは無いからな!」と湯気を立てて命じた。最新の数字がまとまると、2階の徳永さんのデスクへ書類を届けて、返し作業に戻る。支度を整えると、大きく深呼吸して気を静め、目を閉じて雑念を振り払う。「Y、大丈夫か?」橋口さんや“おばちゃん達”が不安げに見ていた。「行きましょう!落ち着いて冷静に対処していきますよ」と言うと場の緊張が解れた。今日は、欠員が3名いる。カバーするエリアは広い。指揮下の“騎馬軍団”を率いて、僕は果敢に攻めを繰り出した。

本社営業部の渡部部長は、“安さん”に抗議の電話を入れた。「“安さん”!千載一遇の商機を何故棒に振るんです?」営業にして見れば、とにかく“売り”を立てたいのだ。「渡部、“3年前の悪夢”を忘れたか?貴様らの言うがままに出した結果、受注は急落して、下期は赤字に転落!通期でも赤字を計上して、散々な目に合った!“同じ轍”を踏まぬためにも、守勢に転じるのは当然の事だ!しかも、こっちは“工程改善”の真最中だ!踊らされてたまるものか!」安さんはバッサリと斬り捨てた。「しかし、今は好調な受注があります!年内は安泰です!売らせて下さいよ!」「1月からはどうなっとる?具体的な数字を言え!」「数字は、揃ってませんが、安定した受注は取れるはずです!お願いですから、先行分を回して下さいよ!」渡部部長は粘ろうと必死に説得を試みる。だが、「先行き不透明なら、聞くに及ばず!事業部としては、通期での“黒字化”が最優先事項だ!先取りなど笑止千万!10月分は出さんぞ!」と又してもバッサリと斬り捨てた。「先行きの不透明感は、11月になれば晴れますよ!我々としても、数字が欲しいんです!半分、いや、3分の1でも乗せたいんです!お願いですから、倉庫に入れてくれませんか?」「聞くに及ばず!俺は、“同じ轍”は踏まぬ!何と言われようが、“製造営業会議の決定”を覆す気は無い!」安さんは首を縦には振らなかった。「それなら、1月以降の数字を出させます!客先に見通しを出してもらいます!それでもダメですか?」「過去に、同じ事をやって失敗したのは誰だ?渡部!貴様等だぞ!曖昧な話には乗らんし、“敵中に留まる危険”は侵せん!“孫氏の兵法”を学んでからモノを言え!」“安さん”の怒りは頂点に達した。こうなると、テコでも動かないのが“安さん”だ!「分かりました。千載一遇のチャンスなのに、何故乗ってくれないんです?」「目の前しか見とらんからだ!やおら、“進撃”をすればいいのでは無い!ここは、“陣形”を整えて時を待ち、攻めかかって来るだろう“敵”を迎え撃つのが上策!ウチの“信玄”も、そう読んで兵馬を整えておるのだ!渡部、待つのも“策の1つ”なんだ!押すか?待つか?引くか?“信玄”に聞いてからモノを言え!」安さんは電話を叩き切った。「“信玄”?誰だ?」渡部部長は首を傾げた。「国分の部門の後半分を指揮している、O工場からの応援者ですよ。彼が後半分を掌握してから、数字がV字回復してますから、その立役者の事でしょう」「“信玄”か。歳は?」「20歳と聞いてますが」「“安さん”が“信玄”に聞いてから云々を言うのだから、余程の知恵者か?先見の明を持っているのだろうな!そうでなくては、半分と言えども指揮権を委ねるはずが無い!今度、国分に行ったら“信玄”とやらに会って見るか?」渡部部長は、そう言って手を引いた。当初の予定をクリアするだけでも、近年に無い数字は出るのだ。「少しは“商売繁盛”を喜んでくれればなお良いんだがな」最後は、ため息混じりのボヤきが出た。

その頃、O工場では、総力戦での新機種の量産に大わらわだった。ダブル酒井の保美先輩も和歌子先輩も、そして松下由美先輩もサブアッセンブリーに駆り出されて、四苦八苦をしていた。「来月末を持ってYも帰って来る!それまで我慢よ!」和歌子先輩は、そう言って自らを鼓舞していた。「でもさぁー、Yの出世の話、聞いてる?今では、部門の半分を指揮する“責任者”だって!束ねる人数も70名は下らないらしいのよ!アイツが抜けたら、国分の事業部は大変になるって話よ!“足抜け”出来るのかしら?」松下先輩が不安気に言う。「まさかの“大化け”らしいけど、Yならしでかしても、おかしく無いわ!元々、素質はあったからね!同時平行して、複数の仕事を回せる様に仕込んだのは、あたし達だし柔軟な発想は天性のモノ。“舞台”さえ整えば、俄然やる気出すのは当然の事じゃない?」保美先輩は、見ているかの様に言う。「でも、必ず帰って来る!アイツは、やり遂げれば帰るわよ!途中下車は嫌いだから、遅れる事はあるだろうけど、Yならあたしの元に必ず戻るわ!“お姉さん”を悲しませる事はしない!信じて待ってるのが、あたしの役目よ!」和歌子先輩は、迷いを振り払うかの様に言う。「和歌子、Yに手紙書いて見たら?」松下先輩が言う。「そうね。由美の言う通り。矢を打ち込んで置くのもありじゃないかな?」保美先輩も支持した。「うーん、邪魔したら悪いから、今までは控えて来たけど、そろそろ矢を打ち込んで見ようか?Yの居ない世界にも、いい加減飽きて来しね!」「和歌子、帰って来たら速攻でゴールインするんでしょ?」「そうよ!誰にも手出しされる前に、身を固めちゃうつもりよ!」「なら、早めに手を打たなきゃ、向こうで釘付けになるわよ!」「その心配は、無用よ!確かに、誘惑はあるだろうけど、あの子はあたしが教育した子だもの。最後は、あたしの元へ帰って来るわ!」和歌子先輩はそう断言した。実際、僕と和歌子は、本当に“世帯”を持つ事になるのだが、そうなるまでは、まだ紆余曲折を経てになるのだ。和歌子先輩は、僕が国分に旅立ってから初めての手紙をしたためた。“信じて待ってる!でも、今は、全力を尽くしなさい!あなたにしか出来ない事を思い切りやって、凱旋しておいで!”と綴られた文面は心に痛かった。

