IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

まさか、カルパチアだったとはねぇ

2005-09-17 11:06:52 | ハリケーン「カトリーナ」関連
総額で2000億ドル以上が被災地域の復興事業に使われる見積もりだけど、以前から汚職絡みのスキャンダルが絶えないルイジアナ州の関係者らは復興予算がきちんと使われるのかと心配を隠せない様子だ。ルイジアナ州政府は1997年から2002年までの間、災害対策強化費として連邦緊急事態管理局(FEMA)から予算を配分されていたが、16日にAP通信が報じたところによると、そのうちの約3000万ドルが使途不明金となっているそうだ。ルイジアナ州政府は「今はこの問題を語る時ではない」として、これから復興事業に注がれる予算の管理を徹底するとだけ語ったが、国土安全保障省の職員と会計検査官30名が不正防止のために現地に派遣される予定だ。ルイジアナ州でのハリケーン死者数は579人にまで増え、フロリダとジョージアを含む5州での「カトリーナ」犠牲者の数は816人となっている。

突然だけど、今日の新聞記事を読んでいて思い出した事があったので、それを少し紹介したいと思います。ブッシュ政権が誕生して間もない頃、2001年1月か2月だったと思うけど、僕の通っていた大学院のクラスで流行ったジョークがあって、新聞やテレビのニュースを目にしているうちに突然思い出したのだ。あんまり上品な言葉ではないのですが、まぁ我慢して読んでみて下さい…。

ロシア、南アフリカ、アメリカの3国を代表する医師がカフェのテーブルで世間話を楽しんでいたが、いつの間にか3人の話題は自国の医療レベルを自慢するものへと変わっていた。「わが国の医療レベルは世界最高のものです。腎臓の移植手術を受けた患者が、1週間後には職場に戻って仕事を再開したのですから…」、ロシア人の医師が自慢げに言った。「そんな程度ですか」、そう言ったのは南アフリカの医師。「最近、ヨハネスブルグの病院で心臓移植手術を受けた患者は3日後に仕事を再開しています」、南アフリカの医師は勝ち誇った表情でそう言った。「2人とも、大した事ないですなぁ」、横で聞いていたアメリカ人医師がポツリと一言。「アメリカではテキサスのケツの穴(asshole:最低の人間といった意味もある)をホワイトハウスに移植したところ、翌日に100万人が仕事を失ったんですから…」

2001年以降天文学的な数字へと化している軍事費に加え、ハリケーン被災地の復興事業に多額の予算を捻出しなければならないブッシュ政権だけど、数少ないアピール・ポイントの1つである減税政策を中止する計画は無いようで、各省庁の予算を削りながら復興事業費を作り出すらしい。僕は経済の専門家ではないので、この部分は適当に聞き流してほしいんだけど、どうも最近数年間のバブル経済を見ていると(例えば、僕の住むアーリントンに遊びに来た人はみんな、そのバブリーな建設ラッシュに絶句していく)、騙し騙しでやってきたツケが今にやってくるんじゃないかと心配してしまう(これは決してジョージWだけの責任ではなく、クリントンや前の世代からの不の遺産だと思っている)。アパートやホテルが高級コンドミニアムに変わったり、数年前に買った家の値段が3倍以上になるなんて話が僕の周囲でもよく出てくるけれど、同時に医療費や保険、学校教育といった問題は日に日に悪化しているし…。マサチューセッツ州ニュートンとワシントンDCのサウスウエスト地区では、公立学校で受けれる教育の質に天地の差がある事は誰でも知っている。以前に流行ったジョークを思い出しながら、今日はハリケーン復興事業に関するニュースを紹介したいと思います。

ブッシュ大統領は16日午後、ホワイトハウスで記者会見を行い、ハリケーン「カトリーナ」の復興事業のために増税を実施するつもりはないと語った。大統領は復興に莫大な予算が必要との認識を示しながらも、増税ではなく、各省庁の予算を減らす事で復興費用を捻出していくとコメントしている。しかし、復興事業にどれだけの予算が必要になるのかに関して、大統領は具体的な言及を避けている。15日夜にニューオーリンズで行われた国民向けテレビ演説の中で、ブッシュ大統領は復興事業費の大部分を政府が捻出するだろうと語っており、連邦議会はすでに被災地に対する620億ドルの緊急支援を承認している。被災地全体の復興にかかる費用は、総額で2000億ドルに達するとの指摘も存在する。複数のエコノミストがCNNに語ったところでは、復興費用捻出のために赤字予算が拡大し、結果として景気の停滞を招く可能性もあるとの事。また、景気停滞によって税収や住宅ローンの利率にも変化が生じるかもしれない。

しかし、復興事業が逆に国内の景気を活性化させるだろうと予測するエコノミストもおり、国内経済への大きな打撃にはならないと主張する。「カトリーナ」の発生前、議会予算事務局(CBO)は2006年度連邦予算の赤字額が3140億ドルになるだろうとの見通しを発表しており、今年度の赤字額から約170億ドルほどダウンする見込みだ。CBOの広報担当者はCNNの取材に対し、復興事業による赤字予算の拡大がどの程度になるのかは、今の段階で結論付ける事はできないと語っている。また、ホワイトハウスの経済顧問アラン・ハバードは、ブッシュ政権が2008年まで続く恒久減税政策を変更するつもりはなく、2009年までに赤字予算を半減させる計画も継続していると語った。16日に演説を行ったジョン・スノー財務長官は、「アメリカ国内の経済成長は今も続いており、復興事業の費用を捻出しながら赤字予算の減らす事は可能だと思う」と語っている。

政権内部の楽観論を吹き飛ばすかのように、民間の金融アナリストからは赤字予算拡大への懸念が出始めている。リーマン・ブラザーズのイーサン・ハリス主席エコノミストはCNNに対し、来年度の財政赤字が4500ドルという記録的なものに達する可能性を指摘している。ニューヨークの投資会社マキシム・グループのバリー・リソルツ氏は、「財政赤字額は今後3年から7年の間、上昇し続けるでしょう」と推測を示し、2006年度の財政赤字が5000億ドルに達しても驚かないだろうと語った。リソルツ氏は財政赤字が巨大化すると政府が民間セクターへ流れるはずの資本を「吸い上げる」傾向があるとして、これが原因で景気の停滞が始まる可能性も十分にあると語っている。

久しぶりにチェックした「ル・モンド・ディプロマティーク」日本語電子版の記事の中に、映画産業に関連した面白い話題を発見。記事というよりは論文に近く、ジョージ・ワシントン大学の政治学教授が執筆した物なんだけど、ハリウッドの映画経済がどのように衰退しているのかを上手くまとめている。映画産業誕生時におけるハリウッドとヨーロッパの価値観の違いや(テーマではなく、スターで映画を作る手法の説明は興味深い)、テレビの脅威、それから海外ロケの魅力などが触れられている。数日前のブログでルイジアナ州の映画ロケ誘致活動を紹介したけれど、全米各地の自治体による積極的な誘致活動とは裏腹に、海外にロケ地を求めるプロダクションは多いようだ。雑学知識として、キューブリック監督の「フル・メタル・ジャケット」がイギリスで、スコセッシ監督の「ギャング・オブ・ニューヨーク」がイタリアで撮影されたのは知っていたけど、「タイタニック」のほとんどがメキシコで撮影され、南北戦争をテーマにした「コールド・マウンテン」がルーマニアのカルパチア山脈で撮影されていたのには驚いた。有名映画のロケ地に意外な場所があったりするけれど、なんだか「アイ・ラブ・ニューヨーク」とプリントされた中国製のシャツをマンハッタンで買ったような気分…。

写真:ヒューストン市内のリライアント・アリーナに新たに設けられた避難所のベッドに座るルイジアナ州出身の女性。15日、市内のアストロドームに滞在していた被災者がリライアント・アリーナに移動した。(ヒューストン・クロニクル紙より)

悪夢の5日間、その実態が少しずつ明らかに

2005-09-16 13:13:04 | ハリケーン「カトリーナ」関連
ブッシュ大統領は15日午後9時(東部時間)、ハリケーンの被災地となったニューオーリンズで国民向けのテレビ演説を行い(演説のスクリプト:英語)、被災地復興に全力を挙げると改めて強調し、連邦政府が被災地の中小企業などに減税や貸付を行い経済的な復興を実現していくと語っている。また、被災者への住宅提供や就業支援も、連邦政府が中心となって行われるようだ。プライムタイムでのテレビ演説としては異例とも言えるジャケットとネクタイ無しでの演説を行った大統領は、災害発生から最初の数日間、各省庁での協力体制が機能しなかったことを認め、対応の遅れとなった原因を調査するよう命じたとも語っている。しかし、民主党や市民団体から要求されるような、独立機関による調査活動の実施については結局触れられなかった。

「カトリーナ」関連のアップデートをもう少し。ロイター通信が15日午後に報じたところによると、ハリケーンによる大きな被害を受けたミシシッピー州のジム・フッド司法長官が複数の保険会社を相手取り、洪水被害への保険金支払いを求めて訴訟を起こす模様だ。関係者が15日に行った証言で明らかになった。通常、保険会社は住宅所有者に対して洪水被害で保険金を払う事は無く、保険の適用は暴風による被害などに限定される。しかし、ミシシッピー州政府側は「カトリーナ」による暴風が洪水を発生させたとして、保険会社に対して支払いを求めていく構えだ。今日最初に紹介するニュースは、少しずつ明らかになってきた避難所生活での様子についてのもので、ブッシュ政権に批判が集まる原因ともなったニューオーリンズ市内の避難所での悲惨な状況をワシントン・ポスト紙が報じている。

15日付のワシントン・ポスト紙は1面に特集記事を掲載し、ハリケーン「カトリーナ」から避難するためにニューオーリンズ市内のコンベンション・センターに集まった約2万人の住民が、救援活動が行われない中で過ごした5日間の様子を、70人以上の被災者や救助活動関係者の証言をもとに報じている。コンベンション・センターは8月29日に避難所として解放されたが、それからの4日間、国土安全保障省(DHS)や連邦緊急事態管理局(FEMA)の幹部職員はセンター内の状況を正確に把握していなかったようで、DHSのマイケル・チャートス長官も9月1日のインタビューで「センターに食料や水が無い事を初めて知った」とコメントしている。「それはもう、死の宣告を受けたような気分でした」、当時の状況について話す25歳のトニー・キャッシュさんは空腹を我慢しながらセンター内で3日間を過ごしたが、被災者同士による暴力行為が日常茶飯事だったとも語っている。

コンベンション・センター内で何人の被災者が死亡したのか、現在も正確な数字は出ておらず、警察や軍は10人程度と見積もっている。しかし、複数の目撃者がワシントン・ポスト紙に語ったところによると、センター内での暴力行為や強盗、レイプなどは8月29日の段階ですでに発生していた模様だ。9月2日にアーカンソー州兵部隊が送られるまで、センター内は文字通りの無法地帯と化していた。コンベンション・センター内の大型展示場は250人のルイジアナ州兵の臨時キャンプ地として使われており、壁を挟んだ向こう側で2万人の被災者が生活を送っていたが、州兵は展示場の扉付近に軍用車両を置き、被災者が流れ込むのを阻止していた。このルイジアナ州兵部隊は治安維持命令を受けておらず、しばらくしてからコンベンション・センターを離れている。「ケント州立大学で発生したような惨事を引き起こしたくなかったですし(1970年、オハイオ州のケント州立大学キャンパスで、反戦デモ中の学生に州兵が発砲し、4人が死亡している)、この部隊は群衆整理の訓練すら受けていなかったんです」、ルイジアナ州軍のラッセル・ホノール中将はそう語った。

