IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

5から4へ、そして再び4から5へ?

2005-09-23 13:42:16 | ハリケーン「リータ」
新たなハリケーンが南部湾岸地域に近づく中、テキサスとルイジアナでは180万人に避難命令が下され、ヒューストン周辺の高速道路は避難を開始したドライバーで埋め尽くされている。AP通信によると、ヒューストン周辺数百マイルの地域にあるホテルやモーテルは全て満室となっているそうで、避難を開始したヒューストン市民の多くがダラス近郊まで移動しなければならない事態となっている。ワシントンでは共和党の下院議員らが中心となって、「カトリーナ」による災害が発生した際の連邦政府の対応の遅れに関する調査が始まったが、独立機関が調査を行うべきと主張する民主党議員の多くは調査会への出席を取り止めている。今日はハリケーン関連のニュースを2つ紹介します。1つ目が「リータ」関連で、次が「カトリーナ」の復興に関するもの。あらためて思うけど、約4週間で2つの歴史的なハリケーンが同じ地域を通過するかもしれないわけで、気が滅入ってきます。

南部湾岸地域に近付きつつある大型ハリケーン「リータ」は22日、予測されていたルートを少し外れ、ルイジアナ南西部とテキサス南東部に向かって移動を続けている。また、同じく22日にカテゴリー4にレベルを下げた「リータ」だが、フロリダ州マイアミにある国立ハリケーン・センターのマックス・メイフィールド所長は、夜間のうちに再びカテゴリー5に変わる可能性が大きいと警告している。メイフィールド所長はさらに、ハリケーンセンターの最新の予測として、「リータ」が24日早朝にテキサスとルイジアナの州境に上陸する見込みだとも語っている。テキサス州の高速道路では避難のために北上しようとする車で大渋滞となっており、数千台の車が炎天下の高速道路上で動けない状態となっていた。「9時間かけて何とか20マイル(約32キロ)進む事ができました」、ヒューストンを22日朝に離れたニック・ニコルズさんはCNNの取材に対しそう語っている。

22日午後にはヒューストンのビル・ホワイト市長が記者会見を開き、湾岸地域や河川の近くに家を構える住民以外は自宅にとどまるよう求めている。ヒューストン周辺では住民の大量脱出による交通渋滞の発生に加えて、予想しなかったガソリン不足という問題までが発生しており、市側はここに来て脱出を控えるよう市民に伝え始めている。交通渋滞のひどさからヒューストン市内の自宅に戻る住民も若干いるものの、ガソリンの消費を抑えるために車を押しながら渋滞の続く高速道路を移動するドライバーも少なくない。市当局は脱出を図ったドライバーの多くがダラス周辺に向かうのだろうと語っている。現在、時速17キロのスピードで移動する「リータ」だが、CNNの気象予報士ジャッキ・ジェラスはハリケーンの影響によってルイジアナとテキサスでトルネードが発生する可能性を指摘している。

一方、陸軍工兵部隊による排水作業が続けられているニューオーリンズだが、大雨による防波堤の決壊と洪水の発生が懸念されている。国立ハリケーン・センターのエド・ラパポート副所長は22日午後、24時間以内にニューオーリンズ市内で3~5インチの降雨量を記録するだろうと発表している。現地の工兵部隊には防波堤修復作業の一時中断命令が下される見込みで、最悪の場合、ニューオーリンズ市内で1.3メートル程度の洪水が発生するかもしれないとの事だ。「リータ」の直撃が心配されるテキサス州グラベストンのリーダ・トーマス市長はCNNの取材に対し、約6万人の市民のうち75パーセントがすでに避難した事を明らかにし、22日中に全ての市民を避難させたいと語っている。また、1日に約300万バレルを扱うテキサス州湾岸部の石油精製施設へのダメージも懸念されており、石油価格が再び上昇するかもしれない。

ハリケーン「カトリーナ」による深刻なダメージを受けた南部湾岸地域にあるカジノが、ブッシュ政権による被災地域の産業復興支援策の一環として数百万ドルに及ぶ減税措置を認められる動きとなった。被災地域の産業復興を一刻も早く開始させたいブッシュ政権だが、複数の政権高官がワシントン・ポスト紙に語ったところでは、カジノ産業も他のビジネス同様に税金控除の対象として考えられているようだ。ミシシッピー州のハーレイ・バーバー知事(共和党)も21日、ブッシュ政権による税金控除プランのカジノへの適用を支援する意思を表しており、「他のビジネスと同じように扱っていくつもりだ。少なくとも、ミシシッピーではそうするつもりだ」と語っている。しかし、ミシシッピー州の経済開発関係者の中にはカジノ産業への税金控除に疑問を抱く者も少なくない。ミシシッピー州ゲーム業協会調査部の元代表ブライアン・リチャード氏によると、州内のカジノ業界がこれまで税金などで優遇された事は一度もなく、つい最近まで各カジノ会社が州所有の建物で従業員教育を行う事まで禁じられていたのだという。