国分滞在最終日、田納本部長は、“鬼門”である半導体部品事業本部傘下のサーディプ及びレイヤーパッケージ事業部の安田、岩留両責任者と向かい合っていた。「久しぶりやな!相変わらず、やっとるか?」「ええ、勝手にやっとります!」と岩留さんが返す一方、「御用の向きは分かってますが、簡単には“譲歩”はしませんよ!」と安さんは先制パンチを繰り出した。この3人は、顔見知りであり共に戦った“戦士”でもあった。「そない言われると、何も進まへん!今すぐとは言わんから、1〜2人でも10月末で戻してくれへんか?」田納さんは、低姿勢で切り出した。「それは、乗れない話ですな。下期も予定は厳しいですから、“人的補償”でも無い限りは、人材の“流出”は避けたいところです!」と岩留さんもパンチを繰り出した。「しかしや、一応の“期限”は10月末やで。最低限でかまへんさかい、帰してくれ!O工場も“火の車”や!1人でも手は欲しいんや。どないかならんか?」田納さんにすれば、相当な我慢である。2人は顔を見合わせた。「事業部の中核を担う人材は無理ですが、今井と花岡なら目を瞑りますが、それで如何ですか?」「ウチも、高木なら目を瞑りますが、どうです?」安さんと岩留さんは、ギリギリの“妥協案”を示した。「それで、構わへん!3人を帰してくれれるなら御の字や!すまん!必ず帰してくれ!」田納さんは、面子を捨てて頭を下げた。「田納さん、事業部の中核を担っとる人材については、代わりの人材育成に時間が必要です!」「しかも、事は簡単には行きません!最低でも年内の“帰還”については見合わせをして下さい!我々も、“期限を経過しての残留”を要請しなくてはならない事情があります!」と両名は、釘を打つのも忘れなかった。「それは、分かっとる!O工場からも、これ以上の無理は言わせへん!正直にゆうてな、全員を帰して欲しいんが、ワシの望みや!しかし、中核に抜擢されとる者を抜いたら、こちらもヤバイ。お互いに喧嘩別れだけはしとうないんが、本音や!ここだけの話、1年単位での交渉も辞さへん!お前等の顔には、泥は塗れんさかいな。よっしゃ!3名は、10月末を持って“帰還”。残りの7名は、体制が整った段階まで待つ!ワシに“二言”はあらへん!次に打診するなら、年末やな?」田納さんの思わぬ低姿勢に、安さんと岩留さんは驚いた。「はあ」「まあ、その辺でしょうな?」と“鳩が豆鉄砲を喰らった”様に返す。「2人共、強硬姿勢で突破を謀ると思てたやろ?それでは、“帰還事業”そのものが終わりになるだけや!互いに尻に火が着いてるんは、一緒やないか?そんなら、折り合える線で譲り合い“時間を稼ぐ”のは必然性があると違うか?後継者探しは、ごっつ骨が折れるさかい、育成も含めて余裕を持たなあかんやろ?今回はワシが引くさかい、次回はそっちの番や。暮れにまた逢おうか?」田納さんは、にこやかに言った。「3ヶ月後ですか?忙しいのは、お互い様ですが、何とか手を考えてみましょう!」「こちらに誠意をみせろと?難しい注文ですな!」岩留さんと安さんは、不敵な笑みを浮かべて握手を交わした。2人か去って行くと「小林、これで何人や?」と田納さんは聞いた。「32名になりますね」の返事に「今回は、ここまででええ!今の3人がデカイ!これ以上、欲をかいたらダメや。しばらくは、様子見に徹するで!」と交渉の打ち切りを示唆した。こうして、田能本部長の面目は保たれた。

「営業の出荷指示が止まった?来月分は軒並み見送り?何があった?」僕は検査室のデスクで、“狐に摘まれた気分”になった。「とにかく、これで安心していいぜ!」田尾が親指を立てた。「いや、安心するのはまだ早い!倉庫への計上は、差し止めてくれ!上げれば間違い無く“攫われる”だろう!棚卸しもあるし、大変だが用心に越した事は無い!月末までは様子を見よう!」僕は、慎重な姿勢を崩さなかった。「そうだな、営業の気まぐれには、何度もやられてる!Yの指示通り、差し止めて様子を伺うよ!」徳さんは、気を引き締める。「そうなると、“スポット”に金、銀ベースとGEか。当初の路線に回帰する訳だが、それでも5%弱の上乗せになるな。最小限の“被害”で食い止めたと言う事になるが、来月の磁器の納入予定が不明だから、痛いのは確かだな!」「それでも、月初の慌ただしさからは解放されるぜ!ペースを維持出来るのは間違い無いし、先行出来るのはデカイぜ!」田尾は、進捗を見ながら言う。「まあ、このまま走れれば、初旬は楽になれるな。問題は、磁器の納入予定か。“山場”が何処に来るか?読み解ければいいんだが?」「まあ、何とかやるしかねぇよ!前も見通しが立てやすくはなってる。“情報”さえ正確に流せば、対処は出来るしな。“新体制”の効果は、“こうした場合にモノを言う”だろう?」田尾は、“良い傾向だ!”と言う。確かにそうだが、何故、営業が手を引いたのだろう?「Y,金か銀、どっちのベースを優先する?」橋口さんが問う。「えーと、今日の状況だと・・・」「橋口さん!進捗を見て自身で判断したら?Yの指示が無ければ何も出来ないとは言わせ無いわよ!」と神崎先輩が噛み付く。「Yは、総合的な判断を求められてるの!個々の判断は、いい加減に自ら下したらどうなの?」と舌鋒鋭く言い返した。「しっ、しかし、今、全てを判断するのは無理なんだよ。まだ、3週間も経って無いんだよ?」