8月29日、ハリケーンがニューオーリンズを通過する中、市内で救助された住民はトラックやバンでコンベンション・センター前に降ろされた。大雨のため車で移動できるルートが制限され始めており、地理的にも好都合だったセンター前にはすでに約1000人の被災者が集まっていたのだという。当時、コンベンション・センター内には職員やその家族350人ほどが滞在していたが、センターのジミー・フォー館長は停電と雨漏りに加えて、建物外に集まり始めた住民の対応にも頭を抱えていた。日没後すぐ、フォー館長は建物の外に出て、周辺に集まり続ける被災者達に対し、館内の電力は失われ水も食料もない状態で避難所として機能する事はないと説明を繰り返した。フォー館長が建物に戻ると、守衛は全ての扉をロックしたが、扉の1つが住民らによって破壊され、センター内に数千人の被災者が流れるように入ってきたのだという。それから5日間、コンベンション・センターに連邦政府からの救援物資が届く事も、治安維持で州兵が配置される事も無かった。

ニュージャージー州ニューアークにある生物テロ対策研究施設で、伝染病の病原菌を注射された3匹のハツカネズミが姿を消していた事が、15日までにABCニュースの調べで明らかになった。関係者らの話によると、国立公衆衛生研究所がニューアーク市内にある医科歯科大学のキャンパス内で運営する伝染病研究センターで、約2週間前に実験用ハツカネズミ3匹が姿を消した事が発覚し、センターの職員らはFBIやバイオテロ専門家からポリグラフ検査を含む取調べを受けていた模様だ。FBIニューアーク支局のスティーブ・シーゲル特別捜査官はABCニュースの取材に対し、「FBIはこの件の報告を受けてから、可能な限りの人員を捜査に動員しています」と語り、捜査が広範囲にわたって行われている事を示唆している。「(ハツカネズミの失踪が)市民生活に大きなリスクを与える事はないでしょうし、犯罪やテロと結びつくような証拠も見つかっていません」、シーゲル捜査官はそう付け加えた。

しかし、連邦政府関係者らは研究所内のずさんな管理体制を非難しており、公衆衛生上の大きなトラブルが発生していてもおかしくはなかったと指摘する。研究所では姿を消した3匹を含む24匹のハツカネズミがバイオテロや伝染病の研究目的で飼われており、これらのハツカネズミには腺ペストなど複数の伝染病を引き起こす細菌が注射され、セキュリティの厳しい施設内に保管されてるはずだった。地元紙「スター・レジャー」が15日に報じたところによると、ハツカネズミへの細菌注射は伝染病の新たな治療方法を探し出す目的で行われた実験の一環だったのだという。24匹のハツカネズミは3ヶ所の檻に分けられていたが、このうちの2つでネズミが死亡したため、檻内部の就寝部分などが焼却処分されている。研究所スタッフの取調べを行ったFBIテロ対策班関係者らの話では、この際に行われた檻の内部検査などに手抜きが存在した可能性があるとの事だ。

捜査関係者らの間では、外部へのアクセスが厳しく制限されている研究所から3匹のハツカネズミが逃げ出した可能性は低いとの結論が出されているものの、研究所内部で失踪した3匹が発見されたという報告が無いのも事実だ。仮に3匹が研究所を抜け出していたとしても、その生存期間は約3日ほどとされており、すでに死亡している可能性が高い。ニューアーク市内の複数の病院でも調査が実施されたが、現在までに感染症の報告は出ていない。医療関係者らがABCニュースに語ったところでは、失踪したネズミから人間が感染した場合でも、発病の初期段階では抗生物質での治療が可能との事だ。しかし、専門家の中には今回のような事故がこれからも発生する可能性があると指摘する者もいる。アリゾナ州立大学薬学研究所のステファン・ジョンソン所長は、「(今回のネズミ失踪騒動による)危険度は低いですが、管理体制の問題点を露呈しています。テロ対策目的もあって、伝染病研究には以前よりも多くの資金とスタッフが投入されていますが、管理が追いついていない状態なのです」と語っている。

雑誌原稿の締切日が頭をよぎりながらも、今日もまた気分転換に(たまにするから気分転換であって、僕みたいに何度も気分転換しているのもどうかとは思うけど、リフレッシュメントは大切ですぞ)映画のDVDを借りてきた。おそらく、今夜もベッドに入って、映画の最後を見ることなく眠りにつくんだろうけど、自宅近くにレンタル店があるとついつい仕事の帰りなどに寄ってしまうもので。今日借りてきたのは日本映画の「誰も知らない」とコメディ映画「フィーバー・ピッチ」の2本。「フィーバ・ピッチ」は僕の好きな作家ニック・ホーンビーがロンドンのサッカー・ファンをテーマに書いた小説がオリジナルで、1997年にはコリン・ファースで映画化されているけれど(サッカー好きの方、この映画はかなりオススメですよ)、リメイク版ではロンドンがボストンに、アーセナルがレッドソックスに変更されている。ハリウッドでリメイクされたヨーロッパ映画、今まで面白かったと思えたのは片手で数えれるほどだけど、主演のドリュー・バリモアの可愛らしさとフェンウェイ・パークがテーマという事でよしとしましょう。1つだけ不満なのは、ブルックリン生まれのジミー・フェロンが共演している事。何たる冒とく…。

日本の大学時代の悪友から久しぶりにメールをもらい、いよいよ結婚式の日程が決まったと知らされた。僕は大学時代ずっと「ダスティン」と呼ばれていたんだけれど、この名付け親になったのが彼女で、1年の4月、(何の授業かは忘れたけれど)最初のクラスで隣になった時からそう呼ばれている。もう十年以上も前の話だけど…。結婚式の招待状も送ってくれるらしく、僕も絶対に出席したいなぁと思っている。僕に「びっくりドンキー」の世界を教えてくれたり、酔っ払って乗る電車を間違えて姫路方面に行ってしまった時に実家に泊めてくれたり、ホンマに色々とありがとう。新婚ホヤホヤの新居、必ず荒らしに行くかと思うので、どうかヨロシク!とにかく、お幸せに。結婚式(に出てくる料理だけでなく)、楽しみにしてるぜい。

写真はニューオーリンズ市内で排水作業が完了しつつあるエリアを歩く州兵。残された車から、洪水時の水位の高さがうかがえる。(ニューヨーク・タイムズ紙より)

気が付けば、いつの間にか「親友」にかわってた

2005-09-15 14:01:20 | ハリケーン「カトリーナ」関連
いろんなニュースが大挙して押し寄せた水曜日、ニューヨークではブッシュ大統領がアメリカ主導の国連改革をうったえ、ワシントンでは最高裁長官に指名されたジョン・ロバーツへの公聴会が引き続き行われ、デルタとノースウエストの2大航空会社が経営破綻した。サンフランシスコでは地元の連邦裁判所が公立学校での国旗に対する忠誠の誓いを違憲とする判決を出したが(一部の公立学校で行われるキリスト教の祈り同様、これもアメリカ国内で長く議論されてきたテーマで、いずれ関連した話を紹介したいと思っている)、日本でも凄く興味深い違憲判決が14日に最高裁から出ていたようだ。在外選挙権の制限(海外に住む僕のような有権者は、衆参両選挙で、比例区への投票しかできなかった)にようやく違憲との判決が出され、次回の選挙から在外投票のシステムが大きく変わる可能性が出てきた。長かったけれど、とにかく画期的な判決に拍手を送りたい。

ハリケーン「カトリーナ」が南部湾岸地域を襲ってから2週間半、今度は「オフェリア」という名の新たなハリケーンがノース・カロライナ州沖に到達している。今年7つ目のハリケーンとなる「オフェリアは」水曜日午後に風速85マイル(1時間)でアメリカ南東部のノース・カロライナ州湾岸部に接近し、ここからバージニア州方面へ北上を続ける模様だ。ノース・カロライナ州湾岸部の幾つかの地域ではすでに停電が報告され、洪水の発生も懸念されている。連邦緊急事態管理局(FEMA)はすでに200人のスタッフを現地へ派遣しており、「オフェリア」のような規模(カテゴリー1)のハリケーンに対し、通常よりも多くの人員を導入している。また、FEMAは湾岸警備隊の司令官を現地に派遣し、緊急時における素早い救助活動の準備を整えた。一方、ニューオーリンズ近郊の一部の地域では、今日から住民の帰還が許可されている。今日はこのニュースから。

ニューオーリンズ郊外の3つの町で水曜日、ハリケーン「カトリーナ」の直撃以来始めて住民の帰還が許可された。また、ニューオーリンズのネーギン市長も一部の地区で来週月曜日にも住民の帰還を許可する考えを示しており、数千人がニューオーリンズに戻る可能性が高くなってきた。水曜日に住民の帰還が求められたのは、グレンタ、ウエストウィーゴ、ラフィットの3つの町で、住民には避難先で水曜日からの帰還許可が伝えられた。ニューオーリンズのあるジェファーソン群では、一部住民による帰郷が来週から始まる予定だが、郡はウェブサイトの中でインフラが完全に整っていない事も認めている。「電気や下水、水道といった基本的なサービスの復旧は順調に進んでいますが、まだ標準のレベルにさえ達していません。食料品店やガソリンスタンドの多くも店を閉めたままです。もし、別の場所にもうしばらく滞在できるのなら、そうした方が賢明かと思います」、声明文はこのように住民に対し慎重さを求めている。

14日に帰還許可が下された3つの町は、ハリケーンによる直接的な被害を受けたものの、ニューオーリンズ市街のような洪水の被害はほとんど発生しなかった。約45万人が住むニューオーリンズ市では、堤防決壊後に市内のほとんどが洪水に見舞われたものの、ネーギン市長は13日に市内の一部の地域で住民の帰還許可が認められる事になるだろうと語っている。「ヘリコプターの音ばかり聞くのもウンザリです。ジャズを聞きたくなってきましたね」、そう語るネーギン市長は、来週月曜日を目処に市内のフレンチ・クォーター地区やビジネス街を含む4つの地区での帰還を認める方針を示した。帰還が認められる地区では洪水の排水作業もほぼ終了しているが、来週月曜日までに洪水の残留物に対する調査が実施され、下水や化学薬品、ガソリンなどが混じりあった残留物が健康上有害でないかどうかをチェックする予定だ。市の保健局スタッフがNBCニュースに語ったところでは、現在までに残留物が感染症を引き起こす兆候は見当たらないとの事。

14日に連邦政府によって発表された調査報告書では、下水に関連したバクテリアと有毒化学物質の影響で洪水の水質が健康上有害であると結論付けられている。しかし、ニューオーリンズ市内の大気汚染はそれほど深刻ではなく、住民が生活できるレベルだと判断された。市内中心部のビジネス街とフレンチ・クォーターでは2週間以内に電力復旧作業が完了する見込みで、市周辺の110万人に電力を供給するエンタジー・ニューオーリンズ社も復旧作業が約75パーセント完了したと発表している。しかし、明るい話題ばかりではなく、洪水の被害が最も激しかったニューオーリンズ市内東地区では、復旧の見通しが未だに立たない現実に直面している。地元紙ニューオーリンズ・タイムズ・ピカユーンによると、東地区の2万7000世帯がブルドーザーによる整地作業の対象になる可能性があり、周辺住民への帰還許可が出されるまでに半年を要するかもしれないとの事だ。

