旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

渡良瀬渓谷とやまと豚弁当と赤城山と わたらせ渓谷鐵道を完乗!

2022-08-13 | 呑み鉄放浪記 私鉄編

 あかがね色とアイボリーのツートンカラーを纏ったレールバスにコトコト揺られて大間々にやってきた。
わたらせ渓谷鐵道(旧足尾線)は、起点の桐生から暫し両毛線を併走すると、赤い渡良瀬川橋梁を渡るのを合図に
大きく右カーブを描いて狭隘な渓谷へと入っていく。本社と車両基地のある4つ目の大間々までは15分の乗車だ。

大間々から足尾まで観光列車「トロッコわたらせ渓谷号」が走っている。
駅のホームには整理券に座席指定を受ける家族連れが並んでいる。このシーズンならではの賑わいだ。

DE10型ディーゼル機関車が4両の客車を牽引するスタイルは、なんとも昔ながらでノスタルジックだ。
家族連れには中間2両のトロッコ車両が人気だ。自然の風が吹き込んで子供たちの歓声か聴こえるようだ。
ボクは迷わず静かな一般客車のボックス席を〆る。旧国鉄急行型客車は青色のシート生地で垂直の背もたれ、
窓の下には大きめの台形のテーブルが張り出している。さすがに灰皿と栓抜きは付いていないなぁ。
お盆に祖父母の家を訪ねたり、日本海へ海水浴にいくときには、大抵こんな客車に揺られていった。 

 ボクはこれから1時間半、架空の、緑豊かな谷間の実家に帰省する旅人になって客車に揺られたい。
プシュ、ガクンと列車が動き出すのを合図に缶ビールのプルリングを引く。これはお約束なのだ。
冷房は効いているけど窓は開け放してしまおう。樹々の匂いに蝉の声、吹き込む風を全身に感じる。

予約しておいた “やまと豚弁当” の包みをひらく、自慢のしょうゆダレの香りが鼻腔をくすぐり食欲をそそる。
モチモチの豚肉がビールのアテに消えてしまっても、ご飯には香ばしいしょうゆダレが滲みていて美味しい。

神戸(ごうど)駅を出ると列車は草木トンネルに侵入する。全長5,242 mは第三セクター鉄道では最長になる。
草木ダム建設によって水没する線路を付け替えたトンネルの高低差は約140m、草木ダムの堤体高さと同じだ。
ボクは座席を進行方向左側に移動する。トンネルを抜けると直ぐに鉄路は渡良瀬川を跨ぐからだ。

沢入(そうり)駅を出たら “赤城山” のスクリューキャップを切る。赤城山の伏流水を仕込み水にした淡麗辛口だ。
涼しげなガラスの酒器に注いだ辛口を、グイッと呑み干すごとに故郷は近づいてくる。

通洞駅到着のアナウンスが流れる頃、左手車窓いっぱいに「足尾銅山通洞選鉱所」の遺構が広がった。
江戸時代には日光東照宮の部材や寛永通宝の鋳造に使われ、明治に至っては近代日本の富国強兵政策を支えた
大鉱山である。負の遺産としての足尾鉱毒事件は社会科の教科書でも触れるところだ。

列車が足尾駅にたどり着く。今は使われている気配のない何本もの引込線が往時の賑わいを想像させる。
老体のDE10型に盛夏の登坂は堪えるのか、カバーを開け放してオーバーヒート気味のエンジンを冷ます。

土産を詰め込んだ大袈裟な紙袋を抱えて、ボクは1番線と駅本屋へ続く構内踏切を渡る。
今は無人になった改札を抜ける。待合室の白壁、磨かれた切符売り場の机、赤いポスト、何も変わっていない。
真夏の日差しに左手を翳す。3月に地元の高校を卒業した甥っ子は自慢のクーペで迎えに来ているだろうか。

 妄想の帰省を果たした呑み人は後続の普通列車で終点までの1区間を走る。呑み鉄旅は呑み(乗り)潰しの旅だ。
終着駅で折り返しの桐生行きを見送って、ノスタルジックなわたらせ渓谷鐵道(旧足尾線)の旅が終わる。

わたらせ渓谷鐵道 桐生〜間藤 44.1km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP> 
涙をふいて / 三好鉄生 1982



最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
わたらせ渓谷鐵道 (tsakae)
2022-08-14 08:38:19
トロッコ列車で大間々から 足尾まで行かずに
途中でもどってきたので 完走とはならず。
この記事で 気になっていた 足尾駅の風情が
少し分かりました。
https://blog.goo.ne.jp/tsakaegoo/d/20131104
当時をまだ偲べますよね (ZUYA)
2022-08-15 08:53:33
お~!小生も4年ほど前に足尾エリア探訪しました 

https://blog.goo.ne.jp/yasunrod/e/52afc6af84f6cacbe4bd7291e6720d52

あの時はまだ足尾駅構内に「キハ」が留置されていましたが、今はもうないのですかね

終点の間藤駅から、先の廃線(元貨物専用線)を歩いたのが懐かしいです~
Unknown (呑み人)
2022-08-15 19:54:21
tsakae様、こんばんは。
2013年の紀行は奥様と睦まじく羨ましい。
渓谷号とわっしー号と、一粒で二度美味しい旅ですね。
楽しい拝見しました。
Unknown (呑み人)
2022-08-15 20:14:19
ZUYAさん、こんばんは。
2018年の一人旅、楽しく拝見しました。
漏れなく隈なく沿線の見どころを押さえていますね。流石です。
ところでキハは健在?です。
ZUYAさんの訪問時から、確実に色褪せ朽ちていますけど。
足尾線に3つドア両開きのキハが走っていたなんて、
ちょっと違和感ありますね。
Unknown (ひろし曾爺1840)
2022-08-16 07:41:20
(^_-)-☆お早う御座います。
@('_')@「今日のランキング」に>👍・😍&👏で~す。
💻コメントや応援👍ポッチを有難う御座いました。✌で~す!
☆彡本日も素敵な行法を有難う御座いました👍&👏で~す。
👴:お互いに天候の急変や猛暑に気を付け今日も元気で頑張りましょ~!
🔶本日ブログにお越しをよろしくお願いいたします。👋!
Unknown (呑み人)
2022-08-16 23:11:18
ひろし曾爺 様、こんばんは。
今週も暑い日が続きますね。
お盆休みが過ぎて、朝夕の通勤電車も
普段通りの混雑に戻りつつあります。
ひろし曾爺様もお身体ご自愛ください。
ご訪問、コメントありがとうございます。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。