ミシシッピー州湾岸部で2つの大型カジノを失ったハーラズ・エンターテーメント社のアルベルト・ロペス戦略コミュニケーション部長はワシントン・ポスト紙の取材に対し、国内のカジノ産業が地方政府から恩恵を受けた例はほとんど無く、実際は雇用促進や税収の増加をそれぞれの地方政府にアピールし続けている状態なのだという。「首を傾げてしまうような話ですね。税額減免の恩恵を受けた事実なんて、どう思い起こしても存在しないんですから」、ロペス氏はそう語った。民主党のマックス・バウカス上院議員は21日、ワシントンで開かれた上院財政委員会の中で被災地域の経済的ダメージを産業別に調査すべきだと語り、上院財政委員会が税額減免の必要な産業に関する調査と公聴会を実施する可能性を示唆している。カジノに限らず、ゴルフ場やカントリー・クラブ、日焼けサロンや酒店なども税金控除の対象から外されている場合が多いが、とりわけカジノは政治的な支持を得る事が容易ではないようだ。

「カトリーナによって数時間で破壊された場所の復興には数年かかるのですから、国民は税金が無駄の無いように復興事業に使われているのか注目しています」、21日の上院財政委員会でそう語ったバウカス議員は、ハリケーン被害での税額減免を産業別に分別すべきだと強く主張した。しかし、ホワイトハウスのトレント・ダフィー報道官は連邦政府が産業分野に関係なく税額減免を実施する計画だと改めて語り、被災者が元の職場に戻って働き始める事が復興のスピードアップにつながると強調している。ブッシュ政権はハリケーン被害を受けた地元産業の建物や備品の修復の約50パーセントを税額控除で肩代わりする計画を立てており、ミシシッピー州ビロキシに8億ドルのカジノホテルを持つMGMミラージュ社が1億ドルの修復費を払う場合、実際の支払額は5000万ドル程度となる。しかし、カジノ産業の多くは全国チェーンで、莫大な資本を持たない地元産業と同じ比率の税額減免の適用に批判が存在するのも事実だ。

24日に複数の反戦団体が主催するデモがワシントンで行われ、100万ドル以上の広告費を費やした(選挙もデモも関係なく…、この国で一番オイシイ思いをしてるのは広告業界だろうな)主催者側は10万人程度の参加を見込んでいる。2003年の初め頃、同じようにワシントンで行われたイラク戦争に反対する大規模なデモを取材した事があった。当時も今と同じように複数の団体が参加して、リベラル派として知られるハリウッド・ピープルもやってきて、僕もホワイトハウス近くにあるホテルで「LAコンフィデンシャル」や「グリーンマイル」に出演した名優ジェームズ・クロムウェルにインタビューした思い出がある。全く意味の無い戦争を起こそうとしていたブッシュ政権に怒りを隠せないクロムウェルだったが、落ち着いて話す姿は大学教授のような雰囲気すらあった(あとで知ったんだけど、若い頃はブラック・パンサーの構成員だったらしい)。ハリウッド人脈も積極的に参加したイラク戦争前のデモだったけど、戦争は予定通りに始まっている。

イラク戦争が始まってから2年半、日数にして900日ぐらいだろうか、まぁ色々とありました。最新の世論調査では「米軍がイラク戦争に勝利する」と答えたアメリカ人は全体の半分以下にまで下がっていて、2年前に「戦場に行く勇気は無いけれど戦争は大好き」な大統領が航空母艦で派手にやらかした戦争勝利のパフォーマンスを忘れてしまった国民も少なくない。そんな状況で24日に行われる反戦デモ、数年前のデモには存在しなかったカリスマ的人物が参加することもあって、こちらのメディアも少し注目し始めている。この夏にテキサス州クロフォードにあるブッシュ牧場の近くで、ブッシュ大統領との面会を求め続けたシンディ・シーハンさん、昨日からワシントンに滞在しており、24日のデモにも参加するようだ。彼女を政治的に利用しようとする動きがあるのは気になるけれど、息子をイラクの戦場で失った母親の叫びほど説得力のあるものはない。デモの「顔」となるシーハンさんがワシントンに入り、24日はどのような1日になるんだろうか。


写真:22日昼頃に撮影されたヒューストン市内の高速道路の様子。 (ヒューストン・クロニクルより)