14日付のニューヨーク・タイムズ紙が報じたところによると、アメリカの航空当局関係者は1998年の段階でアルカイダが旅客機を使って国内のランドマーク的な場所を攻撃する可能性があるとの警告を受けていた。独立調査期間「911委員会」が昨年用意した報告書は今年1月にブッシュ政権によって公表されたものの、多くの部分が黒く塗りつぶされており、委員会のメンバーからは「これでは911事件の原因解明に何の役にも立たない」と批判が噴出していた。委員会からの圧力もあって、ブッシュ政権は黒塗り部分の多くを公開した報告書を13日に国立公文書館のウエブサイト上に公開し、これによって98年に連邦航空局(FAA)が受けていた警告の存在が明らかになった。FAA幹部は同時多発テロが発生する数ヶ月前にも、全米の空港で実施される手荷物検査の能力低下が著しいと警告を受けており、ハイジャック機が離陸した3つの空港のうち2つが「問題の空港」として指摘されている。

ブッシュ政権は「デリケートすぎる問題」として、現在も報告書の一部記述を黒塗りにしたままだが、13日に公開された報告書には、FAA側が以前から警告を受けてきた事実や政府機関同士の縄張り争いの存在が記録されている。新たに明らかになった情報は、これまで「最高機密」として空港や航空会社の一部幹部だけに知らされていたものだった。「我々は報告書を全て公開しても国家安全に全く支障がないと確信していますが、それでも今回の新たな情報公開を歓迎します」、911委員会で中心的役割を担ったトーマス・キーンとリー・ハミルトンの両氏は共同声明でそう語った。しかし、ブッシュ政権側は報告書の全面公開には反対の姿勢を貫いており、国土安全保障省のルス・ノック報道官はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、「報告書を全面公開することで、その情報がテロリストに悪用される可能性もあります」とコメントしている。

今回新たに明らかになった情報では、テロ事件発生前にダレス空港(ワシントンDC)のユナイテッド航空カウンターにある乗客識別システムの約25パーセントが要求される犯罪歴チェックを行っていなかった事実や、アメリカン航空の旅客機の多くで操縦室ドアの安全管理対策が十分に行われていなかったことが判明している。民間航空機をハイジャックして行われるテロの可能性は1995年に複数の情報機関が共同で作成した報告書で早くも指摘されており、98年と99年にはFAA内部の情報部門がアルカイダによる航空機を使った自爆テロの可能性を指摘したが、この情報部門は最終的に「こういう形のテロが起きる可能性は極めて低い」との結論を出している。2000年には、FAAが各空港や航空会社に対してハイジャックの可能性を頻繁に警告しているが、それは「政治犯やテロリストの釈放を目的としたもの」と結論付けられていた。

、ラジオの仕事を終えてから猛ダッシュで近所のスポーツバーへと急いだ。友人らとサッカー欧州チャンピオンズリーグの数試合を見るためで、僕は一緒にサッカーをするナイジェリア人とジャマイカ人の「おっちょこちょいコンビ」に昨日の晩から会いたくて仕方がなかったのだ。スポーツバーの扉を開けると、ナイジェリア人のアヌウとジャマイカ人のギャリーもすでに来てて、なぜかギャリーは近くのドーナツ屋で買ってきたバナナヨーグルト・アイスを美味そうに食べていた。悪気のない営業妨害、それを見るバーのオーナーは苦笑い。この2人、サッカーの試合では中々の名コンビぶりで、相手選手を必要以上のタックルで試合続行不可能にする事もしばしば。兄弟のように仲がいい事と、ピッチ上での優雅すぎる残虐性から、いつしか僕らは2人を「ウダイとクサイ」と呼び始めた。「よぉ、ウダイ」、いつもの様に声をかけると、「あの兄弟よりはマシなフットボールをしてるつもりだけどなぁ」とアヌウが笑って言い返した。たしかに…、彼はブラジルでプロ選手だったんだから。

アヌウと話がしたかった理由、それは昨日行われたサッカー欧州チャンピオンズリーグの試合で、レアル・マドリーがリヨンに0-3で粉砕されたからだった。フランスリーグの王者とはいえ、資金力でレアルとは大きく差をつけられたリヨンが、ホームでレアルの「スノビッシュ」なスター選手に大恥をかかせたわけで、見ていて快感すら覚える試合展開だったのだ。昨日の勝利の立役者となったのが、中盤の底からゲームを操るブラジル人のジュニーニョ・ペルナンブカーノで、フリーキックの名手でもある彼は1ゴール・1アシストと大活躍だった。実はジュニーニョのブラジル時代、彼のチームメイトだったのがアヌウで(彼はブラジルでプロ生活を経験したあと、アメリカのプロチームの入団テストを受けたが、以前からの怪我が原因で合格できなかった)、ブラジル代表にも定着した元チームメイトの活躍が本当に嬉しいようだ。今日も2時間、タップリとジュニーニョの話を聞かされた。いつの間にか「俺の親友の…」という言葉から自慢話が始まるようになったけど(前は元チームメイトって言ってたのに。黙って許してやりましょ~、こういう時は)、同じ釜のメシを食った仲間が世界の檜舞台で活躍するなんて、きっと毎日のニュースが楽しみなんだろうなぁ。

写真:テキサス州ヒューストンのダグラス小学校に作られた被災者の子供向けクラス(AFP通信より)


54パーセントという数字があらわす、アメリカ人の怒り

2005-09-14 12:47:48 | ハリケーン「カトリーナ」関連
ワシントンDCの市緊急事態対策本部のスタッフからようやく電話があり、市内の軍用倉庫に設けられた避難所で生活を送る被災者の話を少しした。数日前、ワシントンDCにやって来た被災者にインタビューをできないかと考えた僕は、関係者に連絡をして色々と情報を集めていたんだけど、市側もボランティア・スタッフが必要なほど人手が足りない状態で、ようやく今日になって対策本部の幹部と話をする事ができた。ワシントンにやって来たばかりの被災者家族たちもインタビューを受ける余裕が無いほど切羽詰った状態で、避難所でのインタビューはまだ難しい状態だと言われたが、僕に連絡をくれた女性は避難所以外の場所(親戚の家やホテルなど)に滞在する被災者へのインタビューは可能かもしれないと言い、ワシントン周辺の避難所以外の場所に滞在する被災者たちのコーディネーション役を務める赤十字職員の携帯電話番号を教えてくれた。全てがうまく行けば、今週末あたりから取材を開始したいと思っている。

このブログでも何度か書いてきたように、被災者の多くは全米各地に移動し、そこで子供をそのまま学校に編入させた家族も少なくない。今日の午後入ってきたニュースによると、テキサス州ヒューストンのジョーンズ高校で、地元の高校生とニューオーリンズから編入してきた高校生とのグループの間で乱闘騒ぎが発生し、4人が逮捕され3人が病院で手当てを受けたのだという。ジョーンス高校にはニューオーリンズで被災した学生約200人が通っていて、学校側も生徒同士のトラブルが発生しないように注意を払っていた矢先の出来事だった。ヒューストン独立学区のテリー・アボット広報が地元紙ヒューストン・クロニクルに語ったところでは、登校中のニューオーリンズ出身学生のグループに地元の高校生がジュースの缶を投げつけた事から、乱闘は発生した模様だ。被災地を避難した学生の多くが、今までと全く環境が違う場所での学校生活を強いられているが、イジメなどの問題が発生しない事を願うばかりだ。

12日にニューオーリンズ市内を視察したブッシュ大統領は、現地で記者団に対し政府の救援活動が「早急かつ公平に行われた」と語ったが(注:翌日の13日、大統領はワシントンで「救援活動が遅れた責任は私にある」と発言している)、最新の世論調査では過去最低の支持率をマークし、救援活動の遅れを独立機関によって調査するよう望む声が急増している。ワシントン・ポスト紙とABCニュースが共同で行った世論調査では、回答者の54パーセントが大統領のハリケーン被害への対応を「支持しない」と答えており、また57パーセントの回答者は被災地域の市や州政府にも責任があると回答した。9月8日から11日にかけて、全国で無作為に選ばれた1201人を対象に実施された今回の世論調査では、人種間で救援活動に対する評価が明確に分かれている事実も浮き彫りにしている。白人回答者は4人に3人の割合で、救援活動の遅れに人種や貧困といった問題は存在しなかったと答えているが、黒人回答者はほぼ同じ割合で「存在した」と答えている。

12日にニューオーリンズで記者団から救援活動と人種問題について聞かれたブッシュ大統領は、「湾岸警備隊のヘリコプターが救助活動を開始した時、助けを求める被災者の肌の色がチェックなどされたわけも無く、1人でも多くの人を救うのに必死だったのだ」と語り、政府による対応の遅れと人種的背景がリンクするという見方を払拭するのに懸命だった。ワシントン・ポスト紙が行った世論調査では、「ブッシュ大統領を支持する」と答えた回答者が僅かに47パーセントにとどまり、2001年にブッシュ政権がスタートしてから最低の数字を記録している。また、「ブッシュ大統領を支持しない」と答えた回答者も54パーセントにまで上昇し、今年1月に行われた世論調査の結果と比べて、不支持率が10ポイント以上増加している。1月の調査では、共和党支持者の91パーセントがブッシュ大統領を支持していたが、13日に発表された調査でブッシュ大統領を支持する共和党回答者は78パーセントにまで落ち込んでいる。

「確固たるリーダー」としてのブッシュ大統領の評価も落ち込みを見せており、イラクで主権移譲が実施される直前の昨年5月に行われた調査と比較してみると、12ポイント減少した約50パーセントにとどまっている。昨年5月の調査で、ブッシュ大統領を「非常時や戦時に信用できる人物」とした回答者は全体の60パーセントだったが、今回の調査では49パーセントという数字だった。2001年の同時多発テロ事件後に作られた独立調査委員会のような組織を今回も設立するべきと、民主党議員らを中心に強く要求されているが、世論調査では回答者の多くが支持政党に関係なく独立機関の設置を求めている(共和党支持者では64パーセント、民主党支持者では83パーセント)。また、60パーセント以上の回答者が連邦政府の対応に批判的だった(共和党支持者で41パーセント、民主党支持者では79パーセント)。

ハリケーンが被災地域の経済に大きな打撃を与えるだろうとの予測は、2週間前から絶え間なく議論されてきたトピックだけど、今日のニューヨーク・タイムズ紙に興味深い記事があったので、2つ目のニュースとして紹介したいと思います。僕も今日まで全く知らなかった話だけど、ルイジアナ州では地元経済活性化のために以前からハリウッド映画のロケ誘致活動を行っていた。ルイジアナ州が頻繁に登場する映画として、古くは「イージー・ライダー」といった作品があったり、90年代にも「JFK」や「インタビュー・ウイズ・バンパイア」などがニューオーリンズで撮影されている。最近でも僕の好きなレイチェル・ワイズが出演した「ランナウェイ・ジュリー(邦題はニューオーリンズ・トライアルって言うらしい。さっき調べて初めて知った)」や「ファンタスティック・フォー」のロケ地にニューオーリンズが選ばれている。でも、ハリケーンの影響で軌道に乗りつつあったルイジアナ州のロケ誘致活動に暗雲が立ち込めているようだ。

カナダで開かれているトロント国際映画祭に集まったハリウッドの映画プロデューサー達は、朝食会の席でハリケーン「カトリーナ」の話題を深刻に話し込んでいた。今回のハリケーンによって深刻な被害を受けたルイジアナ州は、以前から映画プロダクションの誘致活動を展開しており、税金に対する優遇措置も認められている事から、ハリウッド映画関係者の間では人気の撮影場所となっていた。ニューオーリンズを含むルイジアナ州の広範囲で「カトリーナ」の影響がハッキリと表れており、映画業界の関係者達はルイジアナ州での制作活動を継続していくべきかどうかの決断を迫られている。デンゼル・ワシントン主演のアクション映画「デジャブ」の撮影はハリケーンがニューオーリンズを直撃した時にも続けられていたが、クルーはルイジアナ州外で引き続き撮影を行う方針を固めている。また、ブレンダン・フレイザー主演の「ザ・ラスト・タイム」も、その撮影がルイジアナ州とは別の場所で行われる事が決まった。

