IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

ルイジアナ州当局、2万5000体分の遺体袋を用意

2005-09-09 13:09:19 | ハリケーン「カトリーナ」関連
昨日の夕方から今朝にかけて、何通かのメールをもらい、留守番電話には3件のメッセージがあった。ワシントンやボストンに住むサッカー好きの友人たちからのメールや留守番電話メッセージは、昨日行われたサッカーのワールドカップ予選で北アイルランドがイングランドを破った事に驚きながらも喜んでいるといった内容の物で、決して大袈裟ではなく小型犬がライオンをノックアウトしたような衝撃だった。ワシントン近郊のスポーツバーで生中継された試合を見た友人の話では、試合終了後にバーにいたイングランド・サポーターがみな絶句していたそうで、その光景を横で見ていた友人はテーブルの下でガッツポーズを何度も繰り返したらしい。「あのスウェーデン人(イングランド代表監督のスベン・ゴラン・エリクソン)をクビにしろ」と興奮したイギリス人の爺さんが叫んでいたらしいけど、少し前までエリクソン監督がイングランド・サッカーの救世主と崇拝されていた事を考えると、サッカーの代表監督って不条理な仕事だなぁとつくづく思う。

そんなメールやら電話やらがあったもんだから、今朝になってBBCやガーディアン紙のスポーツ欄に目を通す事にした。北アイルランドが勝利したニュースにも驚いたが(昨日、もう1つのアンダードッグとでも言うべきマルタがクロアチアと1-1で引き分ける珍事が発生し、試合結果にキレた100人ほどのクロアチア・サポーターがマルタ警察に世話になるという「お約束」の結末を迎えている)、昨日の試合を戦った北アイルランド代表の先発メンバーにキース・ギレスピーの名前を見つけて2度ビックリ。1975年生まれのギレスピーは18歳でマンチェスター・ユナイテッドとプロ契約し、94/95シーズンには早くも公式戦9試合に出場し、デービッド・ベッカム登場以前のユナイテッドで将来を約束された右ウイングになると期待されていた。しかし95年にニューカッスル・ユナイテッドに電撃移籍してからは、新聞の見出しを飾ったのは最初の数年間だけで、移籍を繰り返した彼は現在シェフィールド・ユナイテッドでプレーしている。ジョージ・ベストやパット・ジェニングスが四半世紀以上前に引退した北アイルランド代表でギレスピーは事実上唯一のスター選手で、僕がダブリンで彼を見た10年前からすでに輝きを放っていた。まだ30歳、老け込むには早いよ。

今日もハリケーン「カトリーナ」関連の話題になってしまうけど、AP通信の最新情報によると、ニューオーリンズ市内で現在も続けられる住民への立ち退き勧告は全体の80パーセントが終了した模様で、地元警察は非難を拒み続ける住民に対して「力ずく」の立ち退き作業を数日以内にも開始する見込みだ。また、これまでに判明した死者数はルイジアナやミシシッピーを含む5つの州で337人に達しているけれど、以前から書いてきたようにルイジアナ州では犠牲者の遺体回収作業が本格的に開始されていないため、実際の犠牲者数は現在も全く不明となったままだ。複数の報道によると、ニューオーリンズ市内で本格的な遺体回収作業が近いうちに開始される模様で、市内には臨時の遺体安置所も作られたが、遺体の識別作業が簡単に進まない可能性が出てきている。

軍などによって進められている排水作業により、ニューオーリンズ市内をおそった洪水の水位は少しずつ低下しているが、これから本格的に開始される遺体回収作業を前に市当局は新たな不安を隠す事ができない。アメリカの都市部でこのように大々的な遺体回収作業が行われるのは約100年ぶりで、市側は遺体の回収・識別・埋葬を一手に担う予定だ。市内に多数残された遺体は洪水による肥大化や、激しい損傷、そして腐敗も進んでいるものと見られ、識別作業は現時点ですでに困難化する様相を見せている。関係者がAP通信に明かしたところでは、ルイジアナ州だけで2万5000個の遺体袋が用意されており、ニューオーリンズにある倉庫を改装して作られた臨時の遺体安置所では約5000体を預かる準備を進めている。

遺体の回収作業が本格化すると、遺体安置所のスペースや器具不足に加え、幾つかの新たな問題が浮上する可能性が高い。ハリケーン犠牲者の多くが歯科記録を持たない貧しい人たちと考えられており、遺体の識別がどこまでできるのかは全くの未知数だ。また、生き残った家族に遺体回収に関する通知を送るにも、親族がどこに移動したのか分からないケースが続出しそうだと関係者達は懸念する。ニューオーリンズのネーギン市長は市内や周辺地域で1万人近い住民が死亡している可能性を示唆しているが、市内の排水作業が進まない限り、多くの遺体の回収作業は不可能な状態となっている。今後数週間の間に、市内で排水活動を行う陸軍工兵部隊は洪水で流された遺体が防波堤近くのポンプに詰まっていないかをチェックし、排水作業で使われる重機周辺の遺体捜索も開始する予定だ。

