修善寺をぶらぶらと訪ねてみた。こんな仕事をしながら実は初めての修善寺なのだ。今更周囲には云えない。弘法大師空海が大同2年(807年)に開基したとされる古刹修善寺、源頼朝の弟源範頼、息子で二代将軍源頼家が幽閉された源氏滅亡の地でもある。
修善寺へは東海道本線の三島から、伊豆箱根鉄道駿豆線で向かう。駿豆線は10~15分おきに電車が出て行く。地方私鉄としては優秀な部類だろうか。ホームが7から9番線なのは、JR線、新幹線と通しで振ってあるからだ。
どこかで会った顔かと思いきや、ビール工場を訪ねた折に小田原から乗車した大雄山線の車両と一緒だ。同じ鉄道会社であることを今更ながら知る。駿豆線が三島駅を出ると、市街地を抜けるまでは、右へ左へ大きなカーブが連続して3両編成を揺らして往く。
駿豆線1日乗り放題乗車券「旅助け(たびだすけ)」は、三島⇔修善寺往復運賃と同額の1,020円、一度でも途中下車するならお得なキップだ。で早速っと伊豆長岡で途中下車する。その名のとおり伊豆長岡温泉の最寄り駅だ。
温泉に背を向けて、田圃とビニールハウスの風景の中を歩くこと20分、汗が噴き出すころに世界遺産「韮山反射炉」に行き着く。江戸幕府が西欧列強に対抗するため、品川台場などに設置する鉄製大砲を鋳造するために建てられた溶鉱炉が、この韮山反射炉だ。
伊豆長岡からは10分ほどの乗車で、3両編成は修善寺に終着する。隣のホームには東京からやってきた “特急修善寺号が” が暫しの休息中。ところでホームの中央にタイル張りに大鏡を設えた水飲み場があった。国鉄の時代には全国至るところにこんな水飲み場があった気がする。
今や多くの私鉄線で見かけるようになった “鉄道むすめ”、駿豆線のそれは修善寺まきの嬢だ。一昨年新装なった修善寺の駅舎、観光案内所や土産物屋に加えてセブンイレブンがテナントの一角を占めているのが今風だ。駅前ロータリーからは、西伊豆・中伊豆の温泉地へと向かう路線バスが出て行く。平日のタクシーの運転手さんは商売上がったり、とても暇そうだ。
駅前ロータリーから東海バスに乗車して10分ほど揺られると修善寺温泉に到着する。修善寺温泉のシンボル、桂川の清流の中に湧く「独鈷の湯」には、病の父親の身体を洗う少年の孝行に心を打たれた弘法大師空海が、持っていた独鈷で河原の岩を打ち砕いて霊泉を湧き出させたとの言い伝えがある。
昭和20年代までは、修善寺には7つの外湯があって、湯浴み客で賑わったそうだ。往時を偲んで建てられた共同浴場「筥湯」で修善寺の湯を楽しむことができる。檜の香りに包まれてのんびりと湯に浸かる。先客がいらしたので写真は陽光ふりそそぐ天窓をパチリ。
民芸調の「禅風亭なゝ番」で湯上りのビールを呷る。地ビールの “夏の便り” は爽やかな喉ごし、お通しの枝豆が気が利いている。山菜と生わさびでいただく「せいろ」と「とろろそば」がセットになった看板メニューの “禅寺そば” で駿豆線の旅を美味しく〆るのだ。
伊豆箱根鉄道 駿豆線 三島~修善寺 19.8km 完乗