ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

バッキーペーパー:薄く強く熱や電気を良く通す

2012-02-11 | 報道/ニュース

カーボンナノチューブを集めてフイルム状にしたものがバッキーペーパーと呼ばれている。1995年頃からいろいろな手法で試作されていて、厚さ0.1mm程度の紙のようなフレキシブルな膜が作られている。カーボンナノチューブは、重さが鉄の十分の1で強さが100倍しかも良く電気や熱を通す(9/8,2/6参照)。したがって、バッキーペーパーにもいろいろな用途が期待出来、研究が重ねられている。

主な用途として次のようなものが考えられている。
エレクトロニクスデバイス中の熱除去、電磁波の遮へい、フィルター、防弾チョッキ、生体組織の形成、人工筋肉、熱線反射体

最近アメリカペンシルバニア州ドレクセル大学の研究グループは、バッキーペーパーの新しい製法を開発した。これまでのバッキーペーパーではカーボンナノチューブが重なり合っていたが、新しい製法では図に示すようなシシカバブ構造をもっている。シシカバブとはトルコ料理の名前だそうだ。このように配置したカーボンナノチューブを重ねて作成したフイルムすなわちバッキーペーパーは、いろいろな興味ある性質を持っていて、その応用がますます開けそうである。作成されたバッキーペーパーの厚さは0.01mm程度であるという。

http://www.nanowerk.com/news/newsid=24216.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TzMpgD2jzdI.google

まず、平板状の部分の間隔を変えることによって、フィルターなどに使用する時の孔の大きさや電気伝導度をコントロール出来る。また、カーボンナノチューブに種々の分子を付加することが出来、これによって特別な目的を持ったセンサーやエレクトロニクスデバイスの作成が可能になるという。

                                                           


ナノテクノロジー関連パテント出願数の国際比較

2012-02-10 | 報道/ニュース

中国の二人の研究者が各国のナノテクノロジー関連パテントを分析し論文を発表した。

1991年から2010年までの各国のパテント数の移り変わりは下のグラフの通りである。驚いたことに、圧倒的に日本初のパテントが多い。この論文では、さらに国際的に認められたパテント数を比較しているが、日本初のパテントがアメリカならびにEUで認められたものは30%程度で、韓国の約40%に比べて小さい。中国でのこの比率が小さい(約4%)ことが論文の著者たちの悩みであるが、日本もいささか小さすぎるようにも思われる。中国でのは、パテント数の増加はすざましい。
                             
次に、著者たちは、高分子等有機材料、半導体、光学関係、薬剤、表面処理およびコーティング材、金属等無機材料の各分野について、技術特許化(RTA)係数を比較している。RTA係数とは、特定の国内での特定分野の特許出願数を全特許出願数で割った値を、全世界の同様の値で割ったものである。その国のその分野での力の入れ方がわかる。日本は高分子など有機材料に、韓国は半導体に、中国は金属等無機材料に力を入れていることがわかる。EUは薬剤にに対するRTA係数はEUやアメリカで大きいが、日本では極端に小さい。アメリカは半導体でも大きい値を示している。


マイクロフルイディックス:いずれは診断にも

2012-02-09 | 報道/ニュース

マイクロフルイデックス(fluidics)、すなわちmicro + flluid(液体) + icsとは(プラズモニックス(11/18)参照)、例えばラボオンチップ(1/31参照)のような微少領域に閉じ込められた液体を操作し制御する技術である。1980年頃から開発されており、インクジェットや分子生物の分野で応用範囲が広い。ナノテクノロジーの寄与も大きい。

現在この分野で主導的な役割を果たしているのはDolomite社で、マイクロフルイデックス装置の生産技術を完備しており、環境モニタリング、診断、食品関係、農業、石油関連など広い分野での問題解決法を提供するという。

同社は、最近ケンブリッジ大学の研究者と協力して、細胞の集団を固定して顕微鏡観察を可能にするマイクロフルイデックス装置を開発したと報じている。また、液体の中に分散している1から100ナノメートルの間の大きさが揃ったナノ粒子を抽出出来る装置を開発したとのことである。

スイスIBMの研究グループは、患者から採取した血液を直接導入し分析出来るマイクロフルイデックスチップを提案している。1マイクロリットル(指から25マイクロリットルが採取出来る)の血液中のタンパク質や核酸を1分以内に分析出来るという。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.201100464/abstract

