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クロード・レヴィ・ストロースの死 ~ 2009年11月の読書

2009-11-30 23:00:07 | 読書
 
 数百年後に、この同じ場所で、別の一人の旅人が、私が見ることのできたはずの、だが私には見えなかったものが消滅してしまったことを、私と同じように絶望して嘆き悲しむことであろう。

 1日にクロード・レヴィ・ストロースが亡くなった。

 訃報を目にしてから、その著作やレヴィ・ストロースに関する書物をあれこれと読んでいた。

クロード・レヴィ・ストロース『悲しき熱帯 上』(川田順造訳、中央公論社、1977.10)
クロード・レヴィ・ストロース『悲しき熱帯 下』(川田順造訳、中央公論社、1977.12)
クロード・レヴィ・ストロース『仮面の道』(山口昌男・渡辺守章訳、新潮社、1979.8)
オクタビオ・パス『クロード・レヴィ・ストロース あるいはアイソーポスの新たな饗宴』(鼓直、木村栄一訳、法政大学出版局、1988.3)

その著作に見られる詩的感興こそがレヴィ・ストロースの著作の魅力であり、詩人オクタビオ・パスがレヴィ・ストロースの文章の中に、ルソーやディドロ、モンテーニュやモンテスキューといったモラリストと同時に、アンリ・ベルグソン、マルセル・プルースト、アンドレ・ブルトンの影を同時に見出したことは蓋し炯眼であったと思う。その上で、オクタビオ・パスは次のように述べている。

 レヴィ=ストロースの場合、読者は、具体的なものと抽象的なもの、対象の無媒介な直覚と分析とのあいだで絶えず揺れ動いている言語に出あう。つまり諸概念を直覚的な形態として、諸形態を知的な記号として見ようとする思考に出あう。そしてまず驚嘆させられるのが、人類学的なものであること以外を望んでいないその仕事の多様性であり、ついで、思考の一貫性である。しかもこれは科学の一貫性ではなく、反哲学的な哲学であるにせよ、まさに哲学の一貫性なのだ。

 ただし、パスがこのように述べたレヴィ・ストロースの特質は「学問的著作」としての欠点ともなっていただろう。もちろん、それは今日的な視点から見れば、そういえるのであって、レヴィ・ストロースという人は、人文科学が文学としても偉大であった時代の最後の生き残りなのだったと思う。たとえば『悲しき熱帯』は20世紀紀行文学の傑作のひとつだということに異論を唱える人はそう多くないに違いない。そして、その思想的インパクトは、今となっては、具体的なターム以上に、西欧(近代)を相対化する視点をもたらしたことにあったのではないかと思う。

 レヴィ・ストロースにはもう少し気軽に読める著作もある。

クロード・レヴィ・ストロース&中沢新一『サンタクロースの秘密』(中沢新一訳、せりか書房、1995.12)
クロード・レヴィ・ストロース『アスディワル武勲詩』(西沢文昭訳、青土社、1993.11)

 『サンタクロースの秘密』に収められた「火あぶりにされたサンタクロース」という論考は、クリスマスという行事がもともとヨーロッパに古くからあった、日本で言えばお盆のような冬の祭りとキリスト教が融合してできあがったものであり、生者から死者への贈与の儀式がやがてアメリカにおいて生者の間での贈与の交換の行事へと変貌を遂げていった旨が語られる。
 後者はカナダの太平洋岸の先住民の神話を解読したもので、婚姻制度との関連で論じていく手さばきにわくわくさせられる。(それにしても、結婚に際して、両方の家族が石を投げ合って相手を傷つけ、互いの絆を確認するという儀礼あるとは….。)

港千尋『レヴィ・ストロースの庭』(NTT出版、2008.11)

 最晩年のレヴィ・ストロースをブルゴーニュの森の別荘に訪ねた写真家による写真集。写真家自身による美しいエセーを含む。写真といえば、次の二冊も。

クロード・レヴィ・ストロース&今福龍太『サンパウロへのサウダージ』(今福龍太訳、みすず書房、2008.11)
今福龍太編著『ブラジルから遠く離れて1935-2000 クロード・レヴィ・ストロースのかたわらで』(サウダージ・ブックス、2009.5)

 ところで、この人類学者の追悼記事を読もうと ”Levi Strauss” というキーワードでニュース検索して、合衆国のアパレル企業に関する記事をいくつも開く羽目となり、あわてて ”Claude” や ”-apparel” といったキーワードを追加して検索しなおした人は私だけはないだろう。(その後は世界中で検索されているのか、この人類学者の記事が上位に集まっているのだが。)

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 現代思想1月号はレヴィ・ストロース特集号となるようだ。




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