市内の臨時遺体安置所には法医学の専門家達も常駐し、X線や指紋・DNA採取を用いて遺体の識別作業を行う模様だ。また、市内で遺体回収作業に携わる関係者らには、路上に落ちている使用された(毛髪の残った)ヘアブラシなども回収するようにとの通達が出ている。識別された遺体は犠牲者やその家族が住む周辺にある添う葬儀場に運ばれ、そこで埋葬される事になりそうだ(家族とコンタクトが取れる場合、埋葬方法のリクエストが可能との事)。しかし、識別不可能な遺体の埋葬を巡っては州政府内でも最終的な決定が下されておらず、ルイジアナ州政府保険課の広報官もAP通信取材に対し、埋葬場所がまだ見つかっていない事を認めている。911同時多発テロ事件で遺体識別作業に携わったエーミィ・マンドロフ氏によると、ニューオーリンズ特有の蒸し暑い気温で遺体の腐敗が早まり、水の中に長時間置かれたままになった遺体の指紋もダメージを受けている事から、判別作業は予想以上に厳しいものとなりそうだ。

ハリケーン「カトリーナ」が南部湾岸地域を直撃してから間も無く、アメリカ国内では様々な団体が被災者支援を目的とした募金活動をウェブ上で展開し、募金だけではなく住宅の無償開放なども積極的に行なう市民も少なくない。しかし、慈善団体を装ってウェブ上で募金を騙し取ろうとする動きも活発化しており、数日前には米赤十字社がFBIに捜査を依頼している。米赤十字社のものとそっくりに作られたウェブサイトが少なくとも15種類ほど確認されており、そこでは被災者支援のための募金が呼びかけられているが、それらは全て詐欺目的で作られた物だった。「市民による慈善活動を利用する手口には激しい怒りを覚えます。まさしく最低の行為ですね」、米赤十字社のメアリー・エルカノ相談役はABCニュースにそう語った。インターネット犯罪に詳しい複数の専門家はABCニュースに対し、少なくとも数十のウェブサイトが、カトリーナの名前を用いて詐欺行為を行っていると語った。

ミズーリー州のジェレミア・ニクソン司法長官は7日、同州で「ニューオーリンズ・チャリティーズ」という名のウェブサイトを運営していた非営利団体を告訴している。この団体は被災者支援目的で募金を集めていたが、実際には僅かな数の白人被災者の支援を行っていただけにすぎなかった。同じくフロリダ州でも7日、州司法長官がカトリーナの名前を使って詐欺行為を行っていた2つのウェブサイトを強制閉鎖する決定を下している。「ハリケーンが上陸して僅か2日ほどで、幾つもの詐欺サイトが誕生し、数百万人に募金を求めるメールが送信されています」、ウェブ上の安全管理に詳しいダン・ハバード氏はそう語る。ハバード氏がABCニュースに見せた詐欺メールの1つには、米赤十字社のサイトで使われるロゴや写真などが全てそのまま用いられていた。「(ロゴや写真の影響で)簡単に騙されてしまうんです」、とハバード氏。

ハバード氏が紹介した詐欺メールはブラジルから送信されていたもので、非常に手の込んだ作りになっている。メールにあるリンクを経由して、詐欺目的で作られたウェブサイトでクレジットカード送金を済ますと、カード所有者の個人情報は第3者に自動的に送られ、支払い終了後に本物の赤十字社ウェブサイトに移動する仕組みだ。このため、詐欺の被害に長い間気付かないケースが少なくないのだという。この数日間でも、同様の詐欺メールがアメリカ国内で報告されており、赤十字社によれば、詐欺メールはアメリカ国内や中国、韓国などから送信されていた。赤十字社はメールによる募金の呼びかけを行っておらず、赤十字社の名前で募金を求めるメールが来た場合、それは全て偽者という事になる。ブッシュ政権によって作られた愛国法では、赤十字社のような人道支援団体を装った詐欺行為に対し、最高で5年の懲役刑が科せられる。

ボストンボストン滞在中に、ヒマを見つけてはチョコチョコと買い物に行ったりして、トーマス・ピンクのネクタイやらロンドンで行われた舞台劇の戯曲本なんかを購入し、昨日は帰りのフライトが迫る中でダンキン・ドーナツへも寄ったりした。帰ってきてからバタバタとしてしまい、今日の夕方までスーツケースの中身をほとんど出す事がなかったんだけど、ようやく片付けも終わり、ボストン滞在初日の夕方に買ったワールドシリーズ優勝記念DVDをこれから見ようと思っている。学生時代の後半、わざわざフェンウェイ・パークから徒歩5分の場所にアパートを借りたのに、まさかワシントンみたいな辺鄙な田舎町でワールドシリーズの優勝を見届けるとは…。2004年の優勝は素晴らしい思い出ではあるけれど、僕はレッドソックスが万年最下位の球団だとしても、ボストンでの人気は本質的に変わらない気がする。多くの著名なスポーツライターがこれまでも指摘するように、エンターテーメントの枠を出ない多くのアメリカン・スポーツとは一線を画し、レッドソックスはボストン市内の一神教であり、フェンウェイパークは球場ではなく聖地なのだ。もう少しでプレーオフが始まるこの季節、仕事に全く集中できない数週間がいよいよ始まる。

*写真はヒューストン市内のドーム球場内に作られた仮設避難所で、1歳の息子と生活を送るニューオーリンズ出身の女性 (AP通信)