ルイジアナ州内に残って撮影を続けるプロダクションも存在し、1億5000万ドルの予算をかけたケビン・コスナー主演の「ガーディアン」は、同州北部にあるシュレッブポートという町で撮影が続けられる。また、ハリケーン後に撮影を一時中断していたワーナー・ブラザースの「ザ・リーピング(主演はヒラリー・スワンク)」も、ニューオーリンズからバトン・ルージュに移動して撮影が行われる予定だ。ルイジアナ州の地元映画関係者らはニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、ニューオーリンズやその周辺地域の激しい被災状況を認めながらも、州によるロケ誘致活動は可能だと主張した。「映画プロダクションはこれからもルイジアナにやって来ますよ」、映画プロデューサー達の税制優遇コンサルタントを務めるウィル・フレンチ氏はそう語った。「CNNで見るほど、全てがひどいわけではないので」

ルイジアナ州は2002年に全米で最も好条件の映画プロダクション向け税制優遇措置を打ち出しており、映画のロケは州経済にも非常に大きな影響を与えている。今年も20本前後の映画がルイジアナ州内で撮影される予定で、地元への直接的な経済効果は1億2500万ドルに及ぶと見積もられている。しかし、州議会は今年になって税制優遇措置を変更する法案を通過させ、来年からは映画プロダクションが州内で直接出費した分にだけ優遇措置が適用される運びとなった。ルイジアナ州政府内に作られた映画局のアレックス・ショット局長はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、優遇措置の税額減免が18パーセントから25パーセントに引き上げられたため、来年以降のロケ誘致活動にそれほど大きな影響は無いと語る。しかし、ハリケーンによるダメージが大きく残る地域では復興作業にも時間が必要となり、ルイジアナをロケ地として使うプロダクションが減るのは確実と指摘する声も存在する。

最後まで映画の話になってしまうけれど、昨日ベッドに入りながら寝室に置いたテレビで日本映画「浪人街」を見た。僕がアメリカに来た8年前と比べると、最近は大手ビデオ・レンタル店にアジアやヨーロッパの外国映画が多く並ぶようになり、僕も最近は月に一回は日本映画をDVDで見るようになった。勝新太郎の映画といえば、日本の学生時代にテレビの深夜放送で「座頭市」や「兵隊やくざ」といったシリーズ物を見た記憶しかなかったけれど、1990年公開の「浪人街」での怪演を見て、しばらく興奮して眠れないほどだった。それにしても、日本映画だけでなく、ヨーロッパからアジア、それに南米で製作された最新映画まで簡単にDVDで借りられる時代になった事に今でも驚きを隠せない。でも、最近になってダレス空港近くの住宅地に住む友人から聞いた話では、同じ系列のビデオ・レンタル店でも、アメリカ人人口が圧倒的に多い郊外ではハリウッド映画しか借りれないんだとか。マーケティングの力、おそるべし…。

今日紹介する写真は、ニューオーリンズのフレンチ・クォーター界隈で「ドクター・ラブ」の愛称で知られるフィリップ・ターナさんを撮ったもの。ターナさんのように、フレンチ・クォーターから離れるのを拒む住民は少なくない。(ヒューストン・クロニクル紙より)

ブッシュはニューオーリンズに入り、ブラウンはワシントンで辞表を用意する

2005-09-13 12:25:53 | ハリケーン「カトリーナ」関連
ガーディアン紙の12日付の記事によると、ニューオーリンズなどの被災地域で民間軍事会社の「傭兵」が警備活動に従事しているとの事で、略奪から資産を守りたい一部の富裕層が民間警備員を雇い始めたらしい。こういった話は噂として1週間前から耳にしていたけれど、ガーディアン紙はノース・カロライナ州のブラックウォーター社といった実名を出し、数百人規模の民間警備員が被災地域で活動していると報じている。とりあえず気になったので、ワシントン市内にオフィスを構えるロビイストに電話を入れた。昨年夏、僕はイラクで活動する民間軍事会社をテーマにした雑誌記事を書く機会があり、事務所の代表者に非常に協力してもらった事がある。ブラックウォータ社を含む十数社がメンバーに名を連ねる彼の組織は、ワシントンで精力的にロビー活動を行っていて、紛争地や被災地での民間警備会社の行動範囲を拡げるために情報宣伝活動やら根回しやらに励んでいる。

代表の男性が別件で手を離せなかったため、別の女性スタッフと少し話をする事に。彼女の話によると、グループ・メンバーでもあるブラックウォーター社は150人程度を被災地での警備活動に派遣しているが、全ての民間警備員の数は把握できていない状態だそうだ。しばらくして、代表の男性と電話が繋がり、軽く世間話をした後に本題に移る。「ハリーバートンみたいに、一儲け狙ってるんじゃないの?」、僕は率直に質問をぶつけた。「治安維持やボディーガードではなく、家のガードなんかが仕事になっているから、僕らの業界にそれほどの金は流れてこないと思うよ。略奪行為も沈静化して、州兵や軍隊も動員されているからね」、代表はそう語った。アフリカのリベリアで内戦が激化した際、現地に残されたアメリカ人を救出しようとした海兵隊に輸送手段がほとんど無く、彼の関連会社が現地の海兵隊にヘリコプターをレンタルした事があった。アメリカ政府による救助活動の遅れが批判される中、僕は民間軍事会社が将来的に救助活動も行うんじゃないかなと思ったりしたんだけど、ますます「持つ者」と「持たざる者」との間で生死の境目がクッキリ出るんじゃないかと恐怖感に駆られた。「災害」と「民営化」、考えたくもない組み合わせだね。

ブッシュ大統領は12日、ニューオーリンズ市内の視察を行い、記者団に対して救援活動が遅れた背景に人種差別が存在したという批判を真っ向から否定した。また、多くの兵士がイラクに投入されていたために救援活動がスムーズに進まなかったのではとの問いに、「我々は救助活動とイラクでの作戦の両方を遂行できる兵力を持ち合わせているし、イラクのせいで国内の兵力が足りなかったと主張するのは非常識だ」と反論している。一方、ニューオーリンズ市内の病院では新たに40体以上の遺体が発見され、そのほとんどは老人だった。現在までに死因は特定されていないが、関係者の話では、ハリケーン後に(空調機器の動かなくなった)病院内の温度が急上昇した事が原因と考えられている模様だ。12日夜までに確認されたルイジアナ州内の死者数は、これで約280人となった。ワシントンでは、マイケル・ブラウンが正式に辞任を発表している。今日はこのニュースから。

連邦緊急事態管理局(FEMA)のマイケル・ブラウン長官は12日、かねてから噂されてきた辞任を正式に発表した。ハリケーン「カトリーナ」の救援活動におけるリーダシップの欠如を批判されてきた長官は、3日前に救出作業の責任者の座から降ろされ、首都ワシントンに召還されていた。ブラウン長官の辞任が正式に発表されると、ホワイトハウスは後任として現在FEMA内の災害準備部門で責任者を務めるR・デービッド・ポーリソン氏を指名する事を明らかにしている。FEMAによると、ポーリソン氏は火災救助の分野で30年の経験を持ち、マイアミ・デイド郡(フロリダ州)の消防課のトップを務めた時期もある。「FEMAの任務にこれ以上の支障を出さないためにも、私がここで辞める事が重要なのです」、12日午後にFEMAが用意した声明の中でブラウン長官はそう語った。

今月初め、ブッシュ大統領はブラウン長官を「救援活動において素晴らしい仕事をしている」と手放しで賞賛したが、FEMAによる救援活動の遅れが明らかになるにつれて、ブッシュ政権には大きな政治的プレッシャーが乗りかかっていた。そして、ブラウン長官は先週金曜日にワシントンに召還され、代わって湾岸警備隊のサッド・アレン副司令官が被災地救援活動の最高責任者に就任している。12日午後、ミシシッピー州ガルフポートの被災地視察を行っていたブッシュ大統領は記者団からブラウン長官の辞任に対するコメントを求められたが、「信じられない気持ちだね。ただ僕よりも君らの方が(辞任に関して)多くを知っているだろうから、コメントはできないよ」と語っただけだった。また、ブッシュ大統領はブラウン長官の辞任に関して、長官本人や国土安全保障省のマイケル・チャートフ長官と話を行う事は無かったと語り、あくまでブラウン長官個人による決定を強調した。

ブラウン長官の辞任発表には、ワシントンの民主党議員らも素早い反応を示し、ナンシー・ペロシ下院院内総務(カリフォルニア州)は午後に発表した声明の中で、「ブラウン長官の辞任はこの国と被災地域の住民達にとって正しい選択でした。(中略)次期FEMA長官は今回の救出活動や将来の防災活動において、十分なリーダーシップを発揮できるだけの経験を持った人物が選ばれなければなりません」と語っている。ペロシ議員を含む複数の民主党議員は、ハリケーン被害への政府の対応の遅れを調査する独立機関の設置を求めており、共和党議員らによって設立された議会内調査委員会へのメンバー指名を行うつもりはないとも語っている。カトリーナが南部湾岸地域を通過する前、ブラウン長官はフロリダのハリケーンやカリフォルニアの森林火災を含む164件の大規模災害を経験してきたが、弁護士出身の長官が救援活動の経験に乏しいと指摘する声は以前から存在し、ニューオーリンズ市内のコンベンション・センターに約2万人の被災者が置き去りにされていた事実を把握していなかった問題が明らかになっている。

久しぶりにハリケーン以外のニュースを1つ。前から気になっていた最高裁に関わる話を。ブッシュ政権で初めて最高裁判所判事に指名されたジョン・ロバーツ氏だが、9月3日にウイリアム・レンキスト最高裁判所長官が死去したため、5日に改めて最高裁判所長官に指名されている。しかし、保守派のロバーツ氏の最高裁長官指名を巡っては、民主党や人権団体を中心に反対の声があがっている。最高裁判所内でのバランサー的役割を担っていた中道派のサンドラ・オコナー判事も辞意を表明しており、ブッシュ政権は新たな最高裁判事の指名を近く行う。12日から始まった上院司法委員会の公聴会では、ロバーツ氏も出席する中で、民主党と共和党の議員らが早速激しい議論を展開している。AP通信のベテラン政治記者トム・ラウムは12日夜に発表した分析記事で、両党の議員はロバーツ氏の最高裁長官指名問題よりも、もう1つの空席に誰が入るのかを非常に注意深く見守っていると報じている。

一時は2つの空席全てを保守派の人物が埋める可能性が懸念されていたが、ここに来てブッシュ政権が過去最低の支持率に直面している現実から、ブッシュ陣営と民主党との間で2人目の最高裁判事指名に政治的妥協が図られるかもしれないとラウム記者は分析している。リベラル派もしくはマイノリティからの指名が現実味を帯びてきている。しかし、ブッシュ陣営にとって共和党のベースともなる保守派層の存在を無視するのは用意ではなく、2人目の最高裁判事がアメリカの抱える非常にセンシティブな問題(中絶の権利や、同性愛者の権利、公立学校での礼拝などがその代表的な例)にリベラルな姿勢を示す事は、共和党の支持基盤の決壊を招きかねない不安定要素ともなる。ロバーツ氏が上院司法委員会と上院の両方から最高裁長官就任への承認を勝ち得るのは時間の問題とされ、ロバーツ氏も12日の公聴会で「私の仕事は野球で言うところのアンパイアであり、バットやボールを使うことはありません」と語り、政治色を出さない事をアピールした。