「Yは、1週間で自立したわ。歳上である、あなたの方が経験値では上のはず。しかも、条件は一緒!Yに出来て、あなたに出来ないとは言わせ無い!どちらも必要だから、同時平行で流して!」ピシッと神崎先輩が言い切ると、橋口さんはスゴスゴと引き下がる。「いい加減、“自立”させなきゃ自分が苦しくなるだけよ!そろそろ手を引いたら?」と神崎先輩が言う。「“おばちゃん達”が黙って付いて行けばいいんですが、まだ、最後は僕が“決め”をしなきゃなりません。ここで全てが完結させられれば、何も心配はいりませんがね。“経験の無さは経験する事”でしか補えません。橋口さんの悪癖は、指示待ちなのは分かってますが、“人心掌握術”は、半ば天性みたいなもの。まだ、目は離せませんね。今月を“乗り切るかどうか?”もう少し時間を与えて見たいんですよ」と僕が言うと「あなたを必要とする場面は、これから増えるばかりよ。橋口さんが仕切れないなら、“おばちゃん達”から誰かを選んだら?」と“国家老職”の挿げ替えを言われる。「最悪、それも視野に入れてますよ。ですが、“安さん”が連れて来た人材です。無下には袖に出来ませんよ!」と返す。「でもね、これからは“個々の判断で進める人”でなくては、変化に付いては来れないわ!あなたは、総合的な判断をしなきゃならないし、2階との折衝もあるのよ!もし、良ければ、検査室から指示を出す事も提案するけど、どうかな?」神崎先輩が踏み込んで来る。「それも一案ですが、その前に“やりたい事”がありますよ!先輩、ちょっといいですか?」僕は、神崎先輩を2階への階段の踊り場に連れ出した。「かなりの“荒療治”ですが、僕が“消える”のはどうです?まあ、2階に“立て籠もる”だけですが、丸一日指揮を執らずに放置するんです!そうしたら、橋口さんが“どう出るか?”を見て見たいんですよ!」と小声で囁く。「あなたが“消える?!”丸一日?!たちまち大混乱よ!もし、問題が起きたら・・・、あっ!そうか!“各人の判断力”が問われるし、“連携プレー”も必要になるわね!知り得ているのは、あたし達だけ!」「そうです!“タカが一日、されど一日!”無論、2階の許可は取り付けますが、非常時にどれだけやれるか?真価を問うとすれば、やる価値はありませんか?」「それを、あたしに見定めさせて、危うければ出て来る寸法なのね?うーん、予告なしよね?」「当然ですよ。“朝から消え失せる”極秘回線で動きはリアルタイムでウォッチしてます!確か、無線機がありましたよね?あれを使えば、最悪の場合は手を出せますから、実害は出しませんよ!」「いいわ!やって見ましょうよ!金曜日はどう?」「それが一番手っ取り早いですね。週末でしかも、半ばを控えてる“今”しかありませんね。僕は上の許可を取り付けますから、先輩は“何を見定めるか?”を考えてもらえます?」「OK!ここは1つ盛大に“引っ掛けて”やろうか?」神崎先輩もすっかり乗り気になった。“指揮官不在”と言う“難題”にどう立ち向かうのか?いずれは、僕も手を引く事になり、別の仕事が待っているだろう。国分サーディプ事業部には在席はするが、立場は時と共に変化するだろうし、より高い位置から“俯瞰”するかも知れない。“信玄後”を見据えた動きも勘案しなくてはならないのだ。「総合力を試す。多少なりとも乱暴ですが、僕も完璧ではありません。インフルエンザもありますし、怪我も無くは無い。旗振り役を誰が背負うか?考えてもらいましょう!」僕は、“反乱”を計画した。善なる“反乱”だが、誰がイニシアチブを執るか?“我より後の世”を占うには、これしか無かった。

life 人生雑記帳 - 82

2020年01月02日 14時42分54秒 | 日記
田納さんが国分に出発する前日、O工場から河西事業部長が上京して来た。下からと言うか現場からの“要望”を叶えてもらうのが目的だった。「吉田と進藤の2名を“連れ戻せ”か。こないな無理難題をゆうても、無理なもんは無理や!後、1ヶ月待たせろ!モノには“順番”言うもんがある!今回の“交渉”のテーブルには、乗せられへん。次回まで“我慢”させい!」田納さんは、一蹴して退けた。「しかし、現場も限界に近づいてます!この2名の力無くしては、乗り切りません!」河西さんも必死に食い下がるが「“無いものねだり”を言うな!下手な“前例”は作りたく無い!来月のテープルには、乗せられるやろうから、“肉を切らせて骨を切るで凌げ“ゆうとけ!今月末で補充人員も入るやろ?後、1ヶ月待て!」田納さんは譲らなかった。と言うか“譲れなかった”のだ。本部長の算段では、安田・岩留の両責任者から“譲歩”を引き出すためには、任期を超えても“残留”させて“恩を売る”しか道が無かったからと、両名共に“製造の中核”を担っていたからだった。今回は、“予告”に留めて、後任を決めさせる時間を与える必要があり、国分工場の体制が整った段階で、引き上げさせるつもりだったのだ。河西さんの話は、最初から呑めるモノでは無かったのだ。「河西、お前の苦労も分からん訳や無い。だがな、今回ばかりは“相手が悪すぎる”んや!順を踏んでかからねば、永久に“島流し”を経ていずれ“転籍”になるやろ!そうなれば、痛手は倍、いや、10倍になって跳ね返る!そないな事にせえへんためには、時間をかけて料理せなダメや!安田に岩留。コイツらを向こうに回して、互角に戦うには、手順を間違えたらあかん!現場には酷かも知らんが、こっちにも“都合”がある。無理矢理に押し込んで“帰してくれ!”ゆうても、臍を曲げられたら終わりやがな!そうなったら、残りの150名も“帰る保証と道”を失ってしまう!それは、最悪の結末や。“手練れ”が欲しいのは、どこも一緒やないか。今回、2名を強引に引き上げさせて、残りの148名を諦めるんか?そないな事でけへんやろ?」こうまで言われると、河西さんも引くしか無い。「現場には、私から“支え切れ”と申し伝えます。今月末で帰還する者達を出来る限り投入して、持ち堪えさせます!」と言うしか無かった。「それで、何とか凌げ!1ヶ月の我慢か?1年以上の我慢か?選ぶのは現場の連中や!ここで、コケたら一生戻らへんで!そこをよくよく考えさせや!」河西さんは、早々に尻尾を巻いて退散した。

