limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 45

2019年08月31日 13時12分09秒 | 日記
3日目の朝、緊急の教職員、生徒会の合同ミーティングがセッティングされた。昨日の“一般公開延長騒ぎ”の余波は、今日の一般公開にも及んでいる事が明らかになったからだ。ポスターのミスプリントは、本日の公開時間も1時間延長となっており、関係各所からは非難轟轟。教職員からも厳しい視線が原田に浴びせられた。「原稿は間違っていなかった。刷り上がって来たポスターのチェックを原田1人でやったのが間違いだったんだ!俺はあの時“複数で確認すべきだ!”と言ったはずだが、原田はそれを退けた。“俺の眼に狂いはない”とか言ってな!その結果がこれじゃあ、余りにもお粗末過ぎないか?」益田は舌鋒鋭く“原田批判”を展開した。「それは俺もずっと感じていた!原田は“独断専行”が過ぎる嫌いがある!現に、この場に居なくてもいいヤツも何故かいるしな!」佐久先生も同調して4期生の男子を睨みつけた。“皇太子”に指名されるはずのヤツだ。「彼は、本校の未来を背負って立つ人物です。居なくてもいいとは・・・」と原田が弁解すると「生徒会長選挙を無視するつもりか!それこそ“職権乱用”と言うんだ!今回の事で一番苦労したのはY達だぞ!労いの言葉も詫びも無しか?2年続けて重荷を背負わせるとは言語道断!」机を叩いて佐久先生は原田を睨む。その言い知れぬ迫力に原田は言葉を失った。「信夫、その辺で引け!責任追及は反省会の席でいいだろう。Y君、何か言って置く事はあるかね?」校長が一喝すると佐久先生は沈黙した。僕への下問に対しては「2つあります。1つは模擬店や展示スペースで物品が足りなくなり、カンパで調達を余儀なくされている事です。生徒会の予算も底を付いているはずですので、財政支援をお願いします。2つ目は、“ファイナルステージ”の時間延長を要請します」と答えた。「お前らしい言い分だな。他人の家を心配して自分を顧みないとは。校長、私からもお願います!」中島先生が援護してくれた。「ふふふ、君らしい要請だな。2つとも要請には答えよう。他の先生方もいいかな?」校長が言い出すと誰も反対しない。僕の要請はすんなりと通った。原田は俯いて顔も上げられずに沈黙したままだった。原田の求心力は失われつつある様だ。校長が佐久先生に目で合図をすると「本日の一般公開は、1時間延長。それに伴って“ファイナルステージ”も1時間繰り下げて実施とします。生徒会は、各クラスから実費を清算して、教頭に報告を出せ!生徒の自腹と言う訳には行かない。午前10時を目安に取りまとめを急げ!生徒会長は総本部で謹慎とするため、伊東・小川の両副会長が本日の総本部の指揮を執れ!学校側の指示は以上だ。生徒会からの指示は?」と淀みなく言った。「総合案内兼駐車場係と警備係は、Yが指揮を執ってくれ。“ファイナルステージ”の準備と進行は、益田、小池の2閣僚で対応を宜しく頼む。その他は変更ありません。残り半日の一般公開の成功を目指して各自職務を全うして欲しい。以上です」急遽お鉢が回って来た伊東は、やや緊張気味に言った。「それでは、解散!」佐久先生が宣言して合同ミーティングは終わった。原田は、ガックリと崩れ落ちていた。「Y、ちょっと待っててくれ」佐久先生が僕を呼び止めた。廊下で待つ事数分、先生は小走りに駆け寄ってくると「原田は“謹慎”にするしか無かったが、伊東と小川で今日を乗り切れると思うか?」と聞いて来た。僕は廊下を歩きだしながら「問題はありませんよ。あの2人の方が上手くやるでしょう。益田や小池も不満は漏らしてませんし、僕としても願ったりなんです」と答えた。「ふむ、お前がそう言うなら間違いはあるまい。だが、原田に対する風当たりは相当に強いぞ!今までの“専横”が祟ったな。教職員の間でも評価は急落しているから狙い通りなんだが、このままヤツを封じ込められるか?」「多分ですが、原田の手足は完全にもぎ取られました。復活して来る力は残っていないでしょう。形勢を有利にする材料が無いんですから!」「Y、ひょうたんから駒ではあるが、これで“悪しき者達”が残ることは無いな。後は任せる!必ず正しい道へ後輩達を導け!これはお前達の最後の仕事だ。頼んだぞ!」佐久先生はバシバシと僕の背を叩いた。「お任せください。“太祖の世”に復して見せますから!」僕と先生は薄っすらと笑って職員室の前で別れた。

昇降口の奥。僕等の本部には誰もいなかった。「今日で最後か」僕は無意識に“責任者”の椅子に座ると眼を閉じて見た。走馬灯のように思いが溢れ出した。「2年間も良くやったもんだ」そう呟いていると、シャター音が2度聞こえた。「参謀長、おはようございます!」加奈がふらりと現れた。「何の写真だ?」「参謀長が“責任者”の椅子に座っておられる姿ですよ。忘れない様に、迷ったら問いかけられる様に映像を残したかったの。だって・・・、もう・・・、2度と見られないんですよ!悲し過ぎます!」加奈の頬に一筋の涙が伝う。「イヤでも時間は止められん。だが、記憶の中には残る事は出来る。私は、残された時間であらゆるモノを消し去らなくてはならない。原田の治世を抹消して、あらゆる記録類も破棄して行く。全ては“太祖の世”に復するためだ。記録類は残さないが、記憶はその人の心に残るだろう?私はそれで良いと思う。我々の世代は“記録類に残ってはならない”宿命なんだよ」僕は、ハンカチで加奈の頬をそっと拭きながら静かに言った。「あたし達を救い、今まで導いてくれた事すら消し去るの?そんな事は余りに酷すぎます!」加奈は、僕の胸元を叩いて泣きじゃくる。「遠藤、水野、加藤、隠れてないで出て来るんだ」僕は東校舎入口付近に向かって声をかけた。3人がやはり泣きながら出て来た。「参謀長・・・」言葉が続かずに涙が頬を伝っている。1人づつハンカチでそっと涙を拭いてやりながら「まだ、全てが終わった訳じゃないぞ!夏期講習に、秋の“大統領選挙”もあるんだ!乗り越えなくてはならない課題は山積している!私が本当に肩の荷を降ろせるのは、卒業式当日だ。4人共しっかりと前を向け!“向陽祭”は通過点に過ぎない。真のゴールはまだまだ先だ。今日も長い道のりが待ってる。しっかりしろ!」僕は4人の肩を叩いて回った。「でも・・・、参謀長が・・・“責任者”の椅子に座っておられるのは・・・、今日までじゃないですか・・・!お願いです!留年して下さい!」泣き声と共に遠藤が無茶を振って来る。「おいおい、それは勘弁してくれ。私は新たな地に足を踏み入れなくてはならないんだ。それも、1兵士としてな。君達は、自らの力で這い上がって来た勇者だろう?誰もが出来る事では無い事をやってのけたんだ!己を信じて前を見据えて進んでいけ!君達なら出来るはずだ!私達の後を継いで、学校を背負ってくれ!“太祖の世”に復するためにもな!そのためにも、教え込んで置く事はまだ数多ある!だから、私の背を追って来い!全力でサポートしてやるからな!」僕は優しく4人の肩を叩いて言った。すすり泣きは、しばらく続いたが4人は少し落ち着いた様だった。「さあ、化粧直しをして来い!そんな顔だと笑われるぞ!」僕はそう言うと4人と肩を組んだ。「さあ!残すところ半日だ!全力で駆け抜けるぞ!」「はい!」上田、遠藤、水野、加藤、僕達が精魂を込めて“育て直した”4人は何とか息を吹き返した。そして、化粧を直すべく教室へ戻って行った。「頼んだぞ。未来を切り開け!」そう、呟くと僕は改めて“責任者”の椅子に座り直した。「行きましたか?まだまだ“親離れ”とは言えないようですね?」西岡がやって来た。「やれやれ、Yは4人のお兄さんと言うより“父親”なのね・・・。あの子達に“かっさらわれない”様に見張らなきゃ!」大魔神の様に、さちが僕の目の前に立った。「全く、手のかかる子供達だよ。だが、手をかけた分、安心して引き継げる。“太祖の世”に復するためにも大きく育ってもらわなくては困る!」僕はさちの顔を見て言った。「育っているのは恋心じゃないの?」さちが不敵な笑みを浮かべる。まるで加奈との関係を知っているかのようだった。「恋心など云々している暇があるか?過密日程をこなして、自分の身の振り方も決めなくてはならない。息つく間もないぐらい課題は山積みになってる。それぞれに手分けをして当たってもらっているが、それでもギリギリだ!よそ見をしていられる余裕は無いよ!」僕は背中に冷や汗を滴らせながら返した。顔色は変えず、声音も平常心を装うのに必死だった。「ならば、宜しい。Y、今日も頑張って行こう!」さちはそう言ったが、眼は笑っていなかった。女の直感は恐ろしいとつくづく思った。