ナノテクノロジーフェア(2/7参照)に中小機構海外販路開拓支援ブースhttp://nanotech.smrj.go.jp/がある。大いに海外に販路を開いてほしいものである。


ナノダイヤモンドを人工関節に

2012-02-08 | 報道/ニュース

医療の世界では種々のインプラントが用いられるが、ここでもナノテクノロジーの役割が大きくなりそうだ。

人工関節には通常金属が用いられる。しかしながら、使用している間に金属が削れてその破片が炎症の原因になることが多い。金属をダイヤモンドでコートすることが試みられている。金属より硬いダイヤモンドでも、使用している間に削れてしまうが、最近の研究では、破片のナノサイズのダイヤモンドには毒性がなくまた炎症を起こさないことが明らかになってきた。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24173.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.TzCWCi3EdoF.google

現在の整形外科的なインプラントの寿命は10-15年で、途中で取り換える必要がある場合が多い。インプラントされる材料の表面の凹凸を動物の骨と同様のナノスケールにすることによって、骨の成長を促すことが明らかにされており、実用化に向けて活発な研究がなされている。

ナノテクノロジーを用いたインプラント用電池については、すでに述べた(12/2参照)。

入れ歯もナノテクノロジーの恩恵を受けるかもしれない。ドイツのイエナ大学の研究グループは、現在用いられている入れ歯材料より強くしかも見栄が良い新しい材料を開発した。これはナノスケールのアルミニウム、マグネシウムおよびシリコンの酸化物からなるガラスセラミックスである。セラミックスは微結晶の集まりである。ガラスはアモルファス状態(10/6参照)で、結晶性が全く見られない材料である。ガラスセラミックスとは、ガラス状態にある材料の一部を結晶化したものである。結晶のサイズがナノスケールであることによって、結晶境界面での滑りが起きにくく、したがって強度が高い。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=1652.php


東京で世界最大級のナノテクノロジーフェア

2012-02-07 | 報道/ニュース

Nanowerkのニュースでは、世界最大級のナノテクノロジーフェアが来週東京で開催される*とあるが、日本ではあまりニュースになっていない。日本の工業会がどこに力点を置いているかが多少わかるので、その内容を述べておこう。
*http://www.nanotechexpo.jp/index.html

今回は、11回目の国際ナノテクノロジーフェアで、800余りのブースのうち、500は日本の会社ならびに研究機関が、残りは日本以外の22カ国の会社ならびに研究機関が展示するようだ。今回の主要テーマは、生命・環境ナノテクノロジーイノベーションとのことだ。21世紀に入って、人類は環境・エネルギー問題に直面している。環境・エネルギー問題、すなわち太陽光発電、燃料電池、エネルギーの創出と貯蔵、低カーボン・省エネルギー技術および土壌および水処理に関する新技術について、ナノテクノロジーへの期待が大きい。

会社以外に、大学や研究所の展示も数多い。このフェアは、新しい国際性の高い新技術ベンチャーを目指す人たちにとっては、格好の場所であるという。

フェアのハイライトは次の通りであるという。
1) 生命・環境のテクノロジーに関する新技術や新製品の展示。
2) 日本における最新のナノテクノロジー応用と新製品の展示。
3) 日本以外の各国の展示ブース。
4) 日本の総てのナノテクノロジー研究機関の展示ブース。
5) ナノテクノロジー関連セミナー。
6) ナノテク賞の発表。


カーボンナノチューブに新しい応用が:スイッチ、フレキシブルで透明な電導体

2012-02-06 | 報道/ニュース

物質・材料研究機構の研究グループは、一端にガリウム金属を満たしたカーボンナノチュウブが興味ある性質を示すことを見つけた。ガリウム金属は約30℃以上で液体になる。このカーボンナノチューブに強い電流を流すと、ガリウム金属は陰極へ移動してしまう。一方、弱い電流を流すとガリウム金属が陰極に向かって動き出しカーボンナノチューブ全体にわたって分布する。そのため、カーボンナノチューブの電気抵抗が低下する。前者の性質は、電界によって物質を所定の場所に送り込むことに、また後者の性質は、スイッチに利用出来るという。
http://nanotechweb.org/cws/article/lab/48520

