IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

人気ラッパー、生放送で激しいブッシュ非難を展開

2005-09-04 12:37:12 | ハリケーン「カトリーナ」関連
イラクの公共事業で悪名高いハリーバートン社が海軍から仕事を受け、ハリケーンの被害を受けたミシシッピー州周辺の修復工事をスタートさせる事となった。9月1日付けのヒューストン・クロニクル紙の記事によると、ニューオーリンズの治安回復後に、同社が復興作業を仕切る可能性が高いのだとか。週明けに問題になりそうな話が、また1つ増えたわけだけど、イラク復興事業の際に指摘されたように、今回も正式な入札を経て仕事が発注されたのかどうかは定かになっていない。ハリケーンによるアメリカ国内の石油価格高騰も、大手石油会社による便乗値上げの疑いが浮上していて、民主党全国委員長のハワード・ディーンも公の場でこれを激しく非難している。同時多発テロやイラク戦争の勃発後、アメリカ国内の「戦争でもうける人たち」が調査報道やドキュメンタリー映画によって、その全貌を明かされ始めた。しかし、自然災害に微笑み電卓をたたく連中も、この国には少なからず存在する。

10分前に入ってきたニュースで、まだ詳しい情報が分からないんだけど、ウイリアム・レンキスト最高裁判事が今晩死去した模様だ。僕の自宅からもそれほど離れていないバージニア州アーリントンの自宅で、子供たちに見守られながら80歳で息を引き取ったレンキスト判事は、33年前にニクソン大統領から最高裁判事に任命されている。クリントン元大統領の弾劾裁判で中心的役割を果たしたレンキスト判事は、2000年の大統領選挙でブッシュ陣営の最終的な勝利決定に大きな影響を与えたとして、一時は論争の的になっていた。レンキスト判事の死去により、最高裁判事のポストが2つ空いたままになり、1人目のジョン・ロバーツの承認をめぐって、議会上院では現在も激しい抵抗が存在する。来週以降、ハリケーン同様に最高裁判事の指名・承認問題が、再びクローズアップされる事になるだろう。

ハリケーンの被害を受けた米南部湾岸地域では、失業率が25パーセントを突破する可能性が指摘され、町の機能が回復しないニューオーリンズなどでは大量の雇用喪失が懸念されている。「ニューオーリンズの復興に相当な時間を要するのは確実と思われますが、市民の約28パーセントが貧困ライン以下で生活をしており、事態は非常に深刻です。保険や資源が無い状態のため、地域経済の復興はかなり困難かと思われます」、チャールズ・シュワブ社で主任投資ストラテジストを務めるリズ・アン・ソンダース氏はAP通信にそう語った。PNCファイナンシャル・グループのスチュワート・ホフマン主席エコノミストは、都市機能の回復が完了するまでの間、仕事を失った市民がどのように生活していくのかという問題点を挙げている。「頭の痛くなる話です。電気や、水道、衛生状態の回復作業を始める前に、まず決壊した防波堤を修理し、市内の排水を完了させなければなりません」、ホフマン氏は嘆くように語る。

ホフマン氏によると、破壊された石油関連施設の修復に大きなプライオリティが置かれているようで、こういった施設で働く被災者達はいずれ仕事場に戻れるとの事だ。しかし、個人経営主やその従業員にとって、ニューオーリンズでの将来は決して明るいものではない。ハリケーンで破壊されたカジノで働くスタッフはラス・ベガスやアトランティック・シティへの移動がオプションとして残されているが、個人経営のレストランやホテルには選択肢が何も残されていない。「ルイジアナとミシシッピーでは想像を絶する貧しさの中で生活する住民が少なくありません。今回の災害被害のほとんどが洪水によるものですが、洪水被害はなかなか保険金が支払われないものなんです。これが原因で復興に大幅な遅れが生じるかもしれません。私は復興に5年から10年は必要と見ています」、ワコービア・グループのマーク・ビンター上級エコノミストはそう分析した。

商務省が発表した経済分析報告書によると、ミシシッピー州は全米50州の中で一人あたりの平均年収が最も低く、2万4650ドルとなっている(1位のコネチカット州は4万5389ドルで、全米平均は3万2937ドルとなっている)。ルイジアナは42位(2万7581ドル)でアラバマが40位(2万7795ドル)という結果だ。また、この3州の貧困層率も全米平均を大きく上回っている。労働省は2日、ミシシッピー州に5000万ドルの緊急援助を行うと発表し、州内の被災者1万人に復興事業の仕事が振り当てられる模様だ。しかし、ジョージア州立大学のラジーブ・ダーワン教授は、ハリケーンで職を失った被災者が100万人程度存在すると見積もっており、失業問題が復興事業だけで解決するのは困難との見解を示している。失業手当が支払われる期間は、通常の場合は26週間程度だが、議会は期間延長を決定する権利を持っている。実際、国内の経済状態が悪い時期、臨時の延長が何度か行われている。