午前8時15分になると、指揮下の係員達が本部前に整列を終えた。「参謀長、総員整列を完了しました!」山本が報告を入れて来る。上田達も、表情を引き締めて列に加わっている。「よし、ミーティングを開始しよう!」僕はゆっくりと椅子から立ち上がった。「諸君、おはよう。いよいよ最終日を迎えたな。今年も色々とあったが、みんなの協力のおかげで無事切り抜けることが出来た!残り半日、無事に各自が職責を全うしてくれる事を切に願う。本日もポスターの“ミスプリント”の余波で、公開時間が1時間延長される。山本、各指揮者へ本日のシフト表を配布してくれ」山本が手際よくプリントを指揮者へ手渡して行く。「各員のシフトは、本日の発表と重ならない様に組んだつもりだが、もし都合の悪い者が居たら、前後の担当者と個別に交渉して調整してくれ!では、しばらく確認の時間を設ける。確認開始!」各要員は、指揮者の元に群がってシフトを確認して行った。「脇坂、通信回線を開け。それと、内線を復活させろ!」「了解、内線ジャック接続。通信回線オープン。双方共に異常ありません!」「よし、さち、西岡、冷えたボトルを袋に詰めてくれ。山本、各隊の状況を報告!」僕は立て続けに指示を送る。「参謀長、各隊シフトに問題は無い様です!」「分かった。坂野、宮崎、後は宜しく!」「はいよ、みんな!気合入れて行くぜ!」坂野が言うと宮崎がラジカセの再生ボタンを押す。“WE WILL ROCK YOU ”が流れ出す。「勝つぜ!俺達は無敵だ!最後まで走り抜くぜ!」「Yes!」「俺達の働きで一般公開の成否が決まる!気合入れて行くぜ!」「Yes!」「今日も宜しく!」「Yes!」“WE WILL WE WILL ROCK YOU ”を連呼してみんながノリノリになった。曲が終わっても合唱は続いていた。今日もみんなの体調に問題は無さそうだ。「先遣隊並びに第一陣、出発準備に入れ!脇坂、チャンネルは“総合案内兼駐車場係”を19、“警備係”を15にセット!準備が整ったらコールを開始しろ!」「了解!」「参謀長、あたし達がシフトから外れてますが何故ですか?」遠藤が色をなして詰め寄って来た。「今日は、本部で総合的な視点から、私が指揮を執る姿を良く見て置け。細々とした用事はいくらでもある。君達4人は基本、本部で待機とする。いいな?」僕が諭す様に言い渡すと、遠藤、水野、加藤の表情が明るくなった。「加奈、3人の椅子を私の後ろに並べてやれ」「はい!」「参謀長、先遣隊及び第一陣の出発準備が完了しました!」「無線機に異常ありません!」山本と脇坂から報告が来た。「坂野、小松、宜しくな!」2人に声をかけると「Y、ちょっと行って来るぜ!」と言って炎天下へと飛び出して言った。「警備係、出発だ。規制ロープを忘れるな!」と言うと「はい、では行ってきます!」と涼しい顔をして配置に向かった。「ようやく育ったな。私の理想が2年かけて育った!来年は、彼らが率先して働いてくれるだろう。加奈、彼らとの信頼関係を構築して置けよ!」「はい、参謀長の切り拓かれた道を確実に整備して備えます!」加奈はノートにペンを走らせていた。遠藤達も同じようにノートを取っている。“こうした姿勢こそが来年に必ず生きる”僕は彼女達を見つめてそっと呟いた。

入場者は、順調に増えて行った。開校3年目にして、ようやく“認知”されたのだろう。他校の生徒も多数混じっていた。特段の問題も起こっておらず、公開そのものは順調に進んでいた。「Y、ボトルが足りなくなりそうだよ!どうするの?」さちが冷蔵庫を調べて言って来る。「伊東に言って手に入れるしかないな。脇坂、総本部を呼び出せ!」「はい、少々お待ち下さい」脇坂は受話器を片手に内線番号をプッシュした。「参謀長、どうぞ」僕はオープンマイクに切り替えると、伊東と話し始める。「伊東、総本部で余ってるボトルをこっちへ回せないか?」「ああ、いいよ!何ケース必要だ?」「4~5ケースは欲しい。出せるか?」「原田のヤツ、何でこんなに発注したんだろう?かなりの在庫があるぜ!」伊東も困惑気味に言う。「自分たちだけは潤沢にしたかったんだろう?何しろこの暑さだ。誰だって渇きには耐えられん!取りに行かせるから、ありったけの在庫を回してくれないか?」「了解だ!6ケースは持って行っても問題ない。4人ばかり寄越してくれればいいぞ!」「直ぐに行かせるよ。それと、例の“作戦”は進んでるか?」「ああ、長官が片っ端からコピーを取ってるよ!廃棄の手筈も決まった。問題は、原田の“実弾”の入った金庫だな!ガサ入れをやってるんだが、鍵と暗証番号が不明なんだよ。どこにあるんだ?」「多分だが、原田の持ち物の中だろう。“スパイ大作戦”で手に入れるしかあるまいよ!坂野が戻ったら教室のガサ入に行かせる。ラテックスの手袋を用意して待っててくれ!」「了解だ。4期生の“皇太子”にいくら持たせたかを知りたいからな。女の方はどうする?」「既に“靖国神社”が水面下で動いてるよ。不安を煽ってるはずさ!そうすりゃあ、原田陣営は四分五裂。益田と小池の“離反”も決定的だから、証拠さえ押さえれば事前に叩ける要素はいくらでもある!ともかく、金庫こじ開けて帳簿を手に入れてくれ!」「分かった。何とかやって見よう!一般公開の方に格段の問題は無いだろうな?」「あれば、こんなに呑気に話してないさ!今のところ問題は無い。安心しろ!じゃあ、任せるぞ。後で坂野を行かせるからな。宜しく頼むよ」僕は薄笑いを浮かべて受話器を置いた。「水野、加藤、予備隊から男子4名を連れて、総本部からボトルのカートンを運び出せ!台車を忘れるなよ」「はい」「直ぐに急行します」2人が立ち上がって動き出す。「さち、冷蔵庫のスペースは足りるか?」「新たに6ケース来るの?中を整理しとくね!」さちは冷蔵庫の中をひっくり返し始める。「遠藤、手を貸してくれ!押し込めるだけ押し込まなくちゃならない」「分かりました」遠藤は、さちのお手子に付く。「相変わらずお見事ですね。電話1本で全て済ませるとは」加奈が感心したかの様に言う。「これくらい簡単な事さ。普段から意思疎通が取れていれば、多くは言わなくても分かってくれる。こうした関係も手を抜くなよ!」僕はあえて加奈に釘を刺した。「大舞台では、こうした事を順序よく片付けて行くのも大事なんだ!何気にやっている様に見えるだろうが、全ては計算の内なんだ。指揮を執る上では、あらゆる視点から物事を見て、考えて、備えて置け!そうすれば、いざと言う時慌てずに済む」加奈は必死にペンを走らせていた。“彼女ならやれるだろう”加奈のひたむきな姿勢を見て、僕は間違っていないと確信を得た。

午前11時50分になると、いよいよ“最後のクローズ作業”の準備が開始された。「脇坂、総員を戦闘配置に着かせろ!山本、ありったけの兵力を投入する!予備班も動員しろ!最後の1人、1台を見送るまで気を抜くな!警備係は、規制線を張り巡らせて誘導に当たらせろ!さあ、最後の勝負に打って出るぞ!加奈、遠藤、水野、加藤は、情報収集と連絡に当たれ!」僕は矢継ぎ早に指示を送る。「了解!」6人の声が重なる。時計を見て各要員は三々五々に集まって来る。集合を終えた隊から、順次配置に着かせて行く。正門前の最重要ポジションは、今野と宮崎の隊を貼り付けた。「午後0時半を持って“バリケード”を設置。入場を止めてくれ。退場には、それなりの時間を食うだろうが、最後の1台が出たら正門を閉ざしてくれ。今日は“完全閉鎖”だから、南京錠をかけるのを忘れるな!」今更ながらにも指示を出すと「Y、いよいよだな!」「俺達の集大成を見せ付けて来てやる!後は任せな!」と言って笑顔で正門前へ出て行く。これまでと何も変わらないかの様に。彼等が居たからこそ、ここまで来れたと言っても過言ではない。「坂野、今野や宮崎、飯田に小松に吉川。誰も文句を言う事無く、黙々と職責を全うしてくれている理由は何だ?」と問うて見た。すると坂野は「お前さんこそ2年続けて“責任者”を引き受けた理由は何だよ?」と問い返される。「一言で言うなら“伝言”になるかな?“悪しきモノ”は残せない!出て行くなら、気持ち良く去りたいだろう?最後の“使命”を果たしたかっただけだよ」と返すと「俺達は、そんなYと共に戦いたかった!だから、志願して出て来た。それだけさ!」と笑って答えた。「物好きだな!」と言うと「ああ、ここまで来ると理屈じゃ無いんだ!戦友にしか分からない事さ!同じ時代を生きた者にしか分からない“血が騒ぐ”のさ!原田は、やり過ぎた!それを正して、“太祖の世”に復する事こそ俺達が取り組まなくてはならない最後の“大仕事”だろう?」坂野が事も無げに言う。僕達は互いに眼を見てから笑い合った。「じゃあ、坂野、校内巡視の指揮を執ってくれ。間もなく出発だ」「了解だ!予備班集合してくれ!」坂野は予備班を招集し始めた。校内に流れていたBGMの曲調が変わった。いつの間にか午後0時15分を過ぎている。間もなく“グランドフィナーレー”だ。「加奈、いよいよ“グランドフィナーレー”を迎える。女子班を配置に着かせて指揮を執れ!」「はい、みんな、集まって!」加奈も女子達を整列させ始めた。「本橋、石川、爆竹をセッティングしろ!」「はい!」2人の声が重なる。「脇坂、無線で伝達。“残り45分でグランドフィナーレーを迎える。最後まで気を抜くな!”と申し伝えろ!」「はい、各隊応答願います・・・」「山本、忘れ物や落とし物の集積は?」「余りありません。貴重品などは、事務室で保管してもらってますが、少ないです」山本は箱を開けて中を見せた。「よし、閉場後に事務室へ引き継げ!これからまだ増えるぞ。覚悟して置け!」と言ってから僕は“責任者”の椅子へ戻り、内線で総本部を呼んだ。「千秋、ああ、こちらは順調だよ。特段、問題も出ていない。予定通りに進行するよ。悪いが伊東に伝えてくれ。ああ、任せて置け。では、後でな」僕は受話器を置くと息を継いで背筋を伸ばした。「もう一息だ!気を抜くな!」本部に居る要員に一声をかける。皆が頷くか手を挙げた。時計の針は刻々と進む。最後の来場者が校外へ出たのが、午後0時50分。「警備係と坂野隊に伝達、“最終確認と拾得物の確認を開始せよ!”」「了解、警備係及び坂野先輩・・・」脇坂が無線で指示を伝える。「加奈、扉を閉めろ!掃除開始!」「了解」残るは校庭だった。午後1時過ぎ、警備係と坂野達が引き上げて来た。「確認完了!拾得物はこれだけあったよ」坂野が安堵して言って来た。「今野より本部」「こちら本部」「最後の車両が正門を出た!施錠をしてから引き上げる!」「了解です!お疲れさまでした!」脇坂が返信を終えると、自然に拍手が広がった。「Y、見事な完投勝利だ!お疲れ!」坂野が握手を求めに来た。さちや西岡も続く。そして、炎天下から今野、宮崎両隊が引き上げて来ると、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。「ご苦労!」冷えたボトルを手渡しながら固く握手を交わす。「Y、俺達はやり遂げたんだな?」宮崎が言うので「ああ、完ぺきだったよ!」と言って笑い合う。遠藤達が整列すると、ラジカセの再生ボタンを押した。“WE ARE THE CHAMPIONS ”が流れて加奈を筆頭に合唱が始まる。歌声は直ぐに広まり肩を組んでの合唱も始まった。テープはエンドレスらしく、リピートが繰り返される。「偉大なるチャンプ、2期生の先輩方に大きな拍手を!」遠藤が言うと拍手が鳴り響く。水野と加藤が僕等の制服の左胸に「CHAMPION」と書かれた缶バッジを着けてくれた。「参謀長、一言お願いします!」加奈が僕を指名した。「今、1つの荷を降ろすことが出来た。来年は君達の出番だ!来年も事故の無い様に努めて欲しい。辛い事も命じなければならなかったが、みんなの努力はこうして報われた。ここに居る全員がチャンピオンだ!加奈!曲をかけろ!もう一度歌おうじゃないか!みんな肩を組め!坂野、宮崎、後は宜しく!」「血と汗と涙の末に俺達は勝った!みんな、ありがとうよ!」「Yes!」「辛いときは今日を思い出せ!3期生、4期生、後は任せたぞ!」「Yes!」「さあ、歌え!叫べ!」「俺達はチャンピオンだ!」坂野と宮崎が気合を入れてから曲は再スタートした。“WE ARE THE CHAMPIONS ”のフレーズに合わせて歌い、叫び、肩を抱き合う。“総合案内兼駐車場係”と“警備係”の打ち上げは、しばらく熱を帯びて続いた。