O工場と用賀のゴタゴタを他所に、国分サーディプ事業部は、好調なスタートを切ったと言えよう。製品の流れは順調に推移し、出荷は“先行”を続け進捗率は既に45%に達していた。次週には“折り返し点”に達して、製品に寄っては次月分に食い込む勢いを見せていた。川内からの磁器の納入も順調、整列工程では“新型整列機”の設置と改良が進み、塗布工程へ次々と地板を送り込んでいた。橋本・今村両名が率いる塗布工程では、出荷からの“情報”を元にフル回転で作業が進められ、絶え間無く焼成炉へロット毎に送り込まれていた。橋口さんも順調に腕を上げ続け、返し工程の回しも余裕を持って行っていた。検査室では、神崎先輩の指揮の元、確実で素早い検査が行われており、何も心配する事は無かった。僕は、返し作業室と検査室のデスクを往復しつつ、進捗状況の管理と雑務に追われていた。最も大変だったのは、前との“調整作業”だった。日々刻々と変化する出荷指示と製品の流れを把握して、優先順位を切り替えたり“情報”の差し替えに四苦八苦していた。当月の磁器納入の内GEなどの特殊品は、必然的に“飛び込み”にならざるを得ず、入荷と同時に動かないと出荷に間に合わないのだ。下山田さんから“ホットライン”で連絡が入ると、すぐさま“逆算”をして返しに入る時間を割り出し、検査室に待機を依頼する。手が足りない場合は、僕自身が返し作業を行って間に合わせる。いつしか“息抜き”と呼ぶ様になったGEの流れは、腕を鈍らせないための必須作業となった。「Yがやらなくてもいいんじゃないの?」と検査室の面々は言ったが、「たまには、作業しないと腕が錆びるだろう?」と口答えをしては、嬉々として返し作業を行った。だが、雑務は容赦無く“降って来た”のだ。徳永さんが、これまで行って来た仕事が、丸々僕の手元に“移管”され、採算管理以外は全てを負う立場になったのだ。工程管理に加えて、これらの雑務に割く時間は意外にも長く、デスクに縛り付けられる時間は増える一方だった。しかし、“新体制”は動き出したばかりであり、常に目を通していないと“問題”に発展してしまう。すべからく叩いて膿を出し切らねば、致命傷になりかねない。“現場”から遠ざかるのがもどかしかったが、これも自身が“選んだ道”である。“後戻り”など考えもしなかった。“目の前の敵を叩く”“ひたすらに前へ進む”これが毎日の目標であり“武田の騎馬軍団”の存在意義そのものだった。返し工程の25名から始まった“騎馬軍団”も70名近くに膨れ上がり、小ピン部門を牽引する主力部隊となっていた。金曜日の午後になると、“重臣達”が検査室に集った。今週を“総括”して、次週に備えるためである。皆の表情は明るい。和やかに打ち合わせは始まった。「月初としては、上々のスタートを切れたのは大きい。全体としても“先行”出来ているのが、余裕を生んでいる。だが、何が起こるか?は分からない事だらけだ。来週も引き続き引き締めて行こう」と呼びかけると「そろそろ、計上出来ない在庫が出始める。保管場所をどうする?」と徳さんが言い出す。「次月分って事かい?」「ああ、モノに寄っては文字通りの“先行”さ。10月にドカンと来るヤツだよ!」「Yのデスクの後ろは空いてるでしょう?狭いけど、順を追って積み上げたら?」と恭子が言う。「ブツ量的に言うと、到底足りねぇんだよ!月末になる程に加速度的に増える寸法だぜ!Y、前倒しで倉庫へ押し込めねぇか?」田尾が言い出す。「うーん、2階に相談しなきゃならないが、どの程度の“上乗せ”を予想してるかな?それは、月曜日に処理方法を考えよう。他に問題は?」「来週、“おばちゃん達”が休む日が飛び飛びである。多い日は3人が欠けるんだが、応援はもらえるのかな?」橋口さんが懸念を示した。「それは、予測済ですよ。僕が午前中に入ります。進捗上では、多少の溜まりが生じても問題は出ない方向です。人手がある日にギアを上げれば、更にリスクは下がるでしょう。業務を調整して応援体制を取るつもりですよ。橋口さんの裁量で動いてもらっても構いません」「それは、まだ早い!やっと2週目を終えたばかりだよ。私の裁量では“おばちゃん達”は動かせないよ。月内は共に見てくれないか?」橋口さんは慎重論を口にした。「でもね、Yも手一杯の中、走り回ってくれてるのよ!それを忘れないで!中旬以降は、橋口さんの管理に委ねるべきじゃない?」神崎先輩が“やって見ろ!”と言わんばかりに、発破をかけた。「Yは、予備知識も応援も無いままに2週間で全権委任されてるわ!“Yだからこそ”の部分は差し引いても、そろそろ1人立ちする時期じゃないかな?」多少穏やかに、ちーちゃんが言う。要は“お前男だろう?”と圧力をかけているのだ。「まあ、もう1週だけ様子を見ましょう。月末になれば、自ずと関与する時間は取りにくくなる。質問や疑問点は、書き出して下さい。簡易マニュアルは作れますから」と言って僕が引き取った。