ブッシュ大統領が2人目の最高裁判事にオコナー判事のような中道派を指名する場合、その候補として真っ先に名前が挙がるのがアルバート・ゴンザレス司法長官やニューオーリンズ連邦控訴裁判所のエディス・クレメント判事で、2人はそれぞれ共和党中道派として知られている。しかし、国内の保守層からは2人の指名に反対の声も出始めており、とりわけゴンザレス長官の最高裁判事指名反対キャンペーンは日増しに活発化する様相を見せている。保守派からは最近になって連邦巡回控訴裁判所判事に就任したプリシラ・オーウェンを推す声が強く、ブッシュ大統領自身もオコナー判事の後任に同じく女性判事を指名したい考えだ。アメリカン大学にある議会・大統領研究センターのジェームズ・サーバー所長はAP通信の取材に対し、ただでさえ党派間の争いが激さを増す最高裁判事の指名において、支持率の急落に頭を抱えるブッシュ政権が何らかの妥協点を見出す事は確実だろうと語っている。

今日紹介する写真はニューヨーク・タイムズ紙のアンジェラ・ヒメネスが撮影した1枚で、テキサス州ヒューストンにあるシェルターの中で撮られたもの。写真に添えられたキャプションに寄れば、ニューオーリンズ出身のエディー・ネルソンさんと息子のエディ3世は先週になってニューオーリンズのスーパードームからヒューストンへ避難したが、ヒューストン市内のシェルターを出る事になり、荷物をまとめてシェルターを後にしたのだという。写真はシェルターを離れる間際のネルソン親子だけど、行き先や今後の予定については触れられていない。でも、オヤジと息子の笑顔から、もしかすると仕事や家が見つかったのかなと勝手に解釈してしまい、今日一番印象に残った写真に選んでみた。ネルソン親子の次のディスティネーションに幸せが訪れる事を、それからネルソン親子のような写真をこれからも見れる事を願って、僕は就寝前のコーヒーを作る事にする。

ニューヨーク、ニューオーリンズ、ガザ…、それぞれの9月11日

2005-09-12 12:52:18 | ハリケーン「カトリーナ」関連
9月11日、日本では選挙が行われ(アメリカ在住のため、詳しい情報が分からないけれど、公示2週間前に立候補した料理評論家のオバハンまで当選してしまって…、凄い国だよね)、アメリカ国内では911同時多発テロ事件の追悼式典が催された。また、パレスチナのガザ地区でも38年ぶりにイスラエル国旗がイスラエル軍兵士らによって下ろされ、(あくまでシンボリックなイベントではあるけれど)パレスチナ問題の今後の進展を祈りながらBBCニュースを朝から見た。テロ事件から4周年を迎えた日曜日、国内のメディア報道のほとんどはハリケーン関連の話題で占められ、毎年行われてきた大規模なテロ追悼式典報道を思い起こすと、奇妙なほど静かな1日でもあった。大手映画制作会社がこれまで乗り気ではなかった911テロ事件をテーマにした数作品の製作が始まっているし、幾つかの国内紙で指摘されるように、テロ事件の衝撃の風化が、カトリーナの衝撃によって早められているのかもしれない。

今日も「カトリーナ」関連のアップデートを少し紹介しておきたい。ブッシュ大統領は11日、3度目となる被災地域の視察のためニューオーリンズに到着し、近くに停泊中の海軍船で1泊する予定だ。明日の予定だが、海軍船の中で「カトリーナ」関連のブリーフィングを受けたあと、軍用車両に乗り込んでニューオーリンズ市内の視察を行うとの事。また、ミシシッピー州の被災地域も訪問してから、ワシントンに戻る予定となっている。一方、オーストラリアのサンデー・テレグラフ紙は11日、ハリケーン通過後のニューオーリンズ市内で、刑務所に囚人が4日間も取り残されていたと報じている。泥酔状態で逮捕され投獄された(アメリカでは、公の場で泥酔状態だと本当に逮捕される事がある)30歳のオーストラリア人が同紙に語ったところでは、ハリケーンが通過して間も無く、刑務所の看守達が逃げ始め、囚人達は食料や水が無い状態で4日間を監房で過ごしたのだという。

イラクの復興事業でハリーバートン社や子会社のケロッグ・ブラウン&ルートが入札無しの大型契約を受注していたニュースが、ずいぶん前から定期的に報じられていたけど、どうも歴代の政権と繋がりのある企業がハリケーン復興事業に政治的な力を使って参入し始めているようだ。今日は10日付のニューヨーク・タイムズ紙が報じた、被災地復興利権を巡るロビイスト達の動きについての話から紹介したい。ただ、誤解を恐れずに言えば、こういった大災害の復興事業は一刻を争うものが少なくなく、そういった場合には実績や規模の大きい会社に入札無しで仕事が回されるケースも少なくない。自分が阪神大震災を経験して感じた事だけど、ライフラインの復旧に入札を待ってる時間は無かったと思う。規模の大きな会社に政府関係者が役員やロビイストとして名前を連ねるケースは珍しくないけど(とりわけ、アメリカでは)、今回の復興事業でブッシュ政権と関わりの深い人物が利益をあげる事に、倫理的な違和感が少なからず存在するのも事実だと思う。

ハリケーン「カトリーナ」の南部湾岸地域通過から約2週間が過ぎ、米議会は被災地の復興に多額の緊急予算を承認したが、この復興利権を巡って早くも民間業者らによる活発なロビー活動が展開されている。フラー・コーポレーションやハリーバートンのような大企業から被災地域を仕事の場としてきた地元の建設業者まで、復興利権を巡って営業活動を仕掛ける会社の規模は様々だが、有名ロビイストを使って活動するケースも少なくなく、2人の元FEMA長官がそれぞれ代表を務めるコンサルタント会社も参入の機会をうかがっている。民間企業が連邦政府から仕事を受注する場合、入札などに関する様々なルールが設けられているが、今回のハリケーン被害が未曾有の規模という理由からルールの適用は一時的に停止されており、すでに数億ドル規模の契約が入札無しで民間業者と交わされている。連邦議会は総額620億ドルの復興予算を承認しており、保険会社などから流れる分も含めると、1000億ドル以上が被災地復興事業に投入される見込みだ。

イラク復興事業においても、アメリカ民間企業による入札無しの大型契約や、予算の無駄遣い、(契約を取るために頻繁に用いられた)縁故主義が問題となっていたが、複数の専門家は同様のケースが被災地の復興事業でも起こりうると警告している。「ワシントンにオフィスを構えるロビイスト達は、クライアントから絶え間無くかかってくる電話に嬉しい悲鳴をあげているでしょうね。620億ドルは途方も無い金額ですが、これもまだ頭金のようなものです」、ワシントンにある全米ロビイスト同盟で会長を務めた経験もあるジェームズ・アルバータイン氏はニューヨーク・タイムズ紙の取材にそう答えている。ブッシュ政権発足時から2003年までFEMA長官を務めたジョン・アルバ氏(ブッシュ大統領や現FEMA長官マイケル・ブラウンと親交が深い事でも知られる)や、クリントン政権時にFEMA長官だったジェームズ・ウイット氏は、現在それぞれのコンサルタント会社を経営しており、復興支援事業におけるロビー活動をワシントンを中心に展開している。

アルバ氏がクライアントとして持つケロッグ・ブラウン&ルート社(ハリーバートンの子会社)やショー・グループ社は、すでに被災地域での復興事業を開始しており、ウィット氏のクライアントにも大きなビジネス・チャンスが訪れそうな気配だ。ルイジアナ州のキャサリーン・ブランコ知事のアドバーザーも務めるウイット氏は、ネクステル・コミュニケーションズやハリス・コーポレーションといった通信大手を顧客に抱えており、被災地域における通信インフラ復旧事業に莫大な予算が投入されるのは必至だ。ウィット氏のコンサルタント会社には2004年の大統領選挙にも出馬した元NATO軍司令官のウェスリー・クラーク氏や、クリントン政権時に運輸長官を務めたロドニー・スレーター氏も所属しており、災害復興事業以外の分野でも幅広いロビー活動を展開している。同じく入札無しで契約を得た大手建設会社べクテル社(サンフランシスコ)のハワード・メナカー広報はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、「政治的な貢献は仕事を成功させるための要因ではなく、事実そのものなのです」とコメントしている。

南部湾岸地域を襲った大型ハリケーンによって家や仕事を失った被災者の多くは、隣接するテキサスやアーカンソーといった州に移動し、避難所やホテル、民家といった場所で新たな生活を模索している。被災者の多くはテキサス州などに移動したが、カリフォルニアからロード・アイランドまで、文字通り全米各地で被災者の受け入れが開始されており、12日付のクリスチャン・サイエンス・モニター紙は「この150年間で最大の住民移動が発生している」と報じている。これだけの規模の住民が一度に別の町や州に移動するのは南北戦争以来の事となり、同紙のインタビューに答えたライス大学のステファン・クラインバーグ教授(社会学)も、「この再定住はアメリカ史において最大規模のもので、ニューオーリンズの人口図に大きな変化をもたらすでしょう」と語っている。

米赤十字社と各州の被災者受け入れ担当者の話を総合すると、11日現在で約37万4000人の「カトリーナ」被災者が首都ワシントンを含む全米35州に用意された避難所やホテルで生活を送っている模様だ。しかし、複数の関係者は被災者の多くが親族の家に滞在している可能性を指摘し、全米各地に約100万人の被災者が存在するだろうと語っている。ハリケーンが直撃した南部湾岸地域から遠く離れた場所に移動する被災者も少なくなく、クリスチャン・サイエンス・モニター紙の取材では、そのまま新しい場所に定住したいと答えた人も少なくなかった。アリゾナ州フェニックスでは、2日間に渡って被災者を対象とした就職フェアが開催され、市内にある室内競技場の中で生活する被災者の多くが参加している。「ここでは1日3度の食事や、衣服、医療サービスまであるけれど、ニューオーリンズで同じ事は期待できないので、もう戻りたくは無いんです」、就職フェアに参加したバネッサ・ネルソンさんはそう語った。

フェニックスで開かれた就職フェアでは、120人の参加者のうち56人が仕事を見つける事に成功しており、州政府側はまずまずの手ごたえを感じている。単純労働市場からオファーの来る仕事が少ないという現実があるものの、各州では被災者を対象にした就職フェアをこれからも実施していく構えだ。ニューオーリンズの被災者の多くはいずれ住み慣れた町に戻るだろうと予測されているが、1960年に63万人だった市内の人口は44万5000人に減少しており、復興後の人口がさらに減る事が確実視されている。また、大量の住民が一度に移動を開始した事で、地域によっては困惑を隠せない住民も存在するだろうとの指摘もある。「マイアミやヒューストンといった大都市ではほとんど影響がありませんが、外部との接触が少ない小さな田舎町に住む人にとっては、ちょっとした衝撃でもあると思います」、フロリダ国際大学のクリス・ギラード教授(社会学)はそう語る。

数日前から気になっていたディスカバリー・チャンネルの再現ドラマ「反撃に出たフライト」、今晩9時から放送され、僕もいろいろと考えながら最後まで見た。これは、9月11日の朝にニューアークからサンフランシスコに向けて飛び立ったユナイテッド航空93便のハイジャックを膨大な資料をもとに再現したドラマで、乗客がハイジャック機に搭乗するところから物語は始まり、ペンシルバニア州の山間部に墜落するまでをリアルに描いている(余談だが、この旅客機には豊中市出身の早稲田大学の学生も乗っていた)。最近になってアメリカ政府はハイジャック関連の資料を一部公開していて、今日の再現ドラマの中でも、旅客機が墜落する直前まで乗客の多くが地上にいる家族や会社の上司と電話で世界貿易センタービルの事件について話す様子が描かれている(ニューアーク空港の滑走路が混雑していたため、93便の離陸が大幅に遅れ、乗客は飛行中の機内で電話口の家族からテロ事件のことを知らされる)。3年前の9月11日をペンタゴンの中で、昨年9月11日を貿易センタービル跡地で過ごしたが、近いうちに93便が墜落したペンシルバニア州シャンクスビルにも足を運んでみようと思う。