カーボンナノチューブは、両端がアームチェア状(10/10参照)であるときは金属で、ジグザグ状であるときは半導体である。ノースダコタ州立大学の研究者たちは、金属性のカーボンナノチューブでコーティングすることによって、極めて電気伝導性の高いフレキシブルでかつ透明膜が得られることを示した。現在のところ、タッチパネルのような透明電極には酸化インジウム錫が用いられているが、この材料は高価であるので、いずれカーボンナノチューブがこれに置き換わるであろうという。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=23947.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29#.Tw-KxBi9NtQ.google

ゴムのような弾力性のある薄膜が伸びた状態でカーボンナノチューブをコートする。カーボンナノチューブの両端が薄膜に接着していて、薄膜をもとへ戻すとカーボンナノチューブは丸みを帯びる。ノースカロライナ州立大学の研究グループはこのようにして弾力性のある透明薄膜電気伝導体を作成することに成功した。医療器具などに用途があるという。

これまでのカーボンナノチューブに関する記事の掲載月日を下に示す。

                         


​ナノフッド:ナノテクノロジーと食品

2012-02-04 | 報道/ニュース

欧米ではナノフッドという言葉が良く使われているようだ。2000年頃から話題に上るようになって、多くの企業が製品を発売し始めた。最近になってアメリカのNGOが批判的な記事を発表したり、イギリス政府が規制を強化したため、あまり話題にならなくなった。しかしながら、ナノフッドに関する基礎研究や開発研究は依然進行中で、ネイチャー・ナノテクノロジーやnanowerkがその現状を分析している。
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=24155.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

ナノフッドとはどのようなものか、下の表にまとめておこう。


上の表でカッコ内は関連記事を記載した月/日を示す。デリバリーは人体内のトランクデリバリー(1/8,1/26参照)と同様と考えてよい。

ナノフッドが健全な発達を遂げるかどうかはまだ不明な点が多いという。製造業者の良心、情報の公開、メディアの対応など問題が多い。

エレクトロニクスの発展上ナノテクノロジーはなくてはならないものであるが、あらゆる分野にその波及効果が大きい。経済性をも含めて、得られるゲインに対する期待が大きいが、人体への影響については引き続き慎重な検討が必要であろう(1/27参照)。


ナノテクノロジーは腫瘍学に革命を起こそうとしている

2012-02-03 | 報道/ニュース

昨年(9/17)、英紙ガーディアンに掲載されていたナノテクノロジーと医療に関する記事を紹介したが、最近、表記の記事がガーディアンに掲載されていた。著名な癌治療医 M Airoldi教授とのインタビュー記事である。ナノ医療は、治療的癌医学から予防的癌医学へ根本的な変革を遂げようとしているという。

ナノテクノロジーは、これまで特定出来なかった血液中のごく微量の物質をコントロール出来る。これまでの薬剤による癌治療が、治癒する可能性がある手法を試みているのであるとすると、腫瘍の成長を標的にした治療に移行するであろう。しかしながら、それまでには、癌腫瘍の成長ドライバーの正体を明らかにしなければならないという。

ナノテクノロジーのがん治療への貢献は、診断とドラッグデリバリーにある(27,28)。ラボオンチップ(1/31参照)を用いると、癌細胞のタンパク質スペクトルを求めることができて、これによって癌細胞の初期活動に関する知見が得られる。がんの発生段階でその進行を防止することが出来る可能性がある。

治療の面からの目標は、癌腫瘍の成長を直接阻止することにあるという。ナノ粒子を用いると、RNAを癌細胞の中に送り込み成長ドライバーを無効にすることも可能である。また、これに加えて、すでに述べたように、金ナノ粒子などを癌細胞の中に送り込み、レーザー光で加熱焼却する手法も有効だろうという。

問題は生体クリアランス、すなわちナノ粒子などを生体から排泄させることである。不活性で毒性のないナノ粒子を用いるのが一方法であるが、組織に蓄積されるものもある。220ナノメートル以下の粒子は血管に入り込む可能性があるという。