「月曜日のこの時間に、再度ミーティグを開きます。各自忘れないで下さい。では、解散とします」三々五々に散っていく中「Y、これを」と恭子とちーちゃんがメモを差し出す。いつものお誘いだ。「了解。日曜は抜け番かな?」と言うと「デスクを見て!」と恭子が言う。ピンクのメモ用紙が折りたたまれて置かれている。筆跡は、実里ちゃんだった。「やれやれ、“職務は続く”か!」今週末も忙しい日々になりそうだ。帰り支度をしていると、「“信玄”、ちとツラを貸せ!」と“安さん”に呼び止められる。検査室の裏に出ると「田納さんが攻めて来るぞ!今回は挨拶程度だろうが、ズバリ向こうの狙いは誰だ?」と問われた。「ウチの吉田さんとレイヤーの進藤でしょう。2人に共通するものは、“ダイキャスト加工のプロ”だと言う事ですから」と答えると「ふふん、“本丸”はそっちか。本格的に来るのは来月だろうな。しかし、タダで帰る御仁では無いだろうから、今井と花岡の首で我慢してもらうとするか!2人共“任期満了を持って帰りたい”らしいからな!だか、最終確認はまだ取れておらん!いずれにしても、俺は“タダで帰すつもり”は更々無い!」と言う。「個人の判断に口は出せませんから、引き留めはしませんが、今更“カビの生えた組織”に戻るとは。不完全燃焼ではやむなしですか?」「ああ、ここは“実力の世界”だ。力を発揮出来ない者は、残る意味が無い!Y、貴様は“転籍”へ持ち込むぞ!いいな?」「望むぬところですよ!」「よく言ったな、小僧が!覚えて置くぞ!ははははは!」“安さん”は笑って去って行ったが、これが新たな“戦闘”の序曲になったのだった。

「ねえ、あなた“敵機来襲”なのに、よく落ち着いてられるわね」“誰にも見咎められない部屋”のソファーで、恭子が膝に座り込んで聞く。タイトスカートとノースリーブは、早々に床に落ちており、ブラとパンティだけのあられも無い姿で唇を貪って来る。「今回は、“顔合わせ”程度だろうから、心配は無いさ。それに、“該当者名簿”をチラっと見たが名前は載っていなかったよ」と言うと舌を絡ませて、ブラのホックを外してやる。豊満な乳房が露になり、乳首を指摘まむ。電流が流れたかの様に、恭子は反応し始める。「いじめないで。早くあたしのホールに来て!」恭子をソファーへ押し倒すと、パンティの上からホール周辺に舌を這わせてやる。「お願い・・・、いっぱい・・・舐めて」恭子は自らパンティを片脚に残して脚を広げる。愛液で濡れたホールに舌を這わせると、次々と愛液が溢れ出した。「あっ!ダメ・・・、溢れちゃう」と言う傍から愛液は噴出して、ソファーに滴った。「坊やをちょうだい」恭子が逆襲で息子に吸い付いた。唇と舌でパワーを入れる。「この子を中に入れるわね」恭子は馬乗りになると、息子を招き入れて「あー・・・、硬い。いつもより、大きくなってるね」と言って腰を使い始める。快楽の世界の扉が開いた。恭子は積極的に上下運動を繰り返して、甘美な声を上げた。「あっ!・・・あっ!・・・あっ!・・・下から突いてぇー!」猛然と腰を入れると、悲鳴にも似た声が響く。「あー・・・、イク!イク!イッちゃうー!」乳房を揺らして恭子は絶叫した。「まだよ!・・・まだ我慢して!・・・一緒にイクから!」うわ言の様に言うと腰の動きが激しくなった。頃合いを見て、下からの突きをいつもより強めに入れてやると悲鳴のような高い声を出して、絶頂に昇り詰めた。「あー、ダメ!イク!」と言うと、ピクピクと身体を痙攣させて汗ばんだ身体が崩れ落ちて来る。体液はしっかりと中へ注ぎ入れた。息子を引き抜くと液が滴る。恭子は、しばらく僕の上で荒い息を整えてから、滴った液を身体に塗り付けた。「どうしたの?今日は・・・いつもと違う・・・硬くて大きいから、気持ち良くて・・・、狂いそうだったわ」「そうさせたのは、誰だよ?」「ふふふ、あたし!?」「他に誰が居る?」「1週間がとても長く感じられるわ。こうして愛し合う時間を毎日にしたいのよ」恭子はキスの雨を降らせて言った。「欲張りさんだな。こうしてやるか」乳首を摘まんでグリグリと刺激すると「ああー、ダメ!また、したくなっちゃうー!」と身をくねらせた。「まだ、甘い世界に居たいだろう?」と言って乳房を鷲掴みにすると、息子を中へ潜らせて突きをお見舞いした。互いに必死になって快楽の世界へと入っていく。「もっと!・・・もっと!・・・もっと!」うわ言の様に恭子はねだった。ひと際激しく腰を動かして、大量の液を注いでやると「これで、今度こそ・・・“ご懐妊”よ!」と恭子は笑った。汗ばんだ身体をシャワーで洗い流しながら、ボディソープを付け合って遊び、浴槽を泡だらけにした。並んで抱き合いながら浸かると「ねえ、橋口さんに対して甘すぎよ!そうでなくても忙しい身なんだから、手を抜きなさいよ!」と言う。「まあ、それは来週でケリを付けるさ。僕も恭子との“職務”も抱えてる身の上だしね。優先順位は、恭子が上だろう?」と言って豊満な乳房にてを伸ばす。「気に入ってるのね。嬉しい限りだわ。でも、そこが弱いのよ」と言うと息子を刺激し始める。3回戦は、いつに無く激しく求めあう事になった。互いに“一番フィトする”と自負しているが故だろうか?夜はゆっくりと深まって行った。まだ、外は真夏の暑さに満ちていた。