写真は11日夜にブルックリン側から撮影されたマンハッタンの夜景。4年前のテロ事件の犠牲者を追悼する目的で、2本の青い光が明け方まで照らし続けられる。(AP通信より)

経歴詐称疑惑の渦中にあるブラウン長官、ワシントンに突然の召還

2005-09-10 12:00:47 | ハリケーン「カトリーナ」関連
ボストン時代のクラスメートで、大学院卒業後にロンドンに渡ったマルコスの結婚式が近付いてきた。ロンドンでオーストラリア人のカノジョと出会い、12月に結婚式を挙げて、そのままシドニーに永住するらしい。それにしても、ロンドンにオーストラリア人って何人ぐらい住んでるんだろうか?ロンドン在住オージーといえば、僕の乏しい知識ではカイリー・ミノーグやニック・ケイブあたりしか思い浮かばないけれど、マルコスの嫁さん以外にもアウグスブルグ(ドイツ)時代に仲のよかったレオーニという女の子がロンドンでオーストラリア人のイケメン男(本人談です、あくまでも…)と一緒に暮らし始めた。意外に多いのかもねぇ、ロンドンのオーストラリア人って。おそらく、マルコスの結婚式に参加することはできないけれど、プレゼントくらいは送りたいなと今も色々と考えている最中。

学生時代、ニュースルームの担当部署が同じだったマルコスを、誕生祝を兼ねて授業が終わった後で学校の近くにあるチャイニーズ・レストランに連れて行ったことがある。どうせ肉野菜炒めとポーク炒飯ぐらいだろうと甘い考えを持った僕は、「誕生日おめでとう。今日は好きな物を注文してよ」と何も考えずに言い放ったけど、それが悪夢のプロローグ。北京ダック(どこで知ったんだ?)を注文するわ、デザートの杏仁豆腐を2人前も頼むわで、マルコスとは対照的に僕の食欲は減退する一方だった。体の内側から溢れ出る殺気を笑顔で隠しながら「どうだった?」と聞くと、マルコスは「ありがとう」と言って、彼独特のけったいなアクセント(映画「スナッチ」でブラッド・ピットが使っていたのとソックリで、学校の近くにあるパブで働く北アイルランド出身のバーテンだけが話の内容を100パーセント理解できた)で料理のうんちく話を始める始末。マルコスの口から発せられる言葉全てを理解できる者はいなかったが、エマニュエル坊やのようなスマイルを見ていると、ディナーを楽しんでくれた事だけは確かな様だった。婚約者のジョーさん、旦那が何を言ってるのか分からない時が多々あるかと思うけど、本当にイイ奴なので、よろしくお願いします。おめでとう、マルコス!

連邦緊急事態管理局(FEMA)のマイケル・ブラウン長官に対する、議員やメディアからの集中砲火はますますヒートアップしているけれど、今朝になってタイム誌(電子版)によって報じられた長官の経歴詐称疑惑が全国ニュースのトップ項目へと変わった。そして、午後になってすぐ、被災地域で救援活動の指揮を執っていたブラウン長官が首都ワシントンに召還されたという一報が飛び込んできた。ブラウン長官は現地救援活動の責任者の座から降ろされ、かわって湾岸警備隊参謀長のサッド・アレンが指揮を執ることになったが、ワシントンに戻ったブラウン長官が解任されたというニュースは入ってきていない。民主党はブラウン長官の解任を再度求める声明を発表しているが、長年の友人に対して「義理・人情」を重んじる事で知られるブッシュ大統領が解任に踏み切るかどうかは微妙だ。今日はまず、ブラウン長官に関するニュースから。

災害復旧活動におけるリーダーシップの欠如や経歴詐称疑惑が指摘されるFEMAのマイケル・ブラウン長官だが、9日に被災地での救援活動における最高責任者の座を降ろされ、ワシントンに召還された。また、複数の情報筋がABCニュースに明かしたところでは、FEMA最高責任者である長官の正式な解任も近々発表される見通しだ。国土安全保障省のマイケル・チャートフ長官は9日午後に記者会見を開き、湾岸警備隊のサッド・アレン参謀長が救援活動の最高責任者として繰上げ昇格したと発表している。FEMAもその管轄下に入る国土安全保障省のチャートフ長官は、「マイク・ブラウンはできる事全てを行いました。彼の仕事ぶりには本当に感謝しています」とコメントした。一部にはブラウン長官が政府による救助活動の遅れのスケープゴートにされているとの指摘が存在するが、AP通信の取材に答えたブラウン長官は、「(スケープゴートは)メディアからによるもので、大統領からではない」と語っている。

ブラウン長官が現場から外されたあとも、民主党上院議員らからは「十分な対応ではない」との意見が相次ぎ、ブッシュ大統領にブラウン長官の解任を求める書簡が送られている。「ブラウン長官を現場から引き離しただけでは物足りません。FEMAの最高責任者は全米の災害対策関係者達に大きな影響を与えるポジションです。ブラウン長官には今回のような大規模災害において、連邦政府レベルでの救助活動を指揮する経験もしくは能力が著しく欠けています」、そう書かれた書簡にはハリー・レイド議員(ネバダ州)ら4人の上院議員による署名が加えられていた。「カトリーナ」が南部湾岸地域を直撃した8月29日以降、ブラウン長官の危機管理能力を疑う声は後を絶たないが、その中でもニューオーリンズ市内のコンベンション・センターに2万5000人の被災者を集めたまま、4日間にわたって何の支援活動も行わなかった事が激しく非難されている。

また、8日のタイム誌(電子版)はブラウン長官の公式プロフィールの中に事実と食い違いを見せる箇所が幾つか存在すると報じており、経歴詐称が行われていた可能性を指摘している。ホワイトハウスによるブラウン長官のプロフィール(2001年作成)によると、ブラウン長官は1975年から78年までオクラホマ州エドモンド市で緊急事態管理部門の監督に就いていたとされ、FEMAが作成したプロフィールにはエドモンド市の市政副担当官や市議会議員を歴任したという記述が存在する。しかし、複数のエドモンド市当局者がタイム誌とAP通信に語ったところによると、ブラウン長官は市政担当官の助手として働いていただけで、市政副担当官ではなかったとの事だ。プロフィールの中でオクラホマ市立大学の教授だったとされるブラウン長官だが、大学側はプロフィールの記述を否定し、「非常勤講師で来ていたかもしれない」とのコメントを残している。

テキサス州ダラスにあるコンベンション・センターで8日、ハリケーン被災者を対象にした就職フェアが行われ、ダラス市内で避難生活を送る約3000人が参加した。「どんな仕事でもやりますよ」、妻と一緒に会場を訪れたニューオーリンズ出身のユージン・フランソワさんはワシントン・ポスト市の取材に対しそう語った。ニューオーリンズで消防士として働いていた34歳のフランソワさんは、8日の朝をずっと申し込み用紙の記入に費やし、ダラス郡保安官課か地元の商品管理所、もしくは運送会社で働けないかと考えている。就職フェアには約3000人の被災者に加えて、地元の失業者も若干名参加したが、地元組からは被災者向けの就職フェアの影響でますます仕事を見つけるのが難しくなったと不安声も挙がっている。

全米各地の避難所で生活を送る被災者のほぼ全てが仕事を失った状態で、家までもを失った被災者も多い。連邦緊急事態管理局(FEMA)が用意した避難所から出てアパートなどに移り住みたいと考える被災者は少なくなく、被災者の間では新たに雇用という問題が浮上している。「時給10ドル以上の仕事を探しているんだけど、9ドルの仕事でも構わないよ。1人暮らしだし、それほどの給料は必要ないからね」、そう語るのはコンベンション・センター内の避難所で生活を送るセーロン・コージーさんだ。ニューオーリンズ市内のホテルに勤務していたコージーさんは、ワシントン・ポスト紙の記者にフォークリフトの運転免許も持っていると語り、ダラス市内の商品倉庫で働くために申し込み用紙の記入を続けた。連邦議会予算事務局は被災地域で約40万人が失業したと見積もっているが、労働省が8日に発表したところによると、現在までに失業手当の申請を行ったのは10万人にとどまっている。政府関係者は、被災地域の関連事務所が閉鎖されたままの状態になっている事が失業手当申請者の少なさに繋がっていると見ており、今後数週間で失業手当申請者の数が急増する可能性が高い。

ダラスで8日に行われた就職フェアは、地元商工会議所の支援を受けて開催されたが、被災者が仕事を見つける難しさを指摘する声もある。テキサス州は約25万人の被災者を受け入れたが、州内の単純労働市場に雇用のチャンスがあまり存在しないのも事実だ。就職フェアに参加した225の企業のほとんどが、看護師や教師、溶接工といった資格が必要なポジションでの採用にとどまっており、資格や学歴なしで得れる仕事は極端に少なかった。大手食品メーカーのタイソン・フーズも会場にブースを設置して、時給10ドルで食肉加工の仕事をオファーしていたが、同社の採用担当者の話では、採用された被災者のほとんどがカンザス州にある食肉加工工場での勤務を求められるのだという。テキサス大学オースティン校のダニエル・ヘマメッシュ教授(経済学)がワシントンポスト紙に語ったところによると、テキサス州内の単純労働市場の大部分がメキシコから移民してきた労働者によって占められており、ニューオーリンズと比べても賃金の低さが一目瞭然なのだという。

明日はブログの更新を1日だけ休みます。天気がいい事もあり、サッカーの練習やら、カフェでの無駄話なんかを楽しもうかと思っているので…。こんなハッピーな天気も、あと1ヶ月ほどで肌寒い秋空に変わって、外にあまり出たくなくなる冬が到来するんだなぁ。日本時間の月曜日昼過ぎに再び更新を再開するので、その時にまた!選挙もどうなるんだろうか?日曜日はネットで選挙結果もチェックしないとね。


写真はニューオーリンズにある住宅の屋根に残されたメッセージ。「ビッグ・イージー(ニューオーリンズのニックネーム)はまた復活する」と書かれている。(AP通信より)

ルイジアナ州当局、2万5000体分の遺体袋を用意

2005-09-09 13:09:19 | ハリケーン「カトリーナ」関連
昨日の夕方から今朝にかけて、何通かのメールをもらい、留守番電話には3件のメッセージがあった。ワシントンやボストンに住むサッカー好きの友人たちからのメールや留守番電話メッセージは、昨日行われたサッカーのワールドカップ予選で北アイルランドがイングランドを破った事に驚きながらも喜んでいるといった内容の物で、決して大袈裟ではなく小型犬がライオンをノックアウトしたような衝撃だった。ワシントン近郊のスポーツバーで生中継された試合を見た友人の話では、試合終了後にバーにいたイングランド・サポーターがみな絶句していたそうで、その光景を横で見ていた友人はテーブルの下でガッツポーズを何度も繰り返したらしい。「あのスウェーデン人(イングランド代表監督のスベン・ゴラン・エリクソン)をクビにしろ」と興奮したイギリス人の爺さんが叫んでいたらしいけど、少し前までエリクソン監督がイングランド・サッカーの救世主と崇拝されていた事を考えると、サッカーの代表監督って不条理な仕事だなぁとつくづく思う。