ナノオイル:熱を良く通す絶縁油

2012-02-02 | 報道/ニュース

変電所などの変圧器は、鉄製の容器の中に油づけされている。油は、絶縁体としての役目を果たしているが、同時に変圧器で発生する熱を容器へ運んでいる。アメリカテキサス州のライス大学の研究グループは、油の中に窒化ボロンナノ粒子を分散させることによって、熱の伝わり方をほぼ2倍にすることに成功した。変圧器だけではなく、もっと小さなエレクトロニクスデバイスにも利用出来るであろうと期待されている。
http://www.nanowerk.com/news/newsid=24144.php?utm_source=feedburner&utm_medium=email&utm_campaign=Feed%3A+nanowerk%2FagWB+%28Nanowerk+Nanotechnology+News%29

そもそも熱が伝わるのは伝導または対流による。伝導とは、材料を構成している原子や分子の振動が伝わっていくものである(11/12参照)。通常の油の中での熱の伝わり方は伝導による。対流とは、振動している原子や分子が動くことによって熱すなわち振動エネルギーが伝わる現象である。魔法瓶の周りが真空を挟んだ二重壁になっているのは、空気の対流による熱伝導を防ぐためである。

液体の中に分散しているナノ粒子は、液体分子と同じ振動エネルギーを持っている。ナノ粒子が液体の中を動くことによって振動エネルギーすなわち熱を伝える。すなわち、ナノ粒子による対流が起こることになって、液体の熱伝導を上昇させることが出来る。このような液体をナノ液体(nanofluid)と呼ぶ。また分散させるナノ粒子をthermal filler(熱伝導増進用充てん物という意味)と呼ぶ。ナノ粒子は沈殿が起こりにくいため、thermal fillerに適している。

thermal filler には、2次元すなわち平面状のナノ粒子が最も有効である。その理由は、表面積が大きく振動が粒子に伝わりやすいからである。グラフェンが最も良好なthermal fillerであるという報告もある。しかしながら、グラフェンは電気を良く通すので絶縁油には適さない。ナノオイルに用いられたのは窒化ボロンの厚さ5原子層程度の平面型ナノ粒である。

小さいものはとても役に立つ。


IAEAは大飯原発再稼働のお墨付きを与えたのではない

2012-02-01 | 報道/ニュース

どうしても気にかかるので今日は原発問題に触れておきたい(9/16参照)。

日本の新聞各社は、「IAEAが、ストレステストが適切であったと結論した」と報じている。朝日新聞は大飯原発再稼働のお墨付きが得られたという。IAEAの中間報告の結論は、「ストレステストの結果に対する原子力保安院の評価は、IAEAの安全基準と一般的には(generally)矛盾しない」である。generallyの意味はいろいろあるが、ここでは、「詳細はともかくとして」であろうか。

ニューヨークタイム紙によると、IAEAのスポークスマンG Webb氏は、「IAEAは大飯原子力発電所の安全性を保証しているものではない。原子炉の安全性についてとやかく言うことは出来ない。原子炉の危険とそれによって得られる利益を天秤にかけ運転を再開するかどうかが決まるであろう。これは日本国がすることである。」と述べている。

大飯原子力発電所のストレステストによると、津波の際、全く安全なのは津波の高さが4.65メートル以下の場合である。それ以上になると、11.4メートル以下では補機冷却水が、13.5メートル以上になると主給水も止まるという。これに対して、恒設非常用発電機の設置が予定されているが、これは未完成である。現在のところ、ディーゼルエンジンと非常用発電車が用意されている。それらの設置場所については良く理解していないが、果たして緊急時に発電車を運転してエンジンに到達し、接続することが可能かどうか疑問を感じる。

IAEAの調査員は、どのような高さの津波が発生する可能性があるのか、当然御存じないはずである。したがって、上のような数値が与えられていると、「一般的には矛盾しない」ということになってしまう。しかしながら、日本人にとっては深刻である。福島発電所の事故でその恐ろしさは嫌というほど体験している。しかも、もし同じような規模の事故がもうひとつ起こったら、日本国は壊滅的な被害を受けるであろう。

心配なのは、運転中の原子炉だけではない。多くの原子炉で、燃料貯蔵用プールが原子炉建屋の高い階に存在する。地震でプールに穴があいたりまた水冷が止まると、燃料が過熱し水素爆発などの危険性がある。特に運転停止後間もない原子力発電所が問題である。

日本のメディアは、もう少し心配性であってほしい。