僕等が遅い昼食を終えた頃には、片づけも8割ほど終わっていた。3期生と4期生が図面にプロットしながら片づけに精を出している。来年は彼らが先頭に立って行かなくてはならない。“責任者”の椅子は、まだ片隅に置かれていたので、僕は改めて座って見た。「この景色は忘れない」と呟くと「あたしにも座らせてよ!」と言って、さちが僕の膝の上に座り込む。「お疲れ様。保健室ガラ空きだよ!久しぶりに抱っこしない?」さちが耳元で囁く。「確かに、ご無沙汰だからな。2回戦までか?」「だーめ、3回戦まで!Y、早くしようよ!あたし我慢の限界なの!」さちが珍しく積極的だ。「はいはい、姫のご要望とあればやむを得ませんな!」僕とさちは、保健室の個室へ潜り込むとキスをしてから互いに制服を剥ぎ取っていく。スキャンティとトランクス1枚になると、ベッドにさちを押し倒した。「お願い、中に出してね!妊娠なんて怖くないんだから!」さちはそう言うと最後の1枚を脱ぎ捨てた。湿り気を帯びている下を掻きまわすと、さちは嬉しそうに体をくねらせた。突きを始めると声が自然に大きくなる。「もっと、もっと・・・、突いて・・・」久しぶりのさちの体は気持ちがよかった。体位を入れ替えて、さちが上に乗って腰を激しく使うと絡みつく感触に病みつきになりそうになる。「ああ・・・、イク・・・、あたし、いっちゃう!」白い液体は余す事無く、さちが吸い上げた。覆いかぶさると唇が重なる。「まだ、元気だね」と言うと、さちは背後から突く様にせがむ。僕が思いっきり突いてやると、喘ぎ声が一段と高まった。乳房を鷲掴みにしつつ、腰を激しく使い液体を放出すると、さちはベッドに横になり、しばらく余韻に浸った。「赤ちゃん出来るかな?」と言うので「それは、さちの側の準備もあるから、分からないな」と言うと「あたしは、今すぐ欲しいの。出来れば双子で!」と欲張りを言う。3回戦は、僕が上になり突きをお見舞いして行った。「Y、ちょ、ちょっと待って。ヤバイかも・・・」さちが慌ててティシュで下をあてがうと、見る間に赤くなった。「あちゃー、来ちゃったよー!」さちに生理が来てしまい、3回戦はコールドゲームとなった。何とか始末を付けて、制服を着ると僕等は保健室を抜け出した。太陽は傾いて“ファイナルステージ”の準備が佳境を迎えていた。「今年は倒れないでよね!最初で最後なんだからさ」さちが手を繋いで言う。「“最初で最後”か。思いっきり愉しむしか無いだろう?」僕達は校庭に向かって歩き出した。巨大なキャンプファイヤーがセッティングされている。天をも焦がす巨大な火柱が立つだろう。最後の夏は、全力で駆け抜ける事になるが、これで終わってしまう訳ではない。山積する課題と1つ1つ向き合って階段を1歩づつ登る事になるのだった。

life 人生雑記帳 - 44

2019年08月24日 13時49分30秒 | 日記
「んん!美味しい!Y、また腕を上げたわね!」オレンジペコのアイスティーを飲んだ、愛子先輩の表情が和む。「毎日淹れてますからね。先輩から教わった手順に、自分なりの“改良”を加えてますよ」僕もアイスティーを飲みながら応ずる。「この1杯が飲みたくて坂を上って来たけど、来た甲斐があったわ!Y、ありがとう!おかわりをくれない?」彼女はグラスを差し出した。「直ぐにお持ちしますよ」氷を足してティーサーバーから紅茶を注ぐ。「紅茶もだけどさぁ、アンタがまた無理をしてないか?それも気になってたのよ!でも、任務の大半を他に任せてるところを見ると、来年に向けて着々と手は打ってるらしいわね」愛子先輩は周囲を見渡して言う。「あの子が“後継者”なの?」先輩は上田を指して言う。「ええ、ここも生徒会も任せられるのは、上田を筆頭にここに集っているメンバー達ですよ!次世代を担う“精鋭部隊”を集めたんです!」僕はグラスを差し出して答えた。「ふーん、て事はみんなクラス委員長もしくは、それに準ずる職務経験者か!Yの眼鏡に適う人材なら間違いはなさそうね。指揮してる彼女は、入学当初に問題を起こしてるわよね?Yが見逃すはずが無いけど、ちゃんと更生させたんだ。“鬼の参謀長”なんて言われてるけど、本当は“仏の参謀長”。それも、校長に掛け合ってアフターフォローも万全にしたんでしょう?でなきゃ素直に任務を請け負うはずが無いわ。アンタは人の心を見て判断するから、男女の区別も関係ない“実力主義”で“後継者”に指名したな!相変わらず抜け目は無いのね!」愛子先輩は不敵な笑みを浮かべた。「お見通しですか。先輩の眼も曇ってはいませんね!」僕も笑って返した。「Y、アンタはいい仕事をしてる。これならアンタが卒業しても、校内は安泰だよ!あたしも大学で時々考えるのよ。“Yだったらどうするか?”ってね!迷った時は何処かで、アンタの判断を仰いでるの。Y、あたしの大学を受験しない?参謀長として腕を振るってくれないかな?」愛子先輩は無茶を振って来る。「それは無理ですよ!“女子大”に男が紛れ込めますか?」と僕が言うと「あー、それを忘れてた!性転換させなきゃ無理かー!あたし進路を間違えたかも!Yを連れ込めないなんて惜しい事をしたなー!」と言うと彼女は宙を仰ぐ。「それは仕方無いでしょう?」僕はクスクス笑いながら応じた。「Y、アンタ生まれて来る年月を間違えてるわ!どうして、あたしより先に生まれなかったのよ!悔しいなー!このまま連れ帰って、あたしの家に“監禁”したい気分よ!このままかっさらって行こうかな?」「それは勘弁して下さいよ。まだ、僕には山の様な仕事が残ってます。3期生に引き継ぐに当たって、現体制を徹底的に破壊しなきゃなりません!それに、自分の身の振り方も考えて行かなきゃなりません。“後継者”への教育も含めて、予定は詰まってるんですよ!来年の3月まで息つく間も無いんですから」僕はにわか煎餅を出して婉曲に断りを入れる。「苦労が絶えないわね。何一つ疎かにしないのは、アンタの強みでもあるけど、弱みでもあるのよ。身体は丈夫とは言い難いんだから、無茶はしない事!分かった?」愛子先輩は紅茶を飲み干すとグラスを返しながら僕を軽く睨んだ。「はい、仰せの通りに」僕は恐縮してグラスを受け取った。「Y、校内を歩こうか?護衛を命ずる!」「はい、承りました。さち、しばらく留守にする。警備係を見ててくれ。無線機は持って行くから何かあったらコールしてくれ!」「あーい!Y、手荷物にされるな!」さちが冗談交じりに返してくる。「Y、東校舎から行くよ!」少し大人びた愛子先輩に連れられて、僕は校内を巡り始めた。愛子先輩は手を繋いで来た。「幸子にはナイショにしてよ。今だけは、あたしのワガママに付き合って」と小声で囁く。そこかしこで、愛子先輩は熱烈な歓迎を受けた。改めて彼女の“偉大さ”を思い知らされる。西校舎の最上階の空き部室の前に来ると、彼女は窓から外を眺めて「ここは変わらないね。変わって欲しくない!」と呟いた。廊下には誰も居ない。「変えない様にするのが、僕等の役目ですよ。愛子先輩達が築かれた“太祖の世”に復するべく、僕等は動いてます。それが、僕等の最後の大仕事なんです!」「Y、その仕事、必ず成し遂げなさい!“悪しき物”は残したらダメ!アンタの手腕に期待してるわ!」と言うと愛子先輩は、僕に抱き着くとキスをして来た。「幸子が居なかったら、とっくにかっさらってた!本当は可愛くて、可愛くて仕方なかったの!弟みたいに居られたらよかったね!」と言うと彼女頬を涙が伝った。ハンカチで丁寧に拭いてあげると「アンタは優しすぎるのよ!馬鹿!また、忘れられなくなったじゃない!」と言うと僕に抱き着いて肩を震わせた。彼女はひとしきり泣くと「Y、幸子を大切にしなさい!あたしが羨むくらいになりなさい!」と言って僕を突き放した。まるで燃え盛る炎を埋めるかの様に。彼女は必死に平静を装う振りをした。だが、涙は止めどなく流れていた。“愛子先輩を泣かせてしまった”と思うと僕もバツが悪かった。僕は彼女と手を繋ぐと空き部室へ連れ込んで鍵をかけた。愛子先輩を抱き寄せると「愛ちゃん、ありがとう。今だけは何をしてもいいよ」と小声で言った。彼女は僕の首に腕を巻き付けると、マットに押し倒した。「Y、抱いてよ。メチャクチャにして忘れさせて!」と言うと唇を重ねて来た。水色のノースリーブと淡いピンクのスカートをもどかし気に脱ぎ捨てると、ブラの隙間へ僕の手を導いた。少し大きめの白い乳房に触らせると「幸子ともしてるでしょう?知らないなんて言わせない!」と言うと僕の上に乗り腰を激しく使った。僕も下から激しく突き上げてやると、一段と喘ぎ声が大きくなった。「気持ちいい!もっと!もっと突いて!」餓えた野獣の様に愛子先輩が言う。体位を背後に変えると、後ろから思いっきり突く。喘ぎ声は更に高まり、彼女も腰をくねらせた。「お願い・・・、中に・・・、中に出して!」とせがむ。白い液体を思いっきり叩き込んでやると「気持ちよかった・・・、いっぱい出たね」と言ってマットに横たわり余韻に浸った。愛子先輩の脚をM字に開かせると、僕は再び腰を使い出す。「そうよ!もっと、もっと突いて!」白い乳房を鷲掴みにして思いっきり突くと、彼女の喘ぎ声は一段と大きくなった。「ああ・・・、イク!あたし、いっちゃう!中よ!中に出して!」と叫ぶと唇を重ねて来る。2回戦も多量の液体を注ぎ込んでやった。「Y、頑張ったね。もし、妊娠しても、あたしは構わないから」と彼女は言うと僕を抱き寄せて肩に顎を載せる。「テクニックも中々だったよ」と耳元で囁く。しばらく2人して無言で抱き合った。昇降口の本部席へ戻る頃には、愛子先輩も笑顔になった。「幸子、Yを頼んだわよ!」と言うと僕をさちの椅子の前に押し出した。「コイツ、知らず知らずの内に無理するから、ちゃんと見張ってるのよ!」「勿論です!眼を離したりしませんから」さちがそう言うと彼女は何度も頷いた。「Y、また逢おうね!きっとだよ!」愛子先輩はそう言うと外へ向かった。僕とさちは、慌てて見送りに出た。「愛子先輩、お元気で!」僕とさちは力の限り手を振って見送った。彼女は何度も振り返り、手を振りながら帰って行った。そして、この別れが今生の別れになった。2年後、愛子先輩の乗ったスキーツアーバスが、犀川ダム湖に転落し、彼女は帰らぬ人となった。社会人となっていた僕は、事故現場に行き花束とオレンジペコの紅茶を手向けて、冥福を祈る事になった。新入生の誰よりも僕に眼をかけてくれた愛子先輩は、天国から今も僕を見守ってくれているだろう。