そんなメールやら電話やらがあったもんだから、今朝になってBBCやガーディアン紙のスポーツ欄に目を通す事にした。北アイルランドが勝利したニュースにも驚いたが(昨日、もう1つのアンダードッグとでも言うべきマルタがクロアチアと1-1で引き分ける珍事が発生し、試合結果にキレた100人ほどのクロアチア・サポーターがマルタ警察に世話になるという「お約束」の結末を迎えている)、昨日の試合を戦った北アイルランド代表の先発メンバーにキース・ギレスピーの名前を見つけて2度ビックリ。1975年生まれのギレスピーは18歳でマンチェスター・ユナイテッドとプロ契約し、94/95シーズンには早くも公式戦9試合に出場し、デービッド・ベッカム登場以前のユナイテッドで将来を約束された右ウイングになると期待されていた。しかし95年にニューカッスル・ユナイテッドに電撃移籍してからは、新聞の見出しを飾ったのは最初の数年間だけで、移籍を繰り返した彼は現在シェフィールド・ユナイテッドでプレーしている。ジョージ・ベストやパット・ジェニングスが四半世紀以上前に引退した北アイルランド代表でギレスピーは事実上唯一のスター選手で、僕がダブリンで彼を見た10年前からすでに輝きを放っていた。まだ30歳、老け込むには早いよ。

今日もハリケーン「カトリーナ」関連の話題になってしまうけど、AP通信の最新情報によると、ニューオーリンズ市内で現在も続けられる住民への立ち退き勧告は全体の80パーセントが終了した模様で、地元警察は非難を拒み続ける住民に対して「力ずく」の立ち退き作業を数日以内にも開始する見込みだ。また、これまでに判明した死者数はルイジアナやミシシッピーを含む5つの州で337人に達しているけれど、以前から書いてきたようにルイジアナ州では犠牲者の遺体回収作業が本格的に開始されていないため、実際の犠牲者数は現在も全く不明となったままだ。複数の報道によると、ニューオーリンズ市内で本格的な遺体回収作業が近いうちに開始される模様で、市内には臨時の遺体安置所も作られたが、遺体の識別作業が簡単に進まない可能性が出てきている。

軍などによって進められている排水作業により、ニューオーリンズ市内をおそった洪水の水位は少しずつ低下しているが、これから本格的に開始される遺体回収作業を前に市当局は新たな不安を隠す事ができない。アメリカの都市部でこのように大々的な遺体回収作業が行われるのは約100年ぶりで、市側は遺体の回収・識別・埋葬を一手に担う予定だ。市内に多数残された遺体は洪水による肥大化や、激しい損傷、そして腐敗も進んでいるものと見られ、識別作業は現時点ですでに困難化する様相を見せている。関係者がAP通信に明かしたところでは、ルイジアナ州だけで2万5000個の遺体袋が用意されており、ニューオーリンズにある倉庫を改装して作られた臨時の遺体安置所では約5000体を預かる準備を進めている。

遺体の回収作業が本格化すると、遺体安置所のスペースや器具不足に加え、幾つかの新たな問題が浮上する可能性が高い。ハリケーン犠牲者の多くが歯科記録を持たない貧しい人たちと考えられており、遺体の識別がどこまでできるのかは全くの未知数だ。また、生き残った家族に遺体回収に関する通知を送るにも、親族がどこに移動したのか分からないケースが続出しそうだと関係者達は懸念する。ニューオーリンズのネーギン市長は市内や周辺地域で1万人近い住民が死亡している可能性を示唆しているが、市内の排水作業が進まない限り、多くの遺体の回収作業は不可能な状態となっている。今後数週間の間に、市内で排水活動を行う陸軍工兵部隊は洪水で流された遺体が防波堤近くのポンプに詰まっていないかをチェックし、排水作業で使われる重機周辺の遺体捜索も開始する予定だ。

市内の臨時遺体安置所には法医学の専門家達も常駐し、X線や指紋・DNA採取を用いて遺体の識別作業を行う模様だ。また、市内で遺体回収作業に携わる関係者らには、路上に落ちている使用された(毛髪の残った)ヘアブラシなども回収するようにとの通達が出ている。識別された遺体は犠牲者やその家族が住む周辺にある添う葬儀場に運ばれ、そこで埋葬される事になりそうだ(家族とコンタクトが取れる場合、埋葬方法のリクエストが可能との事)。しかし、識別不可能な遺体の埋葬を巡っては州政府内でも最終的な決定が下されておらず、ルイジアナ州政府保険課の広報官もAP通信取材に対し、埋葬場所がまだ見つかっていない事を認めている。911同時多発テロ事件で遺体識別作業に携わったエーミィ・マンドロフ氏によると、ニューオーリンズ特有の蒸し暑い気温で遺体の腐敗が早まり、水の中に長時間置かれたままになった遺体の指紋もダメージを受けている事から、判別作業は予想以上に厳しいものとなりそうだ。

ハリケーン「カトリーナ」が南部湾岸地域を直撃してから間も無く、アメリカ国内では様々な団体が被災者支援を目的とした募金活動をウェブ上で展開し、募金だけではなく住宅の無償開放なども積極的に行なう市民も少なくない。しかし、慈善団体を装ってウェブ上で募金を騙し取ろうとする動きも活発化しており、数日前には米赤十字社がFBIに捜査を依頼している。米赤十字社のものとそっくりに作られたウェブサイトが少なくとも15種類ほど確認されており、そこでは被災者支援のための募金が呼びかけられているが、それらは全て詐欺目的で作られた物だった。「市民による慈善活動を利用する手口には激しい怒りを覚えます。まさしく最低の行為ですね」、米赤十字社のメアリー・エルカノ相談役はABCニュースにそう語った。インターネット犯罪に詳しい複数の専門家はABCニュースに対し、少なくとも数十のウェブサイトが、カトリーナの名前を用いて詐欺行為を行っていると語った。

ミズーリー州のジェレミア・ニクソン司法長官は7日、同州で「ニューオーリンズ・チャリティーズ」という名のウェブサイトを運営していた非営利団体を告訴している。この団体は被災者支援目的で募金を集めていたが、実際には僅かな数の白人被災者の支援を行っていただけにすぎなかった。同じくフロリダ州でも7日、州司法長官がカトリーナの名前を使って詐欺行為を行っていた2つのウェブサイトを強制閉鎖する決定を下している。「ハリケーンが上陸して僅か2日ほどで、幾つもの詐欺サイトが誕生し、数百万人に募金を求めるメールが送信されています」、ウェブ上の安全管理に詳しいダン・ハバード氏はそう語る。ハバード氏がABCニュースに見せた詐欺メールの1つには、米赤十字社のサイトで使われるロゴや写真などが全てそのまま用いられていた。「(ロゴや写真の影響で)簡単に騙されてしまうんです」、とハバード氏。

ハバード氏が紹介した詐欺メールはブラジルから送信されていたもので、非常に手の込んだ作りになっている。メールにあるリンクを経由して、詐欺目的で作られたウェブサイトでクレジットカード送金を済ますと、カード所有者の個人情報は第3者に自動的に送られ、支払い終了後に本物の赤十字社ウェブサイトに移動する仕組みだ。このため、詐欺の被害に長い間気付かないケースが少なくないのだという。この数日間でも、同様の詐欺メールがアメリカ国内で報告されており、赤十字社によれば、詐欺メールはアメリカ国内や中国、韓国などから送信されていた。赤十字社はメールによる募金の呼びかけを行っておらず、赤十字社の名前で募金を求めるメールが来た場合、それは全て偽者という事になる。ブッシュ政権によって作られた愛国法では、赤十字社のような人道支援団体を装った詐欺行為に対し、最高で5年の懲役刑が科せられる。

ボストンボストン滞在中に、ヒマを見つけてはチョコチョコと買い物に行ったりして、トーマス・ピンクのネクタイやらロンドンで行われた舞台劇の戯曲本なんかを購入し、昨日は帰りのフライトが迫る中でダンキン・ドーナツへも寄ったりした。帰ってきてからバタバタとしてしまい、今日の夕方までスーツケースの中身をほとんど出す事がなかったんだけど、ようやく片付けも終わり、ボストン滞在初日の夕方に買ったワールドシリーズ優勝記念DVDをこれから見ようと思っている。学生時代の後半、わざわざフェンウェイ・パークから徒歩5分の場所にアパートを借りたのに、まさかワシントンみたいな辺鄙な田舎町でワールドシリーズの優勝を見届けるとは…。2004年の優勝は素晴らしい思い出ではあるけれど、僕はレッドソックスが万年最下位の球団だとしても、ボストンでの人気は本質的に変わらない気がする。多くの著名なスポーツライターがこれまでも指摘するように、エンターテーメントの枠を出ない多くのアメリカン・スポーツとは一線を画し、レッドソックスはボストン市内の一神教であり、フェンウェイパークは球場ではなく聖地なのだ。もう少しでプレーオフが始まるこの季節、仕事に全く集中できない数週間がいよいよ始まる。

*写真はヒューストン市内のドーム球場内に作られた仮設避難所で、1歳の息子と生活を送るニューオーリンズ出身の女性 (AP通信)

ブルーカラー・コーヒーに詰まった思い出

2005-09-08 13:28:57 | ハリケーン「カトリーナ」関連
わずかばかしのボストン滞在、砂時計のように残された時間が徐々に過ぎていくのを肌で感じながらも、短い時間を思いっきり楽しんできました。半年に1度の割合で日本に戻る時もそうだけれど、限られた時間で会える人の数って限られていて、今回もあと2週間ほどボストンに滞在したい気持ちのまま、ローガン空港を発ったのでした。数週間前に散髪したばかりだけど、時間を見つけてブルックラインにある美容室に行こうと思っていたのも事実で(これ以上切ると、ラスト・サムライの渡辺謙のような髪形になってしまうのですが…)、2年ほど世話になってたカターニャ(シチリア島)出身でダニー・アイエロに瓜二つなサルバトーレにハサミを入れてほしかったんだけどなぁ。彼の美容室で働くペルージャ出身のマリアという女の子が「できちゃった結婚」をする時には、みんなでお祝いなんかもしたりして…。人間臭さがプンプンとするフェンウェイ・パーク近くの美容室、今度こそは遊びに行かないと。

ローガン空港に向かう前、腕時計の時間を気にしながらも、どうしてもボストンで買っておきたい物があったので、ダウンタウンに立ち寄る事にした。2日前から気になっていたボストン・グッズ(?)、それはですねぇ、ハーバード大学のロゴが入ったトレーナーでもなければデービッド・オルティス(レッドソックスのスラッガー)のワールドシリーズ優勝記念バブルヘッド人形でもなく、ダンキン・ドーナツのコーヒーだったのです…。アイリッシュ・パブとダンキン・ドーナツが1ブロックごとに必ずあるボストンとは違い、ワシントン周辺では郊外に僅か数件しかない寂しい状態で、我が家から最も近い店ですら車で20分はかかる始末なのだ。その代わりに多いのがスターバックスのようなヤッピー・テースト満載のアメリカ風イタリアン・コーヒーを売る店で、どうにもシックリこなかった。ワシントン来てからコーヒー専門店で豆を買い、自宅に常時5種類ほどのコーヒーを揃えるようになったけど、それもこれもダンキン・ドーナツが近くに無かったためで…。

1950年にボストン近郊のクインシーという町で生まれたダンキン・ドーナツは、今では世界中に6000以上のフランチャイズを構えるまでに成長し、ドイツやフィリピンといった国にもフランチャイズはある。ドーナツをあまり口にする事の無い僕だが、僕にとってのダンキン・ドーナツは学生時代そのものを意味し、ボストン市内にある店でクラスメートと深夜まで企画会議を続けた経験が何度もある。地元警察官のオアシス的存在でもあるダンキン・ドーナツ(ボストンやニューヨークが舞台の刑事ドラマを見る機会があれば、チェックしてみてください。店内でドーナツを美味そうに頬張る勤務中の警察官が必ず出てくるので…)、学生や会社帰りのボストニアンも気軽に立ち寄る場所で、ある意味で地域の集会所のような役割を果たしている。そんな学生時代の思い出が懐かしくなり、強いて言うなら独特のコーヒー臭から元気をもらうために、(インターネットで買えるにもかかわらず)大急ぎでコーヒー豆を買いに行ったわけです。ワシントンに戻って早速作ったコーヒー、本当においしかったなぁ。