NBCテレビは2日夜、複数のネットワーク局と共同でハリケーン被災者支援のためのテレソンを生中継で行った。ニューオーリンズ出身のハリー・コニックJr.やウィントン・マーサリスのジャズ演奏で始まった昨晩のテレソンだが、別の出演者による突然のコメントによって、政治的な議論を巻き起こす結果となった。人気ラッパーのカニエ・ウェストは番組内の視聴者に義援金を募るコーナーの中で、突然「ジョージ・ブッシュは黒人の事なんか気にしちゃいない」と発言し、被災地域での救援活動の遅れに人種差別が存在していると指摘した。テレソンはNBC、MSNBC、CNBC、PAXの4局で同時中継されており、番組関係者はウェストの発言をコントロールできなかった模様だ。NBCの広報担当者がAP通信に語ったところでは、番組スタッフは放送禁止用語のチェックだけを行っており、台本以外のセリフが話された事に気付かなかったとの事。3時間後に西海岸で放送された編集版では、ウェストの発言がカットされている。

NBCの朝のニュースショーでアンカーを務めるマット・ラウアーの司会で進められた昨晩のテレソンでは、放送時間中に視聴者が電話やインターネットで米赤十字社災害支援基金への募金を行い、その間にミュージシャンによる演奏や募金の呼びかけが行われていた。ミシシッピー州出身の人気歌手フェイス・ヒルは、「その時がおとずれる」というタイトルの曲を披露し、「やがて暗闇は消え去り、弱き者たちへ力が宿るでしょう。どうか、信じ続けて」と歌っている。ニューヨーク州のジョージ・パタキ知事は250万ドルを寄付し、女優ヒラリー・スワンクは「損害規模は260億ドルにまで達しそうで、カンザス州と同じ大きさの地域が被害を受けています」と語り、視聴者に対して募金活動を訴えかけた。番組には、他にもレオナルド・ディカプリオやリチャード・ギア、グレン・クローズなどが出演している。

2005年のグラミー賞で10部門にノミネートされたウェストは、アリシア・キーズのプロデュースを行ったりもしており、今一番注目されるヒップ・ホップ・アーティストの1人だが、以前から政治的な発言で論争の的ともなっている。6月にフィラデルフィアで開かれた「ライブ8」のコンサートに出演した際には、「エイズはアメリカ政府がアフリカ大陸の住民を抹殺するために作ったもの」と発言している。昨日の番組でコメディアンのマイク・マイヤーズと90秒間の募金呼びかけコーナーに出演したウェストは、ハリケーンの被害について語り始めたマイヤーズに割り込むように持論を展開しだした。「メディアのやり方にはウンザリしてるよ。黒人の家族を見れば略奪者と呼んで、白人の家族なら食料を探す人達になるんだから」、そう語りだしたウェストをマイヤーズは驚きの表情で見つめるしかなかった。政府の対応を非難し、ブッシュ大統領が黒人社会を軽視していると発言したあと、別の出演者の映像に切り替えられている。NBC側は番組終了後すぐに声明を発表し、ウェストの発言はNBCとは何の関係もないと強調した。

被災地域の状況が気になるまま、明日から(正確には6~7時間後に)ボストンに行ってきます。ボストンでは大学院時代の悪友共と「オッサン・オバハン到達前」の同窓会を開く予定(僕は、まだまだ若いつもりだけど…、言い過ぎると墓穴を掘るので、この辺で)。ボストン・グローブのフランクとも月曜日にノース・エンドで合流する予定で、おそらく半日がサッカー談義でつぶれるんだろうなぁ。まだ連絡が取れていないものの、数ヶ月前にボストン・ヘラルドを退社した別の友人のガス(彼もベテランのスポーツ記者)とも会いたいなと思っている。偶然、彼の最後の出張がワシントンだった事もあり、ニューイングランド・レボルーションのGMやフランクと5人で「お別れ会」を開いたのが数ヶ月前。どうしてるんだろうか?久しぶりに母校を訪問し、校内のカフェで世界一不味いグリーン・サラダをまた食べたいというマゾ的欲望にも駆られているし…。いろいろあるけど、楽しみに行ってきます。ボストンからもブログを更新しながら(多くは書けないけれど)、水曜日に戻ってきます。ではでは。