愛子先輩を見送ったところで、2日目は昼に突入しようとしていた。来場者は既に昨年の3倍に達しており、総がかりでの応対を余儀なくされていた。警備係の方も手の空いている者を随時呼んで、応援に差し向けており、特段大きな問題が無いのが不思議なくらいだった。「参謀長、間もなく校庭が満車になります!」加奈が悲鳴に近い声で助けを求めて来た。「今は誰が指揮を執っている?」「宮崎先輩です!」「脇坂、宮崎に“縦列駐車”を指示しろ!そして、“後30分凌げ”と伝えろ!間もなく櫛の歯が欠ける様にスペースが開くはずだ!それまで持ち堪えれば満車の危機は避けられる。車の出入りには特に注意する様に伝達しろ!」「了解です!宮崎先輩、応答願います!」脇坂が僕の指示を即座に伝える。「加奈、落ち着いて道を探せ!どんな状況になろうとも、必ず道はある!指揮官が慌ててたいたら事故が起きる。時計を見ろ!もう直ぐ引き潮が来るはずだ。次のピークは午後1時前後だろう。それまでに形勢を建て直せばいい!」僕は噛んで含める様に言う。加奈は深呼吸をすると、図面に眼を落して次の策を巡らせ始めた。「参謀長、講堂に人が入りきれません!どうしますか?」警備係からも悲鳴に近い声が飛んでくる。「ステージ係に言って、全体を1m前に詰めさせろ!そして、南北の通路側と椅子の最後尾に立ち見を1列づつ作れ!一時的にはそれで凌げるはずだ。係員は足りているか?」「人手は大丈夫です。ステージ係と連携して対処します!」「よし、これからの演劇部の発表さえ乗り切れば、空間に余裕が出るはずだ。1cmの隙間も余すことなく使え!交代要員は早めに送り込んでやる!もうしばらく持たせろ!警備係の12時からのシフト担当者、少し早いが配置に向かえ!各所で人が溢れ返っている!規制ロープを忘れずに持って行け!」「はい!おい、急ぐぞ!」警備係員もあたふたと配置に向かう。「尋常な人出じゃない!1つ間違えば混乱は必至だ!さち、予備班の連中に招集をかけろ!女子班はここに後退させろ!この状態では事故が起きかねない。警備係員も手の空いている者は、講堂と昇降口付近を固めろ!非常事態だ!総員戦闘配置に着け!」僕はありったけの人員を投入する戦術に出た。「非常事態発生!非常事態発生!総員戦闘配置に着け!」脇坂が警備係の回線も開けて緊急事態を通達し始めた。「Y、いつでも出られるぞ!どうする?」吉川が聞いて来る。彼は12時からの駐車場の当直指揮者である。「小松達は?」「今、支度をしてる最中だ。メンバーは揃ってる。“Z作戦”を発動するか?」「この際、手段を選んではいられない!道具を持って出てくれ!手順は分かってるな?」「ああ!通路幅は5mでいいな?」「OKだ!手際よく設置にかかってくれ!設置が終わったら宮崎と合流して、誘導に当たってくれ!歩行者と車の事故も怖いが、車同士の接触事故が一番ヤバい!身振り手振りは大きく、声を出して的確に誘導に努めてくれ!」「了解だ!小松!行くぞ!道具を忘れるな!」「分かってる。Y、行って来るぜ!」吉川と小松がそれぞれの隊を率いて飛び出して行く。坂野、飯田、今野達も、それぞれのメンバーを率いて駆け付けて来た。「飯田と今野の隊は、東西の校舎からの通路を固めてくれ!規制ロープを張り巡らせろ!“Z作戦”を発動する!」「ついにそこまで来たか!」「任せろ!何としても踏ん張って見せる!」飯田と今野も配置へ急ぐ。「Y、俺達は正門付近だな?」坂野が言う。「ああ、悪いが任せる!持てるだけのボトルを持って行け!宮崎、吉川、小松の各隊へ配ってくれ!さち、西岡、冷えたボトルで出せるヤツは、全て坂野達に渡してくれ!」「分かったわ!」2人は冷蔵庫からボトルを取り出すとレジ袋へ押し込み始めた。「参謀長、女子隊只今戻りました!」遠藤と池田達が本部前に集まってきた。「“Z作戦”を発動する!入場規制にかかれ!もっとも東側を入口にして、残りの3か所は出口専用にする!ドアの固定と張り紙の手配にかかれ!作業が完了したら誘導配置に着け!」「はい!」「みんな、手際よくやるわよ!」遠藤と池田達も直ぐに動き出した。坂野達も荷物を抱えて外へ急いで行った。「加奈、席を替われ。一時的に僕が指揮を執る!よーく見て置け!」「はい、ではお願いします!」僕はこの日初めて責任者の椅子に座った。「Y!何が起こった?」佐久先生が教頭や事務長達を引き連れてぶっ飛んで来た。「演劇部の発表に観客が集中してます!恐らく、終わると同時に強烈な引き波が襲って来るでしょう。総員に臨戦態勢を取らせて“Z作戦”を発動していますが、伸るか反るかの賭けに出ている状況です!」「そうか!“親父”に言われて手の空いている職員を連れて来た!問題は講堂だな!バイパスを作らなきゃならんか?」「ええ、このままだと混乱に乗じて事故が起きかねません!」「よし、講堂の中央南側の扉からも観客を出そう!そっちの手配は俺達が担当してやる!無線機を貸せ!教頭、行きますよ!」無線機を鷲掴みにすると、先生達は講堂へ急いだ。「参謀長、警備係が集結しました!」山本が報告に来た。「諸君!未曾有の事態が起きた!これからが正念場だ!全員講堂へ急行して観客の誘導に当たってくれ!伊東、千秋、お休みのところ申し訳ないが、ステージ係と連携して混乱が起きない様に手を尽くしてくれ!」「任せとけ!佐久先生と連携して混乱を抑え込んでやる!」休養充分の伊東と千秋は警備係を率いて講堂へ向かった。「Y!俺達は何をすればいい?」益田と小池の両名もやって来た。「東西両校舎の展示スペースと模擬店を回って“これから強烈な引き波が襲って来る”と警告して回ってくれ!1巡したら、ここへ戻って奥の椅子に座っててくれればいい。ありったけの人員は投入したから、打てる手は打ち尽くしたよ。後は、結果を見て原田に“こうしましたよ”って報告してくれればいい。多分、原田は“立太子式”に夢中で、内線にも出ないんだろう?」「ああ、あの野郎!1番肝心な時にシカトとは、いい根性してやがる!」益田は大荒れだった。「まあ、そんなものさ。都合のいい場面でしか活躍しないのが、原田のやり方だからな!」僕も吐き捨てる様に言った。「ともかく、1巡してくるわよ!たまには、真面目に働かないと座り疲れちゃったのよ!」小池がボヤく。「ともかく、行って来るぜ!一応は“責任者”だしな!」益田がそう言うと2人は東西に分かれて巡視を始めた。「参謀長、宮崎先輩から“車の流入が止まった”と報告が来ました!」脇坂が告げる。「よし、坂野に連絡。“正門を半開きにせよ”と伝達しろ!これから登って来た車は、正門で食い止めさせろ!“満車”を理由にして左に列を作らせろ!」「了解!坂野先輩応答願います」「Y、大丈夫かな?」さちと西岡が不安げにこちらを見て言う。「手は尽くした。後は、祈るしかない!」僕は前を向いて答えるしか無かった。