ブッシュ政権のイラク政策をめぐって意見の分裂も見られた民主党だが、ハリケーン「カトリーナ」への対応に対しては一致団結し、激しい政権批判を展開している。2008年の大統領選挙で出馬が有力視されているヒラリー・クリントン上院議員(ニューヨーク州)は、連邦緊急事態管理局(FEMA)のマイケル・ブラウン長官のリーダーシップに批判の集中砲火を浴びせ、ジョン・エドワース元上院議員(ノースカロライナ州)は、昨年の大統領選挙で彼が主張した「2つのアメリカへの分裂化」がハリケーン対策の遅れによって加速したと語っている。7日にCBSの報道番組に出演したクリントン議員は、災害対策の遅れを調査する独立機関を設立したい意向をあらわし、そのあとでFEMAのブラウン長官についてもコメントを発している。「私ならこんな人物を(FEMA長官に)指名はしなかったですね。誰だって指名しないでしょう。普通は経験豊富な人物を指名するはずです」、クリントン議員はそう語った。

民主党議員によるブッシュ政権たたきは続き、ハリー・レイド上院議員(ネバダ州)は大々的な調査を実行し、大統領が休暇先で災害対策にどれほどの時間を費やしたのか追求すべきだと語った。ナンシー・ペロシ下院議員(カリフォルニア州)はブラウン長官の解任を再度要求し、「先週、アメリカでは2つの災害が発生しました。自然災害と人災の2つで、2つ目の災害はFEMAの度重なるミスから発生したものです」とコメントしている。ペロシ議員は6日、ホワイトハウスでブッシュ大統領に直接ブラウン長官の解任を要求したが、大統領から出た言葉は「なぜ僕がそんな事をしなければならないの?」というものだった(ペロシ議員談)。今回のハリケーン災害とは異なり、イラク戦争を巡っては民主党内でも意見が分裂し、クリントンやエドワーズ、ジョン・ケリー(マサチューセッツ州)といった上院議員達は、2002年のイラク戦争決議案を支持していた。

エスカレートする民主党の政権非難に対し、ケン・メールマン共和党全国委員長は「アメリカ国民が協力して困難に立ち向かうとする中、民主党議員による批判ゲームのせいで全てがバラバラになる」と声明で語り、ホワイトハウスのマクラレン報道官もレイド議員の発言を「大統領への個人攻撃」と非難している。対応の遅れを指摘されるブッシュ政権もイメージ回復に必死で、8日にはチェイニー大統領が被災地域の視察を行うほか、ブッシュ大統領も議会に対して538億ドルの災害復興予算追加承認を要請している(105億ドル分はすでに承認されている)。しかし、共和党関係者のコメントの中に被災者の神経を逆なでするものが幾つもあり、それが新たな政治ゲームの材料となっている模様だ。デニス・ハスタート下院議長は「ニューオーリンズの復興に、どれだけの価値があるのか疑問だ」と発言し、バーバラ・ブッシュ(ブッシュ大統領の母親)は「ああいう恵まれない人たちはヒューストンのアストロ・ドームで生活する方がよっぽどマシだわ」と語っている。

洪水が発生してから8日目を迎えたニューオーリンズ市内には、現在も非難を頑なに拒み続ける市民が1万人程度いる模様で、7日夜にネーギン市長は警察と軍関係者に対し、市内に残る全ての住民を立ち退かせる命令を出した。立ち退きの際に抵抗する住民には、「力ずくで」避難させることも容認されたものの、「力ずくでの強制退去」には、現場からも戸惑いの声が出始めている。1955年から市内の家に住み続ける86歳のアンソニー・シャーボネットさんは、兵士に連れ出されヘリコプターに乗せられる際、近くにいたAP通信の記者に向かって「ここを離れたくはないんだ」と悲痛な叫び声を上げている。ネーギン市長は市内で発生する火災や水質汚染、ガス漏れが非常に危険なレベルに達していると強調し、住民達に対して一刻も早く避難するように求めているが、住みなれた町を離れたくないとする市民の一部が現在も自宅に残ったままとなっている。

疾病対策予防センター(CDC)のジュリー・ゲーバーディング博士がAP通信に語ったところでは、洪水によって市内に大量の下水が流れ出し、市内のほぼ全域に広がった洪水に含まれるバクテリアの量は安全基準の10倍以上に達している。博士は市内に残る住民達が水に触れないようにして、一刻も早く町の外へ脱出すべきだと語った。7日午後までに、武力を用いて強制的に住民が退去させられたケースは報告されておらず、現場の関係者らも困惑した様子を隠せない。米軍は強制撤去に武力を用いない姿勢を打ち出しており、ルイジアナ州軍でも「力ずくの」強制撤去は行わない構えだ。また、警察側も強制的な立ち退き作業の準備ができていないと語り、それぞれの組織が「力ずくでの立ち退き」に抵抗感を見せる結果となった。

警察・米軍・州兵の3組織を合計すると、現在ニューオーリンズ市内には約7000人の治安関係者が展開しており、一部では「今のアメリカで最も安全な都市はニューオーリンズ」といったジョークまで囁かれるほどだ。しかし、市内では現在も銃撃が散発的に発生しており、7日にも市内にある電話関連施設の修復にやってきた技術者達が狙撃される事件が発生した。7台の装甲車に分乗した100人以上の警察官らによって、アパートに隠れていた犯人は逮捕されたものの、依然として安全が確保された状態ではない事が明らかになっている。減少傾向にある犯罪発生率とは対照的に、水質汚染が原因による病原菌の大量発生も懸念されており、南部湾岸地域特有の蒸し暑さによって大腸菌バクテリアなどが増殖しやすい環境が生まれつつある。市側は今後数日間で自発的に避難する住民を町から出し、本格的な強制立ち退き作業を実施する構えだ。

最高裁判事が2人もいない状態で、本当はこのニュースも取り上げたかったんだけど、「カトリーナ」関連のニュースが気になってしまい、今日も災害関連の話に終始してしまいました。被災者達が全米各地に移動し始め、ニューオーリンズの排水作業も開始されたけれど、被災者の「これから」を考えると、どうしても悲観的になってしまう。40万~100万人が失業する可能性が高く、洪水被害による保険金もあまり出ないと報じられているけど、実はもう1つ問題がある。今年4月にブッシュ大統領が署名した破産乱用防止・消費者保護法では、自己破産申請希望者は自分の住む州の平均年収以下の稼ぎしかない場合のみ申請を認められることになり、法律は10月から施行される。市民団体からは改正された破産法の被災者への適用を延期すべきとの声があがっているけれど、ホワイトハウスには届いているのかな。

*写真はニューオーリンズ市内のウエスト・バンク地区で狙撃者を探す警察 (ロイター通信より)

最後の夜、カウボーイステーキの味はノスタルジアに満ちて

2005-09-07 14:06:20 | ハリケーン「カトリーナ」関連
ボストン最後の夜、僕も学生時代に記事を書かせてもらった日本語雑誌のスタッフに食事に招待していただき、郊外にあるステーキハウスで夕食を楽しんだ。雑誌の新オーナーとなった男性とは今日初めて会ったんだけど、お互いに野球オタクということもあり、名刺交換をしてから数分後には野球の話で盛り上がってしまった。今はシカゴ・トリビューンで活躍する高橋邦典さんに誘われて、この日本語雑誌にコラムを連載させてもらっていたのが5年前。クニさんはボストン・ヘラルドからシカゴ・トリビューンに移り、僕もボストンを離れてワシントンで働くようになった。ワイワイとディナーを楽しみながら、ニューオーリンズの被災地域で取材を続けるクニさんの安全を祈り、そして色々とあった5年間を懐かしく思い起こしていた。突然やってきたノスタルジア。いつもの事とはいえ、ボストンを離れるのはやはりつらい。

午前中、自分の通った大学院に久しぶりに寄ってみた。ドルトムント(ドイツ)の大学で博士課程に進んだクラスメートと2人で恩師を訪ねることにし、学生時代とあまり変わらず朝に弱いスウェーデン人の友人を残して、ジャーナリズム・デパートメントのある建物へと足を運んだ。受付の近くには1枚の写真が額に入れられて飾られていた。写真の女生徒は、昨年のワールドシリーズ期間中にボストン市内で発生した暴動で死亡したジャーナリズム学科の学生だった。教授と久しぶりに対面をはたした僕らは、それから1時間ばかりジャーナリズムの話を続ける事に。しばらくして教授が僕に、「今度ボストンに来た時には、授業に遊びに来いよ。スピーカーとして、ジャーナリズムの現場を大学院生に語ってやってほしい」と突然切り出した。この教授には語りつくせないほど世話になっているし、僕の話が少しでも役に立つのならやってみようかなとも思っている。自分の話で少しでも多くの学生がジャーナリズムの世界に残ってくれたら、やっぱり嬉しいしね。

全米でハリケーン被災者の受け入れが始まっていて、マサチューセッツ州ケープ・コッドでも2500人程度の被災者受け入れ準備が着々と進められている模様だ。数時間前にAP通信が発表した各州の被災者受け入れ状況を紹介しておきたいと思う。マサチューセッツ州のように、被災者受け入れを行う州がこれからも増えるのは確実と思われるため、東部時間6日午後11時現在の情報をアップデートしておきます。

テキサス州:約24万人(避難所とホテルに)
アーカンソー州:6万人以上
ルイジアナ州:5万3170人が州内86ヶ所の避難所に、804人が特殊避難所で生活
ミシシッピー州:赤十字社の用意した避難所に1万7000人以上
テネシー州:約1万6000人
アラバマ州:5380人が避難所に、そのほかの2万人が州内に
オクラホマ州:州兵訓練所に約1500人
ミズーリー州:ホテル、教会、避難所に約1500人
ジョージア州:赤十字の用意した避難所に1134人
ノースカロライナ州:1100人以上
イリノイ州:1000人以上
カンザス州:1000人未満
バージニア州:友人や親類宅に879人
インディアナ州:約800人
フロリダ州:11ヶ所の避難所に778人
ケンタッキー州:約600人
ユタ州:ソルトレイク市郊外に583人
アリゾナ州:576人
サウスカロライナ州:少なくとも500家族
オハイオ州:470人以上と73家族
ウエスト・バージニア州:約350人
ワシントンD.C.:軍施設と病院に約290人
ミシガン州:247人以上
コロラド州:ロウリー空軍基地跡に200人
ニューメキシコ州:アルバカーキー市内のコンベンション・センターに40~50人

あっという間だったボストン滞在。明日の朝はノースエンドのイタリアン・カフェでフランク、オスカリーノ、スティーブンと4人でテーブルを囲んで、ダブル・エスプレッソとカノッリをつつきながら、最後のカルチョ談義。昨日の話がまだ終わっておらず、イタリアが来年のワールド・カップで優勝するかどうかを徹底的に話し込む予定。素晴らしき時間の浪費、そしてノースエンド独特の雰囲気も手伝って味わう事のできる至福の一時。夕方にはラジオの仕事があるので、飛行機に乗り遅れない程度に話を楽しんできます。ちなみに、僕の予想は昨日と全く同じで、イタリアが優勝する可能性はルチアーノ・パバロッティのダイエット成功と同じくらい低いはず。時間が許してくれれば、カフェの近くにある教会(ミサもイタリア語でするカトリック教会)に立ち寄って、しばらく分の懺悔でもしてくるかぁ。