O工場では、“夜戦”に突入しても熱い熱気に包まれていた。ミラーボックスの加工工程では、三井さん達が試行錯誤を繰り返して、工数の削減に頭を悩ませていた。「まだ、遅い!スピードは、これが限度か?」「これ以上は、バラツキの原因になります。限界ですよ!」と現場のオペレーターは言う。「大分、縮まっては来たが、後10数秒短縮出来んか?」三井さんが粘る理由は、ミラーボックスの“数”で月産台数が“制限”されている事だった。この問題をクリアしなくては、生産は伸びないのだ。「バイトが折れる寸前まで、追い込んでます!むしろ、前後に振り分けたらどうです?」「2分割するのか。そうすると、平面度の確保はどうする?」「後ろで確保したらどうです?前で中磨き程度まで進めれば、時間は縮められるかと」「プログラムの改良にどれくらいかかる?」「半日もあれば、後は測定次第です」「よし!直ぐにかかれ!これが成功すれば、2個の増産になる。“されど2個”なんだ。これはデカイ!」こうした“手探り”を繰り返して、三井さん達は10数個の増産に結び付けていたのだ。気が遠くなる様な歩みではあったが、“飛車角落ち”の現状ではこれしか無かった。「他のユニットの進捗は早い。問題は“ここ”なんだよ!」と言い続けて週末を迎えていた。土日も製造ラインは止まらないで動く。1台でも積み増しするには、“時間との戦い”を制するしか無いのだ。「ボディは予定通りに上がって来てます。ミラーボックスの“数”に制限されるとは、悔しいですね!」「吉田さんと進藤が居れば、もう少し早くはなるんだが、居ない人を頼る訳にも行くまい。知恵と努力で速度を上げるしか無いんだ!」三井さんは、周囲を鼓舞し続けた。だが、悲劇が待っていた。「三井さん!大変です!外注のダイキャスト型がイカレたそうです!修理に3~4日かかりそうです!」脱兎の如く、受け入れ担当が駆け込んできた。「何だと?!損傷の程度と外注の手持ちは?!」「亀裂が入ったとさ!手持ちは3日分!一旦“切れる”のを覚悟しなきゃならないな!」受け入れの責任者が遅れて現れた。資材部からも担当者が駆け込んで来た。「試作に使った“簡易型”で回せないか?」「やらんよりマシだが、数は取れない。それより、Ⅱ型の進捗は?」「明日、組み上げて、月曜日に“トライ”に持ち込む予定ですが、“測定”と“焼き入れ”をやらないと流せる状態に出来ませんよ!」「ならば、“前倒し”にするしか無いな!深井、赤帽に取りに行かせろ!池さんの知り合いなら、24時間対応してくれるだろう!そうすりゃあ、明日の“トライ”で日曜日には結論が出る!繋ぐとすればそれしか無いぞ!」三井さんの決断は早かった。「“簡易型”と並行してⅡ型の“前倒し”か。直ぐに手配にかかる!」深井も頭で計算を入れ替えると、直ぐに動いた。“止める”事は許されない。非常時に“どう斬り抜けるか?”深井の“引き出し”の多さに三井さんは賭けた。「“測定”と検証は、城田と長谷川にやらせよう。OKなら、修理期間中は、Ⅱ型を使う。外注もだが、ウチも切らせる訳には行かない!綱渡りでも繋いで行くしか無いんだ!設計にも声をかれけろ!このまま、突っ走るぞ!」“不撓不屈”の三井さんは、「Yに後れを取る訳にはいかん!こっちにも、意地があるからな!」と闘志を燃やしていた。

明けて土曜日。どう言う“取引”が成立したのか?全く分からないまま、実里ちゃんに城山公園に連れて行かれて、早速とばかりに息子に吸い付かれた。「“みの”のお口に出して下さいね!」と言って唇と舌で刺激される。服装はセーラー服に着替えているが、下着は着けていない。車内がお好きな彼女らしいが、朝からこれは流石にキツイ。「先輩、入れたいですか?」「うん、その方が・・・」「だったら、上に乗りますよ!硬くて大きいから、気持ち良さそう!」と言うとスカートをめくって、馬乗りになる。「あー!大きい、奥まで・・・入り・・・きらない。でも・・・、気持ちいいわ!」実里ちゃんはゆっくりと腰を振り出した。元々、体重が軽いので激しく動かれても負担にはならない。ホールに愛液が満ちるのを待ってから、下からの突きをお見舞いする。「あっ!・・・あっ!・・・あっ!・・・あっ!イッちゃう!イク!」顔を赤らめて甲高い声を上げ、実里ちゃんは喘ぐ。生徒を抱く教師の気分にさせられる。“現役”と言っても通用しそうな、彼女の幼さとのギャプが次第に快感に変わった。体位を変えて背後を取ると、腰を使って突きの嵐を見舞わせる。「あー!ダメ!・・・ダメ!・・・ダメ!漏れちゃうよー!」とか細い声で訴えた。息子を抜くと、一筋の滝がシートを濡らした。「“みの”の愛液が、漏れちゃった。でも・・・お漏らしって気持ちいいー!・・・もっと・・・突いて下さい」お尻を振っておねだりをする実里ちゃん。彼女の性格がイマイチ分からなくなった。猛然と突いてやると、たちまち絶頂に達して甲高い声を出して喘いだ。「お口に、・・・お口に下さい!」と言うので、息子を口元へ持って行き液を顔に噴射した。「んん、おいちー!・・・もったいないから綺麗にしますね」と舌で僕の液を絡め取る。その姿が幼さも加わってより愛おしく見える。セーラー服から、白のワンピース姿に着替えると、“いつもの”実里ちゃんに戻るから、また不思議だ。化粧も直すと、きちんと“大人”の姿に変身するのだ。「もしかして、セーラー服に憧れてない?」と言うと「高校時代に戻りたい“願望”があるんです。時間を巻き戻して、“現役の女子高校生”として抱かれたい。最近、そんな妄想に取り付かれてるんですよ!」と返して来た。「不純異性交遊で、廊下の端まで飛ばされるなー!」と言うと「何です?それ?」とクスクスと笑う。「高校時代に付き合ってた、幸子は体格がコロッとしてたから、他の女子とじゃれてると“さちに見つかると、廊下の端まで飛ばされるよー!”って警告を受けたからね。