結果的に言うとやはり引き波は大きかったが、何とか乗り越える事が出来た。講堂からの退出では伊東や千秋、佐久先生の活躍が光った。網を絞る様に“退出制限”をかけたのとバイパス通路に来場者を流せたのが効いて最悪の事態は回避されたのだ。それでも、来場者の6割が駐車場へ雪崩れ込んだ。車両の移動に際しては、宮崎、吉川、小松、坂野が手分けをして、懸命に整理・誘導に努めた事で、大過なく移動は進行した。当直を終えた宮崎隊が引き上げて来たのは、午後1時を過ぎてからだった。「お疲れさん!悪かったな、長時間炎天下に立たせて」「Y、謝る必要は無いぜ!吉川や小松、坂野を送り込んでくれた事で、随分と楽になった!今、小松達が区画線の引き直しをやってる。最後の大波に備えてさ!むしろ、本当に大変なのはこれからだろう?」宮崎は日焼けした顔で苦も無く言う。「ああ、昨日の様な無様は晒せない!キッチリと“クローズ作業”をやらなきゃならない!それまでは休んでくれ!」「そうさせてもらうよ!おい、メシを食うぞ!夕方はこんな程度では済まない。食ったら昼寝だ!」宮崎達は西岡から冷えたボトルを受け取ると、保健室へ向かった。「参謀長、坂野先輩が“通常体制に戻しても構わない。外は時間の問題で形は付く”と言ってますがどうしますか?」脇坂が聞いて来る。「よし、校内は通常体制へ戻そう。警備係も同じく通常シフトへ戻せ!加奈、入場制限を解除する!女子隊を引き上げさせて食事を摂らせろ!」「はい!」2人の声が重なった。「佐久先生、応答願います」僕は講堂を呼んだ。「俺だ」「校内は通常体制へ戻します。先生方も手が空いたら引き上げて下さい」「よし、何とか切り抜けたな!教頭や事務長達には引き上げてもらうし、俺は“親父”に報告に行って来る!後は任せた!」「ありがとうございます!無線機はそのまま手元に持っていて下さい」「そうする。何かあったら直ぐに呼べ!しばらくは“親父”のところにいる!」そう言うと交信は切れた。「やれやれ、どうにかなったな!」「Y、アンタの読みは的確ね!何で原田の“対抗馬”にならなかったのよ?」益田と小池の両名は、既に弁当を食べていた。「大きすぎる看板は背負えないものでね。僕にはこれくらいが丁度いいのさ」と返すと「実質的には、向陽祭の一般公開のすべてを取り仕切ってるじゃないか!原田は“皇太子”との密会で何も知らないし、手も貸してない!何故こんな不条理を平然と引き受ける?」益田は首を捻る。「益田氏、今の生徒会は“原田が居てこそ成り立っている”組織体系になっているだろう?例え“皇太子”が引き継いでも、そのまま動くとは限らない。むしろ、混乱するのがオチだよ。そうした“悪しきもの”を残してはいけない!ここに集めた者達は、精鋭中の精鋭ばかり。彼らに“後の世”を託すために、敢えて泥を被ってるのさ!“原田体制”を徹底的に破壊する!これが僕等の最後の使命じゃないか?」僕は益田の眼を見て返した。「確かに一理あるな!外から現実を見ると、“原田無くして生徒会無し”になっちまってる。このままじゃあ3期生に引き継げない。お前さんの言う様に“悪しきもの”を残しては出ていけねぇ!小池、俺達も考える必要はあるな!」「ええ、Yのやり方と話を聞いていると、余計にそう感じるわ。あたし達も冷静に外から見直して見なきゃ!」2人はしきりに頷いていた。「ダー、疲れた!悪りぃがボトルをくれ!」坂野達が引き上げて来た。さちが慌ててボトルを並べる。冷たい水分を飲み干すと坂野は「また、徐々に入込が始まった。次の山場は“クローズ作業”だな。Y、そろそろ上田と交代しろ!来年のためにも彼女に経験を積ませねぇと、もったいない!」「加奈の食事が終わったら席を譲るさ。坂野も保健室へ避難していいぞ!休んでくれ」僕が言うと「坂野は、原田のクラスよね?アンタもどうしてわざわざ、こんな苦労を背負う訳?」と小池が聞いた。「それは、Yが既に答えてるだろう?宮崎や今野、クラスは違うが飯田に吉川、小松にしても“誇り”を賭けているからさ!昨年、Yはぶっ倒れるまでやり切った。そして、今年もYは同じ“いばらの道”を選んだ。同期生としたら助けない訳には行かないだろう?それと、3期生に“正しい道”を示してやらなきゃならない。言葉だけでなく姿を見せ付けてやる必要があるのさ!先輩としては、当然の事じゃないか?原田は確かに“英雄”だが、後の事は何も考えていない!後輩たちが困らないようにするには、率先して引っ張ってやらなくてどうする?」坂野は事も無げに言う。益田と小池の表情が変わった。僕達が去った後、果たして3期生と4期生が伝統を引き継げるのか?2人は真剣に考え始めた様だ。「俺達は、原田を外から見ていた。2人は内側しか見ていない。大局を見たいなら視点を変えて見て見ろよ!今回の件でおぼろげながらも見えて来たはずじゃないか?」坂野はそう言うと保健室へ向かった。「確かに、言われた通りだ。このままだと、生徒会は崩壊してしまう!そんな事はさせられないな!」「ええ、木を見て森を見ない様じゃいけないわね!Y、アンタは別の視点からずっと原田を追ってたわよね?原田の次の1手はなに?」小池が問う。「4期生の“傀儡政権”を誕生させて、同窓会長を狙うだろうよ!」僕がズバリと言うと「そんな事は意地でもさせねぇ!Y、“大統領選挙”の際は、当然阻止に出るんだろうな?」益田の鼻息が荒くなる。「ああ、手は打ってるよ。だが、鍵を握っているのはそっちの出方だよ。原田に付くか?反旗を翻すか?そろそろ、義理は果たしたんじゃないかな?」「そう言うことなのね!あたし達が動けば時代は動かせる!そうでしょ?」小池が言うと「原田に対する義理は果たした。俺達の判断で動け!そう言う事か?」益田が僕の真正面に来る。「強制はしないよ。ただ、お2人の判断が未来を決定付けるのは間違いない」と僕が返すと「いいだろう!この話に乗る!しかるべき日が来たら、Y、お前さんの言う事を聞いてやる!母校を蹂躙されるのは、本意ではないからな!」益田は真剣な表情で言った。「OK、ただし、原田には悟られるなよ。何も知らない振りをしていてくれ。今の話は極秘協定だからな!」「分かったわ。適当にあしらっとくから安心して!さて、次の山場は午後3時以降ね?また、ビデオでも見て暇を潰してるわ。何かあったら無線で呼んでよ!」小池が本部席から出て益田と並んだ。「済まんが頼むぞ!ボトルはもう少し出してやれるだろう。どうせ余りそうだから、有効に使ってくれ!ブツは放送室の前に持ってこさせるぜ!じゃあ、そう言う事で」2人は手を振りながら視聴覚室へ向かった。「転んだな!これで多数派工作は成功したも同然!“靖国神社”も動き出した。小佐野の指示で攪乱工作は進行しとる!」いつの間にか長官が来ていた。「しかし、確約ではありません。最後まで気は抜けませんよ!」と返すと「あれでいいのだ。あの2人さえ離反させられれば、原田の手足は不自由にしかならない。作戦は成功したと言ってもいい!」と重々しく長官は言う。「“戦わずして勝つ”が孫氏の兵法の基本ですからね。時期が来たら、またプッシュして置きましょう。ヤツの知らぬ間に内堀まで埋めてしまえばいいんですから」長官は黙して頷いた。

