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そんな思いから片岡治大の巻き返しは始まる。

2015-03-03 23:08:49 | 2015年シーズン

「井端さんっすか…」
そう言ったあとの一瞬の沈黙は、
片岡の紛れもない心境だった気がする。


そもそも、今キャンプで原監督が掲げた ”野性味” にしても、
何年か前から原監督が選手に求める ”強さ” にしても、
原監督のイメージするそんな選手の象徴のひとりが、
片岡ではなかったかと思う。

2008年の埼玉西武ライオンズとの日本シリーズと、
2009年のWBCで指揮を執った原監督。
この二つの舞台で強い存在感を放っていたのが片岡だった。
大舞台にも臆することなく、ここぞの場面で持ち味を発揮する片岡は、
どちらの戦いでも試合を動かす役割を果たし、勝敗を左右したキーパーソンだった。
このときの片岡の存在は原監督の脳裏に強く焼きついたはずだ。

沖縄キャンプ中継の中で行われた各選手へのインタビュー。
今季の目標を問われた片岡は盗塁王と断言。
具体的に50盗塁と数字まで口にした。
昨シーズン、思うような成績を収められなかったことを悔やみ、
かなり身体を絞って臨んだ春季キャンプ。
オフの断食はスポーツ紙の記事にもなっていた。
質問のひとつひとつに丁寧に応えていた片岡だったが、
インタビュアーの次の言葉に、片岡の表情がやや崩れた。
「井端さんという存在はどうですか?」。

このインタビューが流れる前、片岡にインタビューしたアナウンサーが、
もうひとりの実況アナウンサーに向かって、このあと流す片岡のインタビューで、
聞きづらかった井端に対する思いに切り込んでいると、少し得意げに語っていた。
そのあと流れた片岡のインタビューを見て、
このアナウンサーが満足げに告知した気持ちも解らなくはないと納得した。
それくらい、片岡の反応が面白かった。
面白かったというのはもちろん茶化した意味で言っているのではない。
片岡が井端をどう見ているか、多くのファンも感心のあるところだろう。
とはいえ、こういった質問は、どんな選手に聞いても、
大概は当たり障りのない反応しか見せないもの。
相手を称えつつ、自分は己の技術に磨きをかけるだけ、
プロスポーツ選手であれば、よほどの実力差がない限り、
弱気な態度など見せないのが一般的だ。

けれど、片岡はちょっと違った態度をとる。
前述で、”インタビュアーの次の言葉に、片岡の表情がやや崩れた”
”崩れた” と書いた。
普通ならこういった場合、表情はこわばるとか、引きつるとか、
あるいは引き締まったりするものだが、
このときの片岡は、やはり、崩れた表情になった。
ニヤけたとか、緩んだとか、そんなヘラヘラした感じでは決してない。
あくまでも崩れた、ちょっと自虐的な笑みとでも言おうか。
思いのほかストレートな反応に、何を言い出すかとコチラも口元が緩む。

「まだセカンドのポジションは固定されていないと思う」
まず、自ら片岡がそう言って、セカンドレギュラー争いについての口火を切ると、
インタビュアーはそのタイミングを逃さず矢継ぎ早に質問を投げる。
「率直に、井端さんという存在はどうですか?」
インタビュアーがそう切り出す。
「いや~、井端さんっすか」
額の汗を拭いながら苦笑いを浮かべると、
そのまま表情が固まった。
そして「う~ん」 と小さく唸り、
ひとしきり考え込んだあと、ゆっくり口を開いた。

「見てすごく勉強にもなりますし、野球もよく知ってますし、
よく打つし、よくファールするし、すべての技術が素晴らしいと見ているんですけど…、
なんかあの、なんていうんですかね…」 と頭をかきながらまた、う~んと小さく唸って首をかしげた。
そして、ライバルというよりは学ぶことのほうが多いと、目上の井端を立て、
最後に「今年はよく話しをしています」 と言った。

この 「今年はよく話をしている」 は、
片岡の心境の移り変わりを上手いこと言い表していて興味深い。
やはり、昨シーズンの開幕当初、
片岡にとって井端は今ほど意識する対象ではなかったのではないかと想像する。
お互い、どういった経緯で入ってきたか、期待のされ方にしても、年齢的にも、
レギュラーを臨まれて入ってきた自分と、
自由契約からジャイアンツが拾ったカタチの井端。
井端を軽く見ていたわけではないだろうが、
それ以上に、片岡のアタマは自分の実力を試すことでいっぱいだったろう。
だからいくら井端がベテランの名プレイヤーであっても、
助言を請うたり、積極的に接触を持とうとは思えなかったかもしれない。

ところが昨季、期待通りの活躍が出来なかった自分に比べ、
井端は思いのほか持ち味を発揮し、
ここぞの場面での存在価値を見せ付けた。
そして今季、横一線で並ぶキャンプからオープン戦にかけても、
井端の安定感には目を見張るものがある。

キャンプの時点での 「今季はよく話しをする」 だから、
練習試合からオープン戦にかけての順調さは差し引いても、
昨季の井端の存在感で片岡の背筋が正されたことは容易に想像がつく。
「まさかここまでやるとは」 が、やはり本音のような気がする。
「まいったなあ、井端さん」 そんな思いが苦笑いの根底にあるかもしれない。


インタビューにはまだ続きがある。
昨シーズンのキャンプで片岡が、
「巨人軍に来なきゃよかったかなあ」 と弱音を吐いたことを蒸し返され、
「今はどうですか、巨人に来てよかったですか?」 と改めて質問を向けられた。
すると片岡は視線を泳がせながら 「いや~、ちょと今もかも…」 とモゴモゴとした口調で含み笑い。
これには取り囲んでいた人たち(カメラには映ってないが)も思わず大笑い。
そして力ないトーンで 「めげずに頑張ります」 と、ひと言。

最後はしっかり盗塁王宣言をして締めた片岡だったが、
結局、茶目っ気なのか、サービス精神なのか、どこまでが本音だったのか。

ただ、あの崩れた表情と、そのあと訪れた沈黙には、
まぎれもなく、井端に対する片岡の素直な心境が表れていたと確信する。
あの感じをなんと表現すればしっくりくるだろうか。
あの表情、どんな言葉で言い表わせばしっくりくるかとひとしきり考えた。
そうだ、ひとつふさわしい言葉がある。
”ぎゃふん” だ。
あれが世に言う ”ぎゃふん” ではないか。

思いのほか高く立ちはだかった井端という壁を前に、
片岡は ”ぎゃふん” と言って新たなシーズンに立ち向かう。
「マジっすか井端さん…」

片岡の巻き返しは、この”ぎゃふん” から始まる。



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