最も本人は“壁をブチ抜いて外に放り出すよー!”って言ってたが、実際に“飛ばされた”事は無いけど」と説明すると「面白い例えですよね!あの頃は、今よりずっと自由でしたからから、戻りたいんですよ」「確かに、今、思えば“やり残してた事”は、数多あるよね。ほんの少し、数年前なのに随分時間が経過した気持ちになるのは何故だろう?」「やりたい事があり過ぎたんですよ。それを3年間で達成する事そのものに無理があった。あたしは、そう思いますよ」実里ちゃんは“トッポ”を発進させた。市道を抜けると国道10号を東に向かって走り出した。「それは、言えてるよ。3年間なんて、あっと言う間に過ぎ去って行く。もう、1年間あったらやりたい事の大半は出来たかもね」「あたしは、先輩と同じ高校でブレザーの制服を着て、ネクタイの交換をしたかったですし、先輩の築かれた“礎”を継ぎたかった!同じ時間を過ごしたかったんです!」と言った。「大変だぞ!“礎”を残すって事は、思ってるより厳しいよ。何せ“悪しき物”は残せない!僕達は、完全に歪みを治せなかった。時間切れで、後輩達に後事を託すしか無かった。託された方も大変だったはずだよ」「それでもいいんです。先輩から信頼されて、“後の世”を託されるなんて、夢の様に感じます。その使命を背負って、先輩を追い掛けたかったな!」「実里ちゃんが後輩だったら、間違いなく僕の肩書“参謀長”を継がせてたろうな。継がせるに当たっても、きちんと“教育”もしたしな!」「今からでも“教育”して下さい!是非お願いします!」と言うと茂みのある路側帯に車を停めると、後部席へ連れ込まれる。「実里ちゃんの希望するのは“教育”の中でも“性教育”だろう?」と言うと「そうです。“そちら”をしっかりと教えて下さい。まずは、パンティの脱がせ方からですよ」と言うとスカート部分をめくって、純白のレースをあしらったパンティを見せつける。「悪いことは“残せない”って言っただろう?」と言うと「悪くなんてありません!あたしは、自分の意志で抱かれたいから、見せてるんです。脱がせて下さい!」実里ちゃんは、手を取るとバンティに触れさせる。「じゃあ、真面目に教えようか。まずは、こうしてからだよ」と言うと指でホール周辺を擦り出した。「いじめないで。早く・・・、“みの”のホールに・・・来て下さい」唇に吸い付くと舌を絡ませて、「ねぇ、お・ね・が・い」と言い出した。今度は大人の色気を放っている。こうしたギャプの大きさが実里ちゃんの魅力だろう。そして、何よりも車内でするのがお好きなのが、変わっている。本日も替えの下着やタオルケットは、準備万端である。こうして、気ままに走っては抱き合う1日は過ぎて行った。シメは“メイドさん”のコスプレだった。「何か、止められなくなりそう!」実里ちゃんは、終始ご機嫌だった。

その日夕刻、羽田からの最終便から2人の男が鹿児島空港に降り立った。「暑いでー!まだ、9月やさかいな!」田納本部長と小林副本部長だ。万里の波頭を物ともせずに、“バルチック艦隊”が姿を現したのだ。タクシーを拾うと隼人町のホテルへ入った。荷物を押し込むと、早速、“作戦会議”を開始した。「まずは、国分総務との“包括和平協定”の調印からですな。“双方にとって負担とならない形での、引き上げ方法について、継続的に審議を行う”旨の合意を取り付ける」「せや、まずは、そこからや!後顧の憂いを断ってから、攻めに出る!自動車部品・機械工具・研究所の3つは、“任期満了”を持って合意するやろ。問題は、安田と岩留や!業績も好調、受注も好調、人手は手放したくないのが見え見えや!あそこから3人引き抜けたら万々歳にせなあかん!欲を出したら、足許をみられるで!臍を曲げられたら事やしな!」「では、半導体部品は“挨拶のついで程度”で引かれますか?」「ああ、あそこは、押すタイミングが難しい。せやけど、ウチの“主力艦隊”の大半が在泊しとるのもあそこや。いずれは、押してかからなあかんが、今回は抜きや!安田も岩留も多分読んでるやろ。“手土産”に何をくれるか?それ次第やな!小林、今回は“危ない橋”は渡らへん!距離を取って様子見に徹する。せやから、こちらからは動くな!出方を伺うだけでええ!」「はい、心得ました!」「O工場も火の車やけど、こっちも下手をすれば、火の車になる。ガードは固い!せやから、友好的に徹する。ええな?」田納さんは、タバコの火を消すと桜島を睨んだ。「あそこを下手に突いたら、タダでは済まん!それと同じや!」攻め手は決まっていた。

そうとは知らない日曜日。赤の910系ブルーバードは、志布志方面に向かって疾走していた。「Yお兄ちゃん!ちーは、オシッコがしたいのー!」お酒に酔っては居ないが、久々の2人だけのドライブに酔っているちーちゃんは、脳天気に言った。「はい、至急場所を探しましょう」「一緒じゃないと嫌だからね!」「はい、はい」ちーちゃんはどうしてもオトメストイレを探せ!とねだる。しばらく走ると、最近開店したばかりのコンビニを見つけた。車いすトイレはあるだろうと考えて、車を停めて店内へ入る。「あった!行くよ!ちーは我慢の限界なの!」と言ってちーちゃんはトイレへ僕も引きずり込んだ。「ちゃんと見ててよね」と言うとちーちゃんは用を足し始める。「あははは、止まらないよー!」この豪放磊落な性格こそが、ちーちゃんらしい。「別に見られても平気だもの。だって、あたし達何回エッチした?全部知ってるじゃない!」確かにそうだが、トイレは別じゃないのか?と思ったが、彼女の論理では別ではないのだ。