海上自衛隊は、米軍が日本防衛のため西進するのを長年支援してきた(提供:U.S. Navy/アフロ)
海上自衛隊は、米軍が日本防衛のため西進するのを長年支援してきた(提供:U.S. Navy/アフロ)

岸田文雄内閣は今年末に国家安全保障戦略を改定する。現在の戦略を決定した2013年から約10年。この間、北朝鮮は「米本土まで届く」と主張する「火星15」を開発するなどミサイル能力の強化を続けてきた。中国は、米国と技術覇権を争う存在に成長した。同時に、台湾統一に向けて武力の役割を高める。ロシアはウクライナに侵攻。再び、「戦争の脅威」をもたらす国となった。この環境において日本は、いかなる国家安全保障戦略を定めるべきなのか。海上自衛隊で自衛艦隊司令官を務めた香田洋二・元海将に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

岸田文雄内閣は今年末に国家安全保障戦略を改定する予定です。改定に当たって、何を重視すべきだと考えますか。

香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官(以下、香田氏):私は、国家安全保障戦略の改定に合わせて、「国家防衛戦略」を定めるべきだと考えます。

 現在、いわゆる「戦略3文書」として「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」があります。最上位が、我が国の安全保障における基本的な考え方(コンセプト)を明確にする国家安全保障戦略。それと同期し、そのコンセプトを自衛隊が具現するためのオペレーショナルな規範として新たに定めるのが「国家防衛戦略」(仮称)です。国家防衛戦略に基づいて実際の作戦計画を立てます。

香田洋二(こうだ・ようじ)
香田洋二(こうだ・ようじ)
海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮課程を修了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など。(写真:加藤 康、以下同)

 防衛省・自衛隊が長年親しんできた「防衛計画の大綱」と「中期計画」は統一して防衛力整備に絞った中期計画とすることが適当です。どちらも自衛隊の具体的な体制、防衛力整備に関する基本的な考えを示したもので、現状は冗長かつ重複する内容もあるからです。

 この「新」戦略3文書を策定して初めて、真に機能する我が国の安全保障と防衛体制が完結すると考えます。

 この国家防衛戦略において、(1)日米同盟を実際に機能する同盟にするための原則、(2)本土防衛と米軍来援支援のバランス、(3)自衛隊の継戦能力を高めるための方策、(4)防衛装備品の調達選定に関わる基本方針(「国産」「共同開発」「外国からの導入」のいずれを選ぶか選択基準の明確化と機種選定の厳格化)、(5)自衛隊の人員を確保するための方策、などについて定める必要があります。