「参謀長、交代しましょう!腹が減っては戦は出来ませんから!」加奈は戻るとそう言って僕を“責任者”の椅子から引きずり下ろした。貫禄も付いて来たところを見ると、余程の事が起こらない限り、心配は無さそうだ。「では、指揮を執れ!私が背後に居るのを忘れるな!」僕は肩の荷を降ろして、後方の椅子に座ると弁当を食べ始めた。「Y-、麦茶だよー!」さちも横に座ると弁当を広げる。つかの間の平和な時間だった。だが、そんな空気を吹き飛ばす事態が落ちて来るとは、予想だにしては居なかった。けたたましく内線が鳴った。「参謀長、会長からです。どうしますか?」山本が聞いて来る。「問答無用!叩き切れ!ついでにジャックを抜いて置け!ここはヤツの支配地ではない!」山本は、受話器を手で押さえていなかったので、僕の声は筒抜けだったはずだ。内線は再び不通となった。「Y、応答しろ!」無線機から佐久先生の声が聞こえた。校長室からだろう。「はい、感度良好。どうしました?」「大至急ポスターの公開時間を確認しろ!ミスプリントが明らかになった!」「了解!少々お待ちください」僕は入口のポスターの一般公開時間に眼を走らせたが、瞬時に血の気が引いた。「先生!どう言う事です?公開時間が1時間伸びてますよね?」「ああ、今しがた事務長が気付いたんだが、印刷業者のミスらしいのだ!“クローズ作業”の前にもう一仕事しなくてはならんぞ!体制を立て直せるか?」「警備係は不明ですが、本業の方は予備隊を投入すれば間に合います。至急警備係を招集します!」「とにかく急げ!余り時間は残されていない!公開した以上、時間延長はやむを得ないのだ。校長も意見は同じだ。とにかく体制を立て直せ!いいな!」「了解、至急手を打ちます!」交信が切れると「加奈!入口のポスターを見て来い!“延長戦”の算段をしなくてはならない!予備隊及び各隊の指揮者を呼んで時間の変更を通達しろ!」「はい!とにかく見てきます!」加奈は入口へ急いだ。「山本、当直以外の警備係を至急集めろ!戦場になるぞ!」「はい、警備係員へ至急本部前に集合せよ!繰り返す・・・」山本が無線機で警備係を呼んでいる最中に加奈が青ざめて戻って来た。「参謀長、こんな事態は想定してません!どうしますか?」「そのために予備隊を編成してあるだろう?1時間後ろにずらせばいいんだ!そっちはどうにでもなるんだ。ただ、時間が遅くなることは各隊の指揮者に確実に伝達して置け!問題は警備係の人員配置だ!こっちは、そんなことは全く想定してないから戦力があるかも分からない。脇坂、伊東と千秋を呼んで来い!2人に手伝ってもらわないと手が足りない!」「はい、直ぐに来させます!」脇坂は保健室へ駆け込む。「Y、応答してくれ!」原田が無線に割り込んで来る。「用は無い!黙っててくれないか!」こちらが噛みつくと「俺の責任だ。ポスターの仕上がりチェックが甘かった。すまん!」とウダウダ言い出すので「責任云々の前に、目の前の事態に立ち向かえ!やるべきことは分かってるだろう!?今日をどうやって切り抜けるかだけに集中しろ!」と畳みかけて黙らせる。「参謀長、警備係員が集合しました。伊東・小川両副会長もお見えです!」と脇坂が言って来る。「諸君、ポスターの公開時間にミスプリントが見つかり、公開時間を1時間延長しなくてはならなくなった!予定が全て1時間以上遅れるが、諸事情により支障がある者は居るか?」僕は集まった係員を前に問うた。「電車の接続の関係上、帰宅できなくなる可能性があります!」4期生2名が手を挙げた。「よし、時間になったら帰宅していい!他に都合が悪い者は?」「路線バスの最終に間に合わないです」3期生2名が手を挙げた。「間に合う時間に帰宅しろ!これで4名が脱落か。最終シフトの追加と“クローズ作業”に影響は避けられないか・・・」僕は思慮に沈んだ。「最終シフトと1つ前のシフトを30分延長したらどうです?」3期生の指揮者が言い出した。「それでは、その2直の者にだけしわ寄せが行ってしまう!」僕が返すと「昼前だって“総員戦闘配置”だったじゃないですか。とにかく、今日を乗り切らないといけません!覚悟は出来てます!参謀長、決断して下さい!」彼の言葉に僕が背を押された。「よし!その線で行こう!伊東、千秋、“クローズ作業”の直前から付き合ってもらうぜ!エネルギーは充填されてるよな?」「ああ、半日寝てりゃあ嫌でも溜まるさ!」「全力で切り抜けるわよ!」2人は元気を取り戻していた。「諸君、難局ではあるが、必ず乗り切って見せよう!原田の鼻をへし折るぞ!」「おー!」警備係員から雄たけびが上がる。「こっちも負けずに行くわよ!」「Yes!」加奈も負けじと続いた。僕と加奈は各隊の指揮者と細かく打ち合わせを行い体制を整えた。「参謀長、やるしかありませんね!」「ああ!こう言う事も乗り越えなくてはならない。だが、大丈夫だ!僕等は1人ではない。心強い味方が大勢いる!みんなの力で切り抜ければいい!さあ、加奈行くぞ!」「はい!」僕等は未知の領域へと走り出した。

life 人生雑記帳 - 43

2019年08月13日 10時37分32秒 | 日記
「お話にもならない!何度も¨警告¨したはずだ!それを今頃になって¨卓袱台返し¨だと?僕は降りる!原田、後は誰かを勝手に据えてくれ!」そう言って、僕はミーティングの席を立った。「Yが怒るのも当然だ!¨総合案内兼駐車場係¨の計画は、俺や丸山先生とY達が激論の末に組み上げたモノだ!白紙撤回などあるものか!原田!伊東!俺も降りるぞ!」佐久先生と丸山先生も席を立った。「まっ待って下さい!¨白紙撤回しろ¨とは言っていません!5人、いや1人でもいいから、伊東に協力をして欲しいのです!」原田は、僕達の剣幕に慌てて引き留めに来る。「問答無用!僕は降りる!¨白紙撤回¨させられるなら責任は持てないし、義理も無い!総本部の誰かに任せな!」原田の手を振りほどくと、僕は生徒会室を出た。「Y、待ってくれ!誤解だ!¨白紙撤回¨しろとは言って無い!」原田が追い縋って来るが、構わずに廊下を進む。「Y、待ってくれ!話を聞け!」原田は、強引に僕の腕を掴むと壁に追い込んだ。「警備員が足りないんだ!5~10分でもいいから、手を貸してくれないか?頼む!」原田は珍しく頭を下げた。「会長、僕は事前に10回以上は確認を入れた!その度に伊東は¨問題無い!¨と答えた。与えられた戦力で切り抜けられないなら、人員配置や計画その物を見直してから、¨何人がこの時間帯に足りない¨と言わせろ!闇雲に¨手が足りない¨と喚かれても、こっちも困るんだよ!ウチだってギリギリで切り抜ける算段をやってるんだ!」「分かってる!分かっているよ!とにかく、人を貸してくれないか?」原田は、どうしても¨人員を回せ¨と譲らない。「決裂だな!1人たりとも戦力を割く余裕は無い!どうしても¨出せ!¨と言うなら降りるしか無い!悪いが他を当たってくれ!」僕は原田の手を振りほどくと、本部へ戻った。「佳奈に指揮を任せるか?早いに越した事は無い」僕は¨責任者¨の椅子を明け渡す覚悟を決めた。

そもそもの発端は、昨日の¨クローズ作業¨に散々手こずった事から始まった。警備担当の伊東が全く人を出さなかったのが原因で、作業は遅れに遅れた。最後は僕も校内巡視をやって、完全閉鎖が完了したのが18:00だったのだ。予定から1時間の遅延で、各方面からの非難や苦情は総本部に集中した。驚いた原田が伊東を問い詰めると¨人員が足りない¨と言って泣き付いたのだ!そして、今朝の関係部署ミーティングで¨警備員の増員¨を原田が言い出したのだ。¨責任者¨席の回りを片付けていると「Y、ちょっといいか?」と佐久先生がやって来た。「¨親父¨が決断した!Y、お前達は¨校長の指揮下¨に入れるそうだ。従って、生徒会は最早関係無い!本日は¨来賓¨も見えられる。打ち合わせを開会前にしたいそうだが、やってくれるな?」「そう言う事なら、喜んでやらせてもらいます!」「うむ、原田には俺から言って置く。お前達は、校長から指揮権を委任された組織だ!厳しいだろうが全力で立ち向かえ!」「イエス、サー!」僕は敬礼をして答えた。「参謀長、済まぬが手を貸してはくれぬか?」長官が恐る恐る言いに来た。「山岡、Y達はたった今から¨校長の指揮下¨で行動する!生徒会とは関係無い¨独立した組織¨になった!泣き落としなんぞには乗らんぞ!」佐久先生が睨みを効かせる。「伊東を助けてくれぬか?後生だ!」長官は何とか譲歩をさせようと粘る。「伊東が来るならまだしも、お前に泣き付いた性根が気に食わん!これは¨親父¨が決めたのだ!文句があるなら、¨親父¨に直談判して来い!!」佐久先生の雷が落ちた。僕達と佐久先生と丸山先生は、ギリギリまで話し合いをして、計画を練り上げたのだ。原田の¨一言¨で吹き飛ばされたら、先生達も面目を失うし¨炎天下¨で活動するメンバーの体力を奪う危険は避けなくてはならない。特に今日は、公開時間も長く来賓の来校もある。出だしから¨フル回転¨をさせる予定なのだ。助けてはやりたいが、戦力を割けない明確な理由がある以上、¨責任者¨としては非情な答えを出さなくてはならなかった。「長官、無理なモノは無理ですよ。我々は、校長の下に組み込まれたのです。原田や伊東が何を言っても校長が承認しなくては動けません。諦めて下さい!」僕は深々と礼をして断った。「山岡、¨親父¨を説得して来い!そして、伊東自らが交渉に来る様に言え!大体、配置や計画に穴があるからこうなるんだ!Yの様に緻密な策を裏の裏まで巡らせてあるのか?後生云々の前に、見直してから来い!」佐久先生は¨沸騰¨して湯気を立てた!¨人間装甲車¨が突進すれば、長官はひとたまりも無い。なす術無く引き下がるしか無かった。「おっと、¨委嘱状¨を渡すのを忘れていた。¨親父¨がさっき書いたヤツだ。¨金字牌¨とセットで持っていろ!これでも、あれこれと言って来るだろうが、この2通さえあれば天下無敵だ。俺も力は貸してやるし、生徒会を介入させない様に手を打つ!後は、打ち合わせ通りにやればいい。お前の思う通りにしろ!」¨委嘱状¨を受け取ると、佐久先生は僕の肩を叩いて、言い聞かせる様に言った。「はい、存分にやらせてもらいますよ!」「頼んだぞ!」佐久先生は、西校舎に向かった。入れ替わる様に、さちや西岡や山本、脇坂、上田が現れる。「おはようございます!参謀長、どうされました?」西岡達が怪訝そうに顔を覗き込む。「全員に伝える事がある!我々は、新たな1歩を踏み出す!速やかにメンバーを召集してくれ!」「新たな1歩ってなに?」さちが小首を傾げる。「まさか¨昨日の件¨が絡んでるんですか?」上田が手で口元を覆う。「原田とは¨決別¨した。我々は、自力だけで事を進める必要性に立ち向かう!」僕は前だけを向いて言った。