「お兄ちゃん、これあげるね」と言うとピンクの水玉のパンティをズボンのポケットに押し込んだ。プリーツスカートの中は当然ながらノーパンだ。実はこれが、ちーちゃんの狙いだった。車に戻るとエアコンを全開にして、早速1試合を敢行した。背後から突いてやると、ちーちゃんは久々の快楽に溺れて、喘ぎ声を高らかに上げて絶頂に達した。液は余さずに吸い取った。日向灘に出ると、景色の良い路側帯に停めて、海風に吹かれた。「Yお兄ちゃん、田納さんが来るの知ってる?」今度は真面目に聞いて来る。「昨日か今朝の飛行機で来てるだろうよ。今回は“顔合わせ”が主だろう。腹の探り合いに終始するよ」と返すと「滅多な事では、帰らないよね?」と顔を覗き込んで来る。「自由で実力主義の空気を吸ったヤツは、“年功序列主義”に固まったカビの生えた空気は吸いたがらないよ。そもそも、帰ると言う選択は頭に無いんだ。“残留”もしくは“転籍”を望むはずさ。帰っても“平社員”にしかなれないなら、尚更さ。“新体制”の行方も定かでない中、“途中下車”なんて無責任な事する必要があるかい?」「Yお兄ちゃんなら、そう言うと思った。けど、確信が持てなかったから、金曜日は黙ってたの。そうしなきゃ、恭子がパニックを起こすし、みんなにも動揺が広がるだけだもの。やっぱり、“転籍”目指すんでしょう?」「当然!また、1から積み上げるより、土台がしっかりしてる現状で戦いたいと思うよ。“誰も見た事が無い景色”をみんなと“安さん”に見せて無いからね!」「“誰も見た事が無い景色”か。目の前に来てるの?「後、1ヶ月もすれば、陰は見えて来るだろう。手応えはあるんだ!それを見ずして帰るのは、主義に反するからね!」「その言葉をみんなが聞きたがってるの。“何があろうとも帰らない”そう、言ってくれればそれでいいの。月曜日に“宣言”してくれない?」「ハナからそのつもりだ。簡単に引き下がるつもりは無いよ。月曜のミィーティグや朝礼で言うよ」僕がそう言うと、ちーちゃんは、背後から抱き着いて来た。「Yお兄ちゃん、大好きだよ!みんなそう言ってるから、あたし達を置いて行かないでね!」大きな胸が背中に当たる。ちーちゃんは、少しコロッとしているので、抱き着かれると必然的に胸が邪魔になるのだ。だが、嫌では無い。昔、幸子を抱いた頃に近い。「ちーちゃん、行くか?」「うん、まだ、頑張れるよね?」「出来る限りご要望には、お答えしますよ」と言うと正面を向いて抱き上げる。「わっ!大丈夫?あたし重いから無理しないで!」「何のこれしき、部屋を探そう」「後、2回頑張ってよね!」車に乗り込むと宮崎市内を目指した。ちーちゃんとは、これで何度目だろうか?そろそろ“当たり”が出てもおかしくは無いのだが、何故か当たらない。不可思議な事に、誰とも“当たらない”のは、どうしてなのか?今も解けない謎の1つである。

運命の9月第2週目、田納本部長の“来場”アナウンスもあり、朝礼はざわめきに包まれた。「とうとう“バルチック艦隊”が押し寄せて来た!我々の郷土の先人東郷元帥は、劣勢を撥ね退けてロシア艦隊を撃破した!我々にも決して出来ない事では無い!各自、持ち場と立場を守り切り、万里の波頭を越えて来た者達を存分に料理して沈めてやれ!ここは、我らが知り尽くした土地だ!利は我にあり!揺らぐ事無く押し返せ!上期の勝敗は今週で決する!勝利は目前!貴様らの奮起に期待する!」“安さん”の勇ましい声が、不安とざわめきを書き消した。そして、パートさんの朝礼の時に、僕は管轄する全員を招集した。「“本日、天気晴朗ナレドモ、波高シ”これは、大本営に宛てた暗号電文の末尾に、秋山真之中佐が、平文で付け加えた一句だ。“天気晴朗”とは、視界が遠くまで開けて打ち漏らしは少ない事を“波高シ”と言う物理的な条件は、ロシアの軍艦に不利をもたらす事を暗示している。“極めて我が方に有利である”と真之は象徴して言っている。田納さんと言う“不沈戦艦”が襲って来てはいるが、僕等が揺るがなければ、どうと言う事は無い。いつも通りに落ち着いて冷静に対処して欲しい。なお、僕はここに宣言する。“特段の理由が無い以上、国分に留まる”と。ここは、“我が故郷”であると。“途中下車”など以ての外だ!僕は、みんなと共に戦い続けるし、先頭を切って進む。遅れないように付いて来て欲しい。以上だ」一瞬の間を置いて拍手が室内を包んだ。「御大将に遅れるなよ!」「これからも共に進もうぜ!」徳さんと田尾が叫ぶ。「さあ!行こう!これからが正念場だ!」橋口さんの一声で全員が持ち場に散った。肩に手が置かれた。「“信玄”、やってくれるな!これで、俺の腹も決まったぞ!」“安さん”が陰で見ていたらしい。「沈められる前に、魚雷と爆弾をお見舞いしてやる!誰も意図的に“帰りたい”などと言わなかった。10名全員が“残留”を希望しているし、俺も帰す“理由”が見当たらん!それならば、“譲歩”など無用。守り抜けばいい。貴様の演説を聞いて、そう確信したぞ!有無の一戦だ!“信玄”、先陣を任せる!上期の黒字化を達成して見せるがいい!本部長が腰を抜かすぐらいにな!」「ええ、そのもりで動きます!」「小僧、任せたぞ!“不沈戦艦”は、俺達で沈めてやる!後顧に憂いが無ければ、どう戦ってもいい訳だからな!泣きっ面が目に浮かぶわ!ははははは!」“安さん”は余裕の表情を浮かべていた。きっと、厳しい局面に立つだろうに、晴れやかな顔をしていた。対決は午後一番だと聞いた。「向こうは、向こう。こちらは、スポットからだ!」僕も迷いを振り切って、作業台に立った。「Bシフト、スポット、金優先で!ギアは一段上げ!」追撃が始まった。