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栞 旅行鞄の中の本 (今福龍太『遠い挿話』)

2007-03-22 22:05:26 | 読書
 今福龍太は『遠い挿話』のプロローグとして置かれた「ハンモック・リーディング」という文章の中で、旅行鞄に本をしのばせるときの不思議な興奮について書いている。

 こうした経験は自分にもあてはまる。それは専ら移動中やホテルのベッドに寝そべって読むためのものだが、どの本を持っていくかを考えているときが旅支度のなかでももっともわくわくする時間だ。そのとき確かにいつも見慣れた本の表情は一変している。今福龍太の言葉を借りれば、「それらがはじめに書店の棚から取りだされて購入されたときとはまったくちがった規準で選びだされ、本としての命を吹き返すことになる」。

 けれども出発前日にせっかく時間をかけて選んだ本を旅先で読むと妙にしっくりとしないことも多々ある。それは、その本が本来持っていた「物語の一貫性、叙述の整合性、著者のバックグラウンド、本の属するジャンル、書物の歴史的背景といった『読書』の有効性を規定するコード」をすでに一変させ、「別の世界を生きはじめている」からかも知れない。日常的な時間のなかで選ぶ規準と非日常的な時間の中での読書の規準の乖離とでもいえばいいのだろうか。

 そういえば、旅先で買って読んだあと、二度と手にとっていない本がいくつも思い浮かぶ。



 今福龍太『遠い挿話』(1994.6、青弓社)




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