メンバーが揃うと、僕は今朝のミーティングであった事を¨ありのまま¨に伝えた。「原田は、¨人員を割け!¨と言うばかりで具体的な事は、何1つ示さないままだった。故に、僕は席を蹴り原田を振りほどいて¨人員は割けない!¨と言って来た。そして、佐久先生の計らいで僕達は¨校長の指揮下¨に入った。佐久先生も丸山先生も原田を見限った。生徒会は最早関係無い!¨総合案内兼駐車場係¨は、独立した組織となったのだ!もし、¨立場上で問題がある¨と言う者は、遠慮無く抜けて構わないし、意見のある者は正々堂々と言ってくれ!」僕は一同を見渡した。誰も微動だにしない。「Y!異議など言う者など居ないし、昨日の事を勘案すれば、俺達が仕切った方が事はスムーズに運ぶ!みんな!やってやろうぜ!」坂野が声を挙げると「おー!」と歓声が上がった。「参謀長、あたし達は何処までもお供します!」遠藤も続いた。「Y、あたし達も付いてくよ!」さち達も頷いた。宮崎がラジカセの再生ボタンを押した。「ズンズン、チャ!ズンズン、チャ!」¨WE  WILL  ROCK  YOU ¨が流れ出した。「みんな!原田の意のままになんかならんぞ!俺達は誇りを賭けてやり抜いてみせるぜ!」「Yes!」「俺達は仲間だ!誰も逃げ出したりしねぇぞ!」「Yes!」「じゃあ、今日も宜しく!」「Yes!」宮崎と坂野が気合いを入れて、合唱が続く。全員が原田に¨NO!¨を突き付けたのだ。曲が終わっても、みんなノリノリで肩を組んで叫び続けた。「ふふふふ、良い雰囲気じゃの!」校長が笑顔で歩いて来た。「全員整列!気をつけ!」僕が慌てて言うと「かしこまらんでも宜しい。Y君、¨来賓¨の出迎えの打ち合わせに来た。来校は、午前9時半。昨年同様の配置で構わん。練習に入れるかな?」「はい!上田、遠藤、メンバーを配置に!」「みんな、行くわよ!」上田の号令一下、女子のメンバーが並んで配置に付いた。山本と脇坂、さちと僕も続く。練習が始まると、校長から細かな修正指示が出され、繰り返して体に叩き込まれる。立ち位置や礼の角度などの所作は、1年生を中心に繰り返しての練習が行われた。その最中に「参謀長、会長から内線です」と西岡が飛んで来た。「叩き切れ!ついでに、ジャックを抜け!今は、校長先生直々のご指導の最中だ。ヤツに用は無い!」とキッパリ言うが「火急の知らせだと言ってますが?聞いて置きますか?」と言う。「聞くだけはな。答えは¨NO¨だがな。用件が済んだらジャックを抜け!」と改めて言い渡す。そうこうしている内に練習が終わった。「良いだろう。上出来だ!Y君、この調子で頼むよ!」と校長は、にこやかに言った。「承知しました。みんな!頼んだぞ!」「はい!」参加する女の子達が合唱した。上田達は、1年生に繰り返し所作を教えて居る。この分なら問題は出ないだろう。「生徒会長が何を言って来ても¨従う¨必要性は無い!君達は、私が預かった。職員同様、私の権限で動いてもらう。最も、ここはY君の¨牙城¨だ!君の判断で適宜かつ臨機応変に対応策を取って構わない。煩くなったら、信雄を送り込むから安心して居なさい!」と言うと校長は満足そうに一旦引き上げて行った。「西岡、会長は何を言って居た?」「はい、¨午前と午後の初めに4人足りないから、人を貸してくれないか?¨と言ってました」「捨て置け!総本部には、¨涼しげにしてる閣僚¨がごまんと居る!ヤツらを動員すれば事は足りるし、何も問題は出ない!内線のジャックは抜いたか?」「はい、抜いてあります」「ならば、そろそろ動き出すか?山本、本日の第1陣を召集してくれ!脇坂、チャンネル17にセットして、コールを開始しろ!」「了解です!」2人の声が重なる。「佳奈、今日の指揮は君が執れ!補佐は僕が引き受ける。“責任者”の席へ!」「えー!あたしが?!無理ですよ!」佳奈は尻込みをするが、「今から慣れて置かないと、来年が大変だぞ!僕が居る内に経験を積んで置け!」と有無を言わさずに指揮を任せる。「参謀長、第1陣の集結が完了しました!」「無線機の確認OKです!」山本と脇坂から、報告が来る。「よし、佳奈!出動を命じろ!」「今野先輩、出動願います!」「おう、行ってくるぜ!Y、原田に気を付けろよ!」「ああ、そっちは任せろ!適当にあしらって置くさ。指揮権も上田に譲ってあるしな」僕は薄ら笑いを浮かべた。「ともかくも、原田は簡単には引き下がる事はしないヤツだ。¨人を貸せ!¨と連呼して来るぜ!」今野は心配して言う。「最後は、佐久先生に抑えてもらうさ。¨背負い投げ¨を食らうのが落ちだろうよ!」「だといいが、ヤツの思考は¨単細胞生物¨みたいなモノさ。思い込んだら¨うん¨と言うまで引き下がる事は無い。お経の様に繰り返し襲って来る!それを忘れるな!」今野は、そう言ってから炎天下へ向かった。いよいよ、2日目が始動し始めたのだ。

今野達を送り出した直後、僕は石川を呼んだ。「佐久先生に¨原田がまだ人を貸せ!¨とゴリ押しをして来ていると伝えて来い!ヤツを止めなくては、我々の任務に支障が出かねない!¨原田を黙らせて下さい¨と談判して来るんだ!」と命じた。「はい、お引き受けしますが、こんな大事なお役目が僕で大丈夫ですか?」石川がやや不安そうに言う。「とにかく行って来い!来年は否応なしに動かなきゃならん立場だぞ!僕が居る内に¨練習¨だと思って行くんだ!」僕は、石川の背中を叩くと佐久先生の元へ使いに出した。その直後、憔悴しきった伊東と千秋が、長官に連れられて保健室へ入った。「Y、行ったか?」石川が佐久先生を連れて戻って来た。「ええ、¨予定通り¨ですよ。これで原田は、自ら陣頭指揮をせざるを得ない状況になりました。¨本丸¨は、がら空きでしょう!」と僕が言うと「¨親父¨との談判は不調に終わった!益田や小池達が不平を言いながら、原田と共に配置に向かった。総本部には誰も居ないし、ヤツとの¨密約¨もこれで終わり。万事¨予定通り¨だな!」と佐久先生も満足そうに言う。「あのー、どう言う事なんです?」上田と石川が怪訝そうな声を挙げる。「まさか原田も、ここまでは“読み”が回らんだろう!自ら蟻地獄に落ちるとは思っても居ないはずだ!これで秋の“大統領選挙”を有利に戦える!己が作った“規則”で首を絞めるとは考えてもいないだろうよ!伊東と千秋も“隔離”出来たし、後は僕等で切り盛りすればいい!ですよね?!長官!」「うむ、これほど上手く事が進むとは思っていなかったが、益田と小池達を離反させられる理由は作れたな。3年生の票が割れれば、2年生が有利になる!原田の“亡霊”が当選する確率は下がった。“太祖の世”に復するための第1歩だな!」長官が重々しく言う。「上田、石川、原田が4月に改正した生徒会会則を思い出してみろ!」僕が2人に問いかけた。4月に原田が行った改正で、僕達3年生も秋の“大統領選挙”への投票権を得ていた。そして、1年生からも立候補を認める事になったのだ。これは、“原田後”に向けた布石に他ならなかったが、数の論理で行けば接戦かつ僅差で1年生候補が勝つ可能性が出ていたのだった。会則の改正に対しては、教職員からも批判が上がったのだが、原田は強引に押し切って改正に漕ぎ付けてしまったのだった。それから2ヶ月半、僕等と先生達は水面下でずっと対策を考えて来たのだ。その結論が“向陽祭”での“卓袱台返し作戦”だったのだ!「そんな深慮遠謀が隠れていたのですか?」石川が驚愕しながら言う。「驚く事じゃない!“悪しき事”は残せない。お前達に後の世を託すには、原田体制を徹底して破壊しなくてはならん!これは、その第1歩さ!」「しかし、長官も参謀長もお立場が悪くはなりませんか?」上田が心配して言う。「“向陽祭”は原田体制の集大成だ!これが終われば、我々は“進路”と言う難問にかからなくてはならない。事実上、原田体制はこれで終止符を打つ事になる。“大統領選挙”はオマケみたいなものさ。役目を終えた原田に遠慮など無用!お前達も僕等も、食うか食われるか?の戦いを残すだけだから、原田だって本腰を入れている暇はないし、片手間でやれる事じゃない。だが、“多数派工作”だけはやっとかないと、いざと言う時に身動きが取れない。原田からどれだけ手足をもぎ取れるか?それだけはハッキリさせなくてはならん!僕等にしても“最後の戦い”なのさ!立場云々は心配無用。要は、原田を不自由にすればいいんだよ!」「参謀長、“来賓”がそろそろお見えになる時間です!」脇坂が時計を見ながら言う。「よし、準備にかかれ!山本、脇坂、上田、石川、本橋、今日はお前たちが存分に腕を振るえ!援護はしてやるが、僕はもう直ぐ“ヤボ用”を引き受ける事になるだろう。とても片手間でやれるとは思えない。指揮は任せるぞ!」僕は椅子から立ち上がるとそう告げた。「本気ですか?!あたしが総指揮を?」加奈が不安そうに言う。「繰り返しになるが、来年は僕等は居ないんだ!今の内に経験を積んで置け。まだ、補佐はしてやれる。未来を背負うには、経験することでしか覚えられない事もあるんだ!」僕は加奈の背を押した。山本、脇坂、石川、本橋にも緊張が走った。「来年になって、オタオタしている様じゃYの陰すら踏めんぞ!気合を入れろ!」佐久先生が男達に向けて睨みを利かせる。校長先生も教頭を伴って姿を見せた。「さあ、お出迎えだ!みんな分かっているな?練習の通りにやればいい!」配置に向かいながら、僕は1人1人に声をかけた。黒の公用車は予定通りに昇降口に滑り込んだ。

昨年同様に“来賓”のお出迎えを済ませると、僕とさちは椅子を後ろに下げてゆったりとした。加奈を中心に事は順調に進んでいる。“不測の事態”が起こらない限り口出しは必要なさそうだ。「ねえ、Y、“ヤボ用”って何なのよ?」さちが聞いてくる。「もう直ぐ分かるさ。そろそろギブアップする頃合いだからな」「そうじゃな。ぼちぼち2人揃って来るだろう。ワシは伊東と千秋の様子を見て来るか。参謀長、準備が整ったら“講座”を開講しよう!」長官が立ち上がって保健室へ向かう。「万事、予定通りですね。あたしは4期生への教育を開始します。しばらくは手が離せませんので宜しくお願いします!」西岡も舞台裏で動き出した。「Y!内線を復活させていいか?“親父”に了承を取り付けなくてはならん!」佐久先生が焦り出した。「分かりました。脇坂、内線を繋ぎ直せ!」「了解です!」脇坂がジャックを繋ぎ直すと、直ぐにけたたましく内線が鳴った。「参謀長、会長からです。どうしますか?」山本が誰何して来る。「問答無用!叩き切れ!」山本は受話器を手で押さえていないから、僕の声は原田に筒抜けになったはずだ。山本が受話器を戻すと内線は沈黙した。その隙に、佐久先生が校長との交渉に入った。「いいんですか?会長を無視しても?」石川と本橋が心配そうに聞いてくる。「ここは、生徒会の手を離れた。会長の指示に従う理由は無い!どうせ、“人を貸せ”としか言わん。いい加減にヤツの言い分は聞き飽きたしな。佐久先生が護衛で居る以上は、原田も迂闊には手は出せんよ!」僕は一笑に付して彼らの不安を打ち消した。色々と話していると、益田と小池の2人が押し掛けて来た。「Y!原田に警備係を押し付けられた!俺達は係の指揮を執った経験が無い。どうすればいい?」「計画書を押し付けられても分からないのよ!教えてくれないかな?」2人は困惑しきっていた。「まずは、計画書とやらを見せてくれ。伊東が立案したヤツと別物らしいな?」小池から書面を受け取ると僕はやおら目を通す。「これは!コンサートの警備でもやるつもりか?原田のヤツ、とうとう狂ったか?」僕は腰を抜かしそうになった。とにかく、やたらと人を各所に貼り付ける人海戦術だったからだ。「益田氏、こんなに人はいらないよ!半分でいいはずだ!それに、のべつまくなしにベタベタと配置があるが、これも絞り込みをしていい。本当に必要なのは、この3分の1で事足りるぜ!全力投球してもらうのは、クローズ作業の時間帯でいいはず。原田は何故こんなに人を配置しようとしてるんだ?これじゃあ、指揮官が困るだけだぜ!」僕は、呆れ返って2人に計画書を返した。「やっぱりか!Y!お前さんならどうする?」益田が縋る様に前のめりになる。「お2人の手に余るなら、警備係もやってもいいぜ!ただし、あくまでも代行するだけならな。原田に命じられたのは、益田氏と小池さんだ。表向きは責任者として振る舞ってくれるならどうだ?」僕は2人を交互に見た。「看板だけならいいわよ!」小池は前向きだった。「俺も異存は無い。だが、それだけじゃ無いだろう?」益田は不敵な笑みを浮かべていた。「お見通しか。冷蔵庫とボトルを持ち出してくれるなら、喜んで引き受けるがどうだ?」僕は取引を持ち掛ける。「総本部には、腐る程のボトルがある!俺の権限で持ち出して来れる数と冷蔵庫1台でいいなら乗るぞ!」益田は豪快に言う。「取引成立だな。悪いが、看板だけは背負ってくれ!実務は僕が引き受ける。定期的に連絡は入れるから、原田に聞かれたら適当に答えてあしらってくれ。それと、至急要員をここへ寄越して欲しい。体制を立て直して置かなきゃならない!」僕は益田と小池に握手をして同意した。「わりぃが、頼むぜ!無論、原田にはナイショだけどな!人とブツは直ぐに手配する。無線機のチャンネルは11にしてくれ。一応、聞いてなきゃマズイだろう?」「ああ、そうしてくれ。視聴覚室を根城にするといい。あそこなら退屈にはならないしな!何かあれば直ぐに動いてる振りも出来るし」「いたれり、つくせりね。Y、アンタやっぱり只者じゃないわね!原田よりアンタの方がキレる気がするわ!」小池がそう言うと益田も頷いた。「後は宜しく!」2人は足早に西校舎へ歩き出した。「これで、原田の地盤が軟弱になるな。2期生の票が割れれば、4期生が当選する確率が必然的に無くなる。大統領選挙に向けて優位性を保てるな。こうなる事は原田も読んではいまい!」いつの間にか長官が来ていた。「それだけじゃありませんよ!長官、益田達は原田から一定の距離を置くはず。“蜜月”関係は崩れたと見ていいんじゃありませんか?」「うむ、これで原田陣営は四分五裂に陥るだろう。そろそろ“時限装置”を起動する時が来たようだ!」「やっと“靖国神社”の出番ですな!女を疑心暗鬼に陥れれば、相手は総崩れも同然。戦わずして勝てますよ!」僕等は秋の戦いを優位に進められる感触を掴んだ。「Y、“ヤボ用”とはこの事なの?」さちが小首を傾げている。「ああ、警備係も含めて一般公開の全権を掌握する事で、原田の影響力を弱めるのが目的さ!例え何か起こっても、原田には何の権限も無い。僕と長官と伊東で切り盛りするのさ!長官と伊東は陰に徹してもらうけどね。本橋、もう直ぐ警備係の要員が集まって来る。このファイルに基づいてチェックに入れ!」僕は“X計画”と書かれたファイルを彼に手渡した。「いつの間にこんな計画を?」中身を見ていた本橋は心底驚いた様だったが「作戦は30~40手先を見越して立てるもの。そして“身内”にも気づかれずに用意するのは基本中の基本だ。コピーはいずれ全部出してやるから、今は目の前に集中しろ!」とたしなめた。「Y、“親父”が同意したぞ!警備係も“親父”指揮下に入れるそうだ!」佐久先生が長い電話を終えるとそう告げてくれた。「これで策は講じた!増援のメドも立った!後は、お前の腕次第だ!」佐久先生はバシバシと僕の肩を叩いた。「了解です。よーし、盛大に引っ掛けてやるか!本橋、要員は集まったか?」「はい!現在、配置に着いている者を除く全員が出頭しました!」「警備係の諸君!今から私が実質的な指示を出す!まずは、無線機のチャンネルを11にセットしてくれ!」それから僕は警備範囲の縮小とシフトの変更、“クローズ作業”の手順について説明を行った。「詰所は、ここと視聴覚室とする。巡回の時間とチェック場所、手順については当初の予定通りとする。不測の事態やトラブルの際には、私を呼んでくれ。必要な指示はここから出す。“総合案内兼駐車場係”と警備係は、校長直轄の組織に改編された。生徒会長の指示に従う必要は無い!もし、会長が何か言って来ても、言う事を聞くな!迷ったら私の判断を待て!何か質問は?」「講堂でのステージ発表の時間帯はどうするんです?」4期生の子が問うた。「その時間帯は避けてシフトを組んであるはずだ。もし、重複していたら直近の者と個別に交渉して入れ替わっても構わん!物事は臨機応変に考えろ!穴さえ空けなければ問題は無い。ただし、“クローズ作業”の時間帯は総力を挙げて対処しなくてはならない。午後3時以降は詰所で待機してくれ!他には?」「空き時間が増えましたが、その間は自由行動ですか?」また、4期生の子が問う。「そうだ!クラスの手伝いや早目の食事に充てて構わん。都合の悪い者の代わりを務めてもいい。そうすれば、まとまった時間が取れるだろう?もし、何もする事が無いなら私の元で待機していてもいい。細かな用事は山の様にある!来年、自分が困らない様に学ぶつもりなら、私はいつでも指示を出す!」心なしか警備係の要員の表情が明るくなった様に見えた。その時、西校舎の方から「おーい!」と声がかかった。益田氏が“物品”を持って来たらしい。「では、まずは放送室前の物品をここへ運んでくれ!交代要員は早めに出て、現在配置に着いている者をここへ寄越せ!では、作業開始!」警備係の要員達は、直ぐに動き出した。台車に載せられた冷蔵庫とボトルの詰まった段ボール箱を7個司令部に搬入した。「参謀長、益田大臣からです」3期生の男子からメモが差し出された。“済まんがこれで勘弁してくれ。後を頼む”と書かれていた。「勘弁どころか、大助かりだ。こっちの予算じゃあ必要数ギリギリしか揃えられなかったんだから、天地程の差があるぜ!」「本当、この差は何なのよ?」さちが呆れて言う。「脇坂、冷蔵庫をもう1台使うには、アンペアが足りない。電源を探してドラムコードで取るしか無いな。東校舎から電源を探し当てろ!」「了解です!無線のウォッチを代わって下さい!」僕は脇坂に代わって無線機に付いた。「今野より、本部」「こちら本部、どうぞ」「Y!何やってるんだ?お前は補佐役だろう?脇坂はどうした?」「ちょいと用事があってな。代理をやってる。それよりどうした?」「Y、どうしても昇降口に直付けしたい車があるんだよ!車いすのお年寄りが居るんだ。例外を認めてもいいか?」「それはいいが、校内はどうするつもりだ?エレベーターは無いぞ!」「階段は担いで上がると言ってる。そのために人も付いてる。“例外処置A”を発動させてくれ!」「了解した!運転席前に“金の星”を置くのを忘れるな!車はなるべく東側に詰めて駐車させろ!引継ぎ事項として、後続隊に伝達をして置けよ!」「OK、じゃあ、1台だけそちらに回すぞ!」「了解だ。加奈、車いすの来場者が来る。“例外処置A”の手順に沿って準備にかかれ!」「はい!みんな、スロープを用意して!補助に着くのは予備隊の男子4名!急いで!」上田はファイルをめくって“例外処置A”の手順で指示を出した。脇坂が電源を確保して冷蔵庫も起動した様だ。僕は脇坂と交代して警備係の方に集中する。その時だった。「やっぱりここに居るのね!Y、アンタは陣頭指揮をしないと気が済まない性格だものね。でも、Yが居ると不思議と安心するのよね!」明るくトーンの高い声には聞き覚えがあった。顔を上げると真正面に彼女はいた。「Y、元気そうじゃん!」「愛子先輩、来てくれたんですか?!」斎藤愛子先輩